人か喰種か両方か   作:札幌ポテト

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6話 

9月2日

 

20区にある以前少しだけ調べたことのある『あんていく』という喫茶店が今回の標的だった。

有馬さんから聞くに、ここは以前戦ったもう1人の梟の管理する場所だったらしい。

それがV、もとい和修に逆らったのが今回の大規模討伐作戦の原因である。

 

有馬さんからは色々と話を聞けた、それこそ0番隊の庭出身の者は半グールのなり損ねであり、私の両親もそもそも人間とグールのハーフであった、そして和修という存在が行なってきた事実を知った。

 

間違いなく、悪である。

 

都合の悪い事に、正義の権利を持った悪だ。

 

故に、今回は有馬さんと共にアオギリの樹を乱入させる事になった。

色々と理由はあるが、一つは父親の方の梟を利用する為なのと、半グールを作る為の素体を準備する事、そして和修への意趣返しだろう。

 

なので今回、0番隊の任せられている地下の要所を有馬さんと共に守る事になった。

地下へ逃げ込んだグールの排除と、外からの侵入を防ぐためにだ。

 

途中、上でやり合っていたグールが何匹か降りて来たがその後に眼帯のグールが降りてきた。

情報でしか知らなかったが、有馬さんが戦って圧倒した。

 

正直かなり強いが簡単に倒していた、ただ気に入ったようでそのグールは殺さずに置いておかれた。

 

その直後にアオギリの樹のグールを通し、数刻した後に散らしていた0番隊を集めて地上へ向かった。

隻眼の方の梟がかなり場を荒らしていたので、有馬さんはそのまま戦いという名の虚構を演じて梟達を逃して戦いは終わった。

 

死ななくて良い命が大量に散ったが、それを背負っているのは有馬さんだ。

ただ少なからず、自分も加担したと言う実感に潰れてしまいそうだった。

 

9月x日

 

様々な命が散ったのだと言う事を集団で行われた告別式で悟った。

中には亜門上等もいる、ただ検体として捕まっているのかまでは聞いていないので何とも言えないが、そうだとしても死んでいるようなものだ。

 

そこで初めて捜査官としての暁さんを見た、かなり優秀らしい。

向こうも顔は覚えていてくれたみたいだが、反応は少し寂しそうに感じた。

無理もない、聞けば亜門上等とはパートナーを組みそこから間もなく亡くなったからだ。

立て続けに知り合いが亡くなることには慣れない、慣れたらそいつの心は人間じゃない。

機械的な人だと感じていたが、やはり彼女も1人の人間であった。

 

私がそれに関わった人間だとは知らずに話し合っても、あまり上手く上部を取り繕えない自信がある。

また今度父の話をしてくれた言われたが、出来るだけ話したくもない。

 

10月y日

 

有馬さんから確保した眼帯のグール、金木研を目的の為に育てると言う話になった。

彼は有馬の仲間、嘉納というドクターの行った人間を半グールにする実験で残った数少ない成功例だそうだ。

そして、それを今後は素材として梟が使われて行われていく。

正直に言えば、この事には関わりたくない。私の心情的に気分が悪いというのも大きいが、それで変わる未来がそこまで見えて来ない。

 

人間だった存在をグールにすれば確かに両者の理解者が爆誕する、だが私という両者の立場を多少齧るものからすれば、グールが人を食べる時点で分かり合えない。

だから理解者がいても、そこが変わらないと変わらない。

だがどうやら食料は何かしら解決策があるらしく、そこはまかせる事になった。

 

なので本題に入ろう、私の事だ。

私に下った命令が0番隊を離れる事だ、0番隊の外から金木をサポートするようにしろと言われた。

サポートというのが具体的には示されなかったが、恐らく捜査官となった時の金木を技術的、もしくは精神的に誘導するのが役割だろう。

また将来的に離反する0番隊から離れておく事も重要という話だ、和修に警戒される未来がありありと見える。

 

ただ金木は脳を損傷したせいか記憶の喪失と欠如があるそうで、新しい名を与えるらしい。

 

名を佐々木琲世、今後はその名で育てるようだ。

 

自身を殺す存在を育てるという気持ちは推し量れないが、協力者として私は佐々木を支援する事になった。

 

なので新しい部隊に配属される事になる、と言っても来年ぐらいからだと思うが、宇井准特等の率いる新設部隊にである。

伊丙がいるのに心底やばい匂いを感じたが、気を引き締めていこうと思う。

 

 

5月、昇進の季節だ。

そしてこの年は近年稀に見る程に豊作、もとい戦果を出した捜査官が多かった。

特にアオギリの樹との抗争が絶えず、何人もの捜査官が殉職した。

そんな狂乱の時代の中、今回の催しでは一際目立つ3人の男女が登壇した。

1人は女性、名を伊丙入。容姿が良いというのも目立たせている要因の一つではあるが問題はその階級である。

僅か18歳にしての、一等捜査官への抜擢。

公式の情報では僅か2年での到達になり、その実力と動きはもう1人の有馬と呼ばれているほどだ。

現0番隊の副隊長、宇井准特等のパートナーを務めている。

 

また、負けず劣らず有名な捜査官が隣にいる。

もう1人の名は鈴屋什造、同様に一等捜査官へ昇進している。

彼は以前行われたあんていく討伐戦において、特等達と共に梟と渡り合った男だ。

Sレートのヤモリも過去に討伐しており、その時も界隈を賑わせた。

 

そして最後に、現0番隊で有馬のパートナーを務めている成遼太郎も一等捜査官へ昇進している。

 

この3名は、僅かな時間でこの階級に至った逸材たちだ。

並の捜査官で至るのが27歳辺りと考えれば、如何に頭が抜けているかが分かるだろう。

ただ最近まで成遼太郎そのものについては、梟と交戦し生き延びた時から実力に対して懐疑的な声が多かった。

 

しかし白単翼賞を取ればそんな事を言う人間は黙る、二等捜査官でSレートを倒す事出来るのは特等クラスに至る者ぐらいだ。

 

故に、この3人は近い将来にCCGを支える支柱になるのだと考えられるのは当たり前である。

そして、それが事実となるのは遠くない未来であった。

 

 

授与式はいつも忙しくなるが、それは知り合いが多い人に限る。

0番隊隊長のパートナーという肩書きは、人を寄せ付けない。

話しかけてきたのは元上司であった黒巌特等ぐらいであり、他には少しだけ話したことのある鈴屋一等ぐらいだ。

 

私はそこまで顔の広い人間ではないので、そもそも人との関わりが薄いのである。

 

ただ、そんな中でも1番長い付き合いの捜査官が1人いる。

授与式後、休憩所の自販機前で彼女は作られた笑顔と心底気分の悪そうな目をしながら現れた。

 

「金魚の糞が、今度は郡先輩に付くんですか?」

 

おっと、中々に鋭いボディーブローだ。

2つ年下の少女、伊丙一等の言葉の鋭さは昔よりもメンタルの奥の方まで届いてくる。

 

「伊丙一等、同じ班になるんですから多少はその……」

 

「私に一回も勝ったことないくせに、上から目線ですか?」

 

「いや、そういうわけでは……」

 

伊丙一等とは宇井准特等主導で新設される部隊に配属される仲間なのだが、最近彼女の当たりがえぐいほど強い。

理由は分かってる、有馬さんから私が気に入られてるのが気に食わないのだ。

 

ただ何故、彼女や宇井准特等は有馬の計画の役者になれないのか。

一度理由を聞いたが、実に簡単な理由だった。

 

有馬貴将が死ぬ前提の作戦を、この2人は絶対に許容しない。

有馬さん曰く、伊丙は自分に気に入られたいから色々としているのは察しているがその方向性が自分とは真逆な故に候補者から外したらしい。

 

故に、絶対に有馬さんから彼女は気に入られる事は無い。

だから私が忌避されるのも、仕方ない事ではあるのだが普通に精神衛生上気分が悪いので何とかはしたいところなのだ。

 

「もうハッキリさせましょうか」

 

ただ、彼女も有馬さんを諦めてくれない。

今彼女にとって最も簡単な有馬へ気に入られると考える方法ぐらい、私でも想像がつく。

 

「今年、どっちが多く討伐できるか」

 

「……は?」

 

しかし、やり方がストレート過ぎて思わず唖然とした。

 

「期日は今日から一年で、ちゃんと分からせてあげますよ」

 

確か、彼女の今年の戦績はSが2人にAが7人、その他40人ほどのグールを倒している。

対して私はSが3人、Aが4人とその他で10人ほどで彼女の方が討伐数という点では倍以上の差があった。

ただこのどちらが上かと言われても、これだけでは判断は出来ない。

 

しかし彼女はすぐにそれに対するルールを決めた。

 

「あ、ポイント制にしましょう。Sが10点、SSは50点、SSSは200点で、他の雑魚は1点。これで競いましょうよ、最近調子乗ってるでしょ?」

 

やばい事を言っている、Aレートを雑魚扱いしてるのもヤバいが、彼女はやはり狂っている。

 

命に点数をつけてゲーム気分でいる、そしてそれが出来てしまう実力がある。

少なくとも分かり合えないタイプの人間だと察してしまう。

そしてこれならば、有馬さんから話をされても多少なりとも意見は食い違う。

 

話がそもそも通じないから有馬さんも信用を置けなかったのかもしれない。

 

何で私と付き合いの長い捜査官の倫理観は大体ぶっ壊れているのか。

 

「負けたら、どうするんです?」

 

「そうですね、まぁ勝った方の言う事を聞くっていうのでいいんじゃないですか」

 

その目には負ける気などさらさらないという自信が見える。

事実彼女は同年代では最強クラスの存在だ、普通の捜査官は同じ土俵には立てない。

 

「分かりました、ただ今年は妙な事で突っ込んでこないでください。それと人の限度がある命令でお願いしますよ」

 

ただあいにくと、私は普通ではない土俵の人間でありグールだ。

有馬さんから仕事に関しての大きな制限を受けていないので、それまでは付き合おう。

どうせ来る命令は有馬さんに関わるなとかだ。

CCGをやめろとかかは一応釘を刺したのでないとは思うが、ぶっちゃけ私から関わってないし、適当に相手してあげれば満足してもらえるだろう。


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