アオイ視点
四谷にいた帝竜を倒した私たちは奇妙な指示を受けた
池袋、四谷と攻略したのに何を思ったのか渋谷の探索を命じられたのだ
此処新宿から確かに四谷や池袋よりも近いといえばそうかも知れない
けれど、いきなり食糧確保のために渋谷探索と言われても違和感しか感じない
現在、堂島隊長以下自衛隊は物資調達の隊と避難民保護の隊。そして新宿防衛の隊と都庁に待機させている本隊に分かれている
といっても、堂島隊長曰く「隊というほどの規模はない」そうだが
池袋にて甚大な人的被害を受けた自衛隊。それでも堂島隊長やマカベ長官にイヌヅカ総理が話し合い、現状を打開しようと必死になっている
トーコやフェルに私は今後のことを話し合った。それに2人の師匠みたいなトモエさん(春川朋絵さんというらしいが)とシンさん(初来慎さん)は作戦行動なんかの相談にのってくれた
都庁で騒ぎを起こしていた人達は何とかなったと聞いている
ドラゴンを人類に遣わされた使者なんて言っていた人達もいつのまにかいなくなっていた
結論としては、残酷かも知れないが地道に一つずつ拠点を増やしていくしかない。というものに落ち着いた
フェルは都庁の食糧備蓄担当者とも親しいらしく、現在の貯蓄量ではひと月ももたないと聞いたそうだ
現在もこの都庁への避難民の流入は止まらない。と警護担当の自衛隊の人からも聞いている
にも関わらず、総長と補佐は食糧問題は自衛隊に丸投げしている始末
勿論、私たちの負担を考えれば分からなくもない
ないが、キリノ補佐はいざ知らず、ナツメ総長については信用ならない。またぞろ余計なことをしでかす可能性は高いと見ている
既にフェルや私たちには打診されているが、私達ムラクモ13班をイヌヅカ総理直轄にしたいとの事だ
トーコと私はどうかと思っているが、フェルは悪く思っていない様子
フェルはマカベ国防長官とムラクモの双方に指揮権を持たせるべきではないかと私たちに話してくれた
もし、ムラクモとマカベ国防長官の意見が割れた場合は協議の上で方針を決定。それが叶わない時においては、13班班長としてフェルが判断する。という事らしい
あくまでもムラクモ機関は政府の一組織に過ぎず、その権限はイヌヅカ総理の許可あってのこと
だが、ドラゴン襲来直前の試験や無謀ともいえた第一次池袋天球儀攻略作戦。それにより謹慎処分となったからといって、司令部には顔を出さないのに研究室には出入りしているという事実をもってイヌヅカ総理とマカベ長官はその権限の縮小に踏み切ろうとしていた
そも、ムラクモ機関は様々なセクションに細分化されており、物資などの困窮しがちな現状においても最優先で補給などを回されている
現状打破のためとはいえども、問題視せねばならなかったのである
ムラクモ実働班たる13班に池袋にて壊滅した10班
ワジ主任とケイマさん、レイミさんからなるムラクモ装備開発班
ミヤが所属するムラクモ建設班
その他にも様々な班が存在し、そのいずれにも潤沢と一般的な都庁で生活している者からは見えるほどの資金や物資が充てがわれている
とはいえ、これは不当ではないし、むしろ当たり前の事であるとは思うのだけど
現状打破の為の
帝竜などに対峙するというのに、空腹で実力が発揮できないなどというのは笑い事にもなりはしない。それにそれで欠員が出ようものなら、その補充とて容易ではない
ムラクモの試験を受けた者たちの中で、現在まで積極的にムラクモの活動に協力しているのは僅か2名のみ
殆どの者たちは選抜試験により、心をへし折られていたのだから
戦力的な視点で言えば、フェルは足手纏いといえるだろう
本来の適性職であるはずのハッカーでなく、ナツメ総長の独断により適性の落ちるサイキックとしている事で彼の戦力としての価値は13班の中では最低である
仮に戦力的、時間的余裕があるのであれば、サイキックとしてではなくハッカーとしての能力を磨くべきだろうが、それを許せるほどに状況は良くなかった
更に現在、その権限を失いつつあるとはいえども
彼女がフェルの職をハッカーでなく、サイキックとした以上はこれを覆せるのはやはりナツメ総長のみ
ただ、フェルは戦力として以上に調整役としての能力に秀でているのも事実だった
好悪がひどいとは言え、優先すべき事象を間違える事はない
自衛隊や政府関係者との関係も良好としている
一番困るのは、13班が独断専行をする事やムラクモ上層部に同調する事であるとイヌヅカやマカベは認識している
そういう意味において、今の13班はかなり理性的な判断が出来ていると評価していたのだ
当然、その様な状況を自ら崩す必然性をイヌヅカたちは感じていなかったのである
だが、13班とは決戦戦力であり、避難している者達の性根もわからない以上は距離を取らせる他ない
それが市民からの無理解につながっているのではあるが
古来より籠城戦において、何よりも気にしなければならないのは内からの崩壊である
常に外部からの圧迫を受け続けている以上、精神は摩耗し、体力や気力は疲弊していく
今回の場合は外圧を加えるのは、
それらを見た事があるものはいるだろう
だが、直接戦ったものなどは数えるほどであろう事は容易に想像できる
ダンジョンは見れるだろう
だが、それとて
対して、都庁にて活動しているムラクモの各班はその活動や貢献が皆に広く見えている
更に彼等の働きが自分たちの生活の安定に寄与している事からも早々非難するものは現れない
その原資である、資材は全て13班が中心となって集めているというにも関わらず、だ
自衛隊ではダンジョン内を徘徊するドラゴン1匹を打倒するにも、大量の人員と弾薬などが必要となる
当たり前であるが、銃火器の弾薬は生えてくるものではない
常にそれらは減少し続けているのだ
現在、東京圏内において自衛隊が
大量の食料品を入手できるだろう新宿と池袋を何とか制圧できているからこそ、食料品には今のところは不足しないだろう
だが、武器弾薬は補給の目処がたっていないのが現状である
防衛省のある市ヶ谷は幸いにして安全圏内であるが、あくまでも市ヶ谷は部隊を大量に配備しているところではなく、全国の自衛隊駐屯地などを指揮、統括するところである
自然、武器弾薬の類はあったとしてもそこまでの数にはならない
初期のドラゴン来襲の際に市ヶ谷は頑強な抵抗を見せたらしく、それゆえに相手からも集中的に狙われたのだろう
防衛省の建物は見る影もないほどに破壊され、周辺のバリケードなども粉砕されていた
更に問題なのは、一部の生存者達が武器を求めて防衛省や近くの警察署などに殺到していた様であり、大量の銃火器や弾薬が行方不明になっていたのである
結果として、ただでさえ少ない物資が更に少なくなってしまっていたのだ
頭を悩ませる問題として、それらの銃火器を得た一部の民衆が独自のコミュニティを作っている事も会議にて示唆されていた
事実、自衛隊の死者の内の何人かはそう言った類のグループからの攻撃で発生している
彼等は自分たちの生存を優先しているのではなく、自分たちがより良い生活をする為に周辺の人々を恫喝している可能性も浮上していた
マカベ長官は、池袋攻略後に練馬方面への展開を求めていた
練馬や隣接する朝霞には自衛隊の駐屯地があり、そこでの弾薬の補充が出来る事が期待できたからである
とはいえ、帝竜反応のあった四谷を無視する事はマカベ長官にも出来るはずもなかったが
それに対して、13班の戦力維持にかかるコストは非常に安価といえる
確かに武器の手入れや医療品の確保は必要だろう
だが、それは自衛隊とて同じことなのだ
加えて言うのであれば、13班の装備は基本的に開発の原資はDzであり、これはドラゴンを討伐する事により手に入れられる物資なのだ
つまり、13班は戦闘する事により装備の改良の為の物資も補給出来ると言うわけであり、備蓄場所を解放するよりも早いのは明白だった
帝竜を打倒したといえ、四谷を現在の勢力圏として維持するには余りにも負担が大きいとキリノ補佐はイヌヅカ総理に提案し、総理もそれを認めた
優先すべきは現状の戦力で維持できる最大限の範囲を維持すること
加えて、医療物資、食糧、弾薬などが効率的に運用できる様にする事なのだ
現在、自衛隊の戦時指揮官を務めている堂島隊長
仮に彼女より高い階級の人物が今後合流したとしても、イヌヅカ総理とマカベ長官は指揮官を変えるつもりはない
合流した人物がムラクモとの共同戦線に同意するかもわからないし、一々そんな事に時間を割く必要を二人は認めないからだ
そんな状況にあるのが現在の都庁だった
様々な思惑が交差し、己がより良い未来のために最善と思う手を打つ。その繰り返し
私たちはキリノ補佐から指示を受けて、渋谷に来ていた
これが、渋谷なのか
何ともいえない惨状だな、これは
トーコとフェルが驚くのも無理はない
テレビでしか見た事がない風景だったが、ところどころに草木が茂り、人の生活していた息吹が感じられなかったのだから
勿論、魔物達やドラゴンの息吹は感じられているのだが
道玄坂方面へと向かう私達だったが
ストップ
どうした?
フェルがいきなりストップと声を上げた
こりゃ、いるな。生存者が
フェルは断言した
此方13班、この辺に生体反応はあるか?ミロクにミイナ?
ちょっと待ってくれ
ノイズが酷くて、少し調整が必要だと思います
フェルが本部に問いかけるとナビゲートの2人からそう返答があった
此方犬塚だ、13班。私としては一度帰還して其方に通信用の中継端末を設置すべきではないかとおもっているのだが、どうだろうか?
慌ただしく作業しているナビゲートの2人の声の後に総理からの提案があった
此方班長。少し話し合う時間を貰いたいのですが?
構わない。結論が出たら通信してくれ給え
んで、どーするよ?
ふむ。確かに犬塚総理の提案も一理あるだろうな
そうですよね
通信の後、私達は近くの気配に気を払いながら話し合いをしていた
実際問題として、総理は
総理は言っていた
君たちには本当に申し訳なく思っている
本来ならば護るべき立場の筈なのに、護るどころか我々大人の都合で常に命の危険がある場所へと放り込まれているのだから
どれだけ恨み言を言ってくれても良い。私や此処にいるアリアケ君、マカベ君にはどんな些細な不満でもぶつけてくれて構わない
それでも、それでも、だ
不甲斐ない我々はまだ年若い君たちに希望を託すしかないのだ
だが、忘れないでくれ給え。君たちの命は何よりも大切なものだ。少しでも危険を感じたならば、必ず相談してくれ
その後、キリノさんと話し合いの結果、現在のムラクモ機関に対する行動に疑義が生じたとして、ムラクモ機関総長日暈棗の権限を一時的に剥奪。ムラクモ施設内への一切の立ち入りを原則禁止とした上で、新設したフロアの空き部屋に拘禁の措置が決定されたそうだ
キリノさんはこの決定に最後まで抵抗したそうだけど、参加者はイヌヅカ総理とキリノさんに市民の意見をまとめあげてくれている事から、フジタさんという人物が市民代表として選ばれて参加していたらしいが、キリノさん自身もあの女のやり方に加担していた側であった為にかなり厳しい事を言われたそうだ
幸いというべきか、アカツキさんもようやく都庁内とはいえ動けるようになった事と元ムラクモ実働班のヒムロさんが加わった事もあり、アカツキさんがオブサーバーとして話し合いに出席していたと聞く
後で聞いた話だが、イヌヅカ総理やマカベ長官は決してムラクモそのものに疑念を抱いているわけではなく、あくまでも総長であるナツメとその補佐役であるキリノさんのやり方に危険なものを感じているみたいだったそうだ
とは言っても、そこら辺の話は私やトーコには分かりにくい話なので聞かれたら答えるくらいのスタンスで良いと思っている
フェルもそれで良いって言ってるし、大丈夫だよね?
その判断を私とトーコは一年後に後悔する事になるなんて思わなかった
トーコ視点
中継器か
よく分からない私を見てとったのか
中継器ってのは、今の
池袋でも大変だったろ?
そう、だな
うん
池袋の事を思うと気分が落ち込んでしまう
現在の私達が置かれている状況はまさしく地獄の様なものだろう
いつ来るか分からない帝竜
日々減りゆく備蓄物資
進まぬ攻略
はっきり言えば、フェルを無理矢理連れて来たあの日の自分を殴りつけたい気分だ
イヌヅカ総理やマカベ長官、アリアケ議員や市民代表のフジタ氏は理解してくれている
なのに、他ならぬ直属の上司が現場の被害に対して無理解ときたのだからたまったものではない
それだけでも勘弁願いたいというのに、
トーコはキリノ氏を多少信用している様だが正直なところ私は一切信用していない
先の会議でもナツメ総長の謹慎を解いてもらう様に総理達に頼み込んだらしい
自衛隊では堂島隊長がサスガ隊員などと協力して、自衛隊内における私達への悪感情をどうにかしようとしているとフェルから聞いた
自衛隊内においても、堂島新隊長を中心とした新体制の構築に苦慮しているとの話は私も聞いている
カマチ前隊長が他ならぬムラクモとの共同作戦において、半ば捨て駒の様な指示を受けたせいで亡くなった事が大きいとの事だ
カマチ前隊長は私達ムラクモと協調路線を隊員達を説得してまで維持しようとしてくれたのだと堂島隊長から聞いた
人望も厚く、マカベ長官からも信任を受けていた人物であり、叩き上げの部隊長だったとも
しかも、ドラゴン来襲の混乱の最中において何とか自衛隊が組織的に残ったのもカマチ前隊長の決断が大きかったと初来さんから聞いている
そんな人物がムラクモ機関主導の作戦において亡くなったのであれば、一部の隊員から私達ムラクモに対してよろしくない感情を持ってしまったとしても文句は言えないだろう
前回の四谷攻略作戦において、自衛隊が動かなかったのは池袋でのダメージが大きかったのと、隊内においての意見統一が出来なかった為だとも
恐らくだが、次の帝竜攻略作戦において自衛隊の協力を得るのは難しいというのがフェルの見立てだが、私もそうだと思っている
食糧確保の為にセーフティゾーンを増やしたい気持ちは痛いほど分かる
だが、何故今なのだろうか?
確かに新宿を中心とした領域を確保できたのは大きいのだろう
池袋、神田、四谷に渡る広大な地域
しかも、池袋、新大久保、新宿、神田とそれに隣接する秋葉原は都内でも有数の飲食店数を誇る地域らしい
となれば、食糧問題にも目処がつく
というのが、私が個人的に話をしている人物の言葉だ
本来なら、今の備蓄量だけで三ヶ月くらい保たせなきゃいけない
確かにあるに越した事はないんだろうが、時間が経つ毎に外部の食糧ってのはどんどん使えなくなるはずだ
でもよ、節制すればアンタらが毎日の様に外に出る必要はないんだがなぁ
初来さんや春川さんは言っていた
非日常に適応出来る人間なんて殆どいない
と
???
ねぇ、誰か来たみたいよ?
そのようだな、タケハヤどうする?
あの女の手下なら無視して良いだろうが、どうなんだろうな?
渋谷の奥深くに彼等はいた
帝竜を2体倒したか
さて、どうするのやら
タケハヤと呼ばれた男は楽しそうに呟いた
原作における都庁にせよ、議事堂にせよ奇跡的なバランスが保たれていたと思う
まぁ、議事堂の会議は面倒だとは思ったのだが