〈痴呆〉のオリヴィア【完結】   作:peg

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非常に遅れております。こんなはずじゃなかった……。
つい昨日のことですが、急な激痛に襲われ病院に運び込まれました。

診断結果は尿管結石。

……そりゃいてぇわ……


銀色のあいつ

「う……くっ」

 

 イライザは、鉛のように重たい身体を起こした。

 額に手を当てて、直前の記憶を思い起こすと、獅子型の覚醒者に頭を蹴られてから、記憶が途切れている。

 

「ぐっ……」

(大剣はどこだ……。オリヴィアは、皆は……?)

 

 ふらつきながらも、イライザは立ち上がった。

 ピエタの町は、ほとんどの建屋が崩れて原型がなかった。町の外れの家屋が残っている程度で、町の広場を中心に破壊され尽くしていた。

 既に覚醒者達の姿はなく、イライザは生き延びたことを悟った。

 

 広場のあちこちで、小さな小山になっているところがみられた。

 

(雪で埋まっているのか……。妖気が感じ取れない。仲間が埋まっているかもしれない……)

 

 イライザは、近くに突き刺さっていた大剣を引き抜いた。普段は羽根のように振り回している大剣が、酷く重く感じられた。

 イライザは、大剣を支えに一歩づつ歩いた。

 

 近くにあった小山は、血が滲んで淡いピンク色になっていた。

 掘り起こすと、冷たくなったパメラが現れた。

 

(くそっ!)

 

 イライザは、歯を食い縛った。

 その後、幾つかの小山を崩したが、生きた仲間は見つけられなかった。

 

「はぁ……はぁ……」

(あんなに強かった隊長格ですら、これか……)

 

 分割されたベロニカやフローラを見つけたイライザは、拳を強く握った。消耗がひどかったが、イライザは小山を崩し続けた。

 

(妖気が感知できない……生きているといいが……)

 

 イライザには薬の影響で妖気が感じ取れず、特有の頭痛も発生してきていた。しかし、それからも諦めずにあたりを懸命に探した。

 仲間の遺体は、段々と南側に散らばっていた。イライザが気絶してから、徐々に戦場が南下していったようだ。

 

「ぐ、ぅ……」

 

 イライザがまだ崩していない、近くの雪の小山が崩れて戦士が現れた。片腕を失ったウンディーネだった。筋骨隆々だった身体は、以前の見る影もなく痩せ細っていた。

 常時妖力解放していた身体が、妖気を抑える薬の影響で縮んでいたのだった。

 

「はぁ、はぁ。くそっ……腕が()ぇ」

 

 ウンディーネは、起き上がって最初にそう呟いた。攻撃型のウンディーネが、再び双剣を握ることができないことは明白だった。

 

「ウンディーネ!」

 

 イライザが呼び掛けると、ウンディーネは声に驚いた顔を向けた。

 

「お前は、ナンバー17のイライザだったか……。他のやつは……?」

「まだ、見つかっていないわ」

「けっ……。あたしらだけってことはねぇだろうな……」

 

 イライザの返答を聞いたウンディーネは、その場で仰向けに倒れた。精も根も尽き果てた様子で目を瞑り、残った手で顔を覆った。

 

「ねぇ……ちょっと、手伝ってよ」

 

 イライザとてさんざん探し回って、今すぐにでも横になりたかった。

 イライザには、片腕を失ったウンディーネの気持ちがよく分かったが、あとにして欲しかった。集団からはぐれた覚醒者が、ここへ来る可能性だってあるのだ。

 

「あ? ……生きてりゃ勝手に起き上がってくるだろ」

「……」

(そうかな……? 重症でも、生きている仲間がいるかもしれない……)

 

 死んだ仲間達を思うと、イライザは居ても立ってもいられなかった。

 普段であれば、ウンディーネも仲間を想って探しに行くところであったが、如何せん片腕を失ったショックを隠しきれなかった。

 

「……もういいわ!」

 

 イライザは、目を瞑ってしまったウンディーネを放って捜索を続けることにした。

 それからしばらくして、イライザは息のある戦士達を付近の雪の下から運び出した。

 

 運び出した場所は、崩れていたが比較的ましな建物だった。多少の雪くらいであれば、防げそうだった。

 生き残っていたのは、下位ナンバーが3人とイライザ、ウンディーネを含む10台ナンバーが3人だった。総隊長達は、見つからなかった。

 

(あれほど強かった戦士達だ。最後まで、戦い続けていたのかもしれない……)

 

 イライザは、捜索を一旦切り上げた。妖力解放できない状態で、南側に行くのは危険と判断してのことだった。

 

「……律儀に全員分の大剣を拾ってきたのか」

「なにか文句ある?」

「いやいやいや、そういう意味じゃないんだ……」

 

 そんなイライザに声を掛けたのは、ナンバー40のユマだった。生えっぱなしの長い前髪が揺れた。

 ユマは防御型の戦士なだけあって、傷は治りきっていた。

 

「けっ……」

「え?」

 

 そんなイライザとユマのやり取りを見たウンディーネは、思わず声が溢れた。自分が防御型だったらと考えてのことだったが、すぐにその考えを追いやった。

 

(いや。防御型だったら、ここまで生き残ってきてねぇ……)

 

 2人のどちらにも相手をされず、眉尻を下げたユマが所在無さげに立っていた。

 

No.11 ウンディーネ (攻撃型)

No.17 イライザ (攻撃型)

No.18 リリィ (防御型)

No.37 ナタリー (防御型)

No.40 ユマ (防御型)

No.44 ディアナ (防御型)

 

 現状、意識を取り戻したメンバーは5名だった。生き残った戦士は、やはり防御型が多かった。

 ナタリー、ディアナは、ミリア隊に居た2人だ。ナタリーは、長い髪を背中でひと房に結っていて、ディアナはミドルショートな髪を真ん中で分けていた。ナンバー18のリリィは、前髪を上げケープ状にして耳に流していた。

 

(低いナンバーのメンバー達は、その中途半端な実力が幸いしたのかもね……)

 

 イライザが思うように、下位ナンバー達は覚醒者の攻撃によって、五体が残ったまま気絶したものが多かった。攻撃を中途半端に受け損ねたことにより、生き残ったようだった。

 

「なぁ、誰が指揮を執るんだ?」

 

 そう訊いたのは、ユマだった。

 通常、覚醒者狩りで隊を組むときは、ナンバーが浅い者の意見に従うのが通例となっていた。

 イライザがウンディーネに目を向けると、ウンディーネはそっぽを向いた。

 

「……ちっ。あたしはごめんだよ」

(片腕を失った状態で、前と同じように戦えるとは思えねぇ……)

 

 ウンディーネの隊長観としては、前線に立ってその姿で味方を鼓舞するような、そんな認識があった。しかし、今は前と同じように、味方の前に立つことは叶わないだろう。また、攻撃型の戦士は再生が遅く、さらに腕の再生となっては時間をかけて人並みの筋力しか得られないことが、戦士たちの間では常識となっていた。

 次点で隊長はイライザになろうか、そう考えたメンバー全員がイライザを見た。

 

「……しょ、しょうがないわね!」

 

 少し顔を赤くしたイライザが、腕組みして言った。ここまで、瀕死の仲間や大剣を運んだことを皆が評価していた。

 イライザは、皆の体力がある程度回復するまで休息を取ることにした。特にナンバー18の防御型戦士リリィが回復すれば、妖気感知により捜索がより楽になるだろうと考えてのことだった。40番台付近の戦士は、あまり当てにしていなかった。

 生きた仲間の全員が妖気を消す薬を飲んでいたため、妖気感知により探すことはできないが、覚醒者に遭遇する確率を少しでも減らすためだった。

 

 

 破壊された建物の端材を燃やした焚き木を囲んで、大剣を背にイライザ達は休んでいた。

 ウンディーネの戦士の印と大剣の印が異なっていたが、ピリピリしたウンディーネに誰も突っ込めないまま時間が過ぎていった。

 

 無言の時間が過ぎていった。その時、焚き木にしている薪が跳ねた。

 

「! 何か来るッ!」

 

 リリィが叫んで大剣を握った。

 リリィの声に反応したメンバーが、各々大剣を握って素早く散開した。多くの覚醒者と対峙した経験が、下位ナンバー達にも生き残るための行動を()いた。

 

「……あらん。おかしいわね……。どうやって生き延びたの、あなた達?」

 

 野太い男の声が響いた。

 戦士たちの前に立っていたのは、黒く長い髪を後ろに流した筋骨隆々の肉体を持つ大男だった。奇術師のような奇抜な恰好をした男は、妖魔とみられる3人の人型に乗っており、どこか浮世離れした光景をしていた。

 くねくねとした男は、腫れぼったい唇に触れて言った。

 

「まぁ、いいわん。お前達、適当に集めなさぁい」

「……」

「何を……」

 

 声をかけられた3人の妖魔は、ビクリと反応すると幽鬼のようにふらふらと歩いていった。イライザの声に男が反応した。

 

「うふん。あら、気になるの? その前に、ご挨拶がまだだったわね」

 

 両腕を頭の後ろに組んでムダにポージングをとった姿で、ムキムキの男は答えた。

 

 左足を前に尻を突きだし、腕組みするような姿勢から右腕を立て、人差し指と親指、そして小指を立ててイライザ達を指差した。

 

「わたしの名前はバキア。〈芸術家〉のバキアよ。よろしくね」

 

 片目を瞑ってバキアは言った。

 

「……」

(なんだ……この隠された膨大な妖気は……)

「な……」

 

 そのあまりの濃さにイライザ達は絶句した。そんな中、至近距離からバキアの妖力を感じ取ったリリィは、瞠目し冷や汗を流した。

 リリィは薬の効果が既に抜けかけており、バキアの妖力隠蔽能力が高いといえども、至近距離からであればバキアの妖力を感じとることができた。

 

「あらぁ。決まりすぎて固まってしまったわね。ごめんなさぁい」

(なんなんだこいつは……)

 

 なおもくねくねと動く変態(バキア)への呼び名が、イライザの中で固まった。

 

「イースレイの一派がまだ残っていただと……?」

「んー? あんなのと一緒にしないでちょうだい。全く、別別々よ」

 

 ウンディーネが口にした疑問に、バキアが早口で答えた。バキアは指を1つ立てて、顔の前で振った。

 

「……でもまぁ、やることは同じなんだけどね」

「くっ!」

 

 バキアが突然ピチピチの服を脱ぎ去り、人の二倍ほどの大きさの覚醒体へと変じた。

 バキアの覚醒体は、銀色の照り返す表皮をしており、大きな身体を無理矢理小さなボディースーツに押し込めたような見た目をしていた。

 イライザには、どこからかともなくオリヴィアのよく解らない『ペ○シマーン』(うなり声)が聞こえた気がした。

 

「美しいでしょう? この身体。……あらぁん。そんなに怯えないでちょうだい。ふむ、……よく見れば妖気を抑える薬を飲んだのねぇ」

(最悪だ……。ウンディーネも力が半減している状態で、このクラスの覚醒者の相手をするだと!? ……このメンバーで勝てるのか)

 

 下位ナンバーの瞳の色を見たバキアは、感心したように言った。銀色の体皮に覆われた顔は、不細工な人形のように良く動いた。

 イライザは、ついに膨大な妖気を肌身に感じて震え上がった。命を懸して戦った、先の獅子型の覚醒者と同じくらい妖力が強かった。

 

「覚醒者の群れを欺くと言うより、組織を欺くため。と言ったところかしら……、さてと」

 

 ちらりと、バキアが下位メンバーの3人の方を見た。竦み上がった3人のうち、ユマを除く2人がその場から弾け飛び、雪原を転がった。

 

「がはっ」

「ぐあっ」

「!」

「ナタリー! ディアナ!」

 

 隻腕のウンディーネが叫んだ。下位ナンバーの2人が飛んだタイミングで、イライザとリリィが大剣を振り上げてバキアに飛びかかった。

 バキアは、腰に手を当てて2人の大剣を滑るように躱した。

 

「うーん……。生き残った割に弱いわねぇ……」

「貴様ぁ!」

 

 隻腕のウンディーネも出遅れたが、切れかけた薬の抑制効果を無理矢理制して妖力解放した。ウンディーネの右腕が盛り上がり、再び筋肉質な体に変わった。

 

「あら? 逞しい……。良いわね、あなた」

「な」

「ウンディーネ!?」

 

 バキアはイライザとリリィが認識出来ない速度で移動すると、ウンディーネを掴み上げた。

 

「うーん……。腕が一本無いのが減点ね。そうだわ! もう一本もとってバランスを取りましょう」

「くっ……キチ○イめ」

 

 掴まれたウンディーネが吐き捨てた。

 

「やぁああ!」

 

 転がされたナタリーが復帰し、バキアの左足に斬りかかった。ユマも示し会わせたように、右足に斬りかかった。

 硬質な音が響き、二人の大剣が弾かれた。

 

「なっ……」

「……もはや避けるまでもないわね」

 

 バキアが呆れたように言った。

 絶望的な状況の中、大剣が一振りどこからともなく飛んできた。

 

「なんですって!?」

「がっ……!」

 

 回転した大剣は、バキアの右腕を切り飛ばして雪原に突き立った。バキアの掴み上げから解放されたウンディーネが地面に落ちた。

 

「いったいどこから……?」

「今だ!」

 

 イライザは、掛け声と同時に妖力解放した。

 リリィが腰下を、イライザが首をバキアの背後から狩った。泣き別れしたバキアの身体が地面に倒れた。

 

「はぁはぁ、一体何だったんだこいつは……」

「はぁ、分からない……。凄まじい妖気だった」

 

 イライザは、バキアの死体を一瞥した。不気味な覚醒者は、沈黙を守っていた。

 

「この大剣は……」

 

 ユマは飛んできた大剣を確認していた。印を見ると画数の多い形をしていた。ユマはナンバー26のオリヴィアに思い至った。

 あの最後の戦いのとき、ユマには辛うじて意識があった。ユマはリガルドに止めを刺すときの、オリヴィアがとった異形な姿を思い出した。

 

(彼女は、覚醒していたのではなかったか……。いや、生きているのか……。しかし、妖力が感じられない)

 

 ユマは大剣を拾い上げながら、冷や汗を流した。

 

「ちっ……」

 

 ウンディーネが、自分の手のひらを見て舌打ちをした。隻腕になったことに気を取られ、攻撃に出遅れ皆の足を引っ張りそうになったことを悔いていた。

 イライザ達は、一向に起き上がってこないディアナを起こしに行った。打ち所が悪く気を失っているのかもしれなかった。

 

「ディアナ。おい!」

 

 イライザの呼びかけに対して、ディアナの反応がなかった。呼吸はしていることから、イライザには気を失っているだけに思えた。

 イライザは、ディアナの身体を上向きに転がした。

 

「なんだこれは……」

 

 上向きになったディアナの身体は銀色の被膜に覆われ、不気味に鳴動していた。

 

「おい、ディアナ! おい!」

 

 イライザが再び呼びかけたが、反応は無かった。

 その時、

 

「ぐぎゃあああ、あぁあ」

「な!?」

 

 リリィの叫び声が聞こえた。

 イライザが振り返ると、倒したはずの覚醒者の身体から銀色の触手が飛び出し、リリィの身体を穿っていた。

 

「うーん。たまには死の淵を彷徨ってみるものね。新たな世界が見えたわ」

 

 死体があった場所を見れば、中途半端に触手で接合したバキアが立ち上がっていた。

 穿たれたリリィの身体が萎んでいき、バキアの身体が再生した。

 

「戦士の血肉って、ホント不味くて食えたものじゃないわね……」

「き、貴様……」

「あら、騙したわけじゃないのよ。あなた達が無視した妖魔、それのうち一つを使っただけのこと」

 

 ウンディーネが大剣を再び構えた。バキアの近くには、バキアを担いでいた妖魔らしき死骸があった。

 

「首を落としても死なない……だと……」

「まぁ。どうせ死ぬんだから、教えてあげようかしら」

 

 瞠目するイライザにバキアは言った。

 

「「わたし、こういう身体なの……」」

「なっ」

 

 バキアの声が、イライザの背後から聞こえた。イライザの後ろにもう一体のバキアが現れていた。

 イライザが振り返ると、()()()()()()()()()にバキアが立っていた。

 

「うーん。やっぱりこの戦士、下位も下位ね。恐ろしく弱いわ、わたし」

「あら、やっぱりそうなの。でも保険よ、保険。わたし」

「増えた……だと」

 

 増えたバキアは、イライザ越しに会話を行った。ディアナの場所にいるバキアは小柄で、元の場所に復活したバキアは巨体だった。

 

「まぁ、ネタばらしすると……こういうことなんだけどね」

「ディアナ!」

 

 ディアナが居た場所に視線を向けたイライザには、バキアの顔が半分溶け、中に妖力を限界まで解放したディアナが見えた。

 

「わたし、普通の覚醒者と違って()()()なのよ」

 

 

 




痛みで筆が一度折れてますので、書き換えることもあるかもしれません(言い訳)
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