腐ってたのでお裾分けです。
No.42の戦士
気がついたら、緩くウェーブ掛かった髪が肩口付近まで伸びている白髪銀眼の幼女になっていた。周りも似たような感じの子供ばっかりだ。良くはわからんが訓練訓練の日々である。あと言葉がわからん。
そんなある日この世界がCLAYMORE の世界だと知った。いつ知ったかというと、戦士になるための試験中でのことだった。試験に指が伸びる妖魔が出てきてファッ!?っとなった。言葉が未だに片言なことから、特定の名詞がいまいちわかっておらず、戦士が一体何と戦っているのか知らなかったということから察して欲しい。
死が隣り合わせの世界に来てしまっていたわけだ。喰われることに怯える一般人じゃないだけマシだったと考えるか、はたまた、覚醒に怯える戦士になってしまって不運だったと思うか。主人公達のようにどうせなら人間として生き抜きたい。生き残りたい。
そんなこんなで、私は42番目の戦士となった。周りの訓練生と比べた時、素の身体能力は高めだが、妖力開放が極端に下手なため、後ろから数えたほうがはやい番号になったんだと思う。妖力開放をせずに戦うと仮定して、ある程度の番号の奴とは張り合えそうな気がする。妖力開放されたら40番台にも即座にやられそうではあるが……。
気合入れて開放しても、目ン玉の色が変わるくらいしか開放できない。自分の妖力とかいまいち感知できないんですけど……。
この世界がCLAYMORE の世界と知った後から、戦士たちの技を再現しようと努力してみたが……。
高速剣――妖力開放や妖力のコントロールが下手なため無理。
旋空剣――腕をぐるぐる出来ない。
漣の剣――鉛筆が曲がって見える感じのアレができた。
幻影 ――妖力開放が下手。
新幻影――1回くらいなら、まぁ……。試したら足がぷるっぷるになった。
風斬り――はやぶさ斬りになる。
よくよく考えてみると、お手軽に実力を超強化できる技は妖力開放が密接に絡んでいる。また、漣の剣や風斬り、新幻影等はソレ一本に絞った元の身体能力の底上げをしないと扱えない様に感じた。
結局諦めて、別の技を磨くことにした。しかし閃くまでは、まともに妖力開放ができないため磨くのは基礎能力と型くらいしか無い。
妖力開放での底上は早々に諦め、弱点を正確に何度も攻撃するために、身体を完璧に扱う修練を中心に行っている。さらにあまり効果があるのかわからないが、とある"自分ルール"の修行を行った。死線を越える中で藁にも縋りたい気持ちだったのだ。
修練中にわかったことだが、普通クレイモアは基本的に食事をあまり必要としない。ところが、別に食べられないというわけではないようだ。食欲は常にフラットだが、毎日胃袋に詰込むようにした。そういえば、主人公のクレアにイレーネが食い物を投げながら"もっと食え"と言ってた気がする。強さは蛋白質だよ。
「オリヴィア、次は西に2つほどいったところにある村だ。早めに終わらせろ」
黒服が、"いつもの"みたいな感覚で言ってくる。
普段期限ギリギリ辺りで到着して討伐するため、ちょっと眼を付けられているような気がする。原作を考えると、どっかで見てるのかもしれない。……まぁ、普通40番台なんて観察しないか。
期限ギリギリと言うのは、妖魔が腹を減らして村の住民を襲うラインを狙うためだ。妖気感知が下手なため、偶に隠れるのが上手い個体がいるとなかなか見つけ出せない。そのため、このようなスタイルに落ち着いた。どれが妖魔かは、極至近距離で見れば分かるのだが……。
「了解」
西に2つほどの村、アバウトな命令だが閑散としている為ほとんど迷うことはない。パンを焼くための竈の煙でだいたい位置はわかる。相変わらず、たどたどしくしか話ができないため微妙に苦労している。
「ふん。組織の戦士もすでに2人やられている。精々死なんようにな」
「ん、了解」
嫌味なのか応援なのか、いまいちわからない言葉で黒服が後ろから声をかけてきた。多分出来損ないへの嫌味だろう。適当に手を振って答えておく。
道中の町や村で胃袋に食事を無理して詰め込む。娯楽が少ないこの世界で、食べ慣れてしまえば食事は楽しみになり得た。漫画には描写がなかったが、胃袋には際限なく入るようで。満腹中枢は満腹を訴えているけれど。
「お嬢ちゃん、良い食いっぷりだね。クレイモアはみんなそんなに食べるのかい?」
驚いた顔をした店主が声をかけてくる。クレイモアをあまり恐れていないようだが……。
戦士たちの中でも小柄なせいで、お嬢ちゃんと呼びかけられがちである。
「ん、多分私だけ」
口に詰めたまましゃべる。あ、行儀が悪いっけ。
まぁ、クレイモアの中で行儀を気にする奴は少数派な気がするけど。
次の品が出てくるまでの手持ち無沙汰の間、うっとうしく飛んでいる蝿の眉間を使っていないフォークで串刺しにする。……6匹目。しょうもない小技ができるようになってきている。羽ばたきを目で追えるので、当然と言えば当然だが……。
約10人前ほどを完食し次の街へ移動する。
徒歩だが、どの依頼も1~3日程度の範囲が割り振られている。戦士によっては1、2週間ほど移動させられる戦士も居るようだ。
途中の泉で、小休止を取り訓練を行う。訓練生の時、クレイモア達のそれなりに実戦的な型を教えてもらっていたが、私の背が低いせいかあまりあってないように思えた。その為、訓練と言ってもこの世界に来る前に知っていた筋力トレーニングと見よう見まねの型が中心だ。高負荷で身体を限界まで使ってから休むことを繰り返している。戦士の回復力とある程度の成長しやすさがあるため、こんななんちゃってトレーニングでもかなり効果的に感じる。
村についてから、村長宅ヘ向う。今にも外れそうなドアをゆっくりと開けた。
払う金の勘定をしていたのか、金をぼとぼとと落としながら村長らしきおっさんがこっちを見ていた。
「ク、クレイモア……」
ゴクリと音が聞こえてきそうな動きで、村長が唾を嚥下したのが見えた。
「ん。妖魔検めを行う。全員集めて」
村人を集めてもらう。そのほうが何かと手っ取り早い。いやまぁ、探すのがしんどいだけなのだけれど。
「いやそんな……すぐには」
冷や汗を流しながら幼気な少女に威圧された様子で、こちらの大剣にチラチラと視線を送っている。良いから急ぐんだよ。
村長さんの瞬きにタイミングを見計らって抜刀し、ピタリと切っ先を向けた。
「ヒッ……! わ、分かりました。しばしお待ちをっ」
村長には一瞬で抜刀したように見えただろう。慌てて外に走っていった。
……この手に限る。
一人一人、至近距離でぐるりと一周回って眺める。私の場合このくらいやらなくては間違いを起こしそうで怖い。戦士の鉄の掟として、普通の人間を傷つけてはいけないとなっている。自身が人間の敵ではないと示す方法の一つとも取れるが、ぶっちゃけ組織にとって不利益になるからである。
確認も最後の方になって、村人たちが騒ぎ始めた。
「アルマンのとこはどうしてきてねぇんだ」
「わ、わかんねぇよ」
「ん。他に、来ていないものは? まだいる?」
「アルマンのとこだけでさぁ……」
まとまりなく村人が喋っているせいで、うまく聞き取れない。あ、アルマン? 誰?
ま、名前なんて何でもいいか。この集団の中にはいなさそうだし、あとはサーチアンドデストロイである。
アルマンの家は村の隅の方にあった。
ボロいあばら屋……ではなくて、しっかりとしたレンガ造りの家だった。
木製の扉を押すと、キイと音を立てて開いた。
「お、お兄ちゃん。やめて」
oh ジーザス...。
地獄のような光景が待っていた。私と同い年くらいの子が馬乗りになった男に襲われていた。お腹にブスリされている。男が頭部に血管が浮き血走った目でこちらを見て、この世の終わりのような声をあげた。
「ぐぎゃぁぁぁ!」
え、お前が断末魔っぽい絶叫すんの?
その時、襲われていた少女の目が縦に割れると、指先を高速で伸ばしてきた。大剣を振り回すのは間に合わないため、伸びてきた指を掴んで全力で建物から引き下がった。幸いな事に、押し出す力によって離脱できた。体重が軽い為、相撲には弱い。
「チッ。クレイモアは女ばかりだから、トラウマを刺激してやれば直ぐに冷静さを欠いて死ぬんだが……」
「長文いうな」
最初の舌打ちとクレイモアしかわからん。もっとゆっくりしゃべって。いやほんと、割と言葉覚えたほうだと思うよ? 0から始めたわけだし。少女の姿をした妖魔は、アルマンと思わしき若者の残骸を蹴飛ばすと腕を誇示しながらこちらに向き直った。
「げひゃひゃ。よくみたら小柄な嬢ちゃんだなぁ。なぁ見てみなよ。指を重ねるとお前らの大剣すら通らない強度にもできるんだぜ?」
妖魔の伸びた指が腕に絡みつき、骨折したときに付けるギプスみたいになった。いやマジでセンスおかしくないか? 誇示するほど、かっこよくはないぞ? 人から外れていくと、やはりセンスがおかしくなるのか……。思わず鼻で笑ってしまった。
「なにがおかしい!? 死ねぇぇ!」
大剣をようやく抜いて対応したが、妖魔が殴り掛かるほうが早かった。大剣に石膏パンチ(仮)をぶつけ威力を殺しながら回転し、着地した。やはり体重が軽いせいか、吹き飛ばされる距離が長かった。
「けけけ。やっぱ嬢ちゃん弱いだろ? No.40台の成り立てかい? なんだぁ? その構えは」
「……。」
大剣を持った手を頭部横に揃えるような、金剛力士像っぽい構えをとった。まぁ体はガリガリで威圧感とか皆無だろうけど。利き手と反対の手は大剣に添える。自分の身体能力は割と高めだ。見た目とのギャップを妖魔が抱いてくれていると信じる。
「なんにしてもこれで終わりだ!」
妖魔が仕掛けてくるのを見切るために集中した。右手の石膏パンチ(仮)はブラフ。体重のかけ方がずれている。本命は左手の爪での拘束後、噛みつきか。
右手をスウェーで躱し、大剣の重さを利用して反転。サマーソルトキックを顎に決めた。
「ガッ」
足が地面から外れ、踏ん張りが利かなくなった妖魔へ大剣を回転するまま振り上げた。しかし、リーチが足りず両足を腿から落とすにとどまった。
「ガヒッギガッ」
『お前ら死にかけると、ガ行でしか発音せんよな』
「な、なにを言っ」
足が落ち死に体の妖魔へ、日本語で声をかけ頭部を落とした。ふぅ。これが上位ナンバーとかになれば、一瞬で倒すのだろうけど。私はこんなものだ。
「事は済んだ。報酬は黒服へ渡せ」
覚えたお決まりのセリフを言って村を去った。
◆
「No.42の戦士の様子はどうだ?」
薄暗い部屋で幾人かの男たちが話をしていた。
「ナンバー42の戦士は、分かたれた人格の片方に妖力を抑える役目を与え……さらに、より妖魔に近い肉体を与える。そういう実験でしたかな」
薄暗い部屋にもかかわらず、黒いサングラスをした男が答えた。
「そうだ。より妖魔に近い肉体を使いこなすことができれば、質の良い戦士を量産できるはず。148期195番目の戦士は、その構想の下に生み出された」
「人格を分ける段階で言葉を失い、奇天烈な行動が目立つ。ほぼ同時期に運用を始めた特殊体より、運用しづらいと言う点では致命的ですな」
「狂う戦士はあれだけであるまい。42番に関して言えば、ある意味成功だろうに。他の実験体は妖魔側の人格に引っ張られて容易く覚醒するのだから」
「能力だけ突出していれば使い道もあったものだろうに……、はじめは安定していたのだがね。結局は普通の戦士の方が……」
「たらればの話をしていても仕方があるまい。この結果を以ってその実験を凍結する」
お腹を壊しませんように(祈り)