人か喰種か両方か   作:札幌ポテト

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色々と時系列、特に0番隊関連で弄っています。

ご容赦ください。

ちなみに作者が好きなキャラは穂木歩捜査官です。


8話

4月g日

 

有馬さん達と協力を結んでから2年経った。

私も気付けば22歳になっており、捜査官になって8年も経っている。

あれから大きな変革というのは起きていない、この期間は有馬さん達曰く準備期間であると言っており、何の準備かは言わずとも分かるだろう。

 

ちなみに階級は一等捜査官のままで変わっていない。

宇井さんは特等に、鈴屋くんは准特等に、佐々木は一等に、暁さんは上等に、伊丙も上等捜査官に昇進しているので近くにいる私は陰でめちゃくちゃ言われているらしい。

確かに私も過去に実績はある、だがそれも話のつけようはある。

白単翼賞は有馬のお溢れ、昔一時期流行っていた梟と対峙した話も鮮度が落ちてきたので信用は殆どない。

 

上手くやっている、私は上手くやれている。

有馬さんから手柄を立て過ぎればVに警戒されるとして注意もされてきたが、そこは私の考えとも一致していたのでありがたい。

 

ただ、給金が少ないのは少しであるが大きな贅沢が出来ないので寂しいのが辛いところではある。

 

ただこれだけ何もしてないが、宇井さんとのパートナーもといトリオは名目上では続いている。しかし今は色々とやり過ぎているキジマ准特等のお目付役として宇井さんとは行動していない。

宇井さんにあのイカレ野郎を見とけ、と頼まれたがコクリアの拷問官らしいのでかなり面倒な役である。

 

倫理観ぶっ壊れてる、付き合わされる人みんなそう、まともだったの宇井さんと亜門さんしかいない。

 

そろそろ世界は私に優しくしてくれても良い気がする。

 

5月h日

 

佐々木一等がクインクスというチームを率いる事になった。

クインケを内蔵した捜査官、つまりグールの力を持った人間だ。

それも4人、私は未だにメンターにすらなった事はないので分からないが、大変そうである。

一度だけメンバーに会ったが個性派揃いだ、有馬を超えるをテーマに作られているらしいが人の力では超えられないのを皆分かっているのかもしれない。

最盛期をとうの昔に超えているとはいえ誰も超えられない、かく言う私も人間だけだったら確実に超えられない存在、それが有馬貴将なのだ。

 

6月j日

 

Sレートのオロチというのが最近、アオギリ狩りをしているらしいので注意したい。

 

7月k日

 

キジマ准特等が個人的に所有している倉庫が何箇所もある事がわかった、捜査中に捕まえた個体の管理をどうしてるのかと考えて尾行をしたらエグい拷問をしていたのを見たのだ。

と言っても彼がいない時にである、私はグールほど耳は良くないが鼻は良いので直ぐに場所は見つかった。

思いっきり捜査官として違反だろう。

必要以上の尊厳の破壊と痛み、13条の2項に反している。

しかしこの場所を見つけてもシラを切られるかもしれない、出来れば現行犯で何とかしたい。

 

ただ他にも場所はありそうなので、調査は必要だろう。

 

8月l日

 

佐々木一等はあいもかわらずクインクス関連で大変そうだ。

一方私は忙しくない。

キジマ准特等の倉庫を洗っている作業も終わったし、後は現行犯でやるだけだ。

大きな仕事が今のところない、隻眼の王関連でもない。

 

ただ先日グールでまた情報を集めていると「貴様が隻眼の王か?」と変な黒服集団に襲われた、何度も「そんな存在知らない」と答えても襲ってきた。

一応撃退して逃げた。殺しはしなかったがそこそこの手練れであり、何か見覚えのある人が居た気もするが確証はない。

そのせいか分からないがSSレートに認定された、より慎重になろうと思う。

 

9月m日

 

この前襲われた黒服集団、あれがVだった。

和修の手駒であり掃除屋であり矛、有馬さん達も指揮られている。

隻眼の王の存在を探している様で、エトさん曰くイレギュラーな存在に彼らは怯えているのだとか。

 

後そろそろ、佐々木に大きめの試練を与えると言っていた。

手始めにオウルを送るらしいが、私も名前しか知らないので気を付けろ+倒すなとしか言われていない。

 

最近の佐々木一等はSレートのオロチを相手している、頃合いだろう。クインクス班も優秀な人材がいる様で、そろそろ佐々木本人も落ち着いてくる時期だ。

 

ただ彼は良い人すぎる、私としてはそう差し向ける側なので心はやはり痛む。

 

10月n日

 

キジマ准特等が中々尻尾を出さない、もとい拷問しないので監視が疲れてきた時期だが、捜査に本格的に戻されるのも色々と面倒なので気楽にやれている。

伊丙がゴミを見る目で見て来るが気にしない、富良上等は良い人なので逆に申し訳なくなるが、このままのんびりやらせてもらおうと思う。

 

11月11日

 

クインケ鋼の輸送護衛任務を行ない、アオギリと戦った。

同時期にエトさんは佐々木一等へオウルをぶつけたらしい、グールのオークション会場の制圧日だったので都合よくやったのだろう。

かなりの戦果をあげた作戦らしいが、小金集めでオークションの護衛をしたり、金になるクインケ鋼を狙ったりと、アオギリはかなり弱っているようだ。

運営状況は分からないが、彼女自身にもそう時間は残されていないのかもしれない。

 

12月24日

 

佐々木にシャトー、クインクス班のシェアハウスにクリスマスパーティーをやるから来ないか、と招待された。

なので顔だけは出した、佐々木一等は良い人だし断り辛かったので一応出席だけはしたのだ。

ただ有馬さんまで来るとは聞いてない、あの人暇ないだろ……適当なタイミングで帰った。

クインクス班とは仲か良いわけでもなく居心地が良くなかったのもあるが、彼等の親交を結ぶ気も予定もないので特に問題はないだろう。

 

1月o日

 

また少なくないお年玉を手に孤児院に来た。

私の懐は昔よりも寒いのだが、孤児の中にはグールの被害者もいる。

何というか、やりきれない気持ちがある。

私のように捜査官に放逐されるような者に、なって欲しくないのだろう。

 

理不尽が嫌いだ、命は大切で、亡くなった命が大切でも、それで命を奪う復讐という形は嫌いだ。

人が憎いという理由で殺される事も、この業界ではある。

亡くなったのは認めていくしかない、ただ亡くなる前の救える命は守りたい。

復讐は新たな復讐を生む、だから有馬さんのやり方にも付き合えている。

 

人とグールの分かり合える世界が欲しいわけじゃない、復讐の因果が生まれない世界が欲しいのだ。

少なくとも命っていう所で1番大きな復讐を生む今の世界を、私は嫌っている。

 

孤児院という来年も経営が続くか分からず、子供同士で仲良くしながらも、いつ来るかも分からない親を信じて待つ世界、人生が自分の意思で決められない世界はやはり、嫌いだ。

 

2月p日

 

有馬さんから具体的な作戦概要の説明が始まる。

 

今まで有馬さんやエトさん自体に時間が取れなかったのもあるが、私自身がこの世界の情勢を知らなかったのも大きい。

なので私なりに情報屋から仕入れていたりしたのだが、Vについても良くわかっていない。

 

細かいこれからの道筋を把握してない、そしてアオギリの樹が何をしているのかも分からない。

なので分からなくても大丈夫な必要最低限の知識から入れ始め、やっと始まった。

 

 

いつもの集合地、寂れた神社の境内に有馬と成は集まっている。

時間が中々取れない有馬から近日中に実行する予定の確認を行う為だ。

今の成には最低限の知識と覚悟を持ち合わせている、故に有馬は話を終えた所なのだが。

 

「……冗談じゃ、なさそうですね」

 

成の表情は、優れない。

いや、かなり悪い。

それもそのはずだ、直近で行われる予定は凄まじく残酷だからだ。

 

「伊丙を殺すって、なんで」

 

伊丙入、庭出身の上等捜査官の殺害ないし見殺しによる生命の強奪。

 

それが、これから行われる予定なのだと有馬の口から語られたのだ。

 

「20歳で上等だ、十分に人側の希望になるのもあるが……相応の存在となった彼女が喰種を認めた社会を望まない事になるのは、成もよく分かるだろう」

 

分かっている、捜査官としては誰よりも長い付き合いである、成はよくわかっている。

ノイズになる、円滑にこの作戦を進めるのに必ずどこかで障害になる。

それが伊丙という人間なのだ、しかしそれでも成は苦言を呈する。

 

「なら鈴屋准特等は?あれこそ人側の希望になりえますよ」

 

鈴屋は既に准特等だ、未来の有馬と言われているのは彼の方である。

最近では有馬の次に戦果を出している捜査官だ、むしろ戦績だけで見れば鈴屋の方が一枚は上なのだ、伊丙だけを選ぶ理由にはなり得ないのだが。

 

「鈴屋は庭の人間じゃない」

 

それを聞いて、すぐに成は何かを言い出そうとしては口を閉じる。

 

分かっているのだ、両者の大きな違いを、決定的な違いを。

 

「V側の存在がなる事が問題だ、だからそうさせるわけにはいかない」

 

有馬貴将は人類の絶大的な英雄だ、故にそれを手元に置くVは絶大的な存在でもある。

CCGにおける発言力や実行力は言わずもがなであるが、手元に最強の駒があるというのは都合が良すぎるのだ。

 

点で確実な制圧が行える、それが敵の急所ならば致命傷となる。

 

「嫌でも、この仕事をしていれば命の重さを考えさせられます。そして彼女は若く、努力を惜しまず……寿命が、短いです」

 

仮に有馬を倒せるだけの実力を得た金木研と伊丙+鈴屋が戦った場合、これだけならば金木は勝てるが『アラタ』を使えば話は変わって来る。

篠原や黒岩特等が使っていた纏うタイプのクインケ、耐久性と敏捷性、攻撃力を著しく底上げする人の枠組みを超える道具、2人が使えば確実に金木は敗北する。

 

しかし、今伊丙を消せば金木研が高確率で勝てるだろう。

 

アラタの性能と鈴屋の実力を目の前で見た事がある成は、それが分かっている。

 

だから片方は殺した方が円滑に進む、そして殺すならどっちかと問われれば答えは揺るがない。

 

「やり方は気に食いませんが、貴方に認められたくて戦っていました……それでもですか?」

 

「それでも、だ」

 

搾り出した言葉も、即答される。

 

「……分かりました」

 

もう決定事項なのだ。

ここまで嫌がるのは、まだ生きている命だからだろう。

消えた命に無頓着な姿勢を取る成にとって、これからこちらの都合で消すというのは理不尽でしかない。

 

ただ、納得を示した後に、言葉を続ける。

 

「じゃあ、私が殺します」

 

何か覚悟を決めたのだろう。

こんな陰謀の渦中にいれば遅かれ早かれ、誰かの命を奪い、背負う事になる。

伊丙入との付き合いは長い、彼女をよく知るのもあるが今の立場的にも確実に殺すなら彼のポジションには適正がある。

 

だから、せめて、介錯は自分が行うと決めたのである。

 

「任せるが、出来ない時はエトに任せる」

 

「分かりました」

 

有馬はそう言い、今日の定例会は終わった。

 

この数ヶ月後、成は伊丙の命を奪うこととなる。


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