人か喰種か両方か   作:札幌ポテト

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21話

 

 

「前話した薬って、今の私に打てばどうなるんですかね」

 

普段の稽古中、といっても稽古ぐらいしか付き合いのない成はエトに聞いた。

それは協定を結ぶ為に望んだ対価のことだろう、すでに出来上がっているという報告は受けているがその詳細については成は知り得ていない。

 

「無反応だよ、君の体には関係ないからね。使えるのはそもそも庭の半人間ぐらいだよ」

 

「私も半人間ですが、何か違うんですか?」

 

成とて条件的には庭の人間と全く同じとまでは言わないが、その血は流れている。

それを聞いたエトは「小難しい話をするが、いいな?」とそのわけを話し始める。

 

「グールと人間は細胞が異なる、無論性能もだ」

 

まずは先行知識だ、その程度ならば成も詳しくは知らずとも話は分かる。

グールは人間と異なる存在だからこそ性能が違うのだ、しかし細胞単位での話は成は聞いた事も考えたこともない。

 

「ここで問題だが、有馬のような人間はどうなってると思う?」

 

「人じゃないですか、食事的に」

 

グールと人、どちらかと言われれば人の食事で生きているので人に寄っているのではないかと成は答えるが、それに対してエトは小さくを指を重ねて「ざーんねん」と答える。

20代後半がやると中々に痛々しいなと成は考えるが、看破されたのか赫子で軽く殴られる。

 

「……正解は、どっち付かずだ」

 

仕切り直した彼女の答えは、意地悪であったがそれを聞いて成も納得する。

もし人間の細胞で作られた身体ならば、人間並みの性能で収まるはずだ。彼等のそれは人間を半歩は踏み越えているのだから、言われてみれば確かである。

 

「どっちもある私とは違う、テロメアとか言っても分からんと思うが彼等はそもそも完全な生命体として成り立てていない。だから彼等の寿命は短い」

 

不完全で中途半端な存在ゆえに、そのノイズは大きい。急激な老化もその一つであり、20代の中盤から一気に彼等の老化は進行する。

エトはどちらの細胞も持っているだけで、どちらでもない細胞があるわけではない。

だが人肉を食らわねばならないという制約のある、ほぼグール側の存在だ。

 

「なら、私もエトさんと同じなんですか?」

 

「いや、君は例外だ」

 

しかし、成遼太郎という存在は根本から違う。

 

「人とグール、どっちにもなれるんだよ」

 

その答えに意味が分からず、成は何を言っているんだと頭を傾げる。

 

「言っただろ、奇跡の存在だと。君が検体だったから『夙成』なんて代物は作れたんだよ、だから寿命の問題なんて存在しない」

 

成の細胞は人とグールのどちらにでも変異出来る、しかしその体質だけならば宝の持ち腐れである。

彼はその変異を完全にコントロールする、いわば和修の望む完成された人間とも言える。

 

それゆえに、和修ですら完成の兆しすら見えなかった薬を開発している。

 

夙成とは分かりやすく言えば、早熟という意味である。

早くに熟し、朽ち果てる。それを防ぐ為に開発された薬である為、その名が付いた。

また早熟の方が分かりやすいとは感じるとは思うが、検体の苗字を取って名付けられてもいる。

 

「それで、薬はどんな仕組みなんですか?」

 

だが、その性能については成もよく分かっていない。

貰えるなら貰っとくが心情の彼でも、得体の知れないものは流石に受け取りたくはないのだ。

 

「どっち付かずの細胞を、無理矢理ではあるが人間にする。半人間特有の戦闘力は失うが、その寿命はある程度ヒトに近いものとなる。まぁ有馬ほど進行していれば意味はないがな」

 

副作用は人間になる事、だが戦わないならば関係のない話だ。

そもそも本当に必要のない薬である、親の寿命の短さから頼み込んだ薬ではあったが、今更それがなくとも彼はこの関係を崩す事はないだろう。

 

「やっぱり要らないですね、持ってても面倒なのでそっちで管理しててください」

 

「後で欲しいと言っても知らんぞ」

 

「大丈夫だとは思いますけどね」

 

なお後々受け取らずに色々とめんどくさい事になるのを、この時の成は知る由もなかった。

 

 

何かを首筋に打ち込まれた、最初それは毒か何かかと伊丙は考えたがそれは目の前にある成の顔を見て違うと直ぐに気づく。

 

「な、何を……」

 

身体に違和感が現れる、力が抜けていくような感覚に陥る。

 

「時間がないって言ったな。これで婆さんぐらいまでは生きられる、さっきの言い訳は吐けないぞ」

 

倒れそうになる彼女に肩を貸す、今頃全身を倦怠感が襲っていると察しての行動だ。

 

「成、私達の方は時間がないぞ」

 

「分かってます、向こうの配置は?」

 

「想定通りだ、定石に近い」

 

「では予定通りに行きましょう」

 

成はエトに伊丙を渡すと、そのまま落とした小刀を集める。もはや弾切れではあるが、補充すればまた使えるからだろう。

そしてこちらも出力が出なくなり、ただの太刀となった鎖骨を持ち3人は外へ向かう。

伊丙に関しては力が出ないので赫子によってエトに運ばれている。

 

「私を攫っても良い事ありませんよ、余計な敵を増やすだけです」

 

担がれていく伊丙はなされるがままである、声からもその疲労感は伝わってきている。

彼女は成の赫子を見ているので旧多に会わせるわけにはいかない、しかしそれは連れていくことと同義ではない。

だが、その意思は変わっていない。それはその後の彼女の顛末も想像に難くないからだろう。

 

「元から人生を縛ってきたVは私達が倒すつもりだ、それでグールとの諍いもなんとかする。それに……お前が居なくなれば、悲しむ人は多い」

 

旧多の元に完全敗北した形で戻れば、何をされてもおかしくない。事実、Vは彼女を持て余していたので都合良く消す可能性は十分な程にある。

彼女を守れる存在は、もうCCGにはいない。

 

「だから、死にたいなんて言うな……一応、私だって悲しむ」

 

「……そうですか」

 

意外だ、成遼太郎とは良い関係を築いてきたとは言えない。

時間が長いだけで、むしろ関係は悪かった。

ただそれは一方的なだけで、成自身は庭の正体を知ってからは自身と同じ境遇の彼等に対して少なからず自分を重ねていた。

仲間意識というものも芽生える、それだけ残酷を強制された世界なのだから。

 

「それで?どうしろって言うんですか、私は戦う事しか知らないんですよ」

 

細胞の移り変わりやそもそもの戦闘で疲弊もあり、彼女の意識が混濁してくる。

Vを辞めようが、捜査官を辞めようが彼女にはそれ以外に何も学んでいない。

その人生だ、成も似た様な結論を得ており捜査官に類した世界でしかもう生きられないとは悟っている。

 

「ゆっくり考えればいいでしょ。分からなくなった時があれば……まぁ、責任は取りますよ」

 

だがそれでも、眠りに入る彼女に答えた。

苦しみながら生きていく、それが彼等なのだ。

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