人か喰種か両方か   作:札幌ポテト

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33話

水底から引き戻されるように、光が体を覆っていく。

眩しさに目をぼんやりと開けるとボケているが見覚えのない天井が目に入った、自分の最後の記憶もぼんやりとしている。

長い夢を見ていたようだ、あれからどれだけ時間が経っているのか。

そんな考えをしている成へ、隣から声がかかる。

 

「……やっと起きたか」

 

身体に力は入らないが、体を起こし声の方へと目を向ける。

支えている手の数から、複数人いるのが分かる。

覚醒したばかりなのかピントは合わないが、そこに居るのは長い付き合いなので輪郭だけで分かる。

 

「エトさんに……宇井さん?」

 

ただ、絶対に並んで座る事がない人物達が居るのに戸惑う。

 

「なんだ、上司の顔も忘れたのか」

 

「いや、そうではないんですが……」

 

あまりに自然な形で居られると、成もどう反応すれば良いか分からなくなる。

まだ夢の中と言われても信じられるのだが、腹にある傷の痕を感じれば現実であると確信できる。

 

「4日も目を覚さなかったのは肝が冷えたが……よくやったよ、有馬の願いは大方果たされたと言っても良い」

 

4日、そう言われて成は最後を思い出し始める。

竜を一時的とは言え止め、旧多に殺されかけた時に伊丙に助けに来てもらった事だ。

 

「私は皆を呼んでこよう、心待ちにしていた者も多かったからな」

 

そう言ってエトは部屋を出ていく、そして残っている宇井はホッとしたような表情で、成の頭に手を当てる。

小突いているつもりなのかもしれないが、生憎と払い除ける力はまだない。

 

「先輩から全て聞いた、馬鹿な事をしてたものだ」

 

どうやら、全てわかっているらしい。

平子も当初の目的を完遂したからこそ、宇井に全てを打ち明けたのだろう。

 

「半グールの事も、全部聞いた。気づけなかったよ」

 

宇井を誘わなかった理由を聞いた時は叱られるからと有馬さんは言っていたが、意外にはぐらかされたのではなく本音だったのかもしれない。

机の上で行う万年筆一騎討ちも宇井だけは有馬を叱っていたのを思い出す、だが終わった後なのか少しだけ叱るのもめんどくさそうにしている。

 

「ただお前のおかげか上手く共同戦線を敷けている、最初は皆戸惑っていたがハイルがかなり乗り気でな……」

 

「彼女が、ですか」

 

宇井はそのまま眠っていた間に起こっていた事を話し出した。

 

伊丙が成を運び、一命を取り留めたこと。半グール故に助かったとも伝えられる。

 

グールと捜査官が手を組んだ事、その時エトが『覚悟を見せた方が良いだろう』とグール側に捜査官とは話をつけていた事を知らせずに、真剣な雰囲気を作っていた事。

またその話し合いで矢先に立っていたのは伊丙に鈴屋、そして亜門といったどちらをも知る人達で、上手く纏まったこと。

 

その後、竜から金木を救出する作戦が始動する。

成が見つけた付近を重点的に金属探知機を用いて金木を捜索、道中謎の人型の怪人の邪魔が入るも無事に救出は出来たらしい。

今は脳波が確認されており生きているのだが、別の部屋で寝ているそうだ。

 

とりあえずは一息つけているらしいが、今は被災地である東京の都民を保護している状況だそうで、人手が足りないと嘆いている。

 

「あいつがあそこまで変わったのも、お前の影響か……私では出来なかった。上司失格だな」

 

「……彼女を御せる人なんて、会ったことありませんよ」

 

ただ、宇井的にはやはり伊丙の変化はかなり印象深い事らしい。あれだけ破天荒な存在が多少なりとも丸くなればそう感じる、そこまで変わるとは成も思わなかったのだから。

 

有馬の危惧していた障害には、今の彼女はならないだろう。

 

「無事で良かった、だが私に一言も言わなかったことが許せん。色々と心配かけ過ぎなんだよ」

 

すいませんと言う成の頭をぐしゃぐしゃと撫でるように掻き回す、上司らしい行動なのかは分からないが、成の気も悪くなさそうだ。

今まで敵にしていた辛かったのは宇井だけでもない、平子や成も多少なりともそうだったのだから。

今の形に戻れて良かったと言う気持ちも、大きいのだろう。

 

だが、ふと撫でる手を止める。

そして真剣な声音で、問いただす。

 

「……まさかだと思うが、目が見えないのか?」

 

宇井は捜査官だ、それも凄腕の。

先程から成の視線に違和感を感じる事も不可能ではない、むしろ長い付き合いであれは気づいて然るだろう。

それに対し、成も笑いかけているが本気で心配をされていればその笑いも止まっていく。

 

「……そうですね、ピントが合わなくて」

 

最初は覚醒したばかりなのでその影響かと思っていたが、治る様子がない。思えば旧多に殺されそうになった時にも目は見えていなかった、恐らく長時間を赫者化した上で限界を超えて赫子を生成したせいだろう。

有馬も言っていた、力には代償があると。

 

だがあの力の代償が視力の低下だけならば、軽く済んだものである。他の五感に違和感もなく、身体も重いだけでこれから治癒できる範囲にある。

だが眼が見えないというのはやはり影響が大きい、ヒトの得る情報量の80%は視覚からだ。

少なくとも、今すぐには慣れそうにはない。

 

だが、そんな成を見かねて宇井は胸の内ポケットから何かを取り出す。

 

「付けてみるか?」

 

成には見えないが、それをぼんやりと輪郭で捉えられる。手に収まる程度の大きさの何かであり、察しはつくのだがなぜそれを持っているのか分からない。

 

「験担ぎに持っていたが、少しはマシになるかもしれんぞ」

 

眼鏡のようだ、それも有馬が生前付けていたもの。

ぼやけているせいで上手く掴めないが、宇井は顔にかけてやる。

かなり度が強い、慣れないせいか頭が酔ってくるが視界はハッキリとしている。

幸か不幸か、ピントは大体であるが合っているようだ。

有馬はそもそも付けていても殆ど見えていなかったと成は聞いていたが、一応は目が見えていた頃と遜色がない程度に見えている。

 

「良さそうだな、これは渡しておくよ。お前に預けた方が有馬さんも喜ぶだろう」

 

そう言って、どこか満足そうに宇井は微笑んでいる。

上司らしい事を出来たからか、有馬の意思を目に見えるもので継がせらたからか分からないが、久しぶりに見せる笑顔であった。

 

それだけ苦しんでいたのだが、成もここまで純粋な表情を見るのも久しぶりである。

自分がやって来た事はまどろっこしくも、間違っていなかったのだと思うと救われる気持ちになってくる。

 

「ただ、何処か雰囲気が……」

 

「郡さーん、来ましたよー」

 

宇井が何かを言いかけていると、陽気で鈴の音のような声と共に誰かが近づいてくる音が聞こえる。

 

「やっと起きたんですか、こっちがどれだけ忙……し、く……」

 

伊丙だ、最近は戦闘をしてばかりであったので見綺麗な姿で見るのは久しぶりである。

12歳の頃とはもはや別人である、顔や身体も女性らしく成長している。ただ目付きは昔と変わらない鋭さがある、昔よりも精練されてはいるがそこは変わらない、のだが。

 

何故か、その目の鋭さが今は消えている。

 

「……伊丙?」

 

何故か成を見て静止しているのだ。

声をかけるも、反応はない。

ただ顔は少しずつ赤く染まっている、視線はなぜか右往左往しており普段とはかなり様子が異なる。

 

「わ、わわ」

 

「わ?」

 

「わ……私!ちょっと、やり残した仕事があった気がするので!」

 

すると、何処かへ走り去って行った。

途中、転んだ音も聞こえておりそれを心配する声まで聞こえてくる。

 

「……どうしたんでしょうか」

 

成は伊丙が居なければ死んでいた存在だ、その礼も言えなかったのだが仕事ならば仕方ない。

ただ顔色や動悸の様子がおかしかったので、疲れているのかもしれない。

彼女は優秀な捜査官だ、色々な所で仕事を任せられているのかもしれないが、少しぐらい休ませても良いのではないか。

 

そう進言しようと成は宇井を見上げるのだが。

 

「あの、宇井さん?どうしたんですか」

 

「何、少し空を眺めたい気分でな……」

 

「……窓一つない密室ですけど」

 

何故か虚空を見つめ続ける宇井に、皆疲れているのかと察し、自分も早く復帰せねばと心を引き締めるのであった。




 
ヒント:有馬の血+有馬の眼鏡
 
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