トーコ視点
元ムラクモ所属というヒムロとやらを連れ帰ったのだが、都庁の様子がおかしい事に私達は困惑した
一階にいる防衛に協力的な人達は「もうお前ら逃げていいぞ」とさも不愉快そうに言っていた
ナビである2人も珍しい事に都庁への帰還を先延ばししようとしていた。
そこで私達は気づけばよかった
イヌヅカ総理視点
今、ムラクモ司令部には『市民代表』と名乗る数名の避難民がいた
本来なら、この階層とムラクモ13班と10班の部屋のある階層には原則立ち入り禁止との通達をしている
これは冷静な判断が出来るかどうか怪しい民間人から作戦内容を秘匿する為であった
情けなさ過ぎる話であっても、私は日本の総理。今の最善策はナツメくん不在のムラクモと自衛隊の連携の強化と信頼回復。それに加えて増加しつつある避難民の安全の確保である
直視したくない話ではあるが、市ヶ谷の防衛省本部も壊滅したとの報告もある以上、これからの大規模な戦力補充は無理と考えなければならないだろう
帝竜とやらを討伐出来たとして、徐々に人口の増加する都庁において実働部隊であるムラクモ13班や自衛隊に余計な負担をかけない様にする事こそが、今の私の職務であると信じている
だからこそ、ナツメくんやキリノ君達とも打ち合わせた上で一部の階層への避難民の立ち入りを禁止しているのだ
確かに東京都庁における食糧の備蓄量は他にあるかも知れない拠点と比べても多いだろう
が、それとて無限にある訳でもない。空腹を満たす程度で自重しなければ、いつまでこの生活が続くのかわからない状況下で命取りになる事もあるだろう。それ故の配給制である
勿論、それに反発している者達が居るのは知っていた
だが、まさか自分達の置かれている状況を冷静に見れない者がここまで多いとは考え付かなかった
いや、思いたくもなかった
「・・・つまり君達はこう言いたいのかね?現在命懸けで戦っている者達に対して充分な補給をしているのがおかしい、と」
「そうは言いません。ですが、命懸けと仰られていますが自衛隊やムラクモとやらの2人は分かります。しかしです、あの少年少女が命懸けで戦っているなどと言うのは信じられません」
メガネをかけた男はそう語る
「君達が見ていないだけ。という可能性は考慮しないのかね?
それにこの東京都庁には彼等に助けられた者もそれなりにいるはずだが?」
「と申されましても、その者達は発見こそされはしたものの、助けに来たのは自衛隊員だと言っていましたが?」
「『助けを待っていた』というのは理解しているのだね
では、その者達が何故救助を待たなければならなかったのか?そこに考えを及ぼさないのかね
彼等は魔物に追いかけられていたなどの理由から自力で脱出できなかったのだよ。救助行為は自衛隊の任務であり、君の言うところの少年少女は未踏破地域の調査だ
詳しい事情も知らないのに、一方的に文句を言うのは問題ではないかな」
「それはそうやも知れません
ですが、私達とてもっとマトモな生活を送る権利はあるはずです!」
私の話に動揺した様に怒鳴る代表とやら
「確かに君達にも『権利』はあるだろう。それは例え誰であっても否定できないし、私がさせない
だが、であるならばその『権利』に付随するべき君達の『義務』は何かね?
この様な非常時において、義務などと無粋な事は私とて言いたくはないよ
しかし、君達は少なくとも
食料について君達は不満があるそうだが、此処の食料事情について考えた事はあるかね?お金を出したからといって今までのように手に入る状況ではないのだよ」
「しかしっ!私達には文明的な生活を送る権利があり、ましてや日々の生活に困窮するなどあってはならないはずです!」
「では逆に聞きたいが、どうやって食料を安定供給するのかね?現状において物流網は勿論、生産拠点も壊滅している始末。仮に生産拠点が稼働していたとしても、その設備を稼働させるための人員、電力などがマトモに確保できるとでもいうのかね?
百歩譲って稼働できたとして、それをどうやって
気持ちは痛いほど分かるが、それは今現在では不可能なのだよ」
「それこそ、自衛隊などを動員すれば」
「そうなれば、生存者の救出や此処の警備に支障が出るだろう。それでは本末転倒ではないのかね?」
「う、ぐ」
「君たちも大人だろう?
であるならば、この様な状況で不平不満ばかり言ってもどうにもならない事くらいは理解できる筈だ
仮に彼等の行動を阻害する様な事をしたのであれば、甚だ遺憾ではあるが君たちを都庁から追放する事になるだろう。それだけは覚悟しておいてくれたまえよ?」
「っ!」
代表以外のメンバーが私を睨んできたが、その程度どうとも思わない
元より私は情けない総理だと思っている
この非常事態になる前から世間では『お飾り総理』と揶揄されてきた私だ。何一つ、私自身で決定する事は叶わない。党の重鎮達の操り人形としてしか、私の存在意義はなかっただろう
だが、今の状況下において、私を始め議員は僅か2人だけだ。アリアケ君と私のみ
もう1人いたが、彼は都庁に向かう道中私達を庇って亡くなった
であればこそ、私は自身の無力さを痛感しているし、現場で戦っているムラクモや自衛隊の苦労を多少なりとも理解できるつもりだ
だからこそ、だからこそ。私は彼等の負担を少しでも減らさねばならない。
でなければ、私が此処にいる意味はないのだから
第三者視点
『自由な生活を取り戻す会』の面々は渋い顔をしながら、フロアを後にした
彼等は窮屈で不自由な今の生活を何とか打開しようとしていた
現状で現金など何の意味も持たない。だが、彼等の殆どは所謂富裕層と呼ばれていた者たちであり、何一つ不自由なく過ごせてきた者達だ。それ故にこの様な貧しい生活など認めたくもなかった
最初はフロア管理者に話を持っていったが、管理者は全く取り合わなかった
彼等は自分達で様々な方法を用いて自分達の周りのものを用意しようとした
だが、彼等は『与えられる側』あり『創り出す側』ではなかった
この様な状況下で我儘にしか見えない彼等を好意的に見るものは殆どいなかった
あらゆる手管を利用して何とかしようとするものの、逆に上手く利用されて与えられた物を無為に失う始末である
そこで彼等は『弱腰』と言われていたイヌヅカ総理への直談判を強行したのだ
所詮、大した事はない。そうたかを括っていた彼等は確固たる信念を持つ総理相手に完敗した
だが、この手合いは往々にして諦めの悪いものである
都庁、一階フロアに彼等の姿はあった
「協力しろだぁ?」
「ええ。私達の生活は不当に虐げられています
であるならば、それに抗う事が必要だと私どもは考えているのです」
話をしているのは、エントランスエリアの中心人物である壮年の男性
彼がきっかけとなり、都庁の最終防衛線となるものが構築されているのは都庁に住むもの達の常識
ある程度の力を持つ彼等を味方に引き入れれば、総理とて自分達に配慮する他ない。そういった考えで此処に来ていた
「は、ふざけんな」
男性は彼等を鼻で笑った
「アンタらの話は聞こえているぞ?
何でも配給に不平不満ばかり言ってるってな」
「不平不満ではなく、正当な権利だと」
「それが寝言だって言ってるんだ
じゃあ聞くが、アンタらは此処に来て何をしたよ?」
「それは」
「このフロアにいる者達は自衛隊やムラクモっていう組織の連中に全てを任せるのを良しとしない者達だ
アンタらは知らないだろうが、ガキ達はいつもボロボロになっつ帰ってくるんだ
外に出て、自衛隊の連中のいないところにアンタらは行けるか?」
「行く必要がないでしょう」
「必要はあるんだよ。此処、都庁の物資は日々減っている。だから自衛隊はムラクモの連中はそれを確保しなくちゃなんねぇ
だけどな、そんな事ばっかしても意味はないんだよ。結局のところ、緩やかに死んでいくだけだろう
重要なのは、此処を守る事とドラゴン達を倒す事。そうやって少しずつでもセーフティーゾーンを増やすしかねぇ」
「む」
「その為に俺たちがする事は連中に協力する事だ。間違っても自分達の事ばかり主張して足を引っ張ることじゃねぇ
そんくらいのこともわかんねぇのか、アンタらは」
「それは彼等の言っている事が正しい場合のみでしょう!」
「じゃあ、確かめてみろよ」
男性は事も投げに言い放つ
「外に出て、1キロ先にある百貨店から物資を持ってくる
アンタらが外が安全だと思ってるんなら、簡単だろ?」
「そ、それは」
色々文句を言っている彼とて理解している
外は文字通り『地獄』なのだと。生きているだけでも幸運なのも
だが、それでも彼や彼の仲間にとって甘美な誘惑なのだ
元の生活に戻る事が
だからそのために人を利用する事も厭わないし、躊躇うつもりもない
そうでなければ、私達の様な者は生き残れないのだから
彼は内心の不満を押し隠してその場を後にした
「全く、どうなる事やら」
壮年の男性はため息をついた
彼がこのエントランスエリアでまとめ役の様なものをしている理由は、彼が率先してムラクモや自衛隊に協力したからである
彼は都庁が開放されてから合流した人間だが、それ故に今の外での生活が如何に危険なのか承知していた
かつては剣道をしていた事もあり、多少なりとも魔物と戦えたが故にこそ、彼はどれだけ危険なのかを文字通り『身をもって』理解している
であればこそ、多少気に食わないムラクモとかいう連中にも彼は敬意を払っている。
といっても、彼が敬意を払っているのは前線に出ているムラクモの人間だけであり、間違ってもムラクモ本部や後方支援役のムラクモに良い感情などかけらも持ち合わせてはいないのだが
確かに指揮官が前線に出る必要はないだろう
だが、ナツメとかいう女。あれは明らかに他の事を目指している様に彼からは見える。更に時折出てくる異常なまでの力への渇望。いや、あそこまでいくと、もはや信仰の域であるとすら思えてしまう
それを止めるべき立場のキリノとかいう男も気に入らない
副官とは組織を上手く運営する為にこそ機能すべきであって、ナツメというトップに盲目的に従ってはならない筈。ところが、あの男は事あるごとに
あの女が自衛隊の隊員や一般人から蛇蝎の如く嫌われているにも関わらず、だ。目的の為には手段を選ばないタイプなのだろうが、そんな事では人がついてこなくなる
本来なら、キリノの役目はナツメを諌めることであり、間違っても周囲にあの女への理解を求める事ではないだろう
だからこそ、ムラクモという括りに前線で戦っている子供達すら入れられてしまう。そして、先入観と自己弁護の為に子供達は前線で戦ってないという訳の分からない論理に飛躍してしまう
今の都庁は解放されて程ないからこそ、未だ何とかなっているが、これが長く続くとなると致命的な崩壊につながりかねないのではないだろうか?
余りにも不安定過ぎる状況である事を果たしてこの都庁の中でどれだけ認識しているのか、彼は情けなくなった
キリノ視点
13班と自衛隊員達が帰還した。聞くところによると、天球儀の帝竜らしきものを遠目に確認したらしい
彼等だけならそこまで詳しい偵察は出来なかったが
「そうか。君がいたのなら納得だよ」
「ふん。相変わらず、あの女の召使いやってんのか」
「手厳しいね」
「は、ふざけるなよ。お前らがどれだけ優秀なのかは知らないし、知りたくも無いが、子供までこんなことに付き合わせる
「そう、だね」
ボクは彼の言う事に何一つ反論出来なかった
彼の名はヒムロ。元ムラクモ実働班の1人であり、先日亡くなったガトウや現在療養中のアカツキの同僚だった人物だ
とある事件の後、総長であるナツメさんの方針についていけないとムラクモを辞していた。稀有な能力である『短距離テレポート』を操れる人物であり、彼がいたからこそ帝竜の付近まで進めれたのだろう
「協力はお願い出来るのかい?」
「生憎たが、お前らの指示は受ける気もない
だが、
「分かった。それで構わないよ」
「後一つ。あの女には黙ってろよ?」
「分かった」
13班のリーダーであるフェルくんは体調不良という事で自室に先に戻っている。他のトーコくんとアオイくん。それに自衛隊の堂島隊長達からの視線も好意的とは言い難い
はっきり口にしてくれるフェルくんが居てくれた方が遥かにマシだったのだろう
???視点
まずいわね。最初の帝竜のコアがない以上、計画が進まない
更にそれを補えた筈の資材は余計なものを作ったせいで枯渇した
邪魔になるかも知れない
いえ、まだ駄目ね
まだ素材が全然足りない。恐らく二体か三体。その位の数があれば『コレ』は完成する
そうすれば
様々な思惑の交差する中で天球儀の帝竜と対峙する事となる
だが、これにより更なる混乱を招く事になるのだが、今の彼等は誰も知らなかった
信じられないが、未だ帝竜一体も倒せてないんだよなぁ
何話かからんやろか、これ
そして、続編まで書く気だから
うん。ヤバい(白目)