人か喰種か両方か   作:札幌ポテト

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22話

 

S2班の班長を務める瓜江上等捜査官は、ラボの取り囲みを恙無く終えて、様子を見守っている。

クインクスもその場におり、指示を待っているようだ。

元は和修特等の班であったがしっかりと統率が取れており、まとめ上げられた捜査官達だ。

 

「(俺たちが到着して10分……伊丙0番隊が突入してからは30分、何の音沙汰もない。流石に斥候を出すべきか)」

 

その捜査官達は、これから現れるであろう敵の取りこぼしを待っている。

少数での潜入という情報は逃げ出した職員から入っており、その殲滅には精鋭が送られている。

 

『全ての捜査官へ向けて、私は言葉を残す事にする』

 

だが、この放送によってそれは失敗したのだと悟る。

 

「管制塔からか、狙撃班は位置につけ!」

 

檄を飛ばす瓜江、皆が管制塔の方へと目を向ける。

 

「0番隊から連絡は?」

 

「ありません、音信不通です!」

 

完全に連絡が取れないことからただの失敗ではなく完敗である事を察する。

伊丙入は最近で最もグールの討伐を行なっていた捜査官だ、未来の有馬とも称され信用はあった彼女の敗北には少なからず動揺が走っている。

 

『私の名は芳村エト、高槻泉と名乗れば誰かは分かるはずだ。君達にはよく、隻眼の梟とも呼ばれている』

 

また、そのどよめきは更に大きくなる。

 

「本局へ連絡だ、詳細の確認と応援を要請しろ!」

 

捜査官達には高槻が捕まった事は知る者は多くとも、彼女が処分されていない事、そして隻眼の梟であることは知られていないからだ。

しかし隻眼の梟がいるならば、伊丙と0番隊が負けても不思議ではない。

 

『私はこの歪んだ世界の形に憤りを感じている、故に行動しその過程で多くの命を奪い、失ってきた』

 

「どうした、なぜ撃たない!」

 

狙撃班は既に位置についている、しかし放送は止まらない。

好き勝手な放送は嫌でも皆の耳に入ってくる、それが王のビレイグの作者でかつ隻眼の梟の物とあれば尚更だ。

 

『グールと人、異なる事は多い。しかし私達も命を育み、考え、祈り、生きている』

 

「影が見えません、そもそも赫子で窓を塞いでいる様で弾も通らず音響装置の破壊も難しく……」

 

狙撃班の通信から、すでに手を打たれているのを察する。

高火力な羽赫でもあれば違ったのかもしれないが、そういったクインケというのはそもそも絶対数が少なすぎる。

故に狙撃では対応ができない。

 

『人の命を奪ってきた私は、人殺しでしかない。だが大義の為にその言葉は受け取ろう、その罰はいずれ受ける」

 

「電源を落とせ、放送をやめさせろ!」

 

「非常時の予備電源で稼働してます、外部からの停止は困難です!」

 

すべて先手を打たれている、恐らく外部的な障害はすべて対応しているのだろう。

だが逆説的に捉えるならば、管制塔に籠城をしていることでもある。

 

『だからこそ、この関係を終わらせる。命を取り合い、悲劇を生み続けるこの形を、私達は変える』

 

「林班と川内班、成田班は管制塔の音響装置を破壊しに向かえ。森班と木之内班は本館で0番隊を捜索、残りは管制塔を包囲しつつ周囲を警戒しろ」

 

今は時間を稼ぐ時である。

隻眼の梟とは最恐の存在であり、まともに対抗できたのは有馬ぐらいである。

梟を想定しているわけもないので、全員が緊張をしているのを感じる。

 

『私も今のCCGでなければ、隻眼の王と同じく対話を望んだだろう。だが人とグールの両方の命を弄ぶ和修の存在は、野放しにできない』

 

そしてそれが思う壺である事を、瓜江は察する。

放送は近隣住民にも聞こえる為破壊を優先したが、破壊に向かう班以外は全員周囲の警戒だ。

つまり、この放送に少なからず意識を割かれる。

 

『オッガイが食している肉はグールの肉だ、いずれ赫者の兵隊が出来上がるだろう。グールを滅ぼした後にそれがどこに振り下ろされると思う?正しい倫理のない正義は暴力でしかない』

 

旧多への過激な策に皆麻痺しているが、十分に常軌を逸してるのは理解している。

代わりにグール根絶という果実が見えているからだ、その後のことまで考えている人間とはやはり少ない。

 

『私の友人、成遼太郎もまた賛同してくれている』

 

そして何故か、ここで成遼太郎の名前が出てくる。

いや元はグールの内通者なので組んでいてもおかしくはない、しかしいつからか?

アオギリの樹の時から組んでいる可能性は高い、今迄は金木研とのみ内通していると考えられていたのでこれに驚く者も多い。

ゆえに、絶対に逃すわけにはいかないのだが。

 

『これ以上の身勝手を、我々は許容できない」

 

「こちら川内班、棟内に人影はありません。もぬけの殻です!」

 

棟内に、誰もいないのである。

 

『よって王の腹心である我々は、平和を求める為に行動に移る。その障害となる和修吉福に対し、我々は個人的な意思によって……戦線を布告する』

 

今現在も放送は続いている、その報告に困惑する瓜江に別の通信がくる。

 

「林班、潜入しましたが敵影は確認できません!仕組みは不明ですが放送は赫子が喋っていた様です!」

 

赫子が喋る、それを聞いて瓜江は自身の右手にある『銀喰』を想起する。これはアオギリのSSレート喰種ノロの尾赫を利用して作った者であるが、そのノロは口の様に動く赫子で人を捕食してきていた。

 

話す事ができても、不思議ではない。

 

だが、今考えられる余裕はない。

 

「班長!2時の方向より、梟が現れました!!」

 

この包囲ができるまで待機していたのだろう、その横っ腹を突く為に。だが薙ぎ倒す様に行動しており、チラリと見えた瓜江には人を殺す意思を感じない。

だが完璧な包囲を敷けていない以上、逃す可能性は高い。

 

すぐに檄を飛ばそうとするが。

 

「S2班班長、瓜江だな」

 

背後に現れた男に阻止される。

 

「ついでに、クインクス班か」

 

クインケでの斬撃が瓜江に向けられたが、それは気付いた米林によって阻止阻止される。

千手観音さながらの百烈拳だ、しかし初見で見切れる筈もない攻撃はあっさりと回避される。

 

「凄い赫子だな、今の使い方は見た事がない。燐赫か?」

 

そこには多少ボロボロな状態の男がいる。

 

「成、遼太郎……!」

 

佐々木琲世や平子丈と共に裏切った捜査官がそこにいた。

未承認らしきクインケを携えてだ。

 

「なぜ人間の貴様が、グールを……よりにもよって、梟を庇う!!」

 

「成り行きが半分だが……平和が欲しいからだ。王もそれを望んでいる」

 

平和を本気で望むのならば笑わせている。

梟とは平和とは対極にいた存在だ、それが平和を謳う為に行動を共にし剣を握るなどあってはならない。

 

「この行動が、それに繋がると思っているのか?」

 

本気で考えているなら狂人だ。

しかし瓜江にとって成という捜査官の情報があまりに少ないので判断に困る。

グールを人として扱う宇井特等の部下、そして今の今まで力を見せずにいた実力者、この情報で判断出来ることは少なく、確定事項でもない。

 

その真意を、問うのだが。

 

「逆に聞くが、君は本当に旧多のやり方が平和を齎すと思っているのか?」

 

瓜江の甲赫を受け流し、米林の赫子による質量の暴力も避け、他のクインクス班の攻撃すら躱しながら答える。

瓜江は周りにただ流される愚者ではない、自身の考えをもつ捜査官だ。

 

ゆえに今の歪んだ形にあるCCGにも懐疑的だ、そして成や梟のいう通りに平和が訪れるとは考えていない。

 

「殺すのがグールから、邪魔者になるだけだ。あれが正義なら生き辛いことこの上ないな」

 

「貴様らは違うというのか!」

 

仮にこの革命が成功したとして、変わるのは首だけではないかと瓜江は問う。

隻眼の王が座ろうが梟が座ろうが、世界の歪みは変わらないのではないかと?

 

「私はグールとの殺し合いさえ起こらなければ、それでいい」

 

しかしその答えは、シンプル過ぎた。

捜査官なら誰もが一度は考えたことのある夢想であった。

 

「命を守る事が、そこまで不思議な事か?」

 

価値観が違う、だからその価値観を押し付ける為に戦っている。

そしてそれを本気で成し得ると考えている男が目の前にいるのだ、迷いのある今の瓜江達が敵うはずもなかった。




 
ラボ襲撃時の大雑把な作戦の流れ

1.ラボを襲撃、Vや警備システムを完全に破壊していく。この時にエトは薬の奪取を最優先に行動をする。

2.現状最高戦力である伊丙入を元から準備した成の血液を地下室にばら撒く事で誘引、成が赫子を使った事がCCGに分からない状況した後に撃破し無力化する。

3.音響装置のある管制塔を硬め、エトの赫子によって遠隔で放送を行い包囲の意識を管制塔に向けさせ、隙を伺う。またその演説でCCGに対する懐疑心を誘う。

4.赫者化したエトの体内に伊丙を格納、強力な捜査官のみ成が対処し致命的な打撃を与えた後に撤退する。

5.前もって仕掛けておいた設置式の赫子で追走を許さぬ様に道路を破壊、24区へ逃げる。

6.???

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