人か喰種か両方か   作:札幌ポテト

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15話

「スパイが、成さんだったんですか?」

 

黒山羊の主人、金木は今しがた平子から伝えられた情報に若干戸惑いを持っている。

佐々木の時に関わり合いは多少持っていた捜査官の名だ、元は0番隊の先輩であり、平子以外で唯一の有馬のパートナーを務めた事で知られている。

 

情報的には黒山羊側の人間というのはよく分かるが、彼自身は有馬同様よく分からない人間であった。

もっぱら成との会話は有馬という捜査官の話を聞く事が多かったが、成自身は有馬の事を知っているようだが多くは話さなかった。

 

そして成自身の事も、彼はあまり話さなかったのを覚えている。

だが捜査官として気負わない事をよく伝えてくれた存在であった。

 

「あぁ、しばらく連絡は取れないそうだ」

 

旧多の今後の動向、それを予測した資料を渡された金木は軽く目を通す。

目的そのものは不明であるが、まずは周りとCCGの整理整頓を行う可能性が高いと書かれている。

 

その中には粛清、という文字もある。

 

「さっき、7区で大規模な戦闘があったと聞きました。まだ確定してませんが、これって……」

 

成が連絡を取れなくなるような状況、それに合わせて起こった地上での戦闘。

金木達も地上には観察する程度の密偵は送っているが、地上で目立つ程の戦闘が行われていることと、その標的について心当たりはなかった。

 

「……そうだろうな」

 

平子からの、連絡と資料を受け取るまでは。

 

しかし平子は続けて「捜索隊は送らなくていい、覚悟の上だ」と呟くが、金木もそれだけでは納得はできない。

 

王として、グールの希望として動く必要がある事は分かっている。

だが手の届かない人が救えないというのが、彼は嫌なのだ。

しかし、それを察してか平子はこうも続ける。

 

「成遼太郎は時が来るまで身を潜めて来た、この時のためだけにだ。そして戦闘面では有馬さんの信頼を得ている唯一の捜査官だ」

 

この状況であろうと彼に動じた様子はなかったのは、それだけが理由だ。

金木も実力を隠しているという点についてはなったしたが、今の言葉には驚く。

 

成の実力は何も分かっていなかったが、有馬貴将のお墨付きをもらっているとなると話は大きく変わる。

 

「心配するな、あいつはそう簡単に死なない」

 

平子とて成の具体的な能力は知らない、それこそが強みでもあるからだ。

未確認で正体不明、有馬がわざわざ抱えた手札はそれだけの価値のあるものなのだ。

 

 

CCGの局長室に旧多と芥子は伊丙を呼び出していた。

全員が庭の出身者という事もあり顔見知りだ、Vとして生きてきた者達である。

だが、今は同窓会のような優しい雰囲気の集まりではない。

 

「なんで逃しちゃったんですか?」

 

「苦しめてから殺したいからですよー、だってどうやっても私が勝ちますし」

 

先の戦いで旧多は成を吊し上げる予定であった。

明らかな地雷でもあった彼の排除は、これからの思惑に必ず障害となると考えての行動だった。

 

梟なぞどうでもいい、処理のしようはいくらでもあるただのグールだ。

しかし成は捜査官だ、それでいて白虎として情報をかき集めていた隻眼の王の腹心とまで考えていいだろう。

 

いや、むしろ彼こそが最初の隻眼の王という可能性もある。

 

それだけ、この存在の排除は重要であったのだが任せた駒に問題があった。

 

「入、貴様勝手が過ぎるぞ」

 

芥子は呆れたように伊丙を見る。

 

彼女の実力はVを凌駕している、それこそ施術を受けた並のVすら簡単に捩じ伏せるだけの力を彼女は持ってしまっている。

だからこそ任せたのだ、絶対に勝てる戦を行うために。

 

「じゃあ何ですか?気に食わないんなら良いですよ、殺し合いでもしますか?」

 

しかし、もはや生きる活路の無い彼女は己が欲求を満たす為だけに動いている。

王を倒す為の駒としてスカウトはしたが、それ以外の自由が過ぎる。

 

だが生かしているのは強いからだ、それこそこれに対応できる捜査官は存在しないと断言出来るほどに。

 

「王様はあとで殺しちゃいますから、今はとりあえず遊んでもいいでしょ?ただ成には手を出さないでくださいよ、私が殺すので」

 

それに、彼女は先の戦いで全く戦果をあげていないわけではない。

 

「クインケも壊したし、私も本気出してないんですから。それに殺してくる相手を殺す気で戦えないんですよ?次はどうやって遊ぼうかなぁ〜」

 

成遼太郎の実力を引き出し、表面上は引き分けとなったが追い詰めている。

別に彼女が殺す必要はない、彼女以外にも簡単に殺せるように弱らせてもらえれば良いのだ。

 

そういう狙いとしては、旧多の思惑通りであった。

 

 

とある、倉庫の中で成は身を投げ出すように倒れ込む。

同時に持っていた破損した草薙、弾切れの大和の入ったケースが床に転がる。

 

12区のとある倉庫、その所有者の名はキジマ式。

成が都合よく逃げれる場所として控えた隠れ家だ、キジマ自身もそこまで利用する事はない上に今は時期として利用もされ辛い。

 

機能した隠れ家だ。

 

「手酷くやられたな」

 

そして先に送っていた人物は倒れ込み成をそっと赫子で包み込む。

 

「……エトさん」

 

「君ほどの使い手がクインケを壊されるのは意外だったが、旧多でも出てきたのか?」

 

エトは先にキジマの倉庫へ侵入、簡単な片付けと逃走経路の確認などを行なっていた。

彼女に対し2箇所の候補を出したのは万が一にでも捜査官やオッガイの出待ちをされた時に不利だからだったが、幸いにもその様なら事はなかったようだ。

 

ただ、彼女の手には追っ手から剥ぎ取ったのか四肢が幾つか手にある。食料は自分で調達したのだろう、恐らくVの物を。でなければわざわざ戦わないという選択をする必要もない。

 

「……もっと、嫌な奴です」

 

「……そうか」

 

成の絞り出された言葉に、それが誰を言っているのかエトは察する。

成の捜査官としての全力で戦うに値する存在なのは壊れたクインケから想像がつく、そしてそれで責任を感じている事も。

 

「多分、捜査官の私では次に会った時に殺されます」

 

客観的な事実として、成は負ける。

クインケが今手元にないというのも勿論ある、実力そのものは拮抗している、だが覚悟に差があり過ぎる。

あそこまで単純な思考を持つほど壊れた怪物は、今の色々と頭を悩ませる成より遥かに強い。

 

「だから……だから」

 

何があっても、基本的に答えを即答していた成は言い淀む。

恐らく頭の中には自分の行うべき正しい答え、というものがあるのだろう。

ただそれはやりたいかと問われれば、ノーなのだ。

 

しかし、こうなったのは自分で責任であるとも分かっている。

 

いつも何事も動じない心が、壊れそうになっている。

いや、壊れる事はないのかもしれないが……何かを失う事が分かっている。

 

それが怖いのだ、自分の中で引いた一線を超えてしまうことを。

そこから先の世界の自分が、何をしても動じない化け物に成り果ててしまうのではないかと。

 

「成遼太郎」

 

瞬間、成の顔が弾かれた。

 

頭を抱え続ける彼を、考え事ふっ飛ばした。

 

「……何、するんですか」

 

「迷い続ける君を見て珍しいと思う反面、さっさと立ち直れと忸怩たる思いでね?」

 

要するに、喝を入れたのだ。

痛みに思考が吹っ飛ばされた成は溜息を吐きながら、それでも何も変わらないといった目でエトを見る。

 

すると隣へ、エトは腰掛ける。

 

「君は悩み事がある時は逃げ道を探してきた、だから都合の良い答えを出す男だ」

 

「説教ですか、まぁ間違ってないですけど」

 

好き勝手に生きてきたわけではないが、譲れない所では勝手にしてきた。

だからこそ伊丙入は生きており、その伊丙を止めなければならない。

 

「そしてその結果が今の惨状ではあるが……まさか、私のことも後悔しているのか?」

 

「っ……」

 

成の言葉が詰まる。

成はエトの死に場所を奪った、そしてこれからの世界で生きる意味を無理矢理に考えさせた。

グールという存在の憎悪の象徴、もう彼女は今後の世界のノイズにしかならないと分かっていても、成は勝手に命を助けた。

それが彼女の救いでなくても。

 

「最後まで悩め、思考の停止はいつでも出来る」

 

エトの言いたい事はシンプルだ、お前の考えのままに成し遂げたい事を身勝手にやってみろと言っている。

自分を助けた時と同様に、伊丙入も後悔亡き選択をしろと言ったのだ。

 

「とりあえず草薙は捨てろ、今は治らん。大和の補充ぐらいは対応できるが、整備は出来ないからな」

 

「……エトさんって、こんな世話焼きでしたっけ?」

 

成という人間は大抵のことを己だけで完結させてきた男だ、だから色々とこういった鞭で叩かれることは無かったのだが、最近はそんな事が増えている気がするのだ。

 

「本来なら私はもう舞台を降りている、残った以上主役は譲るものだろ?」

 

ただ、成自身少しは気を張らないでいられる時間だとは感じているのであった。

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