人か喰種か両方か   作:札幌ポテト

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逃亡編
13話


2月h日

 

誰かに監視されている気がする。

今、オッガイが各区のグールを掃討している。

そしてほぼ間違いないのだが、どうやら自殺者の肉を彼等は独自に集めていると思われる。

グールの肉の他に人の肉も取る、恐らくオッガイの食料はそういうものなのだろう。

 

そしてこれも確信のある事であるが、監視されている。

エトさんも感じているようで、このまま居座るのは危険だと考えている。

 

なので、まずはどこかへエトさんを逃さねばならない。

 

2月j日

 

平子さんへ暫く連絡が取れない可能性があると伝えた。

だが直近のCCG、もとい旧多の動向と狙いについては自分なりに纏めて書類で渡した。

そろそろ中身の統一を行うために、行動を起こす可能性が高いと思われる。

いや、どちらかと言えば粛清だろうか。

私もその対象となり得る、ゆえにここから先はより一層、慎重に事を運ばなければならないのだ。

 

3月i日

 

明日、都合の良さそうな区へエトさんを移送する。

彼女はやれる事のことをしてきた一方、好き放題生きてきた。

私の知り合いで言えば真戸親子といった不幸を産み出している、それに対する贖罪は死ではないと私は考えている。

だからこそ、生きて貰わねばならない。

 

確かにオッガイ程度に襲われても大丈夫であろうが、今は金木という象徴をぼやかすわけにはいかない。

今はまだ、身を潜める時だ。

 

 

求められたのは迅速な移動と、後でその行動を問われたとしても正当化できる言い分の準備。

前者は高速道路での移動によりクリア、そして後者は支局への移動に乗じたので何ごともなくこの狙いは上手くいくはずであった。

 

そう、はずであった。

 

「……やられたな、成」

 

高速の上で、道路が封鎖されたのだ。

周りに車両が少ないと感じた時点で、その違和感を確信に変えるべきであった。

あまりに大胆に、手のひらで転がされたのを2人は悟る。

 

「この数の捜査官、私達がそもそも逃げる事を前提に敷かれている。指揮官は相当キレそうだ、どうする?」

 

高速道路、しかも20mを超える高さの道を車両で封鎖され見覚えのある捜査官達が各々の武器を携えている。

成の顔見知りとしては宇井特等に、伊東上等、キジマ准特等までいる。

抵抗を起こさせないための策だろう、少なくとも成だけは捕まえるという意志を感じる。

 

実際、成は黒山羊への情報を運ぶスパイであった。

逆説的に言えば、黒山羊の事を最も知る捜査官とも言える。

ここでグールに逃げられたとしても、後々処理出来る状況は簡単に作れるだろう。

 

それが仮に隻眼の梟だとしても、旧多が本気を出せば可能な範囲だ。

 

「グールの力を使えば、この程度の修羅場は何とかなるが」

 

確かに、彼女の力を使えば簡単に逃げられるだろう。

しかし、それが目的ならばどうか。

今のグールとの和解を模索している黒山羊のやり方とは反している、そう捉えられる恐れがある。

捜査官へその意識を浸透させる、それが目的ならばグールとして無理矢理突破するのは悪手である。

 

「使わない方がいいかと、今グールの脅威を見せつけるのは黒山羊のやり方じゃないでしょう」

 

成のグール化も言ってしまえば切り札だ。

そして生涯見せれなければそれで良い、敵も味方も騙したとっておきである。

見せずに突破できるならば、しない方が良いだろう。

 

「だからエトさん、特に貴方は戦うって選択肢は出来るだけ無い方向で考えてください」

 

「君は?」

 

「一応話し合いしてきますよ、ただエトさんはもう逃げてください。下にも気配はありますが、Vなら足で勝てる筈です」

 

しかし、この状況を利用する事も可能ではある。

 

「ただ恐らく後ろでオッガイが控えてますから、これは私の方へ誘います。最優先は私でしょうし、ここにいる捜査官を派手に蹴散らせば寄ってくるでしょう。幸い、草薙と大和はあるので大丈夫です」

 

成というグールとの理解者の宣伝になる。

これが異端と取られる可能性は非常に高いが、これは前例になり得る。

 

人間の中に、捜査官の中に、グールとの和解を求める存在が現れているという事を。

 

幸いなのはクインケがある事だ、そしてクインケを渡してでもこの人では逃げる事の難しい道路での作戦を実行する事を優先していると見るに、恐らく成がグールでもあることは旧多にも認識されていない。

 

「12か6区で会いましょう、前話した都合の良い場所で」

 

 

ある極秘作戦が、S1班を主体に始動していた。

なぜ彼らが選ばれたか、それは身内毎であったからという側面が大きいからだろう。

 

「皆さんお揃いで、どうなさいましたか」

 

目の前に車から降りた青年は、白々しく聞いてくる。

助手席にはフードを被った少女らしき人影があり、何か話した後のようだが、少女の方に動きはない。

もしかすれば、この状況を悟っているのかもしれない。

 

「一応伺いますが、手違いではないですかね」

 

クインケのケースを両手に持ち、物騒な雰囲気が出てきている。

しかし何も障害物の無い道路の真ん中だ、既にライフルを構えた捜査官が不審な動きをしてこないか目を光らせている。

中には羽赫を構えている捜査官も多数いる、そして最前線にいる捜査官は既にクインケを解放しており、いつでも取り押さえると気を張っているのがわかる。

 

「成遼太郎二等捜査官、君には喰種の蔵匿と隠秘の嫌疑がかかっている。隣にいる者と共に、大人しく同行してもらう」

 

逮捕状を片手に、捜査官の1人が宣言する。

抵抗しようにも、この数の捜査官は無謀としか言えないだろう。

グール1人に二等捜査官が1人、あまりに過剰だが今の時期を考えれば晒し首にするのに相応しい存在ではある。

 

だがそれを聞いた瞬間、成は道路の外へと指を指す。

 

「ちっ、羽赫班!」

 

瞬間、助手席に座っていたグールらしき人影が飛び出した。

宇井は展開していた羽赫部隊に射撃命令を出す、しかしそれは届かない。

 

「伏せろ!!」

 

成のクインケが展開されている。

SSレート甲赫、草薙だ。地面に刺されているそれが伸ばした触手が道路をめくりあげ、更に捜査官達の車を軒並み吹き飛ばしたのだ。

故にグールへは攻撃は届かなかった。

道路を崩壊させるとまではいかないが、暫く使い物にならない状態になっている。

 

「追うのは別働隊に任せろ」

 

宇井は部下へ指示を飛ばす、そして一瞬にして戦場に作り替えた本人へと向き直る。

嫌な手を使う、人間はグールと違い銃で制圧できるが遮蔽物を作られた。

つまるところ、この手を打ってきたという事は徹底抗戦の意思があるという事でもある。

 

「宇井さん、出来の悪い部下で申し訳ありません」

 

遮蔽の影から、覚悟を決めた顔で成は立っている。

それもそのはずだ、ここから逃げられる算段はないはずだ。

道路の封鎖は数キロ先まで行われており、この高さを飛び降りるのは人間では不可能だ。

仮に降りれたとしても、別働隊が控えているので正に袋の鼠なのだ。

 

グールのように三次元での移動が出来る存在でもなければ、逃げる事はできない。

 

「ただ、私にも譲れないものがあるので」

 

だが、全く引く気を感じさせない。

むしろこの場で全員を倒すという意思まで感じさせる。

 

「全員、殺すつもりはありませんが……手加減出来ずに、手足が無くなる覚悟はしてください」

 

ふと、宇井はこの威圧感に既視感を感じる。

歩き方、クインケの持ち方、冷静に隙を晒さない位置取り、どれも何処かで見た記憶がある。

 

「総員戦闘配備ーーーRN特別指定犯を確保する」

 

その佇まいは、宇井の敬愛する有馬の姿と重なって見えていた。


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