人か喰種か両方か   作:札幌ポテト

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残り1話


42話

「さぁ、歴史の闇に消えるがいい。和修のように……!!」

 

芥子の力は、圧倒的だった。あんていくでも指折りのグール達を赫子で圧倒し、クインクスを始めとした優秀な捜査官は梟のクインケにより粉砕している。このまま攻め続ければいつかは勝てるかもしれないが、死体から補給を続ける芥子の羽赫による制圧射撃は止む気配もない。

 

仮にこれに対応できるとすれば、それは只人の領域にいては不可能だろう。

 

「休憩は終わったか?こちらも良い運動が出来たぞ」

 

故に、人外とも言えるエト・鈴屋・伊丙の3人が戻ってきた。

 

「それじゃあ作戦通りだ、やるぞ」

 

エトの号令と共に、3人は駆け出す。

しかし、3人同時に仕掛けるかと思いきや散開する。

 

「避けてばかりか、つまらん。そんな雑魚の戦い方を教えた覚えはないぞ?」

 

芥子の制圧射撃を持ち前の身体能力やクインケ捌きによって、前線を張る伊丙は耐え忍ぶ。対して鈴屋は遮蔽を駆使して、徐々に距離を詰めている。

 

「……ちっ」

 

そしてエトはそのまま撃ち合いを始めた。羽赫使いとしての年季は彼女の方が上だ、火力は違えど芥子の行動を十分に乱していく。その隙に2人は距離を詰めていく。

 

恐らく2人が接近戦を仕掛けようとも、エトは誤射をしないだろう。それだけの技術を持っている、先ほどは3人を容易に蹴散らしたが、その戦闘とは違いエトがサポートに特化した動きをしている。

 

休憩中に策を練ったのだろう、このままの状態で戦えばいかに芥子と言えど苦戦は必死だ。

 

しかし裏を返せばそれは簡単に解決ができる。

 

「まずは貴様からだ、忌まわしき功善の子よ」

 

2人がジリジリと距離を詰めてくる間に、芥子は一気にエトへの距離を詰めた。当然羽赫による反撃を受けるが治癒するので甘んじて受け入れ、確実に仕留めに向かう。

 

更に不幸な事に、羽赫が出てこなくなる。燃料切れという事だろう、もはや彼女は芥子からすればただの人間と変わりない。

 

「しまっ……!?」

 

咄嗟の事だったのか、伊丙と鈴屋も応援には向かえていない。そして容易に、彼の手に持つクインケが、エトの体を貫いた。

 

「見るがいい。貴様らの柱を一つ折った、簡単にな。次は……」

 

もはやガス欠状態の彼女だ、勝負は決しただろう。そう思い芥子がそれを捨て去ろうとクインケを振ると。

 

「……やっぱり私を狙ったな」

 

エトはクインケを握りしめていた。

 

「誰の許可を得て、その羽を使っている」

 

同時に地面から射出された何かが、芥子の背中、赫包を傷つける。何かと思い見てみるとエトの羽赫が射出されていたのがわかる。元から仕掛けていたのだろう、しかしピンポイント過ぎる。

 

サポートに徹したエトを潰す為に芥子は踏み込んだのだが、それは誘導されていたという事だろう。浮いた駒を潰す事は定石だ、ただそれに従っただけであるが、踏み込んでくるという確信はエトにはあった。更に芥子の足を貫いて緑色の触手が展開され、固定している。後ろを見れば伊丙がクインケ「草薙」により拘束した事が分かる。

 

「私のものだ、捥げろ」

 

そしてガス欠に思われた羽が展開され、芥子の腕が切り落とされる。それも油断を誘う為にわざと見せたのだろう、愚直な突進攻撃ならば貫かれる事も最初から予期して。

 

仮に切り捨てに来ていたとしても、死んだふりをしてエトは抱きつく予定だったので問題ない。それはそれでトラップに嵌めれば良いだけの話でもある。

 

ただ、刺突を選ぶだろうとエトは予期はしていた。優越感を得る為に死体を掲げて捨てる、芥子が周りの心を折るためならば、それが最も合理的であった。

 

「ちっ、芳村ぁぁぁ……!!」

 

だが羽をもぎ取りはしても、まだリゼの赫子は残っている。それで足の触手を切りつつ、エトへと赫子を向かわせていると。

 

「お疲れ様です、アラタ」

 

いつの間にか距離を詰め切っていた鈴屋が、燐赫を破壊していた。同時に展開していたアラタも崩れ、彼も崩れ落ちていく。鈴屋はたった一撃を全力で振るうだけでも限界だったのだ、その一撃を最高のタイミングに持ってきていた。

 

しかし限界だったのだろう、的確に赫包を狙ったが僅かに一つだけ残っている。ただ鈴屋やエトにトドメを刺したい気持ちが芥子にはあるが、それは出来そうにない。

 

「ハイル、貴様ーー完全な人となった私に挑むというのか!!」

 

片腕をもがれ、殆どの赫包が破壊され、治癒途中の足には力が入らない。故に撤退は不可能、正面から伊丙と向き合った。たった一つの赫子が伊丙に迫る、対して彼女も同じように赫子を向かわせた。

 

しかし、その方向は芥子にではない。

 

「自切!?そんな事を……!?」

 

赫子をぶつけ合わせると、地面へ縫い付けた。同時に彼女によって残った手足が切り離され達磨にされていく。しかしこの化け物は異常な回復力を持っている、このまま放っておいても死ぬ事はないだろう。

 

攻め手はない。赫包の回復が行われる前に、芥子は回復を済ませるだろう。成から借りていたクインケも草薙しかない、だが彼女は突き進む、その攻め手は必ずやってくるからだ。

 

「終わりだ、老害」

 

エトは伊丙に、自身に突き刺さったクインケを投げ渡した。この世に存在する最強のクインケの火力は、容易に残り滓を消しとばすだろう。受け取った伊丙はまるで生まれた時から触れてきたかのように巧みに扱い、その真価を発揮させる。

 

「貴様らぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

少しの間、激しい断末魔が響く。しかしそれも収まると辺りを静寂が包み、その後に歓声が湧き出してくる。

 

CCG防衛戦、Vやピエロの混成部隊との戦いはここに終着した。

 

 

赫者同士の戦いというのは、もはや人の領域どころかグールの領域すら飛び越えた異次元の戦いになる。成は鎖骨と砂塵を両手に持ち、攻撃を行う一方で、旧多は完全な赫者として赫子を解き放っている。

 

「ちっ!!」

 

両者の戦況はまだどちらと決定打を与えられていない。攻撃の被弾数で言えば旧多の方が圧倒的に多くはあるが、分厚く纏った赫子により大きなダメージはない。一方で成は尾赫を叩きつける事で高速に移動し続け、回避や受け流しにより被弾が圧倒的に少なくはあるが、それに対応している旧多の攻撃も着実に当たっている。

 

高機動の成と高火力の旧多、戦況は拮抗しているように見える。

 

だが、当の本人は拮抗しているのは今だけであると考えている。

 

「(竜の罠を仕掛けてる分、僕は有利。地の利は得てる)」

 

この部屋は元々、迎撃の為に多少なりとも細工をしている。金木の時にそれは見せたものの、まだ彼には見せていない。手札というのは隠すから強いのである、そしてそれを切るタイミングが重要なのだ。

 

「(尾赫で加速は驚きですけど、その加速じゃ止まるのは難しいでしょ)」

 

ゆえに、罠にかける事は容易い。一見して互いの力比べをしているように見えるが、その実力比べとは違った所で旧多は戦いを挑んでいる。そしてごく自然に、竜が反応する位置にまで誘い込む。

 

「(かかった!!)」

 

そして、旧多のみを見つめる成の背後を巨大な赫子が飛び出してくる。図体とは裏腹に高速で迫り来る圧倒的な質量、直撃コースだ。それに合わせて旧多も前に出る、挟み撃ちだ。どう行動を選択しようと、旧多が有利な状況である。

 

「ガハッ!?」

 

しかし、成の攻撃は一方的に当たった。後ろからの攻撃を中途半端に避けると予想していた旧多の意表を突き、鉄骨もへし折る棍棒のような尾赫の一撃は、容易に旧多を壁にめり込ませた。

 

「(当たり前のように僕を狙ってきたか、でも……終わりでしょ!)」

 

だがそれでも良いと旧多は考えている、何故ならばそれ以上の攻撃が背後から迫っていたのだ。半赫者として装甲が薄い成ならば一溜まりもない。

 

はずだった。

 

「(な、何で……軌道が変わった?いやあり得ない、そんな事は……)」

 

結論から言えば、当たらなかった。しかし回避したわけではない。勝手に意思を持ったように竜の赫子が成を避けたのだ。

 

しかし、旧多の戸惑いは続いていく。

 

「は?え、ちょ……は?」

 

あちこちに仕掛けた罠がひとりでに動き始めたのだ。それも全て意思を持ったように、まるで誰かに操られているようだ。旧多はすぐにリゼの事が頭に浮かんだ、しかし金木と戦っている影響で起きたとは考えにくい。自分の意思で動かしているとしても、その赫子の意思はこの場で見ているような統一感がある。

 

ゆえに、何かをしたとするならば。

 

「罠はお前なら張ると思っていた、それが赫子由来のものを使うとも。爆弾を仕掛けるなんて事は態々卵管を壊しかねないから出来ないしな」

 

あっさりと、その種を明かしていく。彼の尾赫が切り離されると少し動きがぎこちない赫子の中に入り込んでいった。すると間もなく他の赫子のように機械のような統一感を表していく。

 

「赫子だって、手足を動かすように電気信号で動く。だから奪い取れる」

 

成遼太郎はグールにおいては天才だ、その代表となる能力が他者の赫子を乗っ取ることである。竜の時はあまりに巨大過ぎたのでその手は使えなかったが、正真正銘、彼の切り札である。

 

自切し意思を持ったかのように動かす事ができるグールは一握り、そしてそれを更に超えた能力が彼にはある。ゆえに旧多は自身の異変をすぐに気づく。

 

「僕の技を喰らってたのは、わざとかよ……!」

 

自分の赫子の制御が滞り始めたのだ。恐らく攻撃の際に微量ながらも成の赫子が付着したからだろう、それが彼の電気信号を邪魔している。

 

「終わりだ旧多」

 

そして、そんな旧多に向けて成は突進していく。竜は使わない、それはあくまで出来ることを見せて心にダメージを負わせる為だからだろう。これはただの戦いではない、旧多の心を折る戦いでもあるのだ。

 

「僕はまだ、足りていな……っ!!」

 

全ての赫子が、成に襲いかかる。上下左右から乱雑に放たれる赫子の奔流は指揮系統の麻痺で狙い通りには通らない。そんな攻撃に当たる、相手でもない。

 

「私も、これでお役御免だ」

 

そんな彼の顔に、深々と拳がめり込んでいく。

赫子に覆われていようが関係なく粉砕し、壁へめり込むほどの威力で殴り飛ばした。赫子の操作もおぼつかず、脳を激しく揺らされたのもあり、旧多は活動を停止させている。

 

そしてほぼ同時に、地下世界全体が震え始める。

 

「……金木も終わったか」

 

人とグール、グールとグール、人と人との戦いが大きく乱れた時代だった。支配された世界は解放された、支配者はいなくなった。鳥籠の外にはまだ見ぬ景色が広がっている。それが蒼穹なのか、暗闇なのかは誰にも分からない。

 

「さて……どうするかな、これからの人生」

 

ただ一つだけ言える事は、それでも鳥は外に羽ばたくという事だろう。




1/29(土)17:00 エピローグ
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