人か喰種か両方か   作:札幌ポテト

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2話

地下、いつも通りにグールが多く出てきた。

 

まぁそんなもんだろうと、0番隊の数名が随伴した林班の班長、林一等捜査官は感じていた。

10数名程度の小隊で各所のマッピングを行うのが基本となるこのモグラ叩きであるが、今回は先月と違い有馬貴将がいないというだけで不安感がある。

 

有馬貴将は怪物だ、19歳にして梟を撃退した本物だ。

 

その時を実際に目の当たりにした、あれが人類の希望である。

対して梟も、人類の絶望であったがあれもやばい。

あれも地下で接敵したと聞く、このモグラ叩きもそういった物を排除するために行われているのかもしれない。

 

そして後ろからついてくるのが有馬貴将を排出した部隊、0番隊だ。

今回は作戦前に殉職した捜査官の補充として来ている、明らかに子供であるがその実力は有馬貴将で経験している、疑念はない。

 

だがそうだったからなのか、今日の異常さを気づいていなかった。

得体のしれなさが強い0番隊が随伴しているのを皆良く思っていなかったが、逆に高揚していた林は気づかなかった。

 

今日はいつもより、グールが散発的な遭遇に収まっていると。

 

それが近づいて来た時も、やっと出て来たかと2人が突撃した。

林班の突撃隊長のようなものである、二等であるがそれに似合わない実力を持っている。

 

その2人が、瞬殺された。

 

同時に今回の指揮官から撤退命令が下った。

無理もない、あれはやばい、そう林も感じ取れていた。

 

梟ほどではないにしろ、恐ろしい存在であると察する事が容易に出来ていた。

 

だが、逃してくれるわけがない。

人間よりも走るのは当然、遥かに速い。だがこいつはもっと速いかもしれない、つまり必要な存在がある。

 

囮だ、死ぬ事が分かっている生贄、殿である。

 

それは誰でもなく、林自身がやるべきなのを林はすぐに理解していた。

0番隊の少女は判断の遅かった林に対して舌打ちをしながらも突貫、数秒間で凄まじい戦闘が繰り広げられたが負けた。

致命傷は負わなかったが弾かれている。

 

あれ程の動きの出来る人間であっても、そうなるのだ。

ぶつかった壁は凹み、意識を失っている。

部下へ背負わせ、撤退命令を発した。

 

これから殿は私が勤める、未来の有馬をここで死なせるわけにはいかないのだ、そういう意思を持って残ろうとした時だ。

 

後ろから襲いかかって来た尾赫が弾かれた。

前にいるのは、もう1人の0番隊の少年だ。

 

まだ息子と変わらない程度の年の子である。

 

だがその目と行動を見て、すぐに察した。

 

『殿は自分がやる、彼女を頼む』と。

初めて、0番隊から人間としての熱さを感じた。

そしてあえて振り向かなかった、自身のクインケを落として後を任せた。

尾赫のクインケ、Aレートの素材でできたものだ。

餞別である、自身の情けなさと任された責任を感じながら走ることだけに集中した。

 

後ろから「え?」という言葉が聞こえた気もするが、気のせいだろう。振り向かずに、前だけを見つづけた。

 

 

☆月d日

 

喰ったら元気が出てきた。

え?何を喰ったて?そりゃグールしかないよね、襲いかかって来たグールを食べた。味は酷いなんてものじゃなかったが、食わなきゃ死んでいた。

落ち着いたので軽くまとめよう、頭の整理をするためにも。

 

地下へ来てやばいグールに当たったのだ、推定レートはS以上か。

補充で入った班の2人が瞬殺、遅れて伊丙三等も突っ込んだが弾かれて意識を失った。

すぐ後に班長から撤退命令が出たが、その隙を狙って班長を潰そうとしてきたので仕方なくユキムラで弾いた。

 

頭を失えば班は混乱する、そうすれば死ぬ可能性が遥かに高くなる。

だが撤退するにも囮が必要だ、それを誰に任せるんだと目をやったが、そのまま私を置いて逃げていった。

 

思わず「え?」と言ってしまった。

私もすぐに逃げ出したかったが、簡単に逃してくれる相手ではなく戦闘は開始。

 

ユキムラが破壊され、班長が落としていったクインケでも戦ったが相手の硬さにもはや限界であった。

 

その後のことはよく覚えていない、誰の目もないので赫子を使った全力で戦った。

気付けば敵は死んでおり、自分はズダボロであった。

それと限界を超えて赫子を使ったせいか酷い空腹感が襲って来た、なので仕方なくグールを食べた。

 

焼くことも出来なかったので生でだ、死ぬ程嫌だったし今でも気持ち悪い。

 

それと身体のデカイ傷は治しておいたが、細かい傷はそのままにしておいた。

それに体力を回せるほど、余裕はない。

気付けばよくわからないところまで移動しているだろうし、時間感覚も狂ってる。

腕時計でもう3日経っていることしか分からない。

 

にしても恐ろしい敵だった、赫子が纏えるのは知らなかった。

自分の限界も知れたし、生きて帰れたら練習してみよう。

 

もう、疲れた。

 

☆月f日

 

生還した、結果としては1週間ほど地下にいた。

救助者を見てすぐ安心して気絶してしまったが、恐ろしいほど戦闘をした。

寝る事も出来ず、グールが溢れ出してくる。

全てを排除する余裕はなく、何体か倒しては逃げての繰り返し、食料なしでよく生き残れたと思う。

 

気づいたら病院にいた、お見舞いには隊長と補充で入った所の班長、伊丙三等が来てくれた。

林班長に対しては呪詛を吐きたくなったが、今回は我慢した。運が良かったと言ってとりあえずしらを切っておくことにする。

 

それと今回出会ったグールは鎖蛇と命名され、レートはSSとなったらしい。今後上昇するかもしれないから気を付けろと言われたので素直に「そうします」と答えた。

生身の人間が渡り合っていい存在じゃない、数秒とは言え渡り合った伊丙三等がやばいのだ。

 

とりあえず運が良かったという事で落ち着いた、ちなみに血液検査はめちゃくちゃ戦ったおかげで大丈夫だったらしい、あっぶね気をつけよ。

 

△月g日

 

あの忌々しい地下置いてけぼり事件から一年がたった。

その間にも色々な事があったが、あれほどでは無い。

 

15歳となって仕送りも安定して出せるようになってきたのだが、母親が亡くなった。

老衰らしいが、まだ40も超えていない筈だ。

父ももう長くないらしいが、キチンとした墓を建てると約束はして来た。

本当はまだまだ生きて欲しいのだが、現実は残念な程に見えている。

 

あと最後の言葉として母から「気を付けなさい、困った時は有馬を頼って」と言われた。

有馬貴将の名前を出した記憶は……あー、手紙に書いていたな。凄い人がいると、簡単に死ぬような環境だし強い人に強くしてもらえっていうのは正しい形だろう。

 

一応確認として、自分は本当の息子なのかやんわりと確認した。

 

血は繋がっているとハッキリと答えたのち、母は他界した。

 

△月h日

 

グールの事を調べていくうちに、奇妙な事を考え始めていく。

 

私はなぜ、人を食べずに生きていけているのか。

それについては簡単で、その運動量を補うだけのエネルギーを日常的に摂取しているからなのだが、それはなぜグールにも適用されないのか。

 

ただそれの答えもわかった。

私はRc細胞が勝手に増えていく特異体質なのだ、それ故にそれの補充の必要がない。

故にグールは人の中にあるRc細胞を取り込む事で生きているのだろう。まぁ単純に血肉がエネルギーにも変わっているのだとは思うが、必要要素なのだろう。

 

あと単純に人肉しか美味と感じないのも大きな要因か、そういった食料でもあれば少なくとも管理はしやすそうだ。

 

△月i日

伊丙三等が伊丙二等になった、もう15歳となっており気付けば私も17歳だ。

後輩も色々と出来た、全員相変わらず若いのだがこれだけの実力者達をどこから引っ張って来てるのかとたまに来る上官へやんわりと聞いてみるが教えてはくれなかった。

 

それとそんな話をしたのとは関係ないとは思うが、2番隊の方へ飛ばされた。0番隊として戦果を出していなかったので当たり前と言えば当たり前だろう。

と言ってもやる事は変わらない、周りは0番隊から来たと察しているようで距離も取られているが気にせずゆらゆらと生きていきたいと思う。

階級は変わらず三等なのでパートナーとして真戸上等が割り当てられた、かなりの変人であり嫌な予感がする。気をつけよう。

 

ただ幸いなのはトリオな事か、亜門一等は良い人そうなのでうまく盾にしたい。

 

△月j日

 

本当に無茶苦茶する人だった、倫理観ぶっ壊れてんじゃねーかなとおもう。

 

最初の任務でいきなり新人の自分を囮にして来た、Bレート程度なら0番隊の時でも狩っていたので問題無かったが静かにブチギレておいた。

 

ただ何を思ったのかそれから幾度となく無茶苦茶に付き合わされる事になった。

亜門一等をつれない時は100%無茶振りである。

そのせいで階級が一つ上がるほどで、普通に付き合いが長くなったなったせいか飯もたまに連れて行かれる。

 

そして口を開けば娘が可愛いと呟くか、隻眼の梟を必ず殺すという話だけをしていた。

この人、人間には良い人だけどグールだけは必ず殺すという一貫性がある人だ。

私の事がバレたらやばい、今までの付き合いとか関係なく殺しにくるだろう。

娘さん可愛いですねと煽てるつもりでいったら「やらんぞ」と静かに切れられた、あの威圧感で襲いかかって来られるのは勘弁して欲しい。


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