〈痴呆〉のオリヴィア【完結】   作:peg

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ここから先はまとめて更新したかったのですが、中々できなさそうです。



(よすが)

 命を懸けた戦争は、佳境を迎えていた。

 ピエタの町へ、数えている暇なんてないくらいの覚醒者の群れが進軍してきた。

 幸いだったのは、空を飛ぶ系の覚醒者がいなかったことだろうか。あんなのが一杯いたら、ほんとに詰む。

 

 ジーン隊での連携は、先の戦いを経たことでレベルが上がっていた。

 素早いパメラと微妙に受けが上手いマチルダが敵を誘導し、ポイントにおびき寄せ、ジーンや私の必殺剣の餌食にしていた。今回は事前に準備ができて先制できたため、既に2体を屠っていた。

 イライザこと〈まつげ〉は、遊撃に回り、誘導班のフォローや私の充填要因を兼ねることになっていた。もう、味方に斬りかかられるの嫌なんやが……。

 ジーンの旋空剣は連発ができないため、主に私の剣で敵を倒す形に移行していくだろう。

 

「オリヴィア! また行ったわ!!」

 

 イライザが叫んだ。赤黒い溶岩魔神のようなごつごつとした手が、脇の建物から飛び出てきた。

 私の剣は大雑把な攻撃をしてくる敵が沢山いると、効果を高めることが改めてわかった。いつものように、沸いた恐怖心を叫んで上書きした。

 

『うおぉ! はいだらああぁぁー!』

「グギャアアア」

 

 真っ向から、私を叩き落とそうとした手を砕いた。思わず、謎言語が出てしまった。

 硬い外皮を斬ったことで加速が落ち、地面を側転するようにして、ジーン達の隣まで戻った。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 これまでに無いくらい疲弊していた。無理矢理の方向転換を続けているせいだろうか。それに、こんなに連続で舞ったことはなかった。

 

「オリヴィア。まだいけるか? 片腕になったやつを落とすぞ」

 

 ジーンの言葉に頷いて答えた。当然だ。ここで止まったら皆が死ぬ。

 再び、その場でバク宙を始めた。

 

 危機感を持ったごつごつとした覚醒者が、残ったでかい手を伸ばしてきた。

 高速で迫る張り手をパメラ、マチルダ、ジーンの3人が受け止めた。ジーンが叫んだ。

 

「イライザッ!」

「いけっ! オリヴィア!」

 

 走り込んだイライザが、空中で回っている私へ大剣を振りかぶって叩きつけた。これ、毎回思うけど耳が痛い。

 

「くっ! 『はぁぁぁあ!』」

 

 金属同士の甲高い音が響き、再び急加速を得た私は、そのままごつごつとした覚醒者の顔を消し飛ばした。

 

 勢いのまま、建物よりも高く舞った。戦況は敵側の損失が5体、味方が6人ほど倒れている。……倒れている味方の息がまだあれば良いんだが。戦況は原作より良いはず。でも、なんか忘れているような……。

 

「……厄介な技だな」

『えっ?』

 

 空中で、突然横から声が聞こえた。危機感を覚え、速度が落ちた回転する大剣を、声のする方向へと変えた。

 

「遅い」

「ガッ」

 

 視界に映ったのは、毛むくじゃらのイケメンライオンの踵だった。

 

「ガハッ!」

 

 耳をつんざく音が聞こえ、全身をすさまじい衝撃が包んで息が詰まった。

 真下にあった建物を破壊する勢いで、叩きつけられたようだった。

 

『……くっそ!』

 

 そんな衝撃を受けても気絶できなかった。なんだかリフルと戦った時よりも、身体が頑丈になっている気がする。

 微妙に痺れた体を起こそうとした。空が暗くなり、ハッとして見上げると、周りの建物が倒れてきた。

 

 閉じ込められてしまった。瓦礫が複雑に積み重なっているせいか、腕に力を入れても動かなかった。

 しかし、急いで戻らないといけない。毛むくじゃらは、〈獅子王〉リガルドっていう元ナンバー2のヤバイやつだ。

 

『動けよおおおぉぉ!』

 

 重たい瓦礫を必死で押し返した。

 

 

 

 

 

 

 

 オリヴィアが、突然空から降ってきた。

 背の高い建物が倒壊し、衝撃で周りの建物も陥没した地面に向かって倒れた。

 イライザが叫んだ。

 

「オリヴィアァー!」

 

 瓦礫の煙が収まると、黒い人影が現れた。獅子の顔に銀色の鬣、体格は人間よりも一回り大きいくらいだが、存在している空間の圧がおかしな存在だった。

 ギロリ、とその眼光で戦士たちを睨むと、獅子は突然視界から消えた。

 

「えっ?」

「ベロニカさん!」

「ひとつ……」

 

 抵抗する暇もなく、ナンバー13のベロニカが上下に引き裂かれた。ゆっくり崩れ落ちるベロニカを見た、クレアの瞳孔が開いた。

 

「キサマァァァア!」

 

 獅子の覚醒者へ、クレアは怒りのまま〈高速剣〉を放った。しかし獅子は、〈高速剣〉の範囲から一気に離脱した。クレアの〈高速剣〉は、敵のあまりの機動に全て空振りする事となった。

 

「やあぁぁ!」

 

 シンシアが、離脱した獅子へ大剣を振りかぶった。シンシアを一瞥した獅子は、曲芸のような動きでそれを躱すと次の獲物へ狙いを定めた。

 

「ウンディーネさん!」

「ちっ!」

 

 獅子の妖気の動きに、いち早く気づいたカティアが叫んだ。ウンディーネに飛び込んだ獅子が、両手の鋭い爪でウンディーネの双剣と切り結んだ。

 

「ウンディーネ!」

「来るな! くっ……ちきしょ!」

 

 ウンディーネの左腕が飛び、劣勢と見たデネヴが叫んで駆け寄ろうとしたが、ウンディーネが制止した。

 その時カティアは、既に行動を起こしていた。クラウチングスタートのような姿勢から、右足に妖力を集め、獅子に向かって全力で飛んでいた。遅れて弾け飛んだ雪が舞った。

 カティアの大剣を持った手が()()()、空中で装備が弾け飛んだ。ウンディーネに止めを刺そうとする覚醒者へ、カティアは大剣を振りかぶった。

 

「はぁあああ!」

「!」

「ふた……なにっ!」

 

 ウンディーネと切り結んでいた獅子が、カティアの方へ気を取られた。その隙を見たウンディーネが、獅子をカティアの剣線上へ蹴り飛ばした。

 

 大剣を振り抜いたカティアが、着地し振り返った。手ごたえは十分にあったはずだった。

 

 ゆっくりと右手を上げた獅子の鋭い爪が、異様に伸びていた。遅れて、カティアの大剣を持った腕が降ってきた。

 

「か、がはっ」

「カティアアア!」

 

 カティアの胸や肩先から、血があふれ出した。獅子が一瞬の交差で腕を切り落としたのだ。ウンディーネの悲痛な叫びが響いた。

 放心するカティアを獅子は蹴り飛ばすと、再び片腕のウンディーネに向き合った。

 

「ちっ。妖力の大きな奴だけだと思えば、とんだ隠し玉が居たものだ。一瞬とはいえ、見失ったぞ」

 

 眉間に一本筋が生まれた獅子が言った。

 

「ハァアアア!」

 

 そこへ妖力解放し、獅子を追っていたクレアが飛び込んだ。

 

「しつこいな」

「!」

 

 攻撃を避けられ、トンと肩口を押されたクレアは、妖力解放による制動が利かずに滑るように離れていった。

 ウンディーネを無力化したと判断した獅子は、高速で移動するとフローラの前に立った。

 一瞬の出来事だった。爪が額に突き入れられ、フローラの身体は唐竹割りにされた。あまりの速さに、フローラは吐息ひとつ漏らせなかった。

 

「なっ……」

「フローラァァ!」

 

 叫んだジーンの下へ、獅子は瞬く間に移動した。

 ハッとしたイライザが、獅子とジーンの間に割り込んで庇おうとしたが、あっけなく蹴り飛ばされた。

 

「邪魔だ」

「イライザッ! くそ!」

 

 ジーンは、獅子の覚醒者と斬り結んだ。

 なおも近づこうとするクレアが、ジーンへ声をかけた。

 

「ジーン!」

「クレア来るな! こいつの狙いは各隊の隊長なんだ! 次は……がっ」

 

 獅子の右腕がジーンの腹部を貫通し、戦士に見せつけるように掲げた。

 獅子が腹の底に響くような、低い声で雄叫(おたけ)びを上げた。

 

「ウォオオオオオオオオオ!」

 

 咆哮を浴びた下位ナンバーの戦士たちが、震えて大剣を取り落とした。

 

 

 

 

 多数の覚醒者を相手取っていたミリアが、咆哮する獅子の存在に気づいた。

 

「馬鹿な……。〈獅子王〉リガルドだと……。なぜここに」

 

 リガルドは元ナンバー2の戦士で、〈深淵の者〉に匹敵する力を持った覚醒者だった。

 高速で迫る影に、ミリアは大剣を合わせた。リガルドは大剣をすり抜けるように移動すると、ミリアの眉間へ鋭い指先を刺し込んだ。

 

「終わりだ」

 

 ミリアがグラリと揺れると、空中に溶けるように消えた。ミリアの〈幻影〉だった。瞬間的に妖力を上昇させて、緩急により視認できないほどの速度で高速移動する技だった。

 

「〈幻影〉だ!」

 

 追いつこうにも、あまりの戦闘速度に付いていけない下位ナンバー達が囃した。

 幾度かの衝突を経た。〈幻影〉を発動したミリアは、リガルドと拮抗しているように思われた。

 

「貴様が総隊長か。さすがに良い動きをする」

「……」

「しかし、そう長くは続くまい」

 

 そう言ったリガルドが、血にまみれた右手を掲げると、ミリアの肩口から血が吹き出した。

 

「ガっ」

「ミリアッ!」

 

 瞬間的に妖力を高めるミリアの〈幻影〉は、連続での使用にかなりの負担を要していた。徐々にリガルドに追い付かれていたのだった。

 止めを刺そうと迫ったリガルドの爪をクレアが弾き、デネヴ、ヘレンの3人で戦闘に割り込んだ。 

 

「させねぇ」

「ふん。雑魚共が……」

 

 

 

 

 

 

 本当に瓦礫が動かない。素の力では、全くダメなようだった。なんだか忌避感が強く働くが、妖力解放を再びすることにした。

 

『はぁぁああああ!』

 

 視界が若干()()染まり、気持ちは界王拳だ。

 前よりも、妖力解放できる深度が上がっていた。目ん玉の色が変わるくらいだったのが、腕にモリモリと血管が浮き出るくらいには、解放できるようになっていた。

 

 瓦礫が徐々に動いてきた。

 一度動き始めてからは早かった。雪崩が起きるように、建物が崩れ明かりが差し込んだ。黒く変色した手が見えた。えっ。鬱血したみたいに色変わってるんだけど……。落ちたときに、挟んだのかも知れなかった。

 

 明るかったが、先程まで止んでいた雪が猛烈な勢いになっていた。

 瓦礫の上にあがると、戦況が見えた。

 

――イライザが、瓦礫脇に頭から血を流して倒れていた。パメラの五体がバラバラに刻まれていた。マチルダの右肩口から下が無かった。

 

 急に(はらわた)が冷たくなった。無意識に震える手を虚空へ伸ばした。

 瓦礫の上で足を踏み外して、下まで転げ落ちてしまった。痛みは感じなかった。

 

 落ちた視界の端に、見知った髪型が血だらけで倒れていた。……カティアだった。

 

「ぁ、あぁ……」

 

 覚束ない足取りで、カティアに近づいた。

 うつ伏せに倒れたカティアに触れると、ひどく冷たかった。

 カティアの身体を助け起こすと、力無く私の膝上に崩れた。綺麗な髪が広がり、雪が赤く染まっていた。

 赤い染みを辿ると、カティアの胸元が斬られており、右肩先が無かった。

 

「ねえ、目を開けて……」

 

 揺すって、何度か声をかけたが反応が無かった。

 

『……おい。……薬。飲んだんだろ? 頼む、目を開けてくれよ……』

 

 この世界で気づいた時には、戦士となっていた私にとって、カティアは初めて気を許せる仲間だった。

 初めてちゃんと会話した。通じていなかったけど、身の上話だってしていたんだ。

 いつしか、この世界を楽観視するようになっていた自分を呪った。

 目から熱いものが込み上げ、声が震えた。

 

『こっちで初めてできた友達だったんだ……。なぁ。起きてくれよ……』

 

 返事は無かった。こんなことになるなら、逃げれば良かった。逃げてから考えれば良かった。

 酷い戦いになるのは分かっていた。

 いや本当は、なにも解っていなかったのかもしれない。私の足りない頭では、うまい方法なんて決して出なかっただろう。実際はどうしていいのか、なにも分からなかったのだ。

 ピエタに着いた時だってそうだ。時間を無駄に使って、何もしなかった。

 ……私は、カティアが大事な存在に変わっていたことだって、気付いていなかった。居なくなって気づいた。愚か者だ。

 胸の奥が、締め付けられるように苦しかった。

 

――大事なものだったのに。

 

 カティアの髪を耳にかけ、ゆっくりと置いた。

 

――マタ、マモレナカッタ。

 

 私の涙が落ち、目を瞑ったカティアも泣いている様だった。

 

――もう、生き残るかナンて、どうでもイイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『殺してやる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界が開き、身体が鼓動した。

 

 

 

 

 

 

 

 




本当にすまないと思ってます。
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