人か喰種か両方か   作:札幌ポテト

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14話

 

戦闘開始から、30分ほどたっただろうか。

黒煙を巻き上げる戦場に立っている捜査官の数は激減している。

ある者はクインケを破壊され、ある者は義足を破壊され、ある者は触手に貫かれ腕や足にダメージを負い、戦線を離脱させられている。

そこかしこに気を失い倒れている捜査官が溢れており、標的との戦闘を優先出来ていない。

 

「……あの人に選ばれた捜査官は、伊達じゃなかったな」

 

既にクインケが破壊された宇井は脇腹を押さえながら蹲り、その真横を成は通る。

無傷だ、黒煙で多少は煤けていてもその体には銃弾一つ、すり傷一つ見当たらない。

 

今の戦い、何よりも宇井が恐れた点が二つある。

 

一つは射線の管理、もとい状況把握能力だ。周りを認知しながら10対1を無理矢理2対1以下に持っていき、各個撃破を行なっていた。

時には遮蔽を、時には捜査官の影に隠れ射撃そのものを行わせなかった。

周りとの位置関係の把握はここまで磨かれていれば、もはや固有の能力だ。後ろに目がついているとしても驚かないだろう。

 

だがそれを支える頭の回転力こそが最も恐ろしい。

瞬間的な判断力が高いのだ、五感で得た情報から最適解を選ぶまでのラグが殆ど感じない。

つまり明確な隙というものが見当たらないのだ、故に攻めるには単純な力比べとなる。

 

戦闘能力は確かにあるが、それは有馬には及ばない。

技術力、身体能力、どれも並の捜査官では及ばないがそこまで特筆する必要はない。

この数の捜査官が居れば、圧殺できる程度の力だ。

梟を相手した時ほどの絶望感はない、それは彼自身が手加減をしていたというのももちろんあるが、今の成は梟を相手に出来る存在であると宇井は確信している。

 

たった一人で包囲網を破壊したのは、事実なのだから。

 

「郡さーん、遅くなりました」

 

不意に、気の抜けた声が響いた。

成が唯一、恐らく逃走用にわざと壊さなかった車が同時に爆散する。

だが、それは予期していたようだ。

 

増援である、これだけの捜査官を揃えていながら準備されていた保険。

爆炎の中から、数人の人影が現れる。

 

「ざーこーなーりー?」

 

だが、成が両目を見開いた。

全く予期していなかった事が起きたのだろう、そしてそれが何故なのかはすぐに分かる。

 

「……伊丙、なのか?なんでこんな所に」

 

片腕を失い、臓器に損傷を負い、果ては精神的に多大なダメージを受けている筈の伊丙入、成が殺した筈の捜査官がそこにいたからだ。

 

腕は何故かあり、両手にはしっかりAusとT-humanが握られている。髪色はストレスのせいか白髪に染まっており、その眼光の鋭さはグールを見る目と変わらない。

 

たが明らかに雰囲気が違う、以前とはまるで別人格が混ざったような印象を受ける。

 

「決まってるじゃないですか、お仕事です!」

 

何の躊躇いもなく、伊丙は成へと切り掛かった。

二つのクインケを草薙の二刀流モードで受け止めているが、あまりの重さに成は弾くと一度下がる。

だがそのまま羽赫の電撃が浴びせられる、瞬間に草薙のギミックで地面を捲り上げて回避までの時間を稼ぎ避ける。

 

殺気を宿した攻撃であるが、伊丙だけに警戒するわけにはいかない。

他のオッガイは様子見をしているようだが、いつ手を出してきてもおかしくない状況だ。

 

しかし、今成の混乱している頭のリソースはこの解答に割かれ始めている。

 

「……まさかだと思うが」

 

オッガイとの出現、治っている腕、以前では見受けられなかった二刀流でのクインケの使用、あまりにも状況を判断するに容易な情報が転がっている。

 

以前の伊丙は二刀流を使う事は稀であった、何故なら庭出身者とは言え女性でかつ、使っているクインケが大物だったからだ。

故に100%の力を出し切るのに両手で一つのクインケを扱う、だが今は片手で完璧にクインケを扱っている。

 

最大の問題であった筋力を解消している事に他ならない、そして先程の鍔迫り合いでも押し負けた事からこれは確信に変わっている。

 

「オッガイか」

 

「正解ですよー、ご褒美に片腕もらっちゃいますね?」

 

成はクインケでの応酬を捌ききる。

クインケの技術で言えば成の方が有馬から指南を受け続けていたこともあり上手だ、しかし殺す気でくる同僚に対し、成自身は多少なりとも動揺が現れており、特にそれはクインケから迷いとして現れている。

 

「あはは、やっぱりだ。あの時、私の事助けられたのに無視したんだ?腕は無くなっちゃうし、有馬さんは居なくなっちゃったし、許せないなぁ」

 

今の戦闘で、彼の実力はある程度保証されたものとなった。

成がわざと力を出さずに生きてきたのを証明されたことに他ならない。

伊丙は成が戦っていれば防げた未来を想起している、それは気に食わないことに有馬の片腕として生きていたかもしれないが、肝心の有馬そのものが死んでいるのが今の世界だ。

救えたかもしれない命の中には、有馬もいるのだ。

 

伊丙からすれば年が上の出来の悪い部下だった、それが今、CCGの敵として立っている。

クインケの操術を教えた事もあれば、地下で助けたことも何度かある。

 

それが、このような形で恩を仇で返そうとしている。

 

「許せないなぁ!!」

 

瞬間、彼女の片目が赤黒く染まる。

背中からは同様に赤黒い燐赫が現れ、周りの遮蔽物を吹き飛ばしていく。

 

「……バケモノか」

 

巨大というのもあるが、その破壊力と扱い方にやはり彼女が天才であるという事が思い知らされる。

だが、戦わずに逃げれるような甘い状況でもない事を成は分かっている。

 

「痛いじゃないですか、まーた無くなっちゃった」

 

赫子を向けられるがそれを躱し、受け流し、懐にまで飛び込む。

近距離ではクインケの間合いであるが、成はフェイントを絡めつつ片腕を切り離す。

首を切る事も不可能ではなかったかもしれないが、あえてそれを選んだのはまだ戦闘不能にさせる余裕があるからだろう。

オッガイが混じろうとも、時間はかかるが対処はできると。

 

「おんなじ事、してあげますよ!」

 

しかし、腕は勝手に繋がった。

 

「足りないなぁ、足りないなぁ……!!」

 

乱雑に振り回される赫子は受け流す事すら至難になってくる。

力が強すぎる上に、手足のように動かしているのだから当然だ。

 

回避を続けても、周りには倒れている捜査官もおり無闇矢鱈な行動は出来ない。

そして伊丙は、倒れた捜査官を気にしている様子はカケラもない。

 

なによりも、彼女はまだ全力を出していない。

 

「死んだらダメですよ?私、琲世の居場所聞きたいんですから」

 

見惚れてしまいそうな黒い笑顔、その真意は酷く単純で純粋だ。

 

「それは、そうなるか……」

 

彼女は、求めているのだ。

そして求めているものなぞ、一つしかない。

 

「そうですよ、有馬さんの仇は私が取るんです」

 

今、成の心は酷く歪んでいる。

冷静に、顔に出さないように努めているが、身体にも歪みが現れている。

 

伊丙入が元から殺される存在であったと知るのは有馬、エト、成の3名だけだ。

その基準はこれからの世界でノイズになりかねない事、そして捜査官として優秀であった事だ。

 

「ちゃーんと壊して、壊して、壊して、ぶっ壊してから殺すんです。だって私、そうしないと満足出来ないんですよ?有馬さんが帰ってこないんです、だったら私が出来ることなんて有馬さんの邪魔した奴ら殺すぐらいしかないでしょ?」

 

今の彼女は金木研と戦い、殺す意思を抱いている。それを防ぐ為に成は態々片腕を落とすように助けた、しかし今はそれが悪手となって目の前に顕現している。

 

今の彼女の生きる糧は、その憎悪だけだ。

 

自分のまいた種ではある、だが旧多という悪魔がしっかりと水を撒いたのだ。オッガイという肥料を添えて。

 

「なら伊丙、私がそう仕向けたとしたらどうする?」

 

だからこそ、今の成には責任を取らねばならない。

 

「……は?」

 

壊れた様な笑い声が止んだ、いや彼女は壊れているのだがその破壊衝動が蠢いたのを成は察した。

 

「有馬貴将が死ぬと分かってて静観していたとすれば、お前は私をどうする」

 

その答えは、隣にあった車を見れば分かる。

真上から叩き付けられた赫子によってひしゃげており、原型は全く留めていない。

 

「あー、もう壊します。だって耐えられないですし、生かして捕まえろって言われてますけど……別に中身は殺しちゃいけないとは、言われてませんから」

 

瞬間、彼女の背中から伸びた赫子の本数が増えた。

8本、伸縮どころか大小すら弄る彼女の暴力が今から撒き散らされていくだろう。

赤い瞳を更にギラつかせ、そのもう片方の瞳すら赤黒く染まっていく。

今の彼女は冷静じゃない、そうさせたのだがもはや周りへの配慮を行える様な状態には見えなくなった。

 

「……この場にいる者全てに告ぐ」

 

静かに、それでいて周りへ響く声音で成は宣言する。

 

「巻き込まれたくない者は下がれ、2分だけ稼ぐ。周りの被害を考える程の余裕は今の私にはない」

 

成は自惚れているわけでは無い。

自分の実力を正確に理解している、隻眼の梟にも捜査官としてはクインケや運次第では勝てる自信を持っている彼であるが、周りに捜査官が倒れているという前提で戦う事はしていない。

 

周りを庇いながら梟に勝てるほど、成遼太郎という捜査官は強くないのだ。

 

「良い人ぶるじゃないですか、私は見捨てたくせに」

 

彼女は正気を保っている。

正気な状態で狂気を纏っている。

今の彼女には力に振り回される事は無いだろう、そんな彼女に対して手加減が出来る捜査官は、有馬貴将以外にいない。

 

故に、本気を出さなければ成という捜査官が勝つ事はない。

 

だが、そう簡単な話ではない。

 

「……お前は殺したくないよ、伊丙」

 

「私は殺したいですよ、成」

 

刹那の間の後、暫く轟音が鳴り響いていく。

斬撃音、爆発音、衝撃音、都心の道路で誰にも止められない戦いが始まってしまう。

 

元は人間同士の争いだとは、誰にも想像できないだろう。

 

 

3月k日

 

私の確保を行うための作戦が行われた。

だが何とかエトさんは逃し、私は注意を引いて捜査官達のクインケを破壊して回ったのだが、思わぬ乱入者が現れた。

 

伊丙だ、しかも明らかに強くなっていた。

オッガイの施術を受け腕は復活し、もはや手のつけられない存在に至っている。

完全に余裕の無くなった私が取れた行動は、伊丙を倒すことだけだった。

間違いなく言えることとして、私の出会ったグールの中で3番の指に入る存在という事だろう。

クインケを両手で扱いながら襲いかかってくるオッガイの彼女は捜査官としての私の全力と拮抗している、そして結果としては道路が持たずに倒壊、引き分けという形で終わった。

 

一応、何度か致命傷を与えたつもりではあったが、凄まじい回復力に対応できなかった。確かに殺すつもりではなく戦闘不能にさせるつもりで戦いはしたが、それでも彼女は圧倒的だった。

草薙は破壊され、大和も弾切れとなり使えなくなった。

 

倒壊の砂塵に紛れて逃げる事しか出来なかった。

 

だが、彼女は私が生かしてしまった存在だ。

使えない駒が戦局を変える駒へと昇華してしまった、故に責任を取らねばならない。

 

彼女を金木と戦わせるわけにはいかない、彼女は私の手で……。




 

純粋な戦闘力の順位はこんな感じです。

有馬>隻眼の梟≧オッガイ伊丙(通常)≒捜査官成>鈴屋特等>並の特等

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