人か喰種か両方か 作:札幌ポテト
※過去の遭遇で赫子が見られてる事になってたのに気付いたので修正しました、ご了承下さい。
1月d日
コクリアの事件がCCGどころか世間でとかなり大きな話題になったが、それよりも今はCCG上層部の方で荒れている。
和修局長ならびに総議長、果てには一族そのものが全員殺された。
丸手特等は殉職、纏め役であり唯一の生き残りである和修政特等も頼りない。
そして1番の問題は総議長の遺書から旧多一等を次期の局長に推薦するという文章が出てきた。
詳しい話をエトさんに聞けば、彼は分家らしいが総議長の息子だったらしい。
そして皆殺しにしたのも彼で間違いないとの事だ。
だがそれは今現在、金木達グール一派の仕業とされている。
やり方が汚いが上手い、頭は相当回るのだろう。
和修全体から敵が旧多に変わったのが、伝達の速さや使役する仲間の纏まりやすさを考えれば、面倒になった。
だがやる事は変わらない、ただ何をして来るか分からないので注意しなければならない。
1月e日
まさか私が、死体を漁る事になるとは思わなかった。
と言っても自殺者のものを選んでいる、都内の自殺スポットを探すのは出来ないが残念ながら私は鼻がいい。
血の匂いのする場所に赴き、月に2人ほど運んでいる。
処理はエトがやっているが、冷蔵庫は全て死体で埋まっている。
私も食べるかい?と誘われたが、生きるか死ぬかの時以外に食べる事は絶対ないと断った。
ただ居候としての礼のつもりか、エトさんは暇な時間は本を書くか家事をするようになった。何故か料理が美味いのには納得いかない。
1月f日
平子さんへ情報を提供、現在のCCGの情勢は不安定だと伝えた。
それと現在、暁さんが生死の境を背負っていると伝えられた。
私に出来ることがあれば対応するが、今現在は手を打てないそうだ。
やれる事もないが、彼女は猫を飼っていたのを思い出して届けた。
鍵は赫子で開けてその後は一応閉めてきた、名前はなんか長ったらしい太々しい奴だったが、平子さんには何故か懐いた。
私は動物に好かれにくいのかもしれない。
1月m日
死体の数が明らかに減った。
まるで先に取られているように、自殺者の肉は手に入らなくなった。
原因は不明で王が力を入れたわけでもない、嫌な予感がする。
2月g日
先のアオギリ戦で多数の捜査官が犠牲になった。
捜査官そのものの数が減っている、つまりグールと戦う者自体が減っている。
そんな中、数の薄い支局がグールの集団に襲われた。
名はピエロ、過去に現れた事もある集団だ。
それが連日、行われた。
復帰したキジマさんと共に支局で防衛を行なったが、かなり気味の悪い集団であった。
生きることよりも、楽しむことを優先していると言うべきか、生への執着を感じなかった。
これも金木一派の仕業とされたが、何かしら手を打とうと考えているらしい。
ただ不幸中の幸いと言うべきか、エトさんが今回の件で出た死体を確保したのでギリギリ食いつなげている。
2月9日
ピエロが本局へ本隊を送ってきた。
これを鈴屋S3班が撃退、その際背面を守っていた和修政特等が殉職した。
ただやり方が本当に汚い、マッチポンプなのは言うまでもないが兵隊のかさ増しに人を使っていた。
人かグールか分からないで戦うのはあまりに精神的に負荷がかかる。
刹那の瞬間が生死分ける中で躊躇を生むのは言わずもがなであるが、殺したのが人であった時はその罪悪感に苛まれる。
何喰ったらこんな発想が出来るのかは分からないが、人でも喰ってるのだろう。
あと喰うで思い出したが、エトさんに私の身体を一時的措置として食べさせた。
正直気分のいいものではないが、私は勝手にRc値が回復する影響もあり多少の傷なら治っていく。
ただその分食べる量は増えた、何故彼女がレバニラ炒めを美味しく作れるかは分からない。
2月h日
色々と変化の多い時が訪れた。
旧多が改名し和修吉福と名乗り、新局長に就任した。
邪魔者の血縁者はおらず、周りからの信用も先の戦いで得ている。
そして後見人には宇井特等、相当上手くやっている。
ちなみに和修特等が率いていたS2班はクインクスの瓜江上等が引き継ぐこととなった。
シャトーで何度か顔を合わせたが、偉くなったものである。
上等に至るのは伊丙よりも短期間だろう。
だがそんな事は正直どうでもいい。
旧多は新局長の就任式で先のピエロ戦の事を最大限利用し、カルト集団の教祖さながらの催しを準備していた。
一つは半グールの量産化、それも金木と同じものをだ。
恐らく全員をレートで表せばSないしSSに至る個体もいるだろう、それだけの雰囲気を感じる子供達が配備された。
そしてもう一つが、偽物の金木の準備。
顔はどうやって変えたかは分からないが、それに嘘の自供と公開処刑を断行する事で新局長としての意思を周りに示した。
目標はグールの殲滅、血生臭い世界が始まろうとしている。
☆
「黒山羊は地下よ」
ピエロのグール3人と1人は、大胆にもCCGの局長室で格式なぞ知らんといった様子でデスクに腰掛けながら話し合っている。
そしてやはり話題は、グール達のことだ。
もはや絶滅寸前の種族、金木の率いる黒山羊も今は食料不足だろう。
しかし、今敵対している存在はまだいる。
「白虎は?」
ピエロの1人、ウタは聞いた。
隻眼の白虎、過去にCCGの前に現れたのは一度のみであり瞬く間に准特等と上等2人の捜査官を倒したとされるSSレートのグール。
しかし非公式にはVも一度接敵している、だがその際は逃亡を許している。
そして最近、コクリア内で旧多が接敵した。
目的は隻眼の梟、芳村エトの奪取だと考えられているが、その時問題だったのは、格好が捜査官だった事だろう。
「身長170cm前半の本島に残った者と死んだ流島の者の中から洗いましたよ、そしたら面白い人物が釣れました」
そして今の旧多にはそれを調べられる立場にあり、それを探せる手駒もある。
「ガードは硬かったですけど、臭いまでは消せませんからねぇー」
対象のマンションの写真、そして経歴書を3人の前に置く。
だが3人とも、その名前に聞き覚えは全くない。
「白虎は赫子を使った事がないんでしょ?目は戦った時に変化もしていなかったらしいし、最初の捜査官の見間違いなんじゃない?」
コクリア内の監視カメラの映像データは事前に止められていた影響で確認出来ない、しかし上から逃げた事は証言としてある。
むしろグールじゃない方が可能性としては高い、ここまで隠し通せるほどの実力ものという可能性はゼロではないがいかんせんデータが少な過ぎる。
「もう捜査官の方は死んでるから確認出来ないしねー」
「まぁ、隻眼なんてポンポン現れても困るわよ」
そして唯一確認していた捜査官達ももう死んでいる。
なので、もはやグールかどうかすら確認が難しいのだが。
「一応、彼からは臭いはしなかったそうなので多分グールじゃないでしょう。グールだったら口臭ケアが無茶苦茶上手いって事ですが」
しかし、生かしておくには危険過ぎるのだ。
旧多が赫子を使えるのを知るのはもちろんの事、CCG内の事情に多少なりとも詳しく顔は広いわけではないが、宇井や黒岩をはじめとした特等達からの信頼がある捜査官である。
作戦が筒抜けになりかねない。
「というわけで、殺しちゃいましょう」
ゆえに、旧多はすぐにやる事を決めた。
時間をかけるほど、良い事にならないと判断してのことだろう。
そして何より、仮に生き残ろうとこれから行う事で信用なぞ消し飛ばせるというのもある。
「隻眼の梟もろともやっておきたいですし、ちょうど試したい駒もあるんですよね」
「なにその捜査官、強いの?」
「絶対に有馬貴将よりは強くないんで大丈夫ですよ」
旧多は一度、その捜査官の動きを間近で見たことがある。
間違いなく一等捜査官程度で収まる人間の動きではなかった、しかしそれを見たからこそ、これが有馬に至るような存在でない事もすぐに看破した。
特等程度はあるかもしれないが、それならば駒の使いようで簡単に落ちるだろう。
「それに、せっかく助けた人に殺されるのって面白いでしょ?」
そして、彼に準備された駒は最悪とも言える立場を選んだのであった。