「あ"ーだりー...やっと片付け終わったぜ...」
「全く、あいつら一人残らず無慈悲に帰りやがって!」
ライスシャワーが天皇賞春を制した夜、チーム5Us部室では盛大にライスの祝勝会兼、未だやれていなかったブルボンの復帰祝いが行われた...のだが
スペシャルウィークが出た傍から食い尽くしお代わりを要求し続けたせいで溜まった皿や食材の余り等のごみが大量に発生し、片づけを誰がやるか決めるじゃんけんで俺は当然のように負けたのである
なおライスは手伝いを申し出たのだが、流石に今日の主役に手伝わせるわけにはいかないと帰らせた。
というか仮に手伝わせたらブルボンやタイシンからダイレクトアタックを食らっていただろう。だってそんな目してたもん
まぁ俺もキングとかタイシン辺りにやってもらおうと思ってたクチだから人のことは言えないのだが、そんなことは俺の管轄外である。
「ヘイ、そこのカレシ!」
「はい?」
そんなわけでようやく片付けを終え、部室の隣に着けていた二輪の愛車に跨り家に帰ろうとしたとき、聞き覚えのある声が俺を呼び止めた
「校舎内への大型二輪持ち込みは禁止!ちゃんと駐車場に置いてこなきゃダメよー?」
「マルゼン!」
振り返った俺の前に立っていたのは、トレセンの中でもトップクラスの実力を持ち、あのシンボリルドルフと並ぶとさえ言われているウマ娘、"マルゼンスキー"
違うチームの所属だが、ちょっとした"縁"がある彼女とはトレセンに来た頃からの友人だ。
「あの月を見ていたら、貴方が来るような気がしてたのよ」
「いやお前の方から来たんだろ。てかこんな時間に何の用だ?」
「校則違反の生徒を補導する為、かしら?」
「いや俺に聞かれても...そもそも俺生徒じゃないし」
「でもバイク通勤は無断でしょ?」
「これは"バイク"じゃないからセーフってことで。それで、結局本当に何の用なんだよ」
「そりゃこんな夜にアベックがする事なんて言ったら、今流行りの夜の街へのドライブデートでしょ!」
「ドライブが流行ってんの?最近の学生は進んでるんだなー」
「ここのところタっちゃんもあんまり走らせてあげれてなかったし、シティの方に良いイタ飯の店を予約したから一緒に並走しない?」
「えー、俺さっきタイシンの料理食ったばっかりなんだけど。てかイタ飯ってどんな料理だ?いつ発動する?」
...いや、さっきまで労働してたからかなんか腹減ってきたな?
出てきた料理の殆どを担当達に食われたからかもしれない。明日のスぺのトレーニングメニューを増やしておくか
「えー!?貴方イタ飯を知らないの?おっくれてるー!」
「何?知らなきゃマズいのか?」
「イタリア生まれのナウなヤングにバカ受けなお料理よ。貴方学生とコミュニケーションする機会の多いお仕事してるんだから、最近の流行りくらいちゃんと調べてないとみんなに呆れられちゃうわよ?」
「マジで!?」
「マジマジマジシャンズギャルよ!その調子だとティラミスとかナタデココも知らないんでしょ?」
「な、なんだそれ知らねぇ...」
「遅れてるわねー」
「グハァッ!?」
「前から思ってたけど、貴方って本当にデュエル関連の流行りにしか興味が無いのね?」
なんてことだ...俺はいつの間にか時代に置いて行かれていたらしい...
つい最近までタピオカとやらが流行っていると聞いて流行を知った気分でいたのに、この世界の食文化はいくら何でも流れが速すぎるぞ!
実のところ、俺はかつて理事長に『"不足"!もっとデュエル以外の世界にも目を向けるべし!』と怒られて以来、自分がデュエル以外の流行に疎いのを気にしていたりする。
しかもこんな事がチームの奴らに知られたら...
(「は?あんた今時"イタ飯"も知らないの?」)
(「トレーナーさん、遅いですね」)
う、うわああああああああああああ!!!!!(LP4000→0)
ダメだ絶対にからかわれる!
自分より一回り年下の小娘からの弄りを食らって精神ライフがワンターンキルされてしまう!
背に腹は代えられない、ここは多少プライドを折ってでも...
「な、なぁマルゼン!ちょっと頼みがあるんだが」
「もー仕方ないわね♪そういう事なら、今夜はお姉さんがナウい流行をバッチグーにレクチャーしてあげるわ!」
◆
「着いたわ!」
「おぉ、これが...」
愛車である"D・カート"で高速道路を駆けるマルゼンと並走する事30分、到着したのは地下に作られたバーの様な店だった
石造りの壁に棚に並んだワインボトル...なんというか、うん
「学生が来るような雰囲気には見えないけど」
「それが逆に流行ってるのよ。今年は昭和レトロブームが来てるんだから!」
「な、なるほど」
「どうした坊や?ここは迷子センターじゃねぇんだ、とっとと注文しな」
「え?えーっと、じゃあミルクでも貰おうか」
「舐めてんのか!?小僧!」
「えぇ!?」
「ダメよマスター、この人は私の紹介なんだから」
「ま、マルゼンちゃん...チッ!」
ダンッ!
「飲んだら大人しく帰るんだな」
「あ、ども...」
「おいマルゼン、なんか最初っからめちゃくちゃ嫌われたみたいなんだが?」
「空気を読まずにミルクなんて注文するからよ。あっマスター、私はいつもので!あとこの人にも同じものをよろぴくね!」
だって美味いじゃん、ミルク
まぁいいや、そんな事より...
「んで、いい加減マジで目的を話してくれよ。飯に誘ったのは別で、なんか話したいことがあるんだろ?」
「あら、バレちゃった?まっ、長い付き合いだしバレちゃうに決まってるか」
「そんなに深い付き合いじゃないだろ。チーム違うんだし」
「でも、貴方がトレセンに来る前から私達はお互いを知っていた。そうでしょ?」
「...............」
「あの頃はお互いやんちゃしてたわよねー」
「思い出話をしに来たのか?」
「...いいえ、まずはお祝いがしたくって。ライスちゃんの天皇賞春優勝、おめでとう」
「ライスちゃん、本当にかっこよかったわ!特に赤い光が集まった後のライスちゃんの走りは最高だった!」
「もしかしてー、あれが噂の"ウマグナー"の力ってやつ?青春よねー、チームの力が集まってるって感じで!」
「...ああ、そうだな」
「なによ、なんか含みのある顔しちゃって」
「なぁ、実際の所ウマグナーって何なんだと思う?」
「え?」
「マルゼン、お前は去年の秋スズカが出た天皇賞のレースを見たか?」
「モチのロン!あの時も今日のレースみたいに、5Usのみんなの痣が光って、スズカちゃんに集まってたわね」
「あの時もそのウマグナーの力で最後まで走り切る事が出来たんでしょ?一時はどうなる事かと思ったけど、ちゃんとスズカちゃんも無事に復帰できて良かったわ」
「そうか、お前もあの光は見えてたんだな」
「そりゃ見えてたけど...それがどうしたの?」
「俺は、今もわからないんだ」
あの時、スズカはあの痣のおかげで最後まで走ることが出来たのか
それとも......
あの痣のせいで、限界を超えてまで走らされたのか
◆
「はっ!」
「どうしましたスズカさん?」
「何故かしら、今トレーナーさんが他のウマ娘と出かけているような気がして...」
「なんですかそれ怖...」
「やめてスぺちゃん。スぺちゃんに引かれるとなんか傷つくわ」
確かに自分でもなぜそんな気がしたかは不思議だけど、でも大丈夫よね。トレーナーさんは今お片付け中ですもんね?
ね?
「す、スズカさん!変なオーラ出してないで早くお話聞かせてください!ほら、寮に帰ったらスズカさんの天皇賞秋の事教えてくれるって言ってたじゃないですか!」
「そ、そうだったわね」
すっかり忘れてたと口に出しそうになったのを何とか飲み込んで、私は当時のレースを頭の中で振り返り帰る...
「私の背中の痣、小さい頃からありましたけど、あんなに光ったのは初めてでした。スズカさんのレースの時も同じような事があったんですか?」
「ええ。あのレースは本当に、色々な事があったわ...」
◆
「『HSR魔剣ダーマ』でダイレクトアタック!」
「きゃあああああああ!!!!」(LP0)ピー
「決まったああああああああああ!!!!!第118回天皇賞、決勝の切符をつかみ取ったのはこのウマ娘!」
「チーム5Us、異次元の逃亡者サイレンスズカァー!!!」
(『ワアアアアアアアアアア!!!!!!!』)
「ふぅ...」
「スズカー!」
「トレーナーさん!みんなも来てくれたのね」
「やったねスズカさん!もうちょっとで優勝だよ!」
「スズカ先輩、おめでとうございます」
「おめでとうって、まだ決勝に進んだだけよ」
「ですが今日のスズカ先輩ったら絶好調じゃない。今のスズカ先輩ならきっとどんな相手にだって勝てますわ!」
「それはどうかな?」
「あ、貴方は!」
『エアグルーヴ(先輩)!!』
エアグルーヴ...
トレセン内でチーム5Usと並んで"最強"と名高いチームイリアステル、その中でも突出して強いとされているトップ4ウマ娘集団『イリアステル滅四星』の一人
そして、私の最大のライバル。
『女帝』とも呼ばれるそのデュエルタクティクスは、私と並んでこの天皇賞での優勝候補とされていると、先程解説席の方がおっしゃっていました
やはり決勝の相手は貴方なのね
「宝塚記念では後れを取ったが、今日はそうはいかない」
「そう...でも、先頭は譲らないから」
「フッ、ここで多くは語るまい。レース場で会おう」
「あれが"女帝"エアグルーヴ、凄い気迫...」
「この天皇賞はスズカにとっても、チーム5Uにとっても初めてのG1連勝がかかってる大事なデュエルだ。あれぐらいの相手に勝ってこそ価値があるってもんだ」
「スズカもそう思わないか?」
「...はい!」
最強のライバルと最高のデュエルで高めた私のフィールで、誰も見た事の無い私だけの景色を手に入れて見せる!
◆
『さぁ!いよいよ始まりマース秋の天皇賞決勝戦!現在のトゥインクルシリーズの二強チームの対決、どのような展開になるか全く予想が付きません!』
『URAから年度最優秀チーム賞を受賞して以来勢いが止まらない5Usのサイレンススズカ、対するイリアステルもランニングデュエル界の初期から数々の名バを生み出してきた由緒正しい最強チームだ。その中でもトップクラスの『女帝』エアグルーヴ。このデュエルは歴史に残すほどのデュエルになるだろう』
『決勝戦の実況はおなじみペガサスと解説不動さんでお送りしマース!』
『たった今両者ゲートイン完了!スターター、デュエルスターのコールをするのデース!』
「デュエル開始イイイイイイ!!!!」
「「!!」」ダッ
「早速先頭に立ったのはサイレンススズカ!もはや説明はいらない彼女の十八番大逃げデース!」
「そのまま第1コーナーを取ったのはサイレンススズカ!サイレンススズカ先行デース!」
「先行は貰うわ!」
「いいだろう、勝負だスズカ!」
「「デュエル!!」」
サイレンススズカ(LP4000)
エアグルーヴ(LP4000)
「私は『SRバンブー・ホース』を召喚。このモンスターの召喚に成功した時、手札からレベル4以下のSRモンスターを特殊召喚できるわ」
「その効果で手札から『SR三つ目のダイス』を特殊召喚!」
バンブー(竹馬に乗ったウマ娘 ☆4 ATK1100)
三つ目(☆3チュ ATK300)
「レベル4のバンブー・ホースに、レベル3の三つ目のダイスをチューニング!」
4 + 3 = 7
「その美しくも雄々しき翼翻し、光の速さで敵を討て!シンクロ召喚!」
「来て!『クリアウイング・シンクロ・ドラゴン』!!」
クリアウイング「ギャオオオオ!!」(☆7ATK2500)
『出たー!!サイレンススズカ、1ターン目からエースモンスターの召喚に成功デース!』
『その勢いに乗って加速!後ろとの差を突き放していきマース!』
『あれはURAから贈られた世界に1枚だけの"ミレニアム・カード"、言うまでもなくレアだな』
「私はカードを1枚伏せて、ターンエンド!」
「1ターン目からエースモンスターを召喚とは、流石だと言いたいが...」
「甘いぞスズカ!」
「!!」
「私のターン、ドロー!」
「『ハーピィ・チャネラー』を召喚!」
チャネラー(☆4ATK1400)
「チャネラーの効果発動!手札から『ハーピィズペット竜』を墓地へ送り、デッキから『ハーピィ・パフューマ―』を特殊召喚する!」
パフューマー(☆4ATK1400)
「パフューマーの効果でデッキから『万華鏡-華麗なる分身-』を手札に加え、そのまま発動!この魔法の効果により、デッキから『ハーピィ・レディ三姉妹』を特殊召喚!」
三姉妹(☆6ATK1950)
「更に手札の『ハーピィズペット竜-セイント・ギガ』はフィールドにレベル6以下の風属性がいれば特殊召喚できる!」
ペット竜(☆7ATK2000)
『エアグルーヴ凄い追い上げデース!一気にモンスターを4体召喚デース!』
『だがどのモンスターもクリアウイングの攻撃力には届かない。何か考えがあるのか?』
「どれだけモンスターを並べても、私のクリアウイングには届かないわよ?」
「それはどうかな?」カンコーン!
「!?」
「見るがいいスズカ!再戦を誓ったあの日から進化を重ねた新たなる私のデュエルを!」
「私はレベル4のパフューマーに、レベル4のチャネラーをチューニング!」
「なっ、シンクロ召喚ですって!?」
「何よりも華麗なる翼翻し女帝よ、幻惑の風纏いてここに君臨せよ!」
4 + 4 = 8
「シンクロ召喚!『ハーピィ・レディ・SC』!!」
『アンビリーバボー!サイレンススズカの大逃げシンクロに対抗し、エアグルーヴもシンクロ召喚デース!』
『妙だな、ハーピィチャネラーはチューナーモンスターではないはずだが』
「このモンスターをシンクロ召喚する時、ハーピィモンスター1体をチューナーとして扱うことが出来る!」
「それでチューナーなしでシンクロ召喚を...」
「あれがエアグルーヴさんのシンクロモンスター!!」
「エアグルーヴ先輩が今までシンクロモンスターを使用したという記録はありません。以前の宝塚記念から格段に強くなっています...!」
「バトルフェイズ、SCでクリアウイングに攻撃!"
クリアウイング(バリーン!)
「くっ...!」(LP4000→3700)
『エアグルーヴさらに加速!ついにサイレンススズカに並んだ!』
「マズい!スズカの場ががら空きだ!」
「このまま残りのモンスターの攻撃を受けたら終わりよ!?」
「スズカ...!」
「ハーピィズペット竜で攻撃!」
「墓地の三つ目のダイスの効果発動!このカードを墓地から除外することで攻撃を一度無効にする!」
「ちっ...このターンでは仕留められないか。だが三姉妹の攻撃は受けてもらおう!」
三姉妹「「「キャハハッ!」」」(ATK1950)ザシュッ!
「きゃあああっ!!」(LP3700→1750)
『強烈な一撃デース!サイレンススズカにダイレクトアタックがクリーンヒットデース!』
「くぅ...手札の『SR-OMKガム』の効果発動!バトルフェイズ中に戦闘ダメージを受けた時、このカードを手札から特殊召喚!」
OMK(☆1DEF800)
「私はカードを二枚伏せてターンエンド!」
「ならエンドフェイズに伏せカードを発動するわ」
「何?」
「トラップ発動、『奇跡の残照』!このターンに戦闘破壊されたモンスター1体を蘇生できる!」
「このターンに戦闘破壊されたモンスター...まさか!?」
「そうよ、私が特殊召喚できるのはSCに破壊されたたった1体のモンスター!クリア・ウイングシンクロ・ドラゴン!」
クリアウイング「ギャオオオ!!」(☆7ATK2500)
(折角倒した"ミレニアム・カード"がこうもあっさり...)
(それにOMKガム...最初にSCの攻撃でダメージを受けた時に特殊召喚しておけば、ダメージをさらに抑えられたはず。レベル1のモンスターをわざわざ残したという事は、何か考えがあるのか?)
(伏せカードの内片方は『ヒステリック・パーティ』、最悪の場合私のモンスターが全滅してもこれで再び展開できるが...本命はもう一つの伏せカードだ)
(来いスズカ、今日の私はお前のデッキの対策を完璧に用意している!)
「クリアウイングが蘇ろうと私の盤面有利には変わらない!これが女帝の力だ!」
「それでも...」
「"先頭の景色は譲らない"っ!!!!」カンコーン!
「なにっ!?」
『ワッツハプン!?サイレンススズカここで加速!飛ばしに飛ばしていきマース!』
『現在1000m通過で57.4秒...!?こんな快速で走るウマ娘は見たことが無い!』
ああ、風が気持ちいい!まるで足が地面から離れて空を飛んでいるみたい!
気力も体力もフィールも今までで最高!
もっと、もっと、もっと速く!
「...!?待てスズカ!!」
ごめんねエアグルーヴ。それは聞けないわ
だって私、まだまだ速く走れるもの
それにさっき見えたの。私にとって最高の景色が!
興奮して、客席から身を乗り出してまで私に声を送るトレーナーさんの姿が!
ふふっ、さっきちょっとピンチになっちゃったから慌てちゃったのかしら?
でも、そんなに期待されたら応えるしかないじゃないですか
見ててください、トレーナーさん
最高に高めた私のフィールで、最高の景色を掴んでみせます!
「止まれええええええーーーーー!!!スズカアアアアアアア!!!!!!!!」
◆
「まさか、故障はその時に!?」
「ああ。スズカが更なる加速に踏み切った瞬間、変な方向に骨が突き出た。明らかな故障発生だった」
「なのにあいつ速度を落とさずに走り続けた。走るどころか立つ事さえできない程の痛みのはずなのに、スズカの勢いは止まらなかった」
「そしてその直前の事だった、走っているスズカと、観客席で応援に来てたあいつらの痣が一斉に光り出したのは...」
◆
キュイイイイイイン!!
「なっ!?」
「どうした急に...ってお前らどうしたその痣!?めちゃくちゃ光ってるぞ!」
「分かんないよ!何なのこれ...!」
「エラー、解析不能です...」
「ライスたちの痣が...スズカさんに呼ばれてる...?」
「呼ばれてる?どういう事だライス?」
「わ、分からないけど...そんな気がするの...」
そのライスの言葉を裏付けるように、赤い光は天へと昇り、打ちあがった光が上空から走行しているスズカへと降り注いでいく...
「もうっ!本当に何なのよこの痣は...痛ぁっ!」
突如降り注いだ赤い光に混乱する間もなく、突如悲鳴を上げたキングが痣のある場所を抑えうずくまる
それと同時に俺を除いた全員が同じように光る痣を抑えながら倒れこんだ
「ど、どうしたんだお前ら!?」
どう見てもタダ事じゃない雰囲気が伝わったのか、周りの観客たちが心配そうに声をかけてきた
「ちょっとどうしたの、貴方達大丈夫?」
「わ、わかんねぇ!なんかみんなの痣が急に光り出して...!」
「光ぃ?どこが光ってるの?」
「は?いやいやこんなに真っ赤に光ってるじゃないですか!ミラーフォースかってくらいの光だぞ!?」
「いえ、どこか痛そうにしてるのは分かるけど光なんて...」
「そんなはずは...」
こちらを覗き込む観客の顔を見回してみるが、みんな一様に首を横に振る
「本当に見えてない...?」
『ナイトメーア!?サイレンススズカに故障発生!何という事でショウ!?』
「何だって!?」
慌てて走ってるスズカの方へ目を向けると、左脚に明らかな異常が見える
左脚にある"ウマグナー"の証である痣が眩い輝きを放っているが、同時にどうしようもなく骨が折れているのも分かった
いや、真に異常なのは見た目じゃない...!
「なんで、なんでその脚で加速できる!?なんで走れるんだ!?」
「ぐっ...!」
「タイシン!」
「大丈夫...大丈夫だけど...」
スズカの故障と同時に皆が痣の場所に痛みを覚え始めた...
まさか、スズカの痛みが痣を通してみんなに伝わっているのか!?
なんなんだ、まるで意味が分からない!
だけどあんな脚で走り続けたらスズカの命が危ない!
「止まれええええええーーーーー!!!スズカアアアアアアア!!!!!!!!」
◆
身体がスピードに溶けていく...
クリアウイング、貴方も一緒なのね
...そう、わかったわ
貴方の力、貸してもらうわね
このスピードを超えた先の、最高の景色の為に!
◆
(スズカの様子が明らかにおかしい!なぜその脚で走れる!?お前にいったい何があったんだ!?)
(このままスズカを走らせていいはずがない...私がデュエルで止めるしかない!!)
「私のターン、ドロー!」
「私はレベル7のクリアウイングに、レベル1のOMKガムをチューニング!」
「なっ、シンクロモンスターを使用したシンクロ召喚だと!?」
「神聖なる光蓄えし翼煌めかせ、その輝きで敵を討て!」
7 + 1 = 8
「シンクロ召喚!『クリスタルウイング・シンクロ・ドラゴン』」
クリスタル「ギャオオオオオン!!」(☆8ATK3000)
「クリスタルウイング・シンクロ・ドラゴン...だと!?」
(クリアウイングの進化形態?だがクリアウイングは世界に一枚しかない"ミレニアム・カード"、一般に流通していないカードの派生形など存在するはずがない!)
(一体何なのだ!何が起きている!?)
「シンクロ素材として墓地へ送られたOMKガムの効果!デッキトップを墓地へ送り、そのカードが『SR』なら、シンクロ召喚したモンスターの攻撃力を1000アップする!」
【SR電々大公】カーン!
「墓地に送られたのはSRモンスター!よってクリスタルウイングの攻撃力は1000アップして4000!」
クリスタル(ATK3000→4000)
「更に手札から速攻魔法『アクションマジック-フルターン』を発動!このターンモンスター同士の戦闘で発生するお互いのダメージは倍になる!」
「これでワンショットキル圏内よ!」
「くっ、リバースカードオープン!『銀幕の鏡壁』!」
「このカードが存在する限り相手の攻撃モンスターの攻撃力は半分になる!これでクリスタルウイングが攻撃してきてもその攻撃力は2000だ!」
「.......そう」
(この瞬間、魔法罠の効果に反応するSCのモンスター効果の発動条件を満たしたが...おそらくあのモンスターもクリアウイングと同じようにモンスター効果を無効にして破壊する効果がある。発動するのは危険だな)
「でも言ったでしょ?"先頭の景色は譲らない"って!」カンコーン!
「なにっ!?」
「バトルフェイズ!クリスタルウイングシンクロドラゴンで、ハーピィレディSCに攻撃!」
「バカな!?銀幕の鏡壁の効果でクリスタルウイングの攻撃力は半分になるんだぞ!?SCには届かない!」
クリスタル(ATK4000→2000)
「クリスタルウイングの効果発動!このモンスターがレベル5以上のモンスターとバトルする時、バトルする相手の攻撃力分その攻撃力をアップする!」
「なんだと!?」
クリスタル(ATK2000→4800)
「攻撃力が逆転した!?」
「攻撃力の差は2000...そして私が受けるダメージはフルターンにより倍化し4000!初期ライフを一撃で!?」
「"烈風のクリスタロスエッジ"!!!!」
クリスタル「ギャオオオオオオオオオオオ!!!」
「うあああああああああ!!!!!」(LP4000→0)
やった!
見てましたかトレーナーさん、私のフィールを!
見ていますか?この最高の景色を!
これだけ速く、強く走れば、きっとトレーナーさんの本気も...
あれ?
いたい、脚が、前に出ない
ゴールの先、トレーナーさんとチームのみんなが待っている場所へ駆けようと足を踏み出したその時、脚の感覚が急に消え去った
視界がスローモーションで進んでいく中で、緑の芝がどんどん目の前に近づいてくる
最高速のまま力を失った私の身体は、そのまま地面に叩きつけられ...
「スズカっ!!」ガシィッ
...る事はなく、席を飛び出しものすごい速度で走ってきたタイシンに抱き留められた
それに遅れてトレーナーさんも青い顔で走ってくる
「脚を地面につけるな!早くタンカもってこい!早く!」
「しっかりしてスズカ!トレーナーもいるから!」
ああ、なんで
わたし、そんな顔をさせたいわけじゃなかったのに
トレーナーさん、私はまだ、貴方の求める速度には足りていなかったの...?
なら、もっと頑張らないとですね
いつか新しい地平の扉開いたその先の景色を一緒に見れるまで
待っていてください、トレーナーさん...!
◆
「その後すぐに気を失ったスズカを病院まで運んで、なんとか一命はとりとめた」
「医者は本来命があっただけでも奇跡だって言ってた。あんな無茶をして骨折で済んでたのはもはや意味が分からないってよ」
「その上、もう走れないとまで言われたあいつが再び復活したのは...奇跡という言葉ですら足りないだろうな」
「それは...痣の力に守られてたから?」
「どうかな、そうかもしれない。あの痣の光がスズカを守ったのかも」
「だけどあの故障の後...例の菊花賞の事件と、ブルボンの怪我があったろ?」
「...ええ、あの時は本当に心配したわ」
「確かにあのレースで5Usは伝説のチームと呼ばれるようになった。だけどそれと同時に、あのレースから何かの歯車が狂い始めたと思うんだ」
「スズカ、ライス、ブルボン...メンバーの半数がレースに出られなくなり、実質的なチーム半壊...その間なんとかタイシンとキングがレースで結果を残してチームを支えてくれなかったら、皆が復帰する前に5Usが解体されてもおかしくなかった」
「折角の勝利だったのに、なんか不安が残ってたんだよな。あの後エアグルーヴにも『スズカを止められなくてすまなかった...』って謝られたもんだから逆にこっちが申し訳なくなっちまったよ。あの子は何も悪くないのにな」
「それであの子しばらく調子が悪かったのね...」
「だけど、あのレースを見た時や、なんとか絶望から立ち直ろうとするあいつらを見て、あの日理事長が俺をトレセンに連れてきた理由が何となくわかった気がしたんだ」
「へぇー、その理由は?」
「秘密」
「えー」
「さて、たづなさんへの土産話はこれくらいで十分か?」
「えっ!?な、何の話かしらー?」
「最初にライスのお祝いが言いたかったって言ってたろ?でもそんなのお前なら、わざわざ俺を通さずに本人に直接会いに行くはずだ」
「祝いは建前で、本当はたづなさんあたりに今回の痣が光った件についてそれとなく情報を聞き出してきてって頼まれたんじゃないか?マルゼンとたづなさん仲いいって話聞くし」
「...流石ね。そこまでバレちゃってたの」
「一応誓って言うが、俺が知ってる事はちゃんと全部話してる。というか、本人たちも未だに"ウマグナー"の事はよく知らないんだよ」
「知ってるのは多分、5Usを作った理事長だけ。一番理事長とかかわりが深いたづなさんが何も聞いてないんなら、俺たちが何か知るのもまだ先なんだろうさ」
「正直俺も今日のレースでみんなの痣が光出したとき、ライスまで故障したのかと思ってヒヤッとしたよ。結局ライスは無事にレースを終えたけど、たづなさんもその辺が心配だったんじゃないか?」
「たづなちゃんは心配してるのよ。理事長が急に無茶をするようになったから」
「貴方はどう?ここ最近のイケイケな理事長の事、どう思う?」
「俺はそもそもここ最近の理事長しか知らないんだけどな...でも、俺がトレセンに来たのはあの人が語った理想に夢を見たからだ」
「だから信じるさ。あの人はちょくちょく暴走気味になるけど、でも本気でウマ娘の事を想ってるのは確かだからな」
「そう...貴方がそう言うならきっとバッチグーなのね」
「あ、でも最近あの人が抱えてる事で一つ分かったことがある」
「え?」
「"ミレニアム・カード"の事だ。おそらく、俺たち5Usの持つミレニアムカードには何か、他の"ミレニアム・カード"にはない秘密がある」
「秘密って?どういうことなの?」
「URAから進呈された大体のミレニアムカードは、そのウマ娘が使用しているデッキやモンスター、カテゴリをイメージしたものになってる」
「マックイーンのホワイトは元々あいつが使っていたアームドドラゴンをモチーフにした進化形態だし、お前の持ってるやつもお前のエースモンスター、"古代の機械巨人"をモチーフにしたカードだ」
「確かにそうね。ルドルフの持っているものも、元々使っていたデッキのエースモンスターをモチーフにしたものだし」
「だけど5Usに渡されたカードは違う、それぞれ得意な召喚法に合わせてはあるけど、モンスターそのものに今まで使っていたデッキへの関連性が見当たらない」
「クリアウイングとSR...同じなのは風属性のシンクロモンスターである事くらいだ。でも他のミレニアムと同じなら、SRモンスターじゃないとおかしいだろ」
「!!」
「それにライスのカオス・ソルジャーも儀式モンスターである事以外に今まで使ってきたモンスターと関連性が無い」
「そんな不自然なミレニアムだからこそ、本来なら存在しないはずのサポートカードや派生形態が存在するのかもしれない...ってことかしら?」
「さぁ?それも知ってるとしたら理事長だけだろうな」
「...さて、飯も食い終わったし話もひと段落だ。そろそろ帰るか」
「待って、もう一つ話しておきたいことがあるの」
「え?まだなんか聞いて来いって言われてんの?」
「いいえ、これは私の個人的な話よ。どうせ明日には公開されるけど、その前に貴方には話しておきたいの」
「...?」
「実は私、もうすぐ...」
◆
「そうか...寂しくなるな」
「いや、寧ろ大分長引かせた方なのか?」
「そうね。ルドルフや同期のみんなはもうとっくに移籍してたんだけど、私の場合は...責任、かしらね」
「あの一件で、URAやトゥインクルシリーズには沢山迷惑をかけちゃったから、その分少しでも長くトゥインクルシリーズを盛り上げなきゃって思ってたのよ」
「でも、この前入部テストを受けに来たスぺちゃんにエルちゃん、それにグラスちゃんやあなた達5Usのデュエルを見て、もう大丈夫だなって思ったわ。今のトゥインクルはもう、私が盛り上げなくてもスターウマ娘がたっくさんいるもの!」
「だから、この辺りを区切りにしようと思うの」
「そうか。それなら俺たちもその期待に応えられるよう頑張らないとな」
「あの時は、貴方達にも迷惑かけたわね」
「私のせいで、『ライディングデュエル』は...」
「やめろ」
「!!」
「あの件は一つのきっかけに過ぎなかった。お前が何もしなくても、ただちょっと寿命が延びただけだっただろう」
「遅かれ早かれ、あれが俺たち"Dホイーラー"の運命だったのさ。だから自分を責めるな、俺たちはお前を絶対に恨んじゃいないから」
「.......」
「本当は今でも思うよ、例え命を懸ける事になってもお前とは決着をつけたいと。だけどもうお互い立場がある、バレなきゃいいって問題じゃないからな」
「"人間とウマ娘は、スタンディングデュエルの様な静止した状態以外でデュエルをしてはならない"、悲しいけど仕方のない規則なのよね」
「ただでさえ人間より高いウマ娘のフィール、そこに圧倒的な脚力による加速が加わったフィールを身体的に劣る人間の身で受けたら、本当に死人が出かねない」
「俺たちは、お前たちと本気のデュエルをすることは出来ない」
「もし、モーメントの開発が止まってなければ...」
「言っても仕方がないさ。確かにあれは俺たち人間がお前たちと同じ舞台へ上がれるかもしれない、夢のような代物だったけどさ。一歩間違えりゃ世界を滅ぼすかもしれないなんて聞かされちゃ諦めるしかないじゃないか」
「何か恐ろしい事態を招く前に、歴史の闇に埋もれさせたほうが良かったのさ」
「そう、ね......」
「まぁ何にせよ、新しい舞台でもがんばれよ」
「俺の永遠のライバル、マルゼンスキー!」
◆
翌日、そのニュースは瞬く間に全世界へと広まった
【マルゼンスキー、ドリームトロフィーへ移籍表明!】
トゥインクルシリーズのスターウマ娘、マルゼンスキーの移籍
それはもう二度と彼女がトゥインクルシリーズに属するレースへ参加できなくなることを意味する
そして同時に、彼女がより苛烈な新たな戦いの舞台へと上がることを意味する
人々の受け取り方は様々だった。
悲報でもあり、だけど新たな夢が生まれる福音でもあった
「......え」
......そして
彼女となぞらえて『2世』と呼ばれたあるウマ娘にとっては
自身の目標と相まみえる機会が失われたことを告げる、余りにも残酷な知らせだった
「トレセン学園がお送りする、今日の最強カードのコーナーです。解説は私、サイレンススズカと」
「スズカさんのルームメイトでおなじみスペシャルウィークです!」
「今回紹介するのは私のエースモンスタークリアウイング...の新しい姿、『クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン』よ」
シンクロ・効果モンスター
星8/風属性/ドラゴン族/攻3000/守2500
チューナー+チューナー以外のSモンスター1体以上
(1):1ターンに1度、このカード以外のモンスターの効果が発動した時に発動できる。
その発動を無効にし破壊する。
この効果でモンスターを破壊した場合、
このカードの攻撃力はターン終了時まで、
この効果で破壊したモンスターの元々の攻撃力分アップする。
(2):このカードがレベル5以上の相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時に発動する。
このカードの攻撃力はそのダメージ計算時のみ、
戦闘を行う相手モンスターの攻撃力分アップする。
「戦闘では無敵の攻撃力上昇に、相手モンスター効果を許さない封殺効果まで...素材にシンクロモンスターが必要とは言えインチキっぽいですね!」
「なんでかしら?褒めてる振りしてボロクソに言わたような気がするのだけど」
「だっていきなり進化とかしてるのルール違反っぽくないですか?」
「デュエルディスクが反応してるからいいのよ」
「えぇ...」←データベースに存在しないデッキを使ってる人
「とにかく、私のお気に入りの魔法カード『アクションマジック・フルターン』とのコンボすれば1ターンに6000の戦闘ダメージを与えて、LP4000のランニングデュエルでは一気にワンショットキルに持っていける、私の大逃げデュエルにすっごくマッチしたモンスターなのよ」
「でもインチキっぽくないですか?」
「インチキじゃないもん!!」