人か喰種か両方か   作:札幌ポテト

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25話

 

地下のグール達には致命的な弱点があった。

広大過ぎるが故に、見つからないという強みはある一方で、食料の確保が出来ないという弱点が。

 

地上の食料、もとい死体の回収はオッガイが優先して行っているのもあり都内には見つからず、自殺の隠れた名所でも手に入らない。

 

全員が飢え死ぬ、時間の問題であった。

故に黒山羊は大量の人員を導入した食料確保の為に21日より、部隊を編成して樹海への遠征を決めた。

これにより半年程度の食料を賄えるという目算の上で、だ。

 

そしてこの時期をあえて選んだのにも理由がある。

 

先日地下で確保された密偵、ハジメから渡された手紙には処刑執行を行う旨の連絡があったのだ。

その中には金木の伴侶となった霧島薫香の友人の名前も存在した。

 

最初は処刑断行に介入し救い出す策を考えたが罠であると判断し、その日にあえて何も仕掛けずに食料確保の日を被らせた。

 

それが4月23日である。

 

「……エトさん」

 

「気配が多い、今は王や主要の戦力すら出ているんだが……狙われたか?」

 

そして、その日に向こうは仕掛けて来た。

 

エトと伊丙の見上げた先には大量の黒い子供達がいる。

オッガイだ、この前の密偵に発信機でも仕込んでいたのか攻め込んできたのだ。

 

「20番地下通路に避難して!戦えない人は優先してあげて!」

 

襲撃に気付いたトーカは避難の誘導を行う、今ここにいる殆どのグールが非戦闘員であるからだ。

子供であったり、身重であったりと何かしら事情があり地下へ残っている者達とその最低限の護衛だけがここにいる。

 

ちなみに伊丙やエトが残っているのはまだ信頼が薄いからだ、地上に出すよりも地下で経過を見守るという形にされたので例外だ。

 

「下がるぞ、ここは向こうに任せる」

 

そしてその軍勢を見たエトはすぐさま、非戦闘員の向かう20番地下通路へ伊丙を誘導する。

 

「戦わないんですか?」

 

エトならばいくらオッガイと言えど、時間稼ぎはできる。

伊丙も同様だ、ある程度の敵はどうとでも出来る。

しかし迷わずエトは下がる判断をした。

 

「私が指揮官なら、逃すような真似はしない」

 

すぐに、次の一手を読んだからだ。

あからさまな登場によりパニック状態となった地下空間、当然戦闘のできるものが時間稼ぎに残る。

そして無力なグール達にはまともな護衛というのが居なくなる、狙わないわけがない。

 

「君には非戦闘員を任せる、偶発的な遭遇はどうしようもないからな」

 

そう言うと、エトは誰よりも速く駆けた。

先回りしているであろう、指揮官を殺すために。

 

 

「なんだ成、不安か?」

 

4月23日、作戦開始前の成の元へ丸手は赴いていた。

ビル街での監視、逃走時の対応が彼の仕事だ。

CCGで指定された犯罪者、もといテロリストであるという事もあり外での待機となっている。

 

最初は丸手も適当な言葉をかける予定であった、緊張をほぐす程度の物をだ。

 

しかし、その言葉を最初にかけたのは彼の顔がどこか思い詰めているようにも感じたからだ。

 

「自信を持て、お前は有馬程じゃねーにしろ強い」

 

これから行われるのは革命でも無ければ謀反でもない、ただ元の形に戻す為に行う戦いだ。取り戻す為の戦いだ。

 

「でも、信用はしてないんですよね」

 

たが成はまだ丸手から完全な信頼を得られていない。

 

「流石にな、逆にお前はできるか?」

 

「しませんよ、むしろ警戒します」

 

具体的な戦闘時間などは教えてもらえてはいないのだ、ぽっと出てきた力を持つ得体の知れない奴となれば、警戒するに決まっている。

だが共通の敵は定まっているから、背中を預けている。

利害の一致が何よりも、この関係を強固なものとしているのだ。

 

しかし、それが出来たからといって勝てるとは限らない。

 

丸手を気遣ってか、今度は成から話しかける。

 

「旧多は、手強いです。少なくとも人の嫌がる事を考えるのは誰よりも秀でています」

 

旧多が成に対して伊丙をぶつけたのは、それが最も有効的であると考えての行動だからだ。

それは戦闘力という面ももちろん存在するが、精神的な負荷をかけやすいという理由もある。

 

ロゼの時に伊丙を庇った瞬間を彼に直接見られている、普段から主体的に動かない人間が動いた瞬間だった。

つまり伊丙入は成遼太郎にとって何かしらの感情を抱かせる人間と判断され、利用されたのだ。

そして結果として失敗はさせたが、経過としては思惑通りであった。

 

「その旧多が、何かをしないとは思えないんです」

 

何もしないというのは、不安を煽る事はあってもそれ以外に効力を得ない。少し長期的な意味合いでの効果は期待出来るが、短期的なものとなると難しい。

 

何かをした方が得だ、それが仮に失敗してもいつでも何かをしてくるという不安を煽れた方がいい。

そして旧多は意味のある戦いをする、今までの仕掛けて来た戦いは全て旧多にとってのメリットがあった。

 

ピエロの時は局長としての地盤を固め和修政を消す為、成に仕掛けた時はCCGへの見せしめとして、オッガイを用いての多方向の掃討作戦は民衆と捜査官からの正当性を得る為に。

 

どれも、理由が存在した。

 

そして、そのどれもが短期間のうちに間髪を開けず、あるいは同時並行で行われた。

それだけの存在なのだ、また仕掛けてこないとは考えられない。

 

23日の処刑もその一つではあるが、そこに合わせて動いてくる可能性は十分にある。

処刑の邪魔をされないように準備をするよりも、その裏をかいて何かをしでかす方が彼らしい。

 

「ただ、何をしたいのかが分からない」

 

しかし、その主たる目的が分からない。

旧多のやってきた事や本性を隠していた時は知っていても、それ以外を知らない。

和修によって敷かれたレールの上で管理されたくない、それが理由ならばもう達成している。

もう一族は全滅させているのだから。

 

必然的に管理から開放された後にする事は、それによってできなかった事だ。

無論、Vやピエロには協力に対する対価を支払うのでその行動はあるだろう。

 

だが旧多が欲するものが、成には分からない。

 

「全てを手に入れた男が願うのって、何ですかね」

 

成はこれで終えた自分自身を明確に想像する事ができない、そもそも成り行きというのもあるが、彼自身が何かになりたいと考えた事が少ないのだ。

旧多という存在の立場で考え、何を求めるのか。

 

「そりゃ、平穏って奴じゃねーか」

 

それに対して、丸手は一般論で答える。

確かに、そこまで上り詰めてする事はその維持ぐらいだ。

だが喰種を滅ぼせばそれこそCCGの局長という椅子に意味はなくなる、今の流れとしては整合性が感じられない。

 

平穏とは安定した平和や幸福の享受だ。彼を知るには彼にとっての平和が何かを知らなければ分からない。

 

「これだけして欲しい、平穏……」

 

もはや世界への八つ当たりのようにも感じる彼の生きる理由、それを確かめなければ自分が定まらないまま戦う事になる。

 

真っ黒に見えるそれを覗くという愚行を犯す、白い部分を探す為ではない、その闇が何かを見定めるために向かう。

 

有馬は敵と戦う時は話すなと言った、情が生まれるからだ。

 

だが情が生まれないような殺し合いなぞ殆どない、だから成は話したい相手には話している。

話さなければ、何も知る事ができない。

 

ゆえに、成は自分の戦う理由を付けるために向かう。

 

「シャキッとさせろよ、お前を戦力として数えてねーわけじゃないからな」

 

そう言うと丸手は去っていく、残された成はする事もないのでぼんやりと空を眺める。

成にとって平穏とは人とグールが日常的に殺し合いを行わない世界だ、それが旧多に当て嵌まるとは考えられない。

 

分かり合えない存在だと察しながらも、それ自体を辞めれないのが彼という人間の欠点なのだろう。

何かを失う事が、十分にあるのだから。

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