〈痴呆〉のオリヴィア【完結】   作:peg

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昔から、この時節は強烈な頭の痛みに襲われ、くっ!頭が……!ロールして遊んでいましたが、近年ちょいちょい鬱陶しくなってきました。


中二病が卒業できた……?


キメラ系覚醒者のメソッド

――オリヴィア、誰と話をしているの?

「ん-? ここはみかいのちで、ぶんめいかいかのおとがしないんだって!」

――いったい何を言っているの……。その鏡を捨てて。気味が悪いわ……。

「えー。でもこの子、いつもあたしをほめてくれるよ?」

 

 夏虫が鳴く中、冷や汗を垂らした茶髪でツインテールの女の子に話しかけられた。年の頃は、10ばかりだろうか。如何にも、年長の少女然とした態度で接してくるが、貌は逆光で見えなかった。酷く暑く感じる。あれ? さっき、雪降ってなかったっけ?

 

――はやく、逃げるのよ! オリヴィア!

――!? 隠れて!

「でも、おかーさんが呼んでるよ?」

 

 場面が変わり、火に包まれた小さな村が映った。メラメラと照されて暑い。隣で手を引く少女は、火の逆光に照らされて、やはり貌が見えなかった。赤く照され燃えた熱風が、頬を撫でた。慌てた様子の少女に口を押えられて、息が苦しかった。

 

――ぉーぃ。

――ぉーい。

――おーぃ。

 

 遠くから私を呼ぶ声がする。何となく、行かなくてはならない気がして、少女の手を振り払った。

 

――行っちゃダメ。行かないで! オリヴィア!!

 

 悲痛な声に振り返ると、少女の顔が見えた。

 落ち窪んだ眼に光は無く、どこまでも暗い闇が広がっていた。顔中の穴という穴から、黒い液体を流しつつ必死にこちらを手招いていた。

 

 息が詰まった。恐ろしくなって、捕まっていた部屋から飛び出すと、板張りの床の上で先ほどの少女が妖魔に身体を貪られていた。少女は首だけで、ドロリとこちらを振り向いた。恨みがましく、二つの穴がこちらを見据えた。少女の真っ黒な口が叫んだ。

 

「キャアアアアアァ」

 

 

 

 

 

『シャベッタァァァ……。はっ!?』

 

 外から絹を裂くような、悲鳴が聞こえた気がした。薄暗いが、ここはどこだ。カビ臭い……。倉庫かどこかだろうか。お腹に乗った大剣を握った。あれ、私寝てたの? んー、記憶が曖昧だ。

 

『痛たたっ……』

 

 あと後頭部が痛い、頭を抱えた。あれ、これ頭じゃなくて首か。あー、絶対これ寝違えたやつじゃん。起き上がって首を横に傾けた。はー、しんど。テンションが下がる。

 

 小屋から出ると、既に戦闘が始まっていた。えっ? イライザと模擬戦するんじゃなかったっけ。……あ、思い出してきた。しかし、模擬戦途中で記憶が途切れている。まさか……負けた? いやいや、そんな訳……マジで?

 

「総員! 隊形をとれ!」

 

 ミリアの掛け声で、26名の戦士達がぞろぞろと集まってきた。私も強い掛け声で、しょうもない思考ループから抜けた。

 

「ひゅー! 壮観だねぇ。女の子にこんなに囲まれるなんて滅多にねぇな!」

 

 ミリアが対峙しているのは、細身の覚醒者だった。細身と言っても優に5mほどの全長で、全身鎧を着込んだような姿をしており、鎖型の触手が揺らめいていた。

 

「正面の敵は、我々ミリア隊が受け持つ! フローラ隊は、右屋根上にいる敵に当たれ! ジーン隊は左塔の敵だ! ウンディーネ、ベロニカ隊は待機。劣勢のチームの助勢に回れ!」

 

 矢継ぎ早にミリアは指示を出した。

 

「普段通り戦えば良い! 皆、いくぞ!」

 

 右側屋根にはローブを着た顔の伺えない男が座っており、左側の塔には両目を包帯で巻いた男が立っていた。あの家は、今朝カティアがぶっ壊したところだ。私は、何もしていないので実質無実だ。

 

 急いでジーンに駆け寄っていくと、既にみんな揃っていた。

 

「遅い!」

 

 腰に手を当てて言ったのは、イライザだった。イライラのイライザ。またの名をまつげと言う。

 

「うるさい。〈まつげ〉」

「誰がまつげよ!?」

「遊ぶな。いくぞ!」

 

 ジーンの掛け声で全員が大剣を構えた。

 

 先に飛び出したのはジーンだった。一桁ナンバーと言うだけあって、隊の中で一番速かった。続いたのは、意外にもモブ娘のパメラだった。パメラとマチルダの二人は防御型だ。ジーンが先に飛び出したのは、覚醒体になる前に斬ろうと考えたのだろうか。

 

「くくく。遅いな」

 

 不気味に呟いた眼帯男は塔上から、ジーンをかわすように高く飛び降りると、空中で覚醒体へと変身した。それは、カマキリのような見映えのドラゴンフライだった。身体のいたるところに、鎌が沢山生えていた。

 

『インセクトキメラだ!!』

 

 かなりイカす見た目をしている。完全に昆虫キメラだった。しかも空を飛んでいる。あの巨体で空飛ぶのは、卑怯じゃない?

 

 打ち落とすべく、ジーンがカマキリ覚醒者の背面を追って跳んだ。後ろにも目があるのか、身体の上部についた複数の鎌でジーンの連擊をいなした。

 

「くそ!」

「……うぐっ」

「!? パメラ!」

 

 いつのまにか、覚醒者の側面から追いすがり、三本の鎌を相手取っていたパメラが負傷した。墜落するパメラに気づき、空中で掬い上げたジーンは、カマキリの攻撃を大剣の腹に受けて下まで落ちてきた。積もっていた雪が激しく舞った。

 

「ジーン!」

「くっ! 無事だ!」

 

 攻撃タイミングを逃し、追走をやめたイライザが叫んだ。ジーン達は墜落したが、うまく受け身がとれたようだった。〈まつげ〉は意外と足遅いのね。全然、追いついていない私が言うのもなんだけど。

 

 カマキリ覚醒者は、動きも昆虫染みている。あの巨体で、空中を急に動いたり止まったりと、緩急の激しい動きをしていた。まるで、蜻蛉やハチドリの動きだ。しかし空中を動く時、犬かきみたいに沢山ある手をバタバタさせてるのは、ちょっと面白い。腕をぐるぐるする拳法使いみたいで、思わずニヤニヤしてしまった。

 

「ハハ! まずはニヤついている弱そうな雑魚からだ!」

「オリヴィア!」

 

 そんなことを考えていると、急降下してきたカマキリに襲われた。出遅れたマチルダと二人、上から迫る鎌に対処したが手数が多く、マチルダが負傷した。真っ赤な血飛沫があがった。マチルダは、袈裟懸けに胴体をバッサリ切られたようだ。カマキリの攻撃は、一発一発を私が大剣で弾けるくらいには軽く感じる。如何せん、敵の手数が多すぎた。何本腕があるんだ、こいつ!

 

「マツラガ!」

「ううっ……。マしかあってない……」

 

 マチルダは倒れこんだが、幸い息はあるようだ。声をかけると、元気な呻き声が聞こえた。ごめんマチルダ、戦いながらじゃ発音し辛らくて噛んだんだ……。

 

 このカマキリ、普段は対象を掴んで徐々に細切れにするんじゃなかろうか。手数が多いけれど、鎌の鋭いところに当たらない限り割りと行けるのでは? そう考えて大剣を下ろした。

 

「何してるの!? オリヴィア!」

「くく。血迷ったか」

 

 上空から、カマキリに飛び掛かろうとしていたイライザが叫んだ。

 私は、あたかも通勤ラッシュの人混みを避けるようにして、高速で迫る鎌と鎌の間をすり抜けた。おっ、わりと行けんじゃねーか。

 

『ラッシュアワーステップ!』

 

 テンションが上がったままに叫び、倒れたマチルダの首もとを掴んで、鎌の制空圏から離脱した。ちなみに、叫んだ意味は特にない。

 

「ば、馬鹿な……。ちっ。雑魚が!」

「ぐっ! きゃあ!」

 

 鬱陶しそうにカマキリが呟いた。ちょうど離脱したタイミングで、上から攻めていたイライザがぶっ飛ばされ、屋根3つ分くらい跳んでいった。血が落ちてきた。離れ際にイライザが、鎌で傷を負ったようだ。

 カマキリは戦士一人を弾き飛ばすとき、空中にいるせいか一瞬力を溜めるために動きが止まる。そこが、狙い目かもしれない。

 

 マチルダをダウンしたパメラの方に投げた。雪があるため、多少乱暴に扱っても問題あるまい。少し息切れしたジーンに並んだ。ジーン、あんた最初から飛ばしすぎよ。

 

「ジーンだいじょうぶ? 『頭からめっちゃ血が出てるけど……』」

「大丈夫だ。……オリヴィア、溜められるか?」

 

 オールバックが、ちょっと崩れたジーンに尋ねられた。うーん、こいつと闘いながらは無理かもしれない。細々とした攻撃でチクチクやられると、被弾して動きが止まってしまいそうだ。カウンターを狙うにしても、こいつの攻撃は一発一発が弾けるくらいには軽い。小首を傾げて答えた。

 

「ん-。無理」

「……そうか」

 

 羽音を鳴らしながらブンブン飛び回って、ねぇ今どんな気持ち軌道で飛びまくるカマキリに、かなりイライラのボルテージが上がってきた。 

 

「くくく、しかし弱いねぇ。避けるしか脳のないチビと頭の悪い隊長か。お前ぇ隊長に向いてねぇよ。弱いやつは最初から分かってたはずだ。無駄にかばうからそう言うことになるんだよ」

 

 しかも、私達を馬鹿にして説教してきやがった! くっ、許せねぇ! メスに喰われて死ね!

 

「! ちっ」

 

 その時、覚醒者の側面から大剣が飛んできた。その大剣には、延びたヘレンの腕が繋がっていた。残念ながら、カマキリ覚醒者には当たらなかった。ナンバー13のベロニカが、鎌の中に飛び込み、カマキリ覚醒者を牽制した。えっ、あの中に入っていくの? すげぇぞ!

 

「よぅ。苦労しているみたいだな。加勢に来たぜ!」

「ジーン。手を貸そう」

「ヘレン、クレア」

 

 別動隊が戦線に参加した。正直助かる。

 

 

 

 長い癖毛を靡かせたフローラは、屋根の上にいる覚醒者へ向かって走っていた。

 

(チーム5名のうち、使えるのは私を含めた3人。ナンバー36と43は考えない方がいい!)

 

 屋根の上に飛び上がったフローラは、覚醒者を〈風斬り〉ですぐに始末しようとしていた。〈風斬り〉とはフローラの二つ名であり、居合斬りのように大剣を振って直すだけの単純な技だが、あまりの速さに目で視認することが難しい技だった。隊での行動となるが、実質は3人チーム。さらに言えば、そこへお荷物を抱えた状態になると判断してのことであった。

 

(覚醒体になる前に、けりをつける!)

 

 フードを被った覚醒者へ〈風斬り〉を放ったが、全て()()()()()。覚醒者は、その場から一切動いていなかった。

 

「!」

「……」

 

 にたりと、笑った覚醒者がフローラの方を見た。その時、フローラの背後でナンバー43のユリアーナが涙目で大剣を振りかぶった。

 

「うわああぁあ!」

「!?」

 

 間一髪、味方から振り下ろされた大剣を、フローラは屈んで後ろへ転がることで回避した。

 

「くっ! なぜ味方を……?」

「あ、ぁ、あ。みんな、逃げてくれ……。体が言うことを聞かな……、ガァあっ」

 

 覚醒者に妖力を操られたユリアーナが、フローラの方へゆっくりとした足取りで近づいてきた。ようやく到着したフローラ隊の他の三人が、同じ屋根に乗った。

 

「ひゃはっ!」

 

 覚醒者の声が聞こえた瞬間、フローラ達は全身を鷲掴みにされたような感覚に陥り、全員がその場へ膝をついた。

 

「なっ!?」

「ガっ!?」

「一人ずつ、死ね」

 

 全員が妖力を操られ、動きを止められてしまった。徐々に近づくユリアーナの大剣が、振り下ろされるのは時間の問題だった。フローラは妖力解放すらできず、冷や汗を垂らした。

 

「み、んな。たのむ……ガ、にげ、て」

「ユリアーナ!」

(しくじった……! こいつ、妖力を操るのか!?)

 

 その時、フローラの〈風斬り〉を受けたせいか、急に屋根が軋んだ音を立てて崩れた。崩れ行く屋根を見る中、フローラは明け方〈痴呆〉と呼ばれる戦士が、この建物の扉を壊したことに思い当たった。

 

「なにっ!?」

 

 足場が崩れたことで、覚醒者がより高い建物へ飛び退こうとした。フローラが追走し、覚醒者へ〈風斬り〉を放った。

 

「ちっ!」

 

 フローラは舌打ちをこぼした。覚醒者はローブを脱ぎ捨ててフローラの攻撃を躱し、建物の上に乗った。フローラ隊の全員が、体勢を整えて着地した。

 

「ひゃはは。運が良かったな! 楽しくなってきたよ。……これだから、化け物はやめられねぇ!」

 

 屋根上の覚醒者は、トカゲと亀が混ざったような黒い四つ足の巨体へと変貌した。ギョロついた不気味な目が付いていた。トカゲ型覚醒者は、フローラ隊の前に飛び降りると、瓦礫を飛ばしながら地響きを鳴らした。

 

「全員、八つ裂きだ!」

 

 




でも俺の中に居るお前は俺で俺はお前で……みたいなのは、未だに好きです。
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