人か喰種か両方か   作:札幌ポテト

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31話

地下の戦闘は混沌を極めていた。

大量のオッガイと捜査官、そして突然現れた謎の怪物。

それにより宇井と戦っていた0番隊は散り散りになっていたのだが、気付けば皆、背中合わせで戦っていた。

 

「一応聞きますけど、これもそっちのですか?」

 

「知るか、あんな化け物」

 

2人は地面へへたり込みながら、周りの惨状を見回した。

荒れ果てている。一言で表すなら巨大な赫子の生物、それがあたりを抉り破壊し食い散らかしていった。

元からいた捜査官達も殆どが食われているだろう、無論そんな存在が作戦の中に組み込まれているはずがない。

 

だがそれは過ぎ去っていき、今の地下には何もいない。

故に一息をつけている、先程の戦いの後とは思えない程落ち着いている。

 

「……ハイル、お前がそっちにいるのは成の意思か」

 

ふと、宇井は聞いた。彼自身、彼女をよく知っているつもりだ。だからこそ彼女がグール側にいる事は自発的にはありえないと分かっている、その原因となる人物についても、それしかいないと言う確信がある。

 

「半分くらいはそうですけど、半分くらいは違いますよ」

 

地下に来たのは伊丙が敗北したからだ、半ば強引に地下へ連れこられたからに過ぎない。

しかし、逃げようと思えば逃げられるタイミングはいくらでもあった。

 

「郡さん、私はグールになっちゃいました」

 

その言葉を聞いて、宇井は何を意味して言っているのか察する。赫子が使える存在になったなんて言う事ではない、人を食べて生きているというのを言っているのだ。

無論、それは宇井も元からわかっている。オッガイという存在がクインクスとは違うという事を分かっていた、そして見て見ぬ振りをしていた。

 

「色々と心配もかけたし、色々とやっちゃいました」

 

ひとえに、彼女を救う為に。

 

「有馬さんを殺した成達は許せませんけど、とりあえず殴ってから話し合おうと思って。グールが人間と変わらないとか色々と勝手に教えられましたし」

 

片腕と内臓機能を失い、有馬すら失った彼女を救う為に悪魔に頼った。だから全てを見限ったのだが、その結果がこれならば彼の手助けは救いではなかったのだろう。

 

実際に救ったのは、宇井ではない。

 

「……だから、アイツには生きて責任取ってもらわないと」

 

そう言うと、伊丙は上を見上げた。あの化け物が通った後のところだ、そしてそれを見て呆れたように呟く。

 

「たぶんですけど、アレを追ってます」

 

それを聞いたは「馬鹿を言うな」と少し疲れたように呟く。

 

「あり得ん、人間がどうこうできるやつじゃないぞ」

 

大きさと言うのは次元の違いを見せつける、アフリカで一番強力な生物がライオンではなく象であるように、海で1番強力な生物が並のサメではなく鯨であるように、大きさとはそれだけの差を作る要因なのだ。

 

しかし、それに対して伊丙は座り込みながら、言葉を重く響かせながら呟く。

 

「成は半グールです、人は食べてないみたいですけど」

 

その言葉に宇井は目を見開く。

自身の中で最も慕ってくれた部下が半分とは言えグールであったと言われて驚かないわけがない。

確かに捜査官としてのポテンシャルは感じていた、だが人間の動きの範疇にあった。

グールとしての力の片鱗すら感じた事はなかった、言われた今でも信じられない。

 

しかし、それが事実ならばあの圧倒的な力を持った伊丙を倒せた事にも納得できる。

 

「アイツのこと、何でかわかっちゃうんですよね。弱いフリしてたのがイライラするぐらい気に障ってきましたけど……ああ見えて色々と馬鹿なんですよ」

 

だが理屈は覆ってはいない、あの大きさの敵と戦っても勝ち目はない。そんな事は成自身も分かっているだろう、だから伊丙には分かってしまう。

 

「命なんて崇拝するから、馬鹿なんです」

 

そして伊丙、地上へと駆けて行った。

 

 

伊丙が成を見つけるのは然程難しい事ではなかった。

竜の鼻先を走り回る影を視界に捉えたのは、巨大な剣によって竜が貫かれる寸前である。

その目印に居るに違いないと、彼女は駆けつけたのだ。

 

「怖い目しないでくださいよ、目の色変わり過ぎですって」

 

「そっちこそ、目をちゃんと赤くしてるじゃない。最初からそうだったわけね」

 

そして、辿り着いた。トドメを刺される寸前であったが、彼女は旧多の前に立てた。

想定外であったのは、彼が半グールの施術を受けている事だろう。今の彼女には夙成の影響で多少ではあるが身体能力が落ちている、旧多も庭出身の半人間であり、その力は未知数である。

 

どうしたものかと身構えていると。

 

「じゃあ僕帰るんで」

 

赫子をしまいながら、彼は背を向けて走り出そうとする。

 

「逃すと思ってるの?」

 

だが、その逃走経路を赫子で塞ぐ。

 

「いやいや、コロッと殺せるから来ただけですし〜……流石に伊丙上等とやりあっちゃうと僕も無事じゃ済みませんから」

 

旧多はあくまでも、おまけで殺せるから成を殺しに来ただけだ。成を殺す事が目的の一つであっても、最優先事項ではない。

それに伊丙の実力は十分に有馬に迫るものがある、まともに戦いたい存在ではない。

 

「それに今際の際の言葉くらい、聞いてあげたらどうです?」

 

伊丙の後ろで、少しだけ液体を含んだ咳の音がした。

庇う事を最優先にしていたが、伊丙はそれを見て大きく舌打ちをする。

伊丙は旧多を殺しに上に来たわけではない、成を回収しに上に来たのだ。

だがその回収は、死体の状況では断じてない。

 

「僕を相手する時間なんてないんですから、空気を読んでさよならしますね〜」

 

そのまま駆け出した旧多をみると同時に、後ろへ振り返る。

逃してはいけない存在であったと頭の中で考えていても、叶わない事に伊丙は苛立ちを隠せずにいた。

 

 

遠くから声が聞こえてくる。

いや、声の発信源は近いのだが遠くに感じるほど小さく聞こえる。

ピントの合わない目を開けると、そこには地上にいるはずがない伊丙がいた。

輪郭や声の雰囲気でしか感じられないが、彼女であるのは間違いない。

 

「何勝手に死のうとしてるのよ、ふざけないで」

 

腹の穴の止血をしているようだが、成自身でもよく分かる。手遅れだ、もう再生力のない今の彼には治せない程の致命傷だ。

身体中に寒気を感じるのは血が少ないからだろう、伊丙の声が聞こえるのですら奇跡である。

彼女が献身的に動いているのを見るに、何かしら地下で良い影響はあったのだろう。

何を見て来たのか、これからどうしたいのだとか、聞きたい事は色々とある。

 

だが、やる事がある。

 

「……頭、400……から、500」

 

「喋るな!そんな余裕あるなら治せ!こんな傷、グールなら……」

 

血を噴き出しながら、成はボソボソと口を開く。

伊丙の声がまた遠のいた気がしながらも、成は無理矢理に口を開く。

 

伊丙がどう変わったのかを知りたい気持ちはある、だがそれは優先事項ではない。

もう助からない自分のやる事と、できる事は残っている。

 

「間……金木が……」

 

竜の方へ指を指す、ただ直ぐに力が抜けて腕は落ちる。喋る気力はもう湧かない、それどころか呼吸すら苦しい。

喉に血が溜まり、吐き出しては呼吸をするの繰り返しでもう後がないのが分かる。

 

「こんな時まで……何生きるのを諦めてんのよ、アンタが一番生きたいんじゃないの?」

 

「……っ、ぁ」

 

「……喋るな、もう黙ってろ」

 

暗く沈むような伊丙の声は、初めて聞くものだ。

だがやはり、彼女はこれから変わって生きていけるのだと思うと少しだけ後悔の気持ちが減っていく。

 

生きたい、そして幸せになりたい。

それはエトにしか漏らした事はないのだが、伊丙は何かしら感じ取っていたようだ。

やはり時間という点において彼女以上に付き合いの長い捜査官は居ない、ただ長かったから勘付いてしまえるのだ。

 

こんな最期を迎えたかったわけではないが、有馬の意思を継いだ者の罰はこれなのだろう。

そう思いながら、意識は沈んでいく。

 

「こんな所で……死なせるわけないでしょ」

 

それ以降、声は聞こえない。

ただ何かが裂ける音が聞こえる、無理矢理噛みちぎったような生々しい音だ。

咀嚼音が響いた後、口に柔らかい何かが触れた。

その後に甘い味が広がっていったのを最後に、意識は暗闇の底に落ちていった。

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