人か喰種か両方か   作:札幌ポテト

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残り2話


41話

CCG防衛戦、とでも言うべき戦線は終盤に差し掛かった。Vを殲滅し、操られたグールを殲滅し、ピエロも殲滅した。

 

そして残るのは、たった1人の怪物なのだが。

 

「クインクス、長くはもたないぞ」

 

それと対峙したエト、鈴屋、伊丙の3人は後ろへ下がっていた。理由はある、この3人の急拵えの連携では奴には勝てなかったからだ。いや連携力が不足しているというよりは、敵の個としての存在感は三人の上をいっていたのだ。

 

捜査官としてのクインケ術では伊丙に比肩し、グールとしての力は他を圧倒する。その残虐的な嗜好や経験値ではこの場にいるどの捜査官より積み重なっている。

 

伊丙が全く同じ状態になれば勝つ事は容易とまでは言わなくても可能だとは思うが、敵は赫子で捜査官やグールを捕食をしながら単騎で戦局を傾けている。

 

「しっかりしろ、後は我々に任せて後ろに……っ!!」

 

「一撃を入れたら離脱しろ!それ以上踏み込めば確実に死ぬぞ!!」

 

増援で方々に散っていた捜査官達が集まるも、全滅は時間の問題だろう。しかし、あくまで今彼らがやっているのはダメージを与える為ではない。

 

「(流石にまずいな……成が来ても、旧多を相手にした後にアレは厳しいだろう)」

 

この戦場において柱となる3人が顔を合わせる。今は宇井や丸手が指揮を取りギリギリで戦場を繋いでいる、それもこの3人に全てを賭ける為だ。

 

金木や成という巨大な戦力を待つという作戦も勿論エトだけでなく丸手や宇井も考えただろう、しかしそこまで持ち堪える事は当然出来ない。被害は拡大していく、しかしここで取り逃せばそれこそまた多くの犠牲者を生むことになるだろう。

 

今ここには戦力が集まっている、この状況で倒せなければこれ以上の戦力を将来的に準備しなければならない。敵は力を蓄え、同志を集めて再起してくるのは間違いない。

 

したがって、今ここで倒すしかないのだ。

 

「2人はどの程度、全力で戦える」

 

作戦参謀役として、最も経験があるエトはまだ傷が回復しきっていない。先の旧多との戦いで負った傷の回復はある程度済んではいるものの、本調子とはほど遠い状況でこの戦場に立っている。その上で自身の父親を相手にしているのだ、残りの体力は2割もないだろう。

 

「次の一撃を出せばアラタは持ちませんね、早々にリタイアです」

 

そして1番傷が深く、体力の消耗もクインケの摩耗も激しいのが鈴屋だ。鈴屋は鯱との戦闘においてピエロが片付くまで常に前線で注意をひき、神経を削っていた。アラタも限界を迎えている。人間ゆえに先の金木との戦闘における傷も、まだ残っているのが彼なのだ。

 

「あと3割程度よ、あれ相手でも5分はいける」

 

そして、今の状況で最も傷が浅く戦える捜査官が伊丙だ。1人で耐えるだけならあの怪物と相対する事ができ、火力もある。倒す事が出来るのは彼女だけだろう、逆に言えば彼女に倒せなければここにいる誰でも倒す事はできない。

 

「なるほど……十分だ」

 

そしてその上で、エトは勝算を見出した。

 

「本気で言ってるとしたら割と頭どうかしたの?カッコつけるにもここに成は居ないけど」

 

「安心しろ、それと成は関係ないだろ」

 

「居たら良いのにって、口から漏れてたわよ」

 

「……絶対にあいつには言うなよ」

 

チームの雰囲気は悪くない、劣勢な事に変わりはないが勝てる雰囲気がある。特にエトと伊丙は短い付き合いだとしても、地下空間でもっとも長く過ごしただけあり、互いの属性を分かっているのだろう。

 

「御二人さんは仲が良いですね、女の友情というやつでしょうか」

 

 

地下の戦闘は激しくなっている。成と旧多は互いにクインケを使うだけではなく、赫子を展開し、より人とは違う次元での戦いを繰り広げている。

 

だが、有利なのは成であった。

 

「天然型?はは、そんなの分かるわけないでしょ」

 

グールの力を扱える事は分かっていた事ではあったが、旧多はあまりに理不尽な現実に口数が多くなっている。

 

「いっつも邪魔しやがって、僕の前に必ず立ち塞がりやがって、一度死にかけた癖に……ここにまでやってきた」

 

それだけ納得がいかないのだろう、旧多の武器はその身体能力や残忍性でもなければ、戦闘能力でもない。知能の高さだ、その策謀力は事が起きるまで誰にも悟らせずに、完遂した。そしていかに人が嫌がる事を出来るかという事について考える事は誰よりも優れている。

 

だからこそ、想定外のイレギュラーもある程度は許容できる。しかし、それにも限界がある。

 

「死ねよ、さっさと死ねよ……お前さえ居なければ!!」

 

そんな中、徐々に旧多の感情の発露は大きくなっていった。

 

「狡いんだよ、何でも持ちやがって!!」

 

胸の内に溜まっていたのだろう、その全てを吐き出していた。

 

「寿命も関係無し、親が上手くやったおかげで自由を手に入れて、食事に制限は無いし赫子は使える!アンタみたいな生まれ持ったモノだけで得する奴が1番イラついて仕方ない!!」

 

旧多という存在の人生の始まりは、成とは真逆と言える。生まれた時から和修という鳥籠に縛られて生きてきた、思い人も愛する事は出来ず、早世である一族の短い人生を道具として扱われる事でしか全う出来ず、ただの操り人形として歩まされてきた。

 

「旧多、やっぱりお前は」

 

そんな彼を見て成はーー

 

「普通の幸せが欲しかったんだな」

 

その真意を見抜いていた。

 

「は、はは…!何分かった気でいるんですか、僕の何が……っ!!」

 

無造作に感情を奮わせた攻撃が振るわれる。しかしそれは受け止められると、大きく弾き返される。

 

「私だって……普通に生きたかった」

 

成の人生は普通ではない。最初こそ暖かい家庭はあったかもしれない、しかしすぐに両親が入院して孤児院に入れられた。親がいない子からすれば親がいるのにそこに居たことは迫害の対象になっても仕方がなかった。救いだったのは孤児院の先生達は普通だった事かもしれない、なので相談すれば何かを解決できたかもしれない。

 

だが耐えた、院内での自然と感情の発露は内側に止まるようになってきていた、その方が上手く生きていけると学んだからだ。素の彼を知るものなぞ、殆どいない。孤独感に苛まれ続けていた。

 

「こんな血生臭い世界でもなく、ただ人として……何不自由ない世界を望んでいた」

 

そして、和修からは逃げられなかった。いや気づかれてはいなかったが、もはや運命だったのだろう。そこで道具として扱われ、上手く隠れていたが有馬に見出されてしまった。

 

最強と共に、世界を変える手伝いを強引に手伝わされたのだ。今は自分の意思を持って戦ってはいるが、当時の彼に自由意思はあったとは言えない。

 

「私もお前も、元の願いは同じだ。ただ方法や環境が違っただけで……立ち位置が逆になったんだ」

 

2人が決定的に異なったのは方法だけだ。

 

成は己を知り、生きる為に順応する事を選んだ。周りの流れに逆らわず、流れに乗ることを決めた。その中で自分の道も決めた。対して旧多は自分の道を決めこそすれど、流れを変える方向が有馬や成とは真逆であった。

 

ただ普通に生きる為に、その根本は同じであるにも関わらず、両者の結果は大きく違った。手順も何もかもが、異なっていた。

 

「だから……もうやめるんだ」

 

成は己が道を踏み外すとは言わないが、道を変えていれば旧多と似たような事をするだろうと考えている。和修は全員殺していただろうし、グールも皆殺しにする政策を推し進め、最悪の場合は新たな支配者としての道を歩んでいたと。

 

「うるさいなぁ、もう全部壊したんですよ。思い人も、人間もグールも、世界も、もう取り返しがつかないでしょーが。成二等も分かるでしょ、人とグールの共存した世界の為に動き続けるように……僕は世界を壊す為に動き続ける」

 

だが会ってきた人やグールに大きな差があり、育てられた環境が異なった。だからこそ、彼らは道が異なった。

 

「幼い時に思ったんです、どうせ短い人生……全部ぶっ壊してやるって。しがらみも何もかも、そして……全部僕は壊せた」

 

そして、道半ばで倒れる事なく、やり遂げてしまった。それが出来る頭と能力を持ち得ていた。

 

「僕は勝ち続けている。和修一族を滅ぼしてCCGの歴史を終わらせたし、大勢の人間を殺した竜も解き放った!そしてここでも、僕は勝つ!!」

 

もう、発露するものも耳にすることも無いのだろう。旧多の体に赫子が巻き付いていく、金木とは全く異なる形状で纏われていくそれは彼とは属性が異なる事を示している。

 

「その後は、何をする。(リゼ)は金木が終わらせるぞ」

 

成もまた、赫子を纏い始めた。これが最後の問答なのだろう、その答えを聞いた時が、最後の戦いのゴングとなる。

 

「ならまた竜を作りますよ、准特等を核にして……勿論素材は、貴方でね!」

 

2人の意思が、ぶつかり合う。

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