当該部は3話ですので、そちらに掲載させていただきました。
ありがとうございます。
貰うまでの一連の流れを、もう一度見直すと完全にフリになってたのは草なんだぜ……。
戦闘が終わった。怪我人は多数出たようだが、私達の隊では命を落としたものはいなかった。
私のほっぺも、怪我人にカウントしてもいいだろう。無駄に腫れ上がっており、明らかに重症だ。
ちなみに、戦闘終了後に合流した髪の毛が木片まみれになっているイライザにも、無言ビンタされて顔の両側が腫れている状態だ。イライザは、そのまま歩き去って行った。こいつら何なの? せめて何か言えよ。
「くぅ。なんとかなったぜ!」
「フッ、そうだな」
血だらけのヘレンが言った。ジーンが鼻で笑って言ったが、一番苦労してたのジーンじゃない? 悪いことは、特にしていないんだけども……。なんかその、すまない……。
「手助けにと思いましたが、そちらも終わったようですね……」
軽い足取りで、ナンバー8のフローラが来て言った。無傷とか、こいつやっぱ絶対強いじゃん。朝、喧嘩売らなくてよかった……。
「ミリアは!? ミリア達は1チームで戦っていることになるぞ!」
急に、クレアが騒ぎ出した。いや、ミリアはどう考えても平気だろ。集団戦だとナンバー1以上の働きをするんだぞ。私は詳しいんだ。
案の定、クレアはデネヴに小突かれていた。
合流した全員で、ミリアが戦っていた辺りへ行くと既に鎧型覚醒者の首が落ちており、事後処理をしていた。原作と違って、隊の全員が無傷のようだった。
思わず、私の真横に偶々立っていたナンバー40のユマを見上げた。先程までやられて寝ていたのだが、復帰したロン毛の戦士だ。原作だと、この戦闘で片腕を失っていたはずの戦士だった。
先の戦闘で疲れたのか、額には汗が浮かんでいた。
「ん? お前は〈痴呆〉の……」
『うがー!』
「なんだ!?」
ユマにまで〈痴呆〉と呼ばれ、叫んでしまった。お前まで〈痴呆〉って呼ぶんじゃない!
どしどしと雪を蹴飛ばして、カティアへ慰めてもらいに行った。
「あ、おい……。なんだったんだ……」
カティアの元へ行く間に、ウンディーネの姉御がミリアに突っかかっていた。気になって、様子を横目でうかがった。
「返答次第じゃ、あたしはあんたに付いていく気はねーぞ!」
姉御は、まともに戦えない戦士を戦線に加えさせた事が、気に入らない様だった。これも姉御の優しさよね。でも、そうも言ってられないのよね。イースレイ軍のビックウェーブが来る事は避けられない。でも、逃げた事がばれると粛清対象で指名手配。一生追われる。詰んでいるじゃないか……。
それに、私も何度か逃げようと思ったけど、同じ境遇の仲間達を見捨てられない。そのくらいの情は、ちゃんと持ち合わせていた。
その後、フローラがミリアの真意をドヤ顔で語っていた。よく聞き取れなかったが、このままじゃ全滅確定! 解散! みたいな内容だったような……。今なら手をあげて、なぁみんなで逃げようぜ! って言ったらうまく行くんじゃ……とか思ったが、シンシアと〈まつげ〉の平手打ちのように、皆が無言で集まってきて叩かれそうで怖い。ブルっと来た、やめとこ。
「けっ! どちらにせよ何人死んでもおかしくねー戦いだったんだ! 強引なやり方だったことに変わりはしねーよ! おい! あたしらの装備はどこだ!!」
「北側の倉庫にまとめてあるみたいです!」
ウンディーネの姉御は、ムキムキの肩を怒らせて装備を取りに行った。
と、思ったら倉庫を覗き込んだ後、すさまじい速度で帰ってきた。
「誰だ装備を運んだのは!? 片付けろ!!」
「……」
全員の視線が私に集中した。いや、皆でこっち見るのおかしくない? 運んだんだから、誰かやってよ……。ってか、黒服は? 黒服がやるんじゃないの? あれ……、カティアもなんで私見てるの。共犯だよね……。くっ、黒服め! また、私を嵌めやがったな! 許せねぇ!
「はぁ……」
ミリア総隊長の溜め息が、再び聞こえた。いや、私悪くないよね!?
と言うわけで、いつの間にか倉庫整理をするはめになった。
ピエタに到着したとき、カティアと2人で装備などを倉庫へ適当に投げ込んでいたのだが、まさかそれが祟るとは……。ってか、カティアは? 消えたんやが……。サボりやがった。
投げ込んで散らかしたペナルティとして、40番台達と共に片付ける羽目になった。中にはマチルダやユマもいた。しかし、話をしてる暇なんてない。姉御が急いでやれってことで、余裕がなかった。
ようやく終わった段階になって、みんなで額の汗をぬぐった。暑いのではなく、ムキムキの姉御の威圧感のせいである。
「よし、やっと終わったな。さっさと休めよ」
そう言った姉御は、奥の部屋に引きこもってしまった。先の戦闘で、妖力解放限界まで行ってしまってナイーブになってるんだっけ。
限界近くまで解放した姉御の恐怖感なんて、目ん玉の色が変わるくらいしか解放できない私には分からないが、そっとしておこう。ふぅ、やれやれ。
それからしばらく経って、ミリア総隊長に呼び出された。倉庫掃除した隣の建物だったが、26人全員が入れるような広い部屋だった。ここは、町長の家か?
「皆に集まって貰ったのは、今回の作戦についてだ。まずは、戦いの前にこれを全員飲んでもらう」
「これは……半分に割った妖気を消す薬?」
同じ部屋に26人もいると、波のようなざわめき声も大きかった。シャギーヘッドのミリアから、半分に割られた妖気を消す薬が全員へ配られた。うぇー、リバイバルゲボマズ丸薬だ……。味は美味しくないけれど、こいつに頼らざるを得ない。
「――だが、一度意識を失い、妖気の流れが完全に止まったときのみ効力を発揮する」
「つまり、死んだ振りができるわけですね」
これを飲んでも生きるか死ぬかは、ワンチャンに掛けるしかない。一度成功しているし、肉体が欠損して力尽きない限りは大丈夫だと思いたい。
ミリアの話を聞いていると、逃げ出すと組織から粛清対象で手配を掛けられそうだと言っていた。私と同じ見解だった。
うんうん頷いて聞いていると、クレアとジーン、そしてカティアが唖然とした顔でこちらを見ていた。え、なに?
「オリヴィア。いったい何処で、こんなことを知ったんだ……」
『え、今ごろ?』
クレアがひそひそと私に問いかけたが、今さらの質問に思わず日本語が出ると、頭を振って黙った。妖気を消す薬のことだよね?
この前、一生懸命に説明したのに……。あれ、ちょっと。3人とも首をかしげるのはおかしい。ってか、カティアは真剣に聞いてたのに、解っとらんのかい。
「ん。任務で」
「そんな任務があるのか……?」
もうめんどくさくなって、適当に答えた。黒服って奴が悪いんだ。近くにいた全員の疑問が深まったところで、ウンディーネの姉御が声を上げた。
「いーんじゃねーの? 生き残る確率が0……だったものが、僅かでも生き残る可能性ができて御の字さ。それに、この作戦は平等だ。強いやつも、弱いやつも生き残る可能性がある」
「私も同じ意見です。生き残った者が、この26人の遺志を受け継ぐことにしましょう」
フローラも続いて賛同した。
その後、全員で大剣を重ねた。この世界で、自我が芽生えてもう何年たったのか分からないが、ようやく独りで無くなった気がした。
「よし、全員飲んだな。覚醒者達が到着するまで各隊毎に待機。小戦闘での隊の作戦構築は各隊長に任せる。原則は守れ。以上だ、健闘を祈る」
タイミングを見てミリアが言った。ついに、生き残りをかけた作戦が始まる。この世界を、クレイモアだと認識して最初に立てた目標。“人間として最後まで生き残る”
なんだかんだあったけど、カティア達と果たせれば……、私は、すごくうれしく思う。
◆
明かりに乏しく、薄暗い場所でなにかが蠢いている。場所は大陸東の組織、その地下部にある研究所だった。
蠢いていた影は、全身を黒い布で覆った装いをしている、組織の研究者ダーエだった。ギョロついた目が、薄闇の中で光っていた。
「くくく、今更か……」
ダーエが組織から新たに命じられたのは、覚醒者の血肉を使った戦士の増産だ。既に基礎研究は済んでおり、新たに生まれるものについては、通常の戦士とは違った運用になることは間違いがなかった。出来上がるそれは、
これまでの戦士達とは違い、完全に人の皮を被った化け物と呼んで相違なかった。
この兵器を作るために、犠牲になった幼い少女の数は知れない。下手をすれば、新たに戦士を生むよりも多かったかもしれない。
(素晴らしいものであることに違いないが、期待していたものを産み出すことができなかった。それだけが、唯一の心残りだな)
ダーエは過去、様々な研究を繰り返す中で、行き詰まって自棄っぱちに実験していた事がある。その研究の1つが、ひとつの体に役割を持たせた意思分割を行う実験である。
当時は、姉妹を使った覚醒実験を基礎研究に、ひとつの肉体の中に複数意思を持たせ、妖力をコントロールする事を目指していた。
しかしながら、姉妹の実験以上に素体の素質に依るところが多く、実験は頓挫してしまっていた。意思分割を行う段階で、過度なストレス下にある素体が壊れてしまうのだ。素体のほとんどが、意思を持たぬ人形と化すか幼児帰りをしてしまった。
一例のみ完全に成功したが、それも条件が悪く、容易く覚醒させてしまった。
「……」
(あれが、唯一の心残りか)
ダーエが実験に考えを馳せていると、足音が聞こえてきた。
「ダーエ様。例の準備が整いました」
「おぉ、ようやくか。ここにある素体も乏しいからな。ちょうど、新しいものがほしかったところだよ」
組織の工作員の一人だった。例に漏れず、黒い服で体を覆っている。ダーエは、上層に成果を見に行くことにした。
準備を依頼していたのは、北から降りてくる覚醒者の群れ対策の一貫だった。ナンバー1のアリシアが、暴れられる環境の構築である。
アリシアに組織の主要設備が近くにあるところで暴れられると、一帯が瓦礫の山になる。それを避けるためだった。またこの準備には、殺した覚醒者の死体についても回収するための人員手配を含んでいた。
「くくく。北に送った戦士達が、早々に壊滅することを願うよ」
「ダーエ様、それは……」
ダーエ達にとって、北に送った戦士達は準備を整えるためだけの時間稼ぎの駒に過ぎなかった。しかし、ふと以前旧友のオルセがダーエにかけた言葉を思い出し、足を止めた。
(なにが、研究の集大成なものか。私の研究から完全に外れてしまった個体など、成果として認めん……)
意思を複数もった戦士の実験の末期、ダーエは覚醒者の血肉を使った実験も秘密裏に行っていた。落ち目の研究ということで、注目度もそれほどなかったことが、ダーエにとって幸いしていた。
バレないように、覚醒者の血肉に宿る妖気を消す処置方法すら編み出した。
そのためか、ダーエの意図していないところで、覚醒者の血肉で処置を施した素体が通常の戦士と同じように戦士の初期処理を受けてしまった。
あれよあれよという間に、
事態を重く見た組織の監査部が、戦士狩りナンバー持ちの戦士を伴って、繭を破壊したところ、出てきたのが帯には短く襷にも長い戦士だったというわけだ。
ダーエは、その個体を調べられることで秘密裏に行った実験が発覚し、他の研究を融通できる立場から失脚することを恐れて、早々に戦士として送り出すことにした。
その後、戦士にすぐに死んでもらいたかったダーエは、覚醒者討伐を件の戦士へガンガンまわした。それでも、今日まで生き残っているのだから質が悪かった。
あの事件以降、ダーエがその出来事についてどんなに調べても、なぜそうなったのか解らなかった。通常の戦士に紛れてしまった経緯も不明だ。顛末からわかる実験を、順を追って行っても再現性は全く無く、ダーエには、まるで訳がわからなかった。
その戦士は、実験の唯一の生き残りとされている。
もう送ってくるんじゃないわよ!(ツンデレ)