〈痴呆〉のオリヴィア【完結】   作:peg

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待たせたな!


挺身

 クレア達はリガルドの異常な速度に、まるで太刀打ちできなかった。

 クレア達が参戦したことにより、一息分の休息を得たミリアだけがリガルドと唯一競り合っていた。

 

「くっ!」

(どうして、私の身体はこんなに遅いんだ……)

 

 クレアは、歯を食い縛った。

 ヘレンの腕を伸ばしての射撃やクレアの〈高速剣〉は、リガルドへ攻撃の一切合財が当たらなかった。

 デネヴが3人の攻撃に合わせて隙を攻めたが、それすら手玉のように扱われてしまっていた。

 

「ちっ。鬱陶しい蝿共だ」

 

 これまでの間合いから少し離れたところに着地したリガルドが、手のひらをクレア達へ向けた。

 

「! デネヴ、避けろ!!」

「なっ……」

 

 クレアが、リガルドの攻撃を事前に察知してデネヴへ叫んだ。しかし今一歩遅く、リガルドの攻撃はデネヴに突き立った。

 ヘレンの射撃のように、五指の鋭い爪を高速で伸ばした攻撃だった。

 

「が、はっ」

「デネヴ!」

 

 全身を貫かれたデネヴが倒れ、リガルドを攻めあぐねていたヘレンが駆け寄って助け起こした。

 

「おいっ、しっかりしろ!」

「く、情けない……。……ヘレン、聞け。この戦い……ミリアとクレアが戦いの要だ。必ず助けるんだ……、戦局を左右する2人を死なせるな」

「……おい!」

「いけ!」

 

 押し問答をして、漸くヘレンがデネヴから離れた。瀕死のデネヴには、去り際のヘレンから歯の噛み合う音が聞こえた。

 

「くそ! なんてざまだ。……私は仇を取るどころか、一太刀だって入れられないじゃないか……」

 

 体の再生に入ったデネヴは、静かに涙を流した。

 

 

 

 ミリアは、既に限界近くになっていた。気力だけで身体を持たせている状態だった。

 〈幻影〉を使って、なんとかリガルドの速度に追いすがっていたが、もう何合も打ち合わない内に力尽きることを悟っていた。

 

「ぐっ……」

(くそ! ここまでだというのか……)

「終わりだ……」

 

 リガルドの拳が、ゆっくりとミリアに迫ってきていた。極限の戦闘への集中のためか、ミリアにはひどく長く感じた。

 その時、リガルドとミリアの間を影が抜き去った。

 

「なんだ、これは……」

「……っ」

 

 ミリアは、攻撃を避けようとした急な動きの反動で姿勢を崩し、リガルドから遠ざかった。

 リガルドが、無くなった自分の腕を凝視していた。

 

「驚いたな。私が見失う速度で、この者との間を駆け抜けたのか……」

「なっ……」

「ガ、ガギギ……」

 

 感心した声でリガルドが言った。

 土煙が収まると、そこには足を覚醒させたクレアが現れた。

 クレアには、ウマのような金属質の足が生えていた。口元も裂けるように割れ、鱗のような肌が剥離して落ちていった。刃が外に出ようと、両腕の中で(うごめ)いていた。

 

「ほう。足だけを覚醒させたのか。片腕のみならず……ずいぶんと器用な真似をする」

「ぐ、ガガ……」

「クレア……」

 

 元々、片腕のみを覚醒させる〈高速剣〉の技の性質上、クレアには四肢の一部を覚醒させる素養があった。この土壇場で、クレアはその四肢全てを覚醒させようとしていた。

 

「ガ、ガガ」

「ふん……」

 

 既に言葉の大半を失ったクレアが、リガルドに襲い掛かった。

 そんなクレアの攻撃ですら、リガルドは最小限の動きで回避してしまった。

 

「種が判れば、所詮は児戯か……」

「ガァア!」

 

 速度が上がったとは言え、クレアは直線的な攻撃しかできずにいた。戦闘経験が豊富なリガルドからすれば、避けることは容易かった。何度も繰り返すうちに、リガルドから動きを完全に見切られてしまった。

 

「う、ぁあアア!」

「なにっ!?」

 

 同じ行動を繰り返すクレアが、リガルドの前に躍り出て、突然直角な軌道に曲がり〈高速剣〉を放った。

 大剣の剣先は、リガルドの左目を抉った。

 無茶な動きをしたせいで、クレアの身体は錐揉(きりも)みして近くの建物を破壊して止まった。 

 

「なっ。……あれは、オリヴィアの〈千剣〉か」

「く、何度も驚かせてくれる……。空中で突然曲がるだと? どういうカラクリだ……。しかし、無茶なことであると言うことには違いない。無茶は、身体に必ず代償を支払わせる……」

「ぐぅ、ギガ……」

(くそっ! ……身体への負担が大きすぎる。たったの一回でこれ程なのか……)

 

 左目を押えたリガルドが言った。

 その時、クレアの身体を異変が襲った。

 

「グ? うぁぁァァァア!」

「ふん。……なんだ、もう時間切れか」

 

 無理な足の覚醒、〈高速剣〉の酷使、そして〈千剣〉を真似た事による反動で積み重なったダメージがクレアを襲った。

 右腕の拘束具が破れ、触手のような刃が飛び出した。左腕が裂けるようにして五枚の刃が現れた。

 

「ダメだ! クレア! それ以上行くな!!」

 

 片膝をつくミリアを介抱したヘレンが、必死な声でクレアに呼び掛けた。

 クレアは、あと一歩でも動こうものなら覚醒してしまいそうな深みにいた。ヘレンの声で、辛うじて踏みとどまった。

 

「……ふむ。なんとか人の意思を保っているのが限界と言ったところか。どれ、一思いに殺してやろう」

 

 のんびりとした口調で言ったリガルドは、自身の落ちた利き腕に向かって歩き出した。既にリガルドは、中途半端に覚醒したクレアを脅威と見なしていなかった。

 リガルドの目の前で、落ちた利き腕に大剣が突き刺さり移動した。

 

「ち、貴様……」

「……元は攻撃型かい? 覚醒しても即座の回復は苦手ってところか?」

 

 不敵な顔をしたヘレンが、リガルドの腕を伸ばした腕で捕らえて回収したのだった。

 機嫌を損ねたリガルドが、ヘレンに向けて駆け出した。

 

「やべぇ!」

「ガッ。……ヘレン!」

 

 目を見開いたヘレンが、リガルドの攻撃から逃れようとしたときだった。

 ヘレンの大剣が突き刺さった腕が、突如消えた。

 

「えっ、……は?」

「なにっ」

 

 ヘレンの脇に立っていたのは、手の異形だった。

 色黒な人間をベースに作った、奇っ怪なオブジェのようだった。髪の部分から幾重にも腕が生え、戦士の装備に見えていた部分には、身体の黒さと対比するような真っ白な人間の腕がいくつも生えていた。

 生えた腕は、その身体を捕らえようとするかのごとく、取り付いて黒い身体を抱き締めていた。

 まるで親が子に凄惨な場面を見せないようにするかのように、手や指が折り重なって顔を覆っていた。

 

「なんだこいつは……」

『――オまえか』

 

 ヘレンには、手の異形の妖気がまるで感じ取れなかった。

 ひたすら不気味な存在がリガルドへゆっくりと顔を向けた瞬間、リガルドの身体が宙を舞った。

 

「がはっ……なに!?」

 

 リガルドを追って、手の異形が駆け出した。

 手の異形の頭部から生えた腕が、尾のように連なっていた。最後尾には大剣が握られており、辛うじて戦士であったことが見て取れた。

 

「オリヴィア、なのか……? くっ、いかん!」

 

 ミリアからは大剣の印が見えた。

 オリヴィアの覚醒、クレアの限界を迎えた妖力、動かない自身の身体。状況は最悪だった。

 

『――殺してやる殺してやるコロしてやる!』

「覚醒したのに対象を見失わないだと……。いや、溢れんばかりの殺意で未だ自我を保っているのか。……信じられん」

 

 白い手に口を塞がれたくぐもった声で、オリヴィアが何度も叫んだ。

 空中でリガルドが爪を高速で伸ばしたが、オリヴィアの黒い手が爪を容易(たやす)く掴んだ。

 黒い手の外皮は非常に硬く、リガルドの爪をもってしても裂けなかった。

 

「ちっ、斬れんか」

『――よくもカティアを。パメラをマチルダをいらいざをミンナヲ』

 

 オリヴィアが捕まえた爪を引くと、身体が加速してリガルドに突き立った。

 

「ガっ……」

 

 そこからのオリヴィアの動きは、さらに加速した。

 反作用で飛んでいこうとするリガルドを、白い尾が捕まえた。黒い拳がリガルドの急所を的確に捉え、乱打を繰り返した。

 上空で上下が入れ替わったリガルドは、オリヴィアの踵落としを受けて地面に墜落した。それは、この戦闘が始まったときの焼き直しのようだった。

 

「がはっ」

 

 立場が入れ替わったオリヴィアが、地面に叩き付けられたリガルド目掛けて降ってきた。黒い手には、いつしか大剣が握られていた。

 

『死ねよやぁぁぁぁ!』

「私を殺すこと。その一点に集中し、全てを捨てた覚醒か。憐れな……」

 

 地面に陥没を起こす勢いで、大剣が突き立った。

 顔面に大剣を突き刺されたリガルドは、そう言い残して沈黙した。

 

 

 

 

「ここまでか……」

 

 ミリアはそう独りごち、大剣を再び構えた。

 26名いた戦士は、そのほとんどが倒れていた。

 覚醒しかけていたクレアは、ジーンの命と引き換えに人間の姿へ戻っていた。

 

「うっうぅ……」

 

 後悔と悲しみで立ち上がれずにいるクレアを、デネヴが蹴飛ばした。

 

「いい加減にしろ。仇を取れなかったばかりか、お前はジーンの命を使って生き長らえていることを忘れるな」

「……。分かっているさ……そんなことは……」

 

 クレアは立ち上がった。

 

「ふん。私の弔い合戦はこれからなんだよ!」

 

 デネヴが大剣を構えた。

 先ほどまで大暴れしていたオリヴィアは、白い腕の中で眠っていた。

 リガルドの死体を理性なく完全に破壊した後、止める仲間たちの声も届かずに複数の覚醒者に飛び掛かっていった。

 しばらくした後、連なった尾の腕がオリヴィアの黒い身体を掴み、抱きしめるように白い繭に包まれてしまった。オリヴィアの妖気は、完全に感じ取れなくなっていた。

 

 多くの覚醒者に囲まれ、生き残った4人が背中合わせに立った。頭から血を流したミリアが、瞑った眼を見開いて言った。

 

「行くぞ……最後の仇花だ……」

 

 

 

 

「……あらん。みんな死んじゃったわ」

 

 赤く腫れぼったい唇から男の声が響いた。

 場所は、ピエタから南へ下るルートより外れた山道だった。

 元ナンバー10の戦士バキアは、イースレイ軍とかち合わないところで大戦の様子を見物していた。鋭い妖気感知能力が成せる技だった。

 巨体のバキアは、配下にしたムキムキの妖魔3人に神輿のように担がれていた。

 

「何人か逃げ出して、楽しめると思ったのに……残念だわぁ」

 

 バキアはオールバックにした長髪をかき上げ、大きな手で目を覆って涙を流した。

 しかし、それほどまで従順で仲間への愛に溢れた戦士の死体であれば、さぞ素晴らしい作品ができるであろうことを確信していた。

 

「うぅっうっ。うっ……うふ、うふふふふ。素晴らしいわ! わたしがあなた達がそこにいた証を作ってあげるわ……」

 

 嗚咽を漏らした状態から突如笑い始めたバキアは、そう独り言を漏らした。くねくねとしたバキアの動きで揺れる神輿を支える妖魔の顔は、ひどく無感情だった。

 

「それにしても、イースレイの横にいる女……何者かしら。……ま、わたしの“ペセルちゃん”よりは弱いわね」

 

 覚醒者の群れ、そしてイースレイが通り過ぎた後、バキアはピエタに向かって動き出した。

 

 組織では、昔から回収不能な戦士の遺体や妖魔、そして覚醒者の遺骸について議論が交わされてきた。一部の特殊な例を除いて、その多くが大陸の北東部に集中していることが分かっていた。

 そこに居座ると思われる、厄介な戦士狩りに特化した覚醒者。

 過去から現在においても稀有な、戦士狩りのナンバー持ちが覚醒するという最悪の事案。

 組織は、その姿が見えずとも痕跡の残る覚醒者の名前を〈屍漁り〉のバキアと名付けていた。

 

 




【Tips】

 原作よりもミリア隊の人数が多いため、ミリアの体力を上方修正しました。限界付近まで戦えます。
 ミリアの速度、体力が上がったことで、リガルドの爪に捕らわれる事がなくなりました。
 戦いを楽しむリガルドによって、ステゴロで止めになります(悲惨化)

 クレアはフローラとの手合わせを済ませています。(風斬りフラグ)
 ベロニカとも交流があったため、怒り度が上がりました。(覚醒速度上昇)
 四肢覚醒での戦闘時間がさらに短くなります。



筆力が足りなかったので改変ポインツを書いておきます。

次回、『おかわり』
お楽しみに!
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