人か喰種か両方か   作:札幌ポテト

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毎日投稿は無理だった


29話

煤煙が空を覆って行く、夕闇に落ちて行く世界とは対象的に赤い炎が地上を燃やしている。

 

「中継です、今から放送する映像は現在の東京です!」

 

ヘリコプターに乗ったテレビの中継者が空から世界を映している。

この瓦解した都市が東京とは誰も思うはずがない。ビルは薙ぎ倒され、阿鼻叫喚の地獄のような光景が広がっている。

 

「突如地下から現れた蛇のような怪物と自衛隊が戦闘をしています、あれの正体については不明ですが、新種の巨大生物であるのは確かです」

 

そしてその原因である存在は、巨大だ。全長が目算でも数キロあり、区を跨る程の長さがある。

全身にはヒダのように大小様々な腕がびっしりとあり、それで人を襲っている。

また、大きな口と身体中に付いた目玉がその異様さを増長させている、この世に存在していい存在ではない。

 

「ヘリが、ヘリが撃墜されました。危険ですので、我々も非難をしたいと思います!」

 

そして自衛隊の攻撃は効いていない。

いや、効いてはいるがすぐに回復している。

そして戦車もヘリコプターも関係なく全てを破壊している、それだけの力を持った存在なのだ。

 

「ひっ……!?」

 

そして、その腕の一つがキャスター達のヘリへ向かった。

いくら空を飛べる乗り物だからといって急な方向転換や急発進が出来る乗り物ではない、その伸ばされた腕からは逃れられない。

 

「……え?」

 

だがその腕は切断された、そのまま重力に引っ張られて地面に落ちて行く。

ヘリはそのうちに方向を転換してその場を離脱して行く、リポーターは命がある事に安堵しながら怪物の方へと目をやる。

 

彼だけが気付けた、ヘリと怪物の間を何かが通ったのだ。そしてその後に怪物の腕は落ちた、鋭利な断面図を見ればそれが自然に起こったわけがない。

 

「な、何でしょう……何かが我々を庇ったようです」

 

そして、それはリポーターの眼にも、カメラにもしっかりと映り込む。闇に落ちて行く都市の中に白い影が動いているのを、人間とは違う何かの影を。

 

「まるで巨大な虎のような……」

 

ヘリはその場を離れて行った。

 

 

大き過ぎるうねりの先に、1匹の獣が居る。

質量の差で見れば圧倒的であり蛇から逃げるひよこの様にも見える、だがその蛇の大きさが規格外なだけであり、獣の大きさは5mを超えている。

四つ足と尻尾でビルや道路を高速で駆け回り、その注意を一手に引き受けている。

 

「(……まだ避難は終わってないか)」

 

成遼太郎の赫者となった姿がそれだ、民間人の避難が済んだ地域を中心にビル街を立体的に逃げ続けている。

その姿がカメラにも映されているのだが、そんな程度の事を気にする余裕はない。

あれだけの質量を持った存在だ、押し潰されてしまえば即死だ。

 

「(これなら……!)」

 

成は逃げ回りながら、ビルとビルの間に蜘蛛の巣のように赫子を張らせる。

即席の捕獲網だ、無論この程度でどうにかなると思っていないが、ただの網ではない。

 

ビルと癒着するように張られたこの赫子は成の尾赫の柔軟さと甲赫の強靭さが練り込まれた特別性である。

伸び過ぎることも千切れることもない、それに突っ込んでくる竜の動きに何かしら影響を与える筈だ。

 

「……嘘だろ」

 

ただ、甘くない。

赫子は切れなかったが、ビルを根元から引き抜きながら猛進を続けてきたのだ。

だが僅かに速度は落ちた、その瞬間に何度か尻尾の赫子で叩き付けてもみるが、僅かな硬直を生むだけで効いているようには見えない。

 

成の尾赫は棍棒のような大きさでしなりが最もある武器だ、その破壊力は鉄骨ですら束になっても叩き折る。

しかしこの生物、竜は成を餌としか認識していないようでひたすら直進を続ける。

 

「正直もう手詰まりなんだが……」

 

かれこれ10分程度であるが、成は追いかけっこを始めてから色々と分かった事がある。

 

竜は肉を求めている、それは代謝の為か自身の成長の為かは定かではないが人の多いところを狙って動き続けている。

事実、竜は地下で大量の捜査官とオッガイを食べ尽くしている。

その旺盛な食欲がある限りは止まらないだろう。

 

次にその耐久性だ。

分厚い肉、赫子が何層も積み重なって膨張しているのでダメージは入るが大きさゆえに軽微に済んでおり、ヒダのような腕を切り落とすぐらいしかできない。

特に打撃は効果が薄く、層を突破することが出来ない。

そして自衛隊の攻撃を受けた時に気づいてしまったこととして、大砲程度の攻撃は即座に回復してしまう事がある。

これではまともな攻撃策はやる事すら無意味であることが分かる。

 

そして視野の広さが更に成の行動に制限をかけている。

全身にある目玉の全てに視覚があり、死角に回り込むことがその大きさと相まって難しくしている。

 

ゆえに逃げ遅れた人間は漏れなく竜の腹の中である、そして全てその体へ吸収されている。

 

「最強の化け物だな、金木」

 

核となった存在へ届くはずも無い言葉を漏らし、また動き続ける。

もはや逃げるために使えるビルも少なくなってきた、瓦礫の丘の上で踊り続けていればそうもなる。

稼げる時間は限界に近づいてきている、打つ手がまるで見当たらない。

 

だがやる事は変わらない、そして固定砲台のように虎の口から火球が放たれる。

 

「(大和も効果なし、回復が速過ぎる)」

 

成に羽赫はない、クインケを赫者の中に仕込んで発動させたのだが注意を引く以外の効果は無さそうだ。

桁違いの回復力と大きさ、この二つが最もこの竜を止める事を困難なものとしている。

 

「(竜退治なら聖剣ぐらいあれば良いんだが……)」

 

あいにくと、そんなファンタジーのような力は存在しない。だが竜はそのファンタジーの世界の怪物だ、ただのグールが、それも一個人でどうこうできる存在ではない。

 

東京の崩壊はその思考の間にも続いて行く、災害と戦っているのだと分からせている。

人間の届かない領域が、そこにあるのだ。

 

「(……いや、いけるか。金木の場所さえ分かれば)」

 

しかし、それが諦める理由にはならない。

 

「行け、金木を見つけて来い」

 

成は尾赫を分離させる、するとそれは意思を持ったように竜の懐へ入り込んでいく。

意思を持たせた赫子、と言うと万能感はあるが実際は簡単な伝達能力と単純な目標設定をする事で自律稼働する成の技だ。

 

今のそれには金木の発見という簡単なミッションが設定されている、竜は凄まじい回復力はあるが装甲はそこまで高いわけではない、ミミズのようにその腹の中を這っていけばいずれは金木にたどり着く。

 

だが、地道にあの巨体の中から特定の個人を探すのは困難だ。

 

「……っ、居た!あそこか」

 

しかし臭いが分かれば辿れる、その赫子の持つ知覚機能は嗅覚だ。その能力は成本体と変わらない、金木という個人そのものを発見するだけならば不可能ではない。

 

問題は、救出が難しい事だ。

 

「(赫子が死んだ、防衛機能があるのか……それだけ大事って事だろうが)」

 

入り込ませた赫子は金木へ近づいた途端に押し潰された、大体の場所は分かったので成り本人が掘り返せば救出は可能かもしれないが。

 

「……あの動きをしてたら、無理だな」

 

竜が動き続ける限り、成は救助の余裕ができない。

それは仮に失敗したとしても、後続の部隊でも同様だろう。

あの災害が蠢く限り、金木を助ける事はできない。


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