人か喰種か両方か 作:札幌ポテト
6月z日
私はS1班所属の捜査官となった。
班長の宇井さんは真面目な人なので、色々と頑張っているが多少まだおっちょこちょいなところもある人なのを知ってるので、偶に書類を仕事も手伝うようにしている。
ちなみにS1班とはSレートの案件を基本的に担当する班の総称で、その代表が宇井さんという事になる。
なのでSSレートの対応をするS2班、SSSレートを対応するS3班も存在しS3は有馬さんが担当している。
なので正式名称でいえば、S1班宇井班所属の成遼太郎一等捜査官となる。
宇井さんには多少なりとも世話をしてもらった恩もあるので、程々に頑張りたいと思う。
7月a日
早くも伊丙がSを1人やったらしい。
こっちが裏技(グールでの聞き込み)しないで地道に捜査してるのだが、手柄だけ取っていく。
私はそれで構わないので良いが、露骨過ぎないか。
岡平さんっていそこそこのおっさんを顎で使ってるけどいいのかそれは、呼び捨ててるの見てすごい違和感感じる。
あ、ちなみに私にパートナーはいない。
まぁ名目上では宇井さん(+伊丙)と組んでいるらしいが、特に一緒にはいない。
あとグールで思い出したが、有馬さん達には私が赫子が使える事はバレていた。まぁ知ってるのはアオギリの樹の仮初のリーダー、隻眼の梟のエトさんと有馬さんだけだが2人からの修行という名の理不尽が最近襲いかかっている。
グールとしての身体能力を抑えた状態でエトさんと戦わされている、正直死にかけた事も数回ありこれからも続くし、もうなるようなーれ!と諦めている。
来月も私が生きている保証はどこにもない、早く終わらせて楽に生きていきたいものである。
8月b日
エトさんなんだが、本職は作家さんらしい。
界隈では著名な方だそうで、かなり変わった人だ。
私に赫子の使い方を教えてくれたり、血液を調べてくれたりして色々と助けてくれているのだがいかんせん、頭がおかしい。
ちなみに、悪い意味でだ。
強くなる方法として精神の破壊を意図的に起こす、つまり拷問してパワーアップさせる事が出来るけど試す?と聞いてきた時は流石にヤバいと思った。
ただ、後に
「成り損ねから生まれた本物と本物が混じった子供って、どうなるんだろうね」
という疑念ができたら襲いかかってきた、半分はおふざけだと思うが半分は生命の危機を感じた。
あの人の前で気絶だけは出来なくなったのだが、そのうち対価を示されそうで恐ろしい。
9月c日
血液を調べて分かった事を忘れそうだし纏めておこう。
1.私のグールの血の割合は50%であるが、庭出身者とは異なる事
2.私の存在そのものが奇跡的な偶然である事
3.親は有馬と伊丙の分家の血筋である事
4.私の寿命は庭の子達ほど短くならない事
などだ、まだあったかもしれないが調査中でもあるので今後増えるかもしれない。
気まずいのは、伊丙と従兄弟の関係という所だろうか。
あれと同じ血が少しでも流れてると思うと、お互いにどこで道を違えたのか想像できない。
ちなみに私の存在がどのくらいの確率で生まれるか聞いてみた所、そもそもの実例が全く無いことから推測でしかないと言われたが、人生で乗った飛行機で必ず事故る程と言われたので相当やばい事が分かった。
なので死んだらモルモットにするとエトさんからは宣言された。
……うん、一応エトさんの前では隙を見せないでおこう。
10月d日
伊丙一等がまたSレートを討伐した、今年で3人目だ。
対して私はゼロである。
このまま狩りまくっていて大丈夫だろうか、有馬さんの心象とか悪そうだ。
それとなく有馬さんに聞いてみるとコクリア出身のSSが今徘徊しているとの情報をくれた、カケラも聞いてねぇよ。
いややらんよ?絶対にやりませんよ、SSなんて普通にバケモノなんだ。
命あっての物種なので話だけ聞いて、関わらないようにした。
11月e日
普通に捜査してたら「お前が有馬か?」とグールが襲いかかって来た。
まぁまぁな数の手下を連れてである、一応勝てた。
あ、この事はCCGには報告してない。明らかにSSの怪物だったし、それを倒せた私がS2班にぶち込まれてはまだ0番隊で修行中の金木、もとい佐々木の支援ができる立場になれないかもしれない。
ただSSと殺し合いをしたのは初めてだ、鎖蛇をカウントしなければだが。
普通にしんどい戦いをしたのは間違いない。
手下も後で調べたらSが2人いたほどだ、ただ考えて欲しい。
私を日常的にボコしてくるのは最強の2人だ。
有馬さんとエトさんのふざけた理不尽に比べればマグマとぬるま湯ぐらいの差がある。
でもなんで私を間違えたのか。
有馬さんじゃないし、血はなんか入ってるけど眼鏡かけてないし、背もあんなに高くないし、あんな輩もこれから現れて来るのか……?
たまに雰囲気は似てると言われるが。
12月f日
佐々木三等と初めて邂逅した。
同い年なので気さくに話して貰えたが、あれだ、私コミュニケーション苦手だ。
初対面とか関係なく敬語でしか話せないから距離の詰め方が分からない。
真戸暁一等がメンターとしているそうだが、中々大変そうだ。
ていうか暁さんともまともに話した事ないのではないか、頑張って欲しい。
☆
「やる気ありませんよね」
以前、勝負を持ちかけた休憩所の前で、伊丙は成を呼び止めた。
ただ、かなり喧嘩腰にである。
普段の気の抜けた雰囲気の彼女からは想像出来ないほどに、成に対しては高圧的になる。
「討伐したSレートの数、いくつです?」
「……ご存知でしょ、まだ0です」
最初からやる気がなかったのは知っている。
そもそも人との関係を求めていないことも、少なくない時間を過ごして来た伊丙には分かる。
そうでなければ局内で、人があまりこないこの自販機とベンチしかない狭っ苦しい休憩所には来ないだろう。
「私が勝ったら、有馬さんと郡さんに近付かないでください。というかもうそうしてください」
「別にそれでも良いんですよ、私から関わった事はありませんから」
まるで向こうから関わってくるという言い草だ、彼女のこめかみに青筋が通る。
最初からそうだった。
成という人間は周りと距離を取り、何もしない。
最初の一度だけ言い返された時はあったが、それ以来何を言われても否定や拒絶の言葉を使った事はない。
「中身もあの時と変わらないんですか」
「……変わってないとしても、私以外に損をする人はいないので」
いや、損はある。
全力の彼を倒したという数字としての実績が、彼女には欲しいのだ。
有馬という人間に認められたいから、だからこそ何でも出来る様に努力を重ねて来たのが伊丙入という人間である。
だから、戦え、そして返り討ちに遭え。
殺させろ、お前の命を、魂を、尊厳を、私の手で。
それが伊丙の願いであり、一方的な怨みだ。
「伊丙一等」
「何ですか?」
唐突に、珍しく、久しぶりに、彼は彼女の顔を見上げた。
いつも目も合わせない彼が、何かを知りたいと思い、その真意を汲みたいと、見上げた。
「グールを殺す事で、何か精神的な呵責はありますか?」
「あるわけないじゃないですか」
珍しく何を聞いてくるかと思いきや、陳腐な質問だ。
グールは殺されて然る存在、そしてそれを殺す事に一々気を病ませるのであれば捜査官なんて合っていない。
詩人にでもなっていればいい、そう当たり前の事を答えたが。
「私は、そういう人間ですので」
彼は、当たり前じゃなかった。
「勝負の件はもう私の負けで良いですよ……それでは」
それだけ言い残し、足速に去っていく。
その背中に対し、わざと聞こえるほど大きな舌打ちをすると彼女は呟くように呪詛を吐いた。
「なら捜査官なんてしてんじゃねーよ」