〈痴呆〉のオリヴィア【完結】   作:peg

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前話のタイトルを昆虫す〇いぜにするか迷って、ああなりました。

今回は、原作沿いが多くなってしまいました。
キャストは多少変わっておりますが。


筋肉バトル

「ちっ。フローラ達に加勢する。指示は守れよ!」

「……」

 

 フローラ隊を劣勢と見た、ウンディーネが言った。カティアは、ウンディーネ隊の中堅処として参加していた。ナンバー30台ということもあって、無下にされるわけではないが隊長の対応はおざなりだった。

 

「難敵のようだな。加勢する」

 

 トカゲ型の覚醒者と対峙するフローラ隊へ、ウンディーネの部隊が合流し、ナンバー15のデネヴがさらりと言った。

 

「気を付けてください。やつは妖気を操ります」

「一気にケリをつける! いくぞ!!」

 

 フローラの助言を横目で見た、ウンディーネが前に立って言った。2本の大剣を両手に構えたウンディーネの掛け声で、10人全員がトカゲ型の覚醒者へ向かって殺到した。

 

「ひゃは! 馬鹿どもが!」

「くるぞ!」

 

 ビキリと覚醒者の甲羅が、甲高い音を立てた。無数の槍が、トカゲ覚醒者の甲羅を中心に同心円状に放たれた。カティアは、あの〈深淵の者〉との戦闘の後、不思議と妖気感知能力も上がっており、事前に察知して回避することができた。

 

「ぐっ!」

「うわっ!」

 

 しかし、敵が放った槍のあまりに速い射出速度に、被弾するものが続出した。

 

「今のを躱せなかった奴は下がれ! 邪魔だ!」

 

 ウンディーネの掛け声で、合流した隊のうち4人が離脱した。主に、40番台近くが離脱したようだった。

 

「2チーム10人中残ったのが6人だ。不満かよ、ナンバー8さんよ」

「いえ、これで行きましょう」

 

 もともと、フローラは足手まといを抱えての戦闘を良しとしていなかった。これ幸いにと、ウンディーネの意見に賛同した。

 

 トカゲ型の覚醒者は外皮が非常に硬く、フローラの〈風斬り〉をしても容易にダメージを与えることはできなかった。6人からの攻撃を嫌った覚醒者が、舌打ち交じりに移動した。

 

「ちっ」

「逃がすかよ!」

「駄目です! 先走っては……」

 

 単身、先走ったウンディーネに対してのフローラの助言は遅すぎた。

 

「けけっ。これだから単純な奴は……」

 

 妖力操作を仕掛けたトカゲ型の覚醒者は、ウンディーネの体を操り、ウンディーネが両手に構えた大剣を首に添えた。ウンディーネは、自分の意志で体が動かせないことに対して声を上げた。

 

「な!?」

「自分で、自分の首を掻き切りな」

「ウンディーネ!!」

 

 振り抜かれた大剣には、血が付いていた。追走していた隊の全員が、驚きで硬直した。

 

「……で? 頬に傷をつけるだけの技ってんなら、ずいぶんしょっぺぇ技だな。おい?」

「ば、馬鹿な!? 太刀筋を力技で変えやがった!」

 

 ウンディーネは覚醒者の妖力操作で強制された動きを、自らの筋力で無理やり軌道を変えたのだった。

 

「死ねやボケ!」

 

 いきり勇んで飛び込んだウンディーネに、トカゲ型の覚醒者はさらに行動を強制した。

 

「止まれ! 筋肉馬鹿が!」

 

 屋根上でフローラの隊全員に影響した妖力操作が、ウンディーネに集中して掛かった。あまりの負荷に、ウンディーネが両膝をついた。

 

「!」

「……で、誰が止まるって?」

 

 両膝をついたはずのウンディーネが再び自らの筋力でごり押しし、すぐさま立ち上がった。膨れ上がった筋肉が、その存在感を示していた。

 

「ば、ばかな……。ぐ、ぐぎゃ!」

 

 トカゲ型の覚醒者は自身の技が効かず、さらに甲羅から射出される槍すらも躱され成す術がなかった。ウンディーネによる双剣の連打で、覚醒者は浅い傷を負った。覚醒者にとって幸いだったのは、外皮が硬くよほど力を溜めた攻撃でないと貫けないところだろうか。

 

「今です! 止めを!」

「待て、奴の術中だ」

 

 フローラが隊に掛け声をかけたが、デネヴが手で制した。

 攻撃の手を止めず連打しているウンディーネが、突然全身を搔き抱いた。ゾッとする感覚が、ウンディーネを包んだためだった。

 

「う、うぐっ!」

 

 ボゴッ! っと音を手てて、ウンディーネの両腕の防具が弾け飛んだ。覚醒者の妖力操作によって強制的に妖力を高められ、肉体の変性が進んだのだった。

 

「き、貴様……」

「ようやく気付いたか。これだから筋肉馬鹿は困る」

(そうか、妖力操作できるということは、本人の意図しないところで妖力を勝手に高めることができるのか!)

 

 デネヴの制止で見守っていたフローラは、起こったことを正確に把握していた。隊長の動きを見守っていたカティアは、動いた。

 

「来るな! 巻き添えを食らうぞ!!」

 

 妖力を上昇させ続けられ、待っているのは妖力の暴走。すなわち、覚醒者への仲間入りだった。ウンディーネは、仲間がそんな目に合わされるのが許せず、救援を拒んだ。

 

「悪いな。蹴るぞ隊長!」

 

 デネヴはウンディーネの制止を無視して、動けずにいる身体を蹴飛ばした。

 

「まずは、2人が俺らの仲間入りだ!」

 

 自身の妖力操作の領域へと侵入した2人に対して、トカゲ型の覚醒者が言った。妖力解放特有の衝撃があたりを包み、敵の妖力操作を恐れて迂闊に動けずにいる隊の全員が瞠目した。

 

「!?」

「な!? お前ら限界を超えたはずだろ! なんで……」

「ふん。……お前の勘違いだろう」

「さぁ。決着をつけましょう」

 

 2人は、妖力操作を物ともせずに、その場で大剣を構えた。フローラには、2人が確実に限界を超えたように感じられた。

 

「あ、あの2人……。一体……」

 

 冷や汗を垂らして、フローラは2人を見守った。

 

 デネヴとカティアの2人は、トカゲ型覚醒者の側面からそれぞれ強襲した。側面から攻めることで、強烈な妖力操作の対象を絞らせないようにするためだった。

 

「ぐ、ぎゃ。止まれ! 貴様ら!」

「〈会心撃〉!」

 

 甲羅を避けた部位に斬撃を受けて、覚醒者が叫んだ。カティアが自身の妖力を操り、足の一部を肥大化させて足払いを放った。先の身体が肥大化したウンディーネのそれよりも、カティアの足は巨大だった。四つ足の片側を払われ、上体が半分浮いた覚醒者が体勢を崩した。利き足から弾け飛んだカティアの防具の一部が、ウンディーネの傍に落ちた。

 

「な!? あの巨体を蹴り払っただと……」

(体勢を崩させることで、妖力操作を防いでいるのか!?)

 

 倒れ行く中、苦し紛れに覚醒者が槍を射出した。体の半分が片側に浮いた状態になっていたため、そのほとんどがデネヴに殺到した。回避が間に合わず、デネヴは身体を何か所も抉られた。明らかに致命傷だった。

 

「デネヴさん!」

「……ふん。私を殺したければ、頭を狙うんだったな」

 

 デネヴの傷が一瞬で癒えた。本来、妖力を使って傷を治すには防御型であってもそれなりの時間を要するが、デネヴは妖力解放限界まで迫ることで、瞬間回復を会得していた。

 

「!」

 

 裏返った覚醒者へ、デネブは大剣を叩き込んだ。しかし、外皮が思っていたよりも硬く、大剣の刃が止まった。

 

(ちっ。動きを止めたところを一気に仕留めるつもりだったが、力が足りないか!)

「よう。これ以上剣が進まないのは、非力なせいかよ?」

 

 いつの間にか、好機と判断したのかウンディーネが近くまで来ていた。デネヴの刃の上に、ウンディーネが双剣を重ねた。大剣をそれぞれ持った、2本の腕の筋肉が膨れ上がった。

 

「私は技巧派なんだよ」

「けっ! そうかよ」

「や、やめ……」

 

 2人は妖力を高め、覚醒者の首を力で押し切った。反動で覚醒者の首が高く跳ねあがった。それを見ていた、下位ナンバーから歓声が上がった。

 

「やったぞ!」

「! 奴は妖力操作をまだ使えるぞ!」

「くっ、逃げてください!!」

「くそっ! 冥途の土産に……、道連れだ!」

 

 妖力を操られ、歓声を上げた下位ナンバー達が崩れ落ちた。急激な肉体の変性によってまともに立つことができなかった。戦いを静観していたフローラは、首を追従して飛び上がった。傷口から攻めれば十分に〈風斬り〉が、通ることを考えてのことだった。

 

「〈風斬り〉!」

「な!?」

 

 フローラが覚醒者を細切れにするよりも速く、地上から跳んだ影が覚醒者を兜割りにした。地面に浅いクレーターを残す勢いで飛んだ、カティアだった。

 

「なんだあいつ!?」

「隊長より速く跳んだぞ!」

 

 覚醒者の頭が細切れになって、地面に降り注いだ。幸いなことに、覚醒者に妖力操作を仕掛けられた戦士2名は無事だった。

 

 

 

 ヘレンやクレアが合流したが、カマキリ型のキメラとの戦いは膠着していた。ナンバー31のおさげタバサとナンバー39のロン毛カルラは、戦闘に参加したが早々に離脱した。カマキリは的確に妖力の低い味方から、各個撃破しようとしている動きがみられた。こいつ結構頭いいのでは……?

 

 敵が空中を自在に動き回ることによって、地の利が完全に向こうに働いていた。戦闘中に上をとられるのがこれほど辛いとは……。このリハクの目をもってしても……。ってあれ、この下りこの間もやらなかったっけ。

 

「くそっ!」

 

 カマキリ覚醒者は、ヘレンの伸びる腕での射撃すら高速で空を飛び回り回避してしまう。さらに飛び上がって近づいても、多数ある鎌で大剣の攻撃がいなされていた。私も飛び上がって攻撃を行ったが、鎌でツンとされると質量差で弾き飛ばされた。くそが!

 

 ナンバー13のベロニカとナンバー14のシンシアが、鎌を捌いていた。

 クレアが飛び上がって〈高速剣〉を仕掛けたが、〈高速剣〉のヤバさを空気の振動で感じ取ったのか、空中で余裕を持って回避されていた。やはり敵の足を止めないと、どうしようもなくなってきた。

 

 そうこうしているうちに、私とクレア以外の全員が被弾してしまっていた。

 

「くくく。前言撤回だ。さっきの隊長はなにも悪くねぇ、俺が強すぎるだけだったよ」

 

 完全にいきりカマキリと化した覚醒者に煽られて頭に血が上った。この戦闘では、私は完全にお荷物となっていた。力を溜めようと何度か試みたが、ある程度乗った所で強襲され、ダメージこそ負わないものの邪魔ばかりされていた。許せねぇ!

 

「はぁ、はぁ。すまない、遅くなった」

「全くだぜ。……ジーンが下、私が上だな」

 

 ジーンとヘレンが何かしらのやり取りをしていた。私を抜きにした作戦が、いつのまにか始まっていた。えっ、ハブ?

 

「オリヴィア、こっちだ!」

「わっぷ!『ぐえっ』」

 

 私の襟元をもったクレアに、建物の影に引きずられた。何をする貴様!?

 肩に手を置いたクレアが神妙な顔で、私に言った。

 

「全員で奴の動きをなんとか止める。その隙に止めを刺すんだ」

『原作の奴ですね。わかります』

「……はぁ。頼むから協力してくれ」

 

 ジーンが旋空剣で下の鎌を斬り、ヘレンが上体についた腕や鎌を斬るんだったか。でもそれだったら、私達要らなくない……?

 

「やつは、言動ではああ言っているが、こちらが逆転を考えて諦めていないのを解っている。嫌な予感がするんだ……」

 

 まぁ、戦闘では二の手三の手と、組んだ方が良いのはその通りだ。使わなければ、それに越したことはない。両手を後頭部で組んで返事をした。

 

「『しょうがねぇなぁ』わかった」

「……くっ、私もやるわ……」

 

 物陰から現れたのは、胴体をバッサリ斬られて血が出ている〈まつげ〉のイライザだった。いや重症じゃん。寝てろよ。

 頷いたクレアが言った。

 

「よし! あんたはオリヴィアと共に東側から回ってくれ。私は西側から行く」

『よしじゃないが』

 

 クレアの発言に頷いたイライザに引きずられて、東側の建物に登った。君、重症そうだけど元気ね? 戦況を覗くと、ベロニカとシンシアの二人が鎌の猛攻を捌いていた。

 

「あいつ……。ジーンともう一人から徐々に距離を置いてる……、感づいてるんだわ」

 

 イライザの言う通り、良く視るとジーンやヘレン側へ、相手取っている二人の背面が来るように移動していた。なんとなく、あまり時間がないように思われた。

 

「あんた、凄い技使えるんでしょ? それ、使いなさい」

「うーん……」

 

 〈まつげ〉は簡単に言ってくれるが、力を溜めるのにはそれなりに時間がかかる。敵のカウンター等使えば別だが……。高い建物から飛び降りて溜めるか……? でもそれだと、カマキリまでもう一度飛ばないといけない。威力が減衰しそうだ。

 

「何よ、歯切れが悪いわね。早くやんなさい!」

『あー、もうなるようになれ!』

 

 踊りを始めた。バク宙から始める。雪があって多少滑るが、致し方ない。

 ふと、考えを改めた。この間、理由もない暴力でカティアに蹴られたけど、よくよく考えたらあれは理に(かな)ってなかったか? さすがずっ友! カティアに感謝した。

 

「はっ?」

 

 中途半端に加速したまま、〈まつげ〉に斬りかかった。頼む〈まつげ〉! 死なないでくれ!!

 

「何……してんの、よっ!」

 

 案の定〈まつげ〉が応えてくれた。半端に切れて、攻撃をやり返してくれた。一瞬の鍔迫り合いから、受けた力を利用して上へと飛んだ。何となく思い出してきたがあの時の手合わせで、足技を使ってやって失敗した時とは雲泥の加速を得ることができた。感覚的に、大剣の音が変わるまでもう少し……。

 

「これは……!」

「〈まつげ〉たのむ!」

「誰が、まつげだ!」

 

 察した〈まつげ〉が、もう一度大剣を下からぶち当ててくれた。大剣が空を裂く音が変わる。

 

 戦況を見やれば、ベロニカとシンシアを()()()カマキリ覚醒者に、ジーン達は攻撃をし(そこ)ねていた。2人は、はやにえのように鎌で串刺しの盾にされていた。カマキリの足の過半数が千切れていたが、未だ多数の鎌は残っていた。やはり、皆が言うように攻撃を察せられていたようだ。

 

 遠くのクレアと空中で目が合った。力の一部を足へと渡し、建物を壊す勢いで一気に飛んだ。

 

『うおおおおおおおぉ!』

「! おせーんだよ……」

「来たか!」

 

 傷だらけのジーンとヘレンが、何か言ってた。ヘレンはジーンに支えられ、手負いのカマキリに右手の照準を合わせた。

 

「何を……なにっ!?」

 

 カマキリがこちらを認識したが、もう遅い。慌てた様子でシンシア天使長とベロニカを掲げて盾にしようとしたが、私たちは既に挟み込むように肉薄していた。

 

「いっけぇぇ!」

「うぐっ、ガッ! くそがぁぁ!」

 

 ヘレンの腕が射出され、真下から覚醒者を縫い留めた。

 盾にされたシンシアと一瞬目が合った。涙目で、こちらを見て絶望していた。

 覚醒者の体に刃が入った。最大まで加速した大剣が、覚醒者の体を砕いていく。対面からはクレアが〈高速剣〉を放っているのだろう。肉を裂く、すさまじい音が聞こえてきた。

 

 覚醒者を貫通したとき、シンシアとベロニカの2人が空中へ解放された。2人とも、鎌で刺されたところ以外は無傷だった。クレアは妖力感知で、私は動体視力で各々味方を避けて攻撃をしていた。

 信じられないのだろう、呆然とした様子でシンシアがこちらを見ていたのが印象的だった。クレアと2人、手負いの味方を掬い上げて着地した。

 

「……っ!」

「っ!」

 

 着地してシンシアを見ると、涙目でビンタされた。……いや、なんでよ。

 

 




涙目ビンタ……好き(変態)
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