人か喰種か両方か   作:札幌ポテト

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32話

 

グール達は皆、無事にトーカの先導により地上へと脱出を出来ていた。だが見えた世界は変わり果てている、巨大な竜とそれにより溢れる血と灰の匂いが東京を包んでいる。

 

そんな中ピエロの一人であるイトリが現れた、子山羊達を惑わす為に。王はグールを守る為にその姿を竜へと変えた、その事が皆を混沌の世界へと誘うのを子山羊達は分かっていない。

 

だが月山の怒号により、その目は覚めた。

人を思う気持ちのあった彼がこんな結果を望むはずがないと、そしてそれは皆の心に響いている。

 

だが、そうだとして何が出来るというのか。アレが何かすら皆分かっていないのだ、しかしこの世界でアレについて唯一と言っていいグール側の有識者がここにいる。

 

「奴の言っていた通り、アレは金木研の成り果てた姿だ」

 

エトは、竜について色々と調べていたグールだ。

と言っても参考程度に過去の隻眼の王について調べた時に現れた情報程度である、和修の人間と対して情報量は変わらない。

 

「ただ今はあくまでも、休眠期に入っているだけだな」

 

だが、あれの活動体系については予想ができる。

 

「私とて、アレについて詳しいわけではないが……あれはまだまだ成熟した姿ではない」

 

それを聞いて皆ギョッとした表情を見せる、あの災害を生み出しておいてまだ完全ではないというのだから。

 

「成が頭を磔にしたみたいだが、あの程度で止まるような存在ではないんだよ。今は消化した人間やグールで体積を増やす準備中だろう」

 

成とてアレを殺すつもりで串刺しできるとは考えていない筈だ、殺す事はできない存在であると知っているのだから。

だがアレをしたのは休眠期へ強制的に入れさせて一時的とは言え奴の動きを止める為だ、そしてその先の事を行う為に。

 

「どうすれば、止まるの?」

 

「核の破壊ないしは切除、それが唯一の方法だろう」

 

一応、竜の活動を止める方法はそれだ。しかしそれだけならば別に、成でも出来なかったわけではない。

それは聳え立つ巨大な赫子を見れば分かる、アレが核へ入り込めば間違いなく破壊は出来るだろう。

 

「まぁ成は破壊を選ばなかった、故にその選択はお勧めしないがな」

 

「当たり前よ、あそこから金木を助ければ良いのよね?」

 

核が何かはもう言わなくても分かるだろう、それさえ取り除けば良い。

 

やる事は決まった、だが何をすれば良いかまでは分かっていない。

あんな巨大な生物の中から金木を探すというのは砂漠の中でオアシスを探す事と変わりない、非常に困難な事である。

だが、皆助けるという意思に変わるとエトは満足そうに微笑み歩き出す。

 

「話が早い、それでは行こうか」

 

「どこによ」

 

「CCG本局」

 

だが皆、今度こそ言葉が詰まった。聞き間違えかと子山羊達も戸惑っているが、エトはもう一度大きな声で「白鳩と手を組む」と宣言する。

確かにCCGも竜の対処に手をこまねているだろう、だからといって敵であるグールからまで手を借りるとは思えない。

 

「人手も何もかもが足りてないんだ、ここらで貸してやろうじゃないか」

 

だが、エトは返事を待たずに先へ行った。

少しだけ静寂が訪れる、皆一様にどうしようかと迷っているのが分かる。

誰かの答えを待っているのだ、その答えを出してくれる者を。

 

「僕は行くよ、霧島さん」

 

「俺もだ、勝手に置いてくな」

 

「私の旦那よ、後ろ歩きなさい」

 

だが、そんな静寂を破り元『あんていく』メンバーは先へ向かう。答えなぞとうに出ているのだ、必ず金木研を助け出すという意思を持って。

 

歴史が大きく動く瞬間であった。

 

 

「出来るだけ人を集めろ!まずはそこからだ!」

 

「被害が広過ぎる、なんなんだあれは!?」

 

「局長と連絡がつかないぞ、どうなってる!」

 

「わかんねっす!」

 

「あの化け物からRc反応が出たらしいぞ、アレはグールなのか!?」

 

「なわけあるかぁ!」

 

CCG本局では現れた竜に対して混乱を続けていた。

Rc細胞の反応が確認された事、自衛隊が返り討ちにあった事、局長の不在、様々な事態に収拾がつかない状況だった。

 

「(みんな相当テンパってんな、やっぱ頭がいねえと……)」

 

その中でも年長者である富良上等は少し落ち着いてはいるが、纏められる人間ではない。

特に頭、局長や指揮の取れる特等の不在により混乱が激しいのが問題である。

想定外の存在に対応しろと言われても対応ができる人、必要な手順を段階的に示してくれる存在が必要なのだ。

 

しかし、今のCCGにそんな人物は居ない。

 

「おいおい……マジかよ」

 

だが、意外な人物達が現れる。

当たり前の様に堂々と、玄関口から事情も何も話さずに彼等は現れた。

 

「陸自と警視庁に協力を要請しろ!!」

 

丸手特等だ、そしてその部下達が丸々やってきたのだ。

 

「市民の救出が最優先だ、CCGからもトラック出せ!」

 

檄を飛ばしながら、必要な指示を全て行なっていく。

皆幽霊を見たような顔をしているが、そんなことに驚いていられる暇はない。

今は幽霊よりも恐ろしい存在が現れているのだ、皆指示に従って動いていく。

 

そんな中、さらにもう1人ドアを蹴破って駆け込んでくる人影がある。

血みどろに汚れたコートを纏い、その体には生気の薄い男が背負われている。

 

「伊丙上等!?」

 

「うるさいわね。輸血、倉庫にあるだけ持ってきて」

 

同じく死んでいたはずの捜査官だ、そしてその背にいる人物にも驚かされている。

 

「か、彼はRN特別指定犯の……」

 

指名手配班であるグールの協力者である成遼太郎だ、血が少ないのか顔どころか体全体が青ざめている。

全捜査官へ抹殺の許可も降りている存在でもあり、隻眼の王と並ぶ最重要討伐対象である。

 

その彼に輸血をすると言われたのだから、戸惑うのも無理はない。

 

「こいつのデータぐらいあるだろ!急げ!!」

 

しかし、その問答の時間すらかけられない。

成が今も息をしているだけでも奇跡なのだ、腹には大きな傷もあり生死の境にいる彼を救えるかどうかすらわからない状況だ。

伊丙の怒号が発せられても仕方ない。

 

そんな様子に、丸手も戸惑いがある捜査官達にも聞こえるように話す。

 

「伊丙に……成か。勝手にいなくなりやがって、さっさと奥に運べ!輸血液も優先して送ってやれ!」

 

それを言われた捜査官達はやっと動き出す、成を担架に乗せると奥にある医務室へと運び込む。

CCGは職業柄傷の絶えない業界だ、輸血液やある程度の傷を治療する設備はどの局にも置いてある。

そして捜査官の血液型のデータなども無論、データベースの中に保存してある。

伊丙もこの状況ならば近くの病院よりも局での治療の方が良いと考えての行動だ、最適解と言っても良いだろう。後は天に祈るのみである。

 

だが、そんな手持ち不沙汰となった伊丙に丸手は言う。

 

「ちょうどいい、今からグール共の兵隊でかさを増しに行くところだ。お前も来い」

 

その言葉に、元からいた捜査官達が手を止める。

丸手の部下達はそのまま作業を進めているのだが、そう出来るほど無視出来る問題ではない。

 

「丸手特等!?正気ですか!?」

 

「安心しろ、暇な時に理屈で説明してやる。今はさっさと手を動かせ、黒山羊共にはもう文書を送ってる」

 

グールを討伐する為の組織がCCGだ、その組織がグールの手を借りるというのは難しいなどという問題ではない。

だがその一言で黙らせると、捜査官達は渋々と作業に戻る。今の最優先が何かぐらいは分かっているのだ、1秒の遅れでもどれだけの人間に影響が出てしまうのかも分かっている。

 

「何だその顔は。成が手紙を書いてただろうが、情報は通じてなかったのか?」

 

だが、伊丙は唖然としている。

 

「梟のエトさんが対応してたから知りませんよ、丸手特等が生きてた事すら知りませんでしたし」

 

地上に残っていたのは知っていたし、何かやり残したことがあるとは言っていたが、そんなことまでしていたとは知らなかった。

エトは何度か地上へ手紙を送っていたので、もうその時には手筈を整えていたのだろう。

 

そして奥で治療を受けているであろう、彼の方へと目をやると少しため息を吐く。

色々と一人でやり過ぎだ、本気で世界を変えようとしている。その癖死にそうになっているのだから、救えないタイプの馬鹿であるのがまた分かってしまう。

 

「まぁ良い、とりあえずアレをどうにかするぞ」

 

丸手の声に、皆声を合わせる。

竜を倒す為の意思は同じだ、彼女もまた受け継いでしまった意思を感じながら、彼等についていくのであった。

 

 




 
 
イトリさんの誘導発言については本誌をご覧ください。

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