人か喰種か両方か   作:札幌ポテト

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27話

成は旧多の前に立つ、しかしその雰囲気からは戦闘が起こるようには見えない。

 

「貴方とやる気は今の僕にはないんですがねー、やり合いたい感じですか?」

 

その雰囲気を察し、旧多は赫子を仕舞う。

成はここに戦いに来たわけでもあるが、知る為に来たのである。

何度も断片的な情報や条件から、考えを重ねてきた。

 

「君は、何を求めてるんだ」

 

そして結局、答えは出なかった。

 

「檻は壊した、権力も手に入れた、何も君を縛る者は居ない」

 

全てを手に入れたのではないかと思える程、彼は上手くやっている。それだけの苦労と計画が裏にあったのだろう、そして旧多そのものの実力の高さも相まって今に至る。

 

だが分からない、彼がなぜ行動に移しているのか。

 

CCGのトップは恐らく興味がない、色々と都合が良いからなっていると様々な情報からされる。

でなければグールの殲滅なぞやらないはずだ。

 

「全てを手に入れた男は、平穏を望むと丸手特等は言った」

 

だから知りたいのだ、その答えたを。

 

「君の望む平穏とは、なんだ?」

 

成とのお喋りに興が乗ってきたのか、はたまた戦闘によるアドレナリンがまだ頭に残っているのか、旧多はその質問を聞くと辺りを適当にスキップしながら答えてよいという雰囲気を出してくるが。

 

「僕だけ答えるのはフェアじゃないんで、こっちも聞きますよ」

 

相手を知りたいのは、成だけではない。

 

「何を求めてるんですか?いや、当てますよ。奪い合わない世界、そんな感じでしょ?」

 

だが、旧多は先にその答えに至っている。

 

「……概ね、それで合ってる」

 

しかしそこではない、旧多が知りたいのはそこから先である。

 

「だからグールを殺さない世界を望むんですか、アホらしー」

 

嘲るように挑発する彼の目は口とは裏腹におもちゃを見ているように興味が示されているのがわかる。

だがおもちゃに望んでいるのは、楽しませてもらうことだけである。

 

「今まで貴方が殺せるけど殺さなかったグールの数、いくつか分かります?」

 

旧多も調べた、成遼太郎という捜査官について。

14歳からCCGに入局し、0番隊として活動していくが目立った戦績はない。

19歳の時に梟との戦いで頭角を表し、有馬のパートナーとなった後は白単翼章を受賞し1等捜査官へと昇級、しかしその後はグールの討伐実績は波以下になる。

 

情報として役立つ物ですら時間が経っているので確証を得られない、それだけ隠してきた存在だ。

 

だが、別にグールと戦って来なかったわけではない。

 

「100以上ですよ、それが月に1人食べたとして1年で1200人死にますよね?9年以上そんな事をしてきたら世紀の大量殺人犯ですよ、現実って見えてます?」

 

あくまでも概算であるが、ロゼの事件だけでも成遼太郎は3人のグールの命を奪わなかった。

奪った瞬間の方が、遥かに少なかった。

 

「それについて見て見ぬふりをした事はない」

 

「背負ってるつもりみたいですけど、死んだ人間はそんな事を望んでいると思うんですか?」

 

そして、そんな甘えた考えに対する言葉は考えもせずに出てくる。

 

「グールなんて居なくなれ、遺族はそう思っていますよ。貴方が殺していれば亡くならなかった命です、その責任はどう取るつもりなんですか?貴方はただやる事に理由を付けるエゴイストじゃないんですか?」

 

無責任で身勝手な彼をエゴイストと称する以外に、何と称するか。

成遼太郎は戦える力を持っていた、その力に対する責任は無いのか?

旧多のいう言葉は全て的を得ている、正しい行動では無いのだと、君の行動は間違いでないかと問い詰める。

 

「……それが?」

 

しかし、成はそれに対してだからどうしたと言わんばかりの反応をする。

 

「それがって、何か思う事は無いんですか?」

 

「誰かしらがやる役目だ、私じゃ無いからと言って変わるわけじゃない。だから君の言う大量殺人犯にも、私はなるし……いずれ罰は受ける」

 

何人もの見えない屍を成は築いているのかもしれない、だがその屍の丘を作らなければ届かない世界がある。

グールと人間、両者が手を取り合って生きる世界を創る使命は託されている。

 

「まっぶしいなぁ、聖人気取るにしては目が気持ち悪いし。大義とか愛国心とかそんなのに縛られて、貴方は自分を持っていないんですか?」

 

「無ければもっと殺してる、だが後腐れなく終わらせた後は好きに生きるつもりだ」

 

世界を正しい形にするのではない、世界を住みやすい場所にする為に戦うのだ。

でなければ、さっさと全てを放棄している。

彼の望む世界が存在するならばと、挑む理由はそれだけだ。

 

有馬貴将に託された使命を、成遼太郎は全うするのはそんな利己的な意味も無ければ、背負う事は無い。

 

「ナリくん、貴方僕と似てる気がするんです」

 

旧多と成は歩んできた道はまるで違う、どちらも揺らがない自分を持っている存在ではあるが、真逆とも言える。

 

「庭の家系から生まれて、早世な事も分かってたのに貴方がやる事は全て一貫性があった。人を殺したくない、命を奪いたくない、そんな平和を謳う生き方なのがよく分かります」

 

庭の人間同士から生まれた存在である事は最近になって判明した、成の裏切りが発覚してから見つかった事実であり、それだけ巧妙に隠されていたのだ。

しかし全ての権力を握ってしまえば、僅かな時間で到達した答えである。

 

そして、その生まれを知りながらも彼は世界を恨む事はなかった。

むしろ、このグールの居る世界を認めていた。

 

「貴方が羨ましいですよ、檻から解き放たれた上に、早死にの呪縛まで解いてしまった」

 

欲しいものを全て手に入れている、それが旧多から見た成という人間だ。

だが、その先まで得ようとする強欲さがある。

 

「貴方達の作った『夙成』は素晴らしいですね、僕や貴方みたいな出来損ないが人間になれる」

 

何よりも、薬を作り上げてしまったことが1番の想定外であった。

Vですら何十年もかけてきっかけや可能性すら感じさせない程に難航していた代物だ、旧多の寿命が続く迄に作られるとは誰も予期できなかった物だ。

 

「それをなんで今更、準備しちゃうかなぁ……」

 

だからこそ、引けなくなってしまった。

 

「本当に今更です、変わらないんですよね……彼女を使い潰した後じゃ、もうやらざるを得ない」

 

彼女と言われて成に心当たりはない。

使い潰したと言われ何か考えが出てきそうであるが、それは出てこない。

 

「ナリくんの言う通り、僕は幸せを求めてます。でももう全てを壊した後じゃ無いと手に入らないんです」

 

そして、彼はニヤリと笑うと後ろを見る。

 

「僕は僕の幸せの為に、全てを得ます」

 

瞬間、地下の壁が破壊され大量の肉と目玉の塊が現れる。

 

「無論その為の犠牲に、貴方にはなって貰いますよ」

 

それが四方から上に昇っていく、その奔流に旧多は飲み込まれていった。




伊丙→宇井と戦闘中

エト→逃げたグールを助けに行く

金木→原作通りに鈴屋達と戦う

成→地上で逃げた旧多を追って地下に行く

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