人か喰種か両方か   作:札幌ポテト

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エピローグまで書けたんで、安心して読んでください。


39話

地下奥深く、そこで根っこのように触手が辺りに張っている。だが別に地面から栄養を吸うわけではない、ただ卵管が巨大過ぎる影響でそれを支える為に張っているだけだ。

植物のような動物なのだ、だから酸素も必要となる。それ故に地下にも酸素は十分にある、そしてそこで1人の男が座している。

 

「おまっ、まだ生きてんの!?」

 

「……旧多」

 

今までの世界における黒幕がそこにいた。そして、金木はそこに辿り着けたのである。利用され、操られ、踏み台にされてきた彼が、辿り着けたのである。

 

「たかだか竜の供物である貴方が、まさかこれを止めに来たなんて言いません」

 

よね?とでも続けるつもりだったのか、その言葉は金木の赫子で遮られる。

 

「え、ちょ!?めっちゃ止める気じゃん!?」

 

余裕がないようだ、しかしふざけた様子にも見える。だがそれで手を緩めるほど金木は非情になれない人間ではない。

 

「てか後ろの音、まだ居るでしょ!?どうせ成遼太郎もなんやかんや生きてんじゃないの!?めんどくさっ!」

 

着実に追い詰めていき、質量で逃げ道を塞いでいく。ただ素早く走り回るので中々追い詰められない。なので少し横に広げながら、追いかけていく。

 

「無理無理無理無理、ちょー無理!」

 

そして、最後の一撃を入れようとしたときだ。

 

「ぐっ……!」

 

旧多の後ろから、特大の赫子が金木を吹き飛ばしたのだ。

リゼ、もとい竜の赫子だろう。それを罠として設置し、見事に隙を見せて返り討ちにしていた。

 

「はーい、引っかかった〜」

 

旧多の態度が急変する。罠にかけた事に優越感を持っているというのもあるとは思うが、思い通りに事が運び、そのことに運ぶ相手を蔑んでいるからこそ出る嘲笑だった。

 

「いっつも力で解決しようとして、准特等は何も変わってませんねぇ」

 

そして、その手には黒い刀が握られている。

 

本気で潰すという意思表示だろう、現に彼にはエトや成を瀕死の状態にまで追い込んだ事があるのだ。その実力は未だに底が知れていない。

 

「こう見えて僕、強いんですよ?」

 

「奇遇だな」

 

しかし、その相手は最初から決まっている。

 

「私も、こう見えて自信がある」

 

「なに有馬二世みたいな顔して出てきてんだよ……」

 

竜の遺児に囲まれていた成遼太郎が、やって来たのだ。アレだけの数を撃破するとなれば時間はかかるかと思いましたが、存外そこまで敵は強くなく、彼が圧倒したという事だろう。脅威となる毒も彼ならば問題ない。

 

「遅くなった、後は任せろ」

 

「任せます」

 

そして金木は奥へと駆けていく。その目的地も、標的も、旧多はよく分かっている。

 

「行かせるわけっ……!!」

 

が、その妨害をする邪魔者が1人いる。

 

「私が戦う理由、分からないとは言わせないぞ」

 

「ロリコン野郎が、そんなに梟が好きかよ」

 

「……そういう意味ではないけどな」

 

2人の半人間が、ぶつかり合った。

 

 

「成が赫者化したらどうなるって?」

 

地下で潜伏中の時、ふとエトに伊丙は聞いていた。

 

「一方的に負けたんですよ、それも半端な状態のあいつに」

 

伊丙は自分の持てる力と可能性の全てで成に戦った、しかし結果として半赫者状態の成遼太郎には全く及ばなかった。

特性でチューニングされたアラタでも、ほぼ完璧に扱えるようになった赫子でも、届かなかった。そして、それが何故なのか分からないのだ。

 

伊丙からして成は確かに強者として認めていても、全く届かない存在とまでは思えないのだ。なのに負けた、その敗因を考え続けていたのだが、これに答えられるのは地下にいる彼女だけだろう。

 

「言っておくが、赫者化した成はそこまで強くないぞ。いやアレはアレで人の域に居ないが、条件さえ揃えば私でも勝てる」

 

「じゃあ何で負けたんですか」

 

エトとて最高峰の存在ではあるが、伊丙は既に超えている。逆にそう言われて彼女はさらに頭はこんがらがっているようだ。

 

「君は赫者化を総合的なパワーアップだと思っているみたいだが、そうではないからな」

 

その誤解を解くように、エトは話し出す。

 

「そりゃ、あの時の敗因として才能の差はあるが一番は年季の差だ。君は完全な赫者になった時点で、ほぼほぼ勝ち目はなかったんだよ」

 

エトはあの戦いを2人の次に身近に体感していた、それ故になぜ勝てなかったのかもよく分かっている。そしてグールとしての知識も、成や伊丙の比ではない。

 

「対軍を意識するなら、赫者ほど都合の良い形態はない。破壊力を押し付けるのに最高の形態だ、的にはなりやすいが装甲も遥かに厚くなる」

 

よく隻眼の梟として戦ってきたからこそ、エトは赫者をよく知れている。他にも自分の顔や身なりを隠せるという利点はあるが、エトの戦っていた相手は基本的に群であった。

 

「だが、いかんせん機動力が落ちる。それに、人間としての戦いの形を失う事になる」

 

パワーアップ、それだけを考えれば赫者というのは最高の形だ。赫子の出力が遥かに上がり、ただのグールでは到底できない事が出来る様になる。

 

「人型に止めようとしていたが、本来のコンセプトと反するからぎこちなさが出てくる。だから成は半赫者っていう捜査官の強みとグールの強みを両立させる形態で戦ってたに過ぎん」

 

しかし、対個人に……理不尽な質の暴力に抗う形態ではない。赫者は数の暴力に抗う形態なのだ、ゆえに質の暴力である伊丙に成は完全な赫者化を選んでいない。

 

捜査官としてのクインケ操術と身のこなしにグールとしての力を持ってして動きに拡張性を与え、その上限を大きく飛び越えさせた。

 

「そのバランスを知り、扱えるから成は強いんだよ。ただあれでも全盛期の有馬には3割も勝てないと思うがな」

 

だが捜査官としての実力は最強というわけでもないので、無敵の形態というわけでもない。半赫者というのは赫者からすれば半端な赫子の火力をクインケで補う形態、そう成やエトは位置付けている。

半赫者というのは完全な存在からすればパワー不足なのだ、故にギリギリまで引き出しつつ人としての動きを阻害しない程度のバランスを調整出来なければ、弱くなる。

 

「……まぁ、逆に言えば」

 

だが、エトは最後にボソボソと呟く。それが何かまでよく聞き取れないが、どこか物寂しそうなのは確かであった。

 

 

芥子の攻撃の激しさは凄まじいものであった、クインケの出力差もさることながら、全盛期に近い力を何故か引き出せている彼の力は恐ろしく強い。

 

それは、既に夙成の影響で全盛期の力を失っている伊丙には厳しい戦いを強いていた。

 

「どうした、ん?ん?斬れるぞ?」

 

鍔迫り合いですら、何故か力負けしている。反射的に伊丙は背中から赫子を展開した、今のままでは分が悪いのは明らかであった。

 

「出し惜しみ出来ると思ってるのか?舐めているな?」

 

今の戦場は混沌としている。ただでさえ目の前には今のVのドンである芥子に死体の人形達、その中で何体かは明らかに戦場を掻き乱している。

これら全てに対応出来る捜査官は居ない、だが伊丙ならば各個撃破は可能だ。しかし赫子を使って全てを対処するにはここ最近人を食べていない彼女には荷が重い、スタミナが保たないのだ。

 

故に節約しなければならないのだが、目の前の男はそう出来そうになかった。

 

「……アホらし」

 

「何だと?」

 

だからか、伊丙は直ぐに赫子を纏い始めた。しかし完全にではない、関節部分や足周り、首周りには赫子は纏われていない。いわゆる半赫者の状態だ。

 

「まだ節約出来ると思って……っ!?」

 

しかし、その状態にまだ舐められていると考えていた芥子は次の瞬間には片腕が吹き飛ばされている。

 

「お前以前より……っ!!」

 

芥子は完全となった伊丙を見た事がある。アラタを身に付け、赫者となった彼女をだ。その時の彼女すら今の伊丙は動きとして超えている、出力は落ちているがその代わりに精錬されている。

 

「このバランス見つけるのに、わざわざ時間作ったのよ」

 

エトというグールとしての先人から、地下潜伏時に伊丙は学んだ。グールとしての力を人としての感覚で捉えていたが、それを理論的にも捉えて精錬させていった。

そして力を学ぶという点において成よりも圧倒的な才覚を持つ彼女は、ものの1週間でその力を掌握するようになった。

 

「負けるわけないでしょ」

 

次の瞬間には、芥子の頭が割れた。捜査官としての実力は伊丙の方が上なのだ、片腕を失った状態でグールとしての力を加えられた彼女に抗えるはずもない。

 

勝負はついたのだ。

 

「ふ、ふふふ……動きの速さは確かにあるな。だがハイル、お前……五感の鋭さは落ちているぞ」

 

芥子が、ただの人間であれば。

 

「(頭切られて生きてる?致命傷だろ、人間じゃないのか)」

 

だが、それだけならばまだ伊丙は動揺しない。別に彼女が弱くなったわけでも、彼が強くなったわけでもない。今の状況もあまり変わらない、そうなるはずだった。

 

「夙成を使ったんだろ?あんな紛い物で、貴様は人間になっているつもりか」

 

割れた頭は繋がっていく、そして切り飛ばした腕も切り口から伸びた触手によって繋がれていく。

間違いなく致命傷だ、それはグールであってもそうだ。頭を割られても生きていられるなんて芸当は成や金木でも出来ない。

 

「まさか……っ!?」

 

伊丙の頭に最悪のシナリオが浮かんでくる。同時にそれを答えるように彼の背中からは2種類の赫子が出現する。

 

「キメラ型は私が初めてらしいが……恵のおかげか、リゼと功善のものはしっくりくるなぁ」

 

恵、そう呼んでいるのは彼らだけだ。人をグールにする毒、成遼太郎から作られた夙成とは対局に位置すると言っていい効果を持つそれは、Vの半端者達をグールに変えたのだろう。

人造グールであるにもかかわらず、その赫者の動きには淀みを感じられない。

 

「さて、今の動きであるべき赫者の扱いも分かった」

 

そして、その赫子は伊丙と同様に半赫者の状態まで纏わされていく。今の瞬間に覚えたのだろう、ほぼ完璧と言っていい仕上がりだ。だがこれは伊丙の才覚が芥子に劣っているというわけではない、単純な捜査官としての才覚もグール化した後の才覚も伊丙の方が勝っている。

 

ただ単純に、その形を得やすい存在に変わってしまったのだ。体を作り変えて、赫子が直ぐに馴染んでしまっているのだ。無論、芥子が実力者というのも要因ではあるがこの怪物は今ここにいる最強の捜査官より、先を行っているのに違いはない。

 

「本当の人間を教えてあげよう、ハイル」

 

その怪物が力を撒き散らしていく、最も手に渡ってはいけない者に力が渡され覚醒してしまった。梟よりも厄介な存在がこの世に生を受けてしまったのだ。

 

「うざいんだよ、老害が……!!」

 

敵味方含めて5本の指に入る怪物同士の戦い、第二ラウンドの始まりである。

 

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