人か喰種か両方か   作:札幌ポテト

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30話

動き続ける限り、金木の救出はできない。

 

「……無茶するか」

 

だが、逆に言うならば動きさえ止まれば金木は助けることができる。

問題はそこなのだが、金木の場所がわかった今なら止める手筈はある。

 

「(あいつにとって、私は極上の餌なら……着いてくる)」

 

成は残ったビルを回りながら、一度竜の視界から消える。

一瞬で上空まで跳躍をしてだ、しかし直ぐ見つかる。

そして巨大な口が成を飲み込もうと開けられる。

 

空中には逃げ場がない、ただ重力に引っ張られて自由落下をするだけである。

 

ただそれは想定内だ、むしろこれが目的とも言える。

 

今まで竜が成に注意を引けていたのは鬱陶しく攻撃をしていたというのも勿論あるが、捕食対象として見ているからだ。

 

成のような体質の存在はこの世界に2人といない、それを感じ取っているのかもしれない。

 

「金木を返してもうぞ」

 

この怪物には大量に眼があるなど色々と特筆できる情報はあるが、これから成の行う作戦で壁となっているのは大きさと回復力だ。

 

金木の位置はわかっているが救助は考えない、それを出来る余裕はない。なので動きを止めるのが目標だ、それだけに全てを注ぎ込む。

 

次の瞬間、成の右肩に人程大きな甲赫が現れ始める。

それは少しずつ大きくなっていき、赫者本体すら超えてくる。

だが竜からすればまだまだ小さい、これで切りつけたとしてもカッターで指を切った程度のダメージしか出ないだろう。

 

だから、まだ大きくする。

 

「(足りない、もっと大きさを……絞り出せ)」

 

そして赫者を解き、体にある全ての力を右肩に集約させていく。その大きさは遂に40mも超えてくる、正真正銘全てを出し尽くした赫子である。

 

巨大な敵相手するには巨大な武器が必要だ、しかしこれは切り刻むために準備したものではない。

 

「……落ちろ」

 

成の肩にある巨大な剣は、竜の頭に突き刺さるとそのまま地面に縫い付けた。

 

 

暴れ回っていた竜が大人しくなる、巨大なダメージを負ったからかもしれない。

切り離された甲赫を見るとそこに治癒をしようと竜の細胞が接着している。しかし抜ける気配はなく、尻尾の方でのみ竜は暴れている。

 

楔を打ち込んだのだ、竜を動かさないために。

竜を倒す事は現実的ではない、成に出来たのは止める事だけだった。

 

竜の背中を滑り、アスファルトの上を転がるように落ちた彼も大きな傷は負っていない。

だが疲労感からか、立つ事は出来ずにいる。

 

「(全く力が入らない、赫者もこんな長時間維持した事もないが……瞼すら開けるのが辛い)」

 

竜を止めた、勝ったわけではないが成はやり遂げた。

東京の破壊を止め、少なくとも一時の安全を確保した。

グールも人間も、無惨に命を散らす事はなくなったのだ。

 

「いやー、まさか本当に止めちゃうとは」

 

そして、この瞬間を狙っていた者がいる。

 

「(この声、旧多……か?)」

 

成は力の入らない体を無理矢理動かし、声の方へと目を向ける。

しかし彼には見えない、いやそこには居るのだがピントが合わずボヤけている。

ただそこに、何かを手に持ちながら笑っているのがわかる。

 

「ナリくん、貴方が立ち向かうのは何となく分かってました」

 

無防備な成の腹を、旧多は蹴飛ばした。

成の口からは血が吐き出され、そのまま数メートル転がって行く。

 

「人の死を受け止められても、失うのを分かってて動かない人ではありません。だったら止めに来ますよね?」

 

串刺しにされた竜を見上げながら、旧多は近づいてくる。

 

「不思議に思ってたんです、伊丙上等との戦闘が。激しい戦闘だったんでしょう、頑丈なラボの地下室は傷だらけでした」

 

覗き込んでくる旧多にやはり眼のピントは合わない、だがその顔がどんなものかは想像に難くない。

 

「赫子の跡が気になってたんです、未認証のクインケを使うならあり得ますけど、それを最初からオッガイにも使わなかったのも……なんか納得いかなかったんです」

 

旧多は成について誰よりも考えていた、隻眼の王である金木と同等か、それ以上の存在として。

悉く思い通りにさせなかった成遼太郎という男がどのような人間であり、データは信用ならないと考えての行動をとってきた。

 

「もう1人グールが居るとも考えましたが、貴方がかなり梟に気に入られてるのも気掛かりでした。だから貴方がどんな偶然や手を使ったかは分かりませんが、グールである隻眼の白虎として考えたんです」

 

成は庭の子達と同じ半人間、その考えは間違ってはいなかった。しかしそれだけで説明できないことがいくつもある、それら細かい疑念が重なっていき、辿り着いた旧多の結論だ。

 

「(まずい、意識が……)」

 

成はグールとしての自分を徹底的に隠してきた、それを隠す事で有力な切り札になると分かっていたからだ。

そして明かす事によるメリットより、デメリットの方が大きいとも。

 

どれだけピンチに陥ろうと、命の危機が訪れなければ使う事はなかった。

伊丙の時は準備に準備を重ねたからこそ、使った。

逆に言えば、出し惜しんでも死にはしないだけの捜査官としての実力があったのだ。

突発的に使ったのは、今回のような規格外の存在が現れてしまったからだ。

 

「そしたら想像以上でしたねー、まさかここまでやるとは思いませんでした。どうりで僕の想像を超えてくるわけですよ」

 

そして、それを見抜き旧多は成に勝ったのだ。

お膳立てをし、三思後攻した結果が今の惨状である。

 

竜は目的の為に必要であった、その過程で必ず障害となる彼を消しておけるなら、しないはずがなかった。

 

「まぁ、もう上手くいったんでいいですけど」

 

瞬間、成の体を赫子が貫いた。

力の入らない体では抵抗する事は出来ない、ただ力なく貫かれ持ち上げられていく。

口や傷口からは大量の血が流れ出しており、もはや呻き声すら聞こえてこない。

苦痛に顔を歪める余裕も、存在しない。

 

「竜を止められなくても色々する貴方なら、その後にコロッと殺せると思いましたよ。こんな風に」

 

そして、投げ捨てる。

腹に風穴が空けられ、致命傷であるのは確かだ。

Rc細胞の効力がまだ残っていれば助かる事も出来たかもしれないが、今のガス欠状態の成では何もしなくても勝手に死ぬだろう。

 

「さよなら〜」

 

だが、旧多は確実な死を手に入れに行く。

手に持つ日本刀型のクインケがその首に向けられ、大きく振りかぶられた。

抵抗どころか生きる力すらもはや無い彼に、それを止める術はない。

 

「勝手な事するなよ、ニ福」

 

どこからか、声が聞こえた。

同時に、トドメを刺そうとしていた旧多へ赫子が襲い掛かる。

不意打ちではあったが、それを見た旧多はクインケでいなしながら後退する。

 

「……うっわ、やっぱ生きてた」

 

そう言葉を零した彼の目先には、ここに居るはずがない人間がいる。

 

「こいつにはまだ、借りがあるのよ」

 

伊丙入、彼女は赫子を構え旧多の前に立っていた。

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