人か喰種か両方か 作:札幌ポテト
10月a日
エトさんから、もうアオギリは消えるだろうと聞かされた。
今拠点としている流島も直に暴かれ、そう遠くないうちに殲滅されるだろうと。
実際、今のアオギリは窮地にあり時間の問題なのは局員ならば誰もが察している。
ただ、これから彼女が何をするのかは知らない。何かしら行動を起こすつもりらしいが、それはサプライズと言って秘密にされた。
大抵は碌でも無い事だったので、今回もそうだろう。
11月b日
アオギリの占拠地がバレた。
同時に、その殲滅作戦が立案された。
キジマさんは4番隊に配属され、部下の私は本島に残る運びとなった。
コクリア周辺の巡回が主な仕事となったが、それ以外は変わらない。
ただこれから先が、恐らく一つ目の山場となるだろう。
11月c日
エトが捕まった。
いや、あれは自首したのに近かった。
その後すぐに会見を開き、自身をグールと明かして本を出版した。
王のビレイグは私も読んだ、和修をグールの協力者として記述して隻眼の王が戦う話だ。
これから起こる世界を書いたのだ。
現在コクリアへ収監され、金木と旧田一等が対応している。
私程度端役が会えるわけもないが、まさか最後の別れとなるとは思わなかった。
これが彼女の選んだ最後だったのだろう。
11月d日
流島攻略には最短で1週間、1か月はかかるも見てCCGは本島の要所であるコクリアの防衛に有馬班を置いた。
万が一にでも梟が復活されても困るからだろう、どうやら梟=王と彼等は認識しているようだ。
ただそうでないと気付いているものも向こう側に多く、あろう事かグールの私をそうだと考える者もいるらしい。
まぁらしいと言ったのは未だに隻眼の白虎をアオギリに次ぐ標的として出されているからだ、もう白虎として動く気はないがやれるだけの仕事はこれからである。
12月e日
有馬さんとエトさんの予想通り、金木はコクリア破りを敢行した。
フエグチを助ける為だ、また裏で通じていたのかラビットなどのグール集団も加勢に来た。
連絡を受けたキジマさんと私は先行、私は上から防衛に向かいキジマさんは下で特等達と合流する事になった。
これは上からガスが浸透するので階級の低い私は上からの駆逐が適していると判断されたのだろう。
ただ結果としては有馬さんは金木に殺され、平子さん率いる0番隊は離反した。
そしてエトもやる事は終えたからここで死ぬつもりだったらしいが、助けてしまった。
彼女の覚悟を冒頭した形になるだろう、ただ救える命を救えないというのはやはり、精神的に辛かったのだ。
有馬さんと異なり、彼女の死は無くても成り立つのだから。
何故か赫子が使える旧多一等がエトさんへ致命傷を負わせていたが、蹴り飛ばしてなんとか逃げた。
戦うという選択肢も頭の中に出てきたが、こちらは突発的な行動だったので準備は何も出来ておらず、手持ちのマスクしか付けていないので格好が捜査官だったのもあり引いた。
何よりも、エトさんが瀕死であったのも大きい。
下は特等達が集結してきたのでグールを弱体化させるガスを吸わないように上の天窓を破壊して撤退した。
と言ってもエトさんは一度車に置いて戦線に戻ったのだが、キジマさんは金木にぶっ飛ばされて義足じゃない方の足も無くなったらしい。
面倒な上司から暫く解放されるのだが、どうせすぐ戻って来るので面倒だ。
ついでに、初めて伊丙の病室に行ったが病室前で宇井さんが丁度、有馬さんの死を告げているところだったのでそのまま帰った。
彼女を知る者からは考えられないほどの叫ぶような泣き声は、少なからず心に響くものであった。
☆
「身勝手じゃないか、なぁ?」
今しがた、取られた手足を修復し終えたエトは救われてしまった命を噛み締め、勝手な男である成へと目をやった。
ここは彼のマンション、自宅だ。生活感をあまり感じない部屋にはエトの著書が数冊と、最低限の衣服と電化製品しかない。
エトの部屋とは真逆、散らかるものがそもそもない部屋だ。
「どうするんだい?私はグールだ、食事はとってきてくれるとでも?」
「Rc直下げれば人の食事取れたりしないんですか?」
「……私の知る限り、それが出来るのは君だけだよ」
エトはあまりに楽観的な答えに溜息を吐く。
成からコーヒーを渡され啜るが、いかんせん心が落ち着かない。
「一応ですがコクリアのシチューを盗んでます、1週間は持つでしょう」
「その後はどうするつもりで?」
「……どうしましょうか」
コクリアで配らる食料、確かにこれがあればマシだ。
しかし切れた後に必要な人肉をどこで調達するというのか、本人も何も考えていないあたりにお人好しさを感じる。
「前々から感じていたが、君は中々に自分勝手だね。その癖して衝動的すぎる、今回のことでマークされたかもしれないんだよ?」
概ね、死ぬのを許容出来なかったから助けた。
それが答えなのをエトは分かっている、だが舞台を降りる予定だった役者がまだ舞台にいれば何かしらのノイズになる。
梟とは、恐怖の象徴であり多くの捜査官の抱く復讐の存在。
これから分かり合おうと考える世界には、隻眼の梟の名はあまりに邪魔になる。
「その時は貴方だけでも、王の元へ逃がしますよ」
「もしかして、死ぬ気?」
「冗談言わないでください、誰の命よりも自分の命です」
この答えにエトはまた溜息を吐く。
確かに自分の命を優先はするだろう、しかしそれは自身の命が危なくなっても助けないという事ではない。
危なくとも、助けはする。ただ自分が死ぬか生きるかという天秤で無い限りは、成という人間は自身を押し通さない。
「とりあえず、食料に関してはなんとかします。エトさんは外出せずに大人しくしていてください」
「まるでペットじゃないか、ご主人様とでも呼んであげようか?」
「普通に嫌ですけど……もう好きにしてください、生きていればそれでいいです」
あー、やはり駄目だ。
生きていることが大前提にあるエゴイスト、それがこの男だ。
からかいがいのある性格と生真面目なところで不真面目になり、正しく生きることよりも自分本位に生きていく。
有馬がなぜこの男を仲間に引き入れたかよくわかる。
これが敵になれば、鈴屋や有馬を超える障害に成り果てていただろう。
グール側の天秤を知るからこそ、彼という理解者が生まれたのだ。
「……まぁ、説教はもういい。過ぎたことだ、だから悲しそうな顔をするな」
2年も付き合えばそれなりに中身が分かる、こうなる事もまったく予期できなかったわけではない。
「ただ、この責任はいつか取って貰おうかな」
死に場所を失った、死ぬことを許さない彼がいる限り、これから先にある生き場所を探さなければなくなった。
ただそれまではひたすらこいつで遊んで暇を潰しておこうと考えた。