人間の体の細胞は7年くらい経つと大体入れ替わるらしい。変わらないのもあるらしいが。
もしかして、細胞レベルで変わったということは別人が書いた小説なのではないだろうか。
妖魔を倒し続けて幾星霜。ついに新技が完成した。大剣を振り回し続けてどんどん加速する技だ。肝は、全身のバネを使うことと重心をとるバランス感覚、そして大剣に加えた威力を殺さずに維持し続けることである。最終的に暴風の塊みたいになる。そこまでいくのに時間が掛かるが……。最高速度に達したときの威力はなかなかすごいことになる。
「クギャゲヒャ」
この町に蔓延っていた妖魔は全部で12体。最近、妖魔感知もある程度できるようになってきたが、基本的に突っ込んで大剣をぶんまわす脳筋スタイルのため、妖気感知して回避なんてセーフプレイはできない。攻撃は最大の防御だから……。しかしながら、最高速度で振り回しても動体視力や基礎能力が高いせいか、攻撃はブレることなく狙ったところに正確に当てられる。
「くそっ! でたらめに振り回しているように見えるのにどうなってやがる!?」
やっと最高速度に達した。外から見ると斬撃の結界のように見えるだろう。妖魔ごときは相手にならなくなってきている。そろそろ異常食欲者(覚醒者)狩りに参加させられそうで怖い。まぁ、No.42なら呼ばれんか。
「グギャァァア!」
あれこれ考えている間に最後の妖魔が血霧になった。ヴォンヴォンいってる金属のかたまりに当たったらそうなるわ。削岩機よりひでーや。
「事は成した。報酬は黒服に渡して」
お決まりの台詞を言ってそそくさと離れる。なぜなら、戦い方が汚いせいで町中血の雨が降ったみたいになっているからだ。塗装してやったわ。わはは(狂)。
「はぁ。もう少し丁寧に戦えないのか」
その夜、案の定黒服のくそでかため息おじさんに苦言を言われた。いや、あんたにため息つかれながら弱い弱い言われて努力した結果、ああなったんだ。多少許せよ。言葉は大分解るようになってきたが、わたしわかんなーい。という顔をしておく。
「はぁ。お前のナンバーが繰り上げになった。No.26だ。担当地区が変わる」
『え、まじで!?』
「はぁ、人間の言葉で話せ。大陸の西に近い区になる。ラボナには入るなよ?」
「ん。了解」
思わず日本語が出た。一気に数字上がったなぁ。しかも西区とかリフルちゃんおるやんけ。実質左遷かな? なんか悪いことしたっけ。
「しかし、これでお前とも長い付き合いになるなぁ。意外と長生きするもんだな。〈痴呆〉のオリヴィアよ」
「……!」
いやまって、血霧とか無傷とかじゃなくて痴呆?? それ二つ名じゃなくて悪口だろう。なめてんのか。自慢じゃないが、こちとら妖魔に一撃ももらった事ないんだぞ。怫然としていると黒服はさらに続けた。
「……、お前には団体での覚醒者狩り経験を積んでもらう。意味は分かるな?」
『いーや、分からないね!』
「はぁ。人間の言葉を使え」
いやまて、話は終わっていない。私の戦士マークが漢字の“呆”に似ているのはわざとか? 呆然と立っている人間の象形文字かよ! えっ? そういうこと……?
というわけで、覚醒者狩りに参加することになった。反抗して分からないふりしてたら、黒服に戦士達が集まっている洞窟へ強制的に連れて来られた。
「ちっ。豆粒みてぇーな妖気だと思ったら、保護者連れのチビかよ!」
思いっきり舌打ちをかましてくれたのは、ムキムキのおねーさんだった。仲間に対して口悪くない? おめぇ、夜道の背後に気をつけろよ? しかしこの雰囲気、御主もしや……。
「ウンディーネ、そう言うな。お前達と
「けっ!」
『おお! ほんとにムキムキだ。いやぁ原作に出てたやつに会うの初めてだよ! よろしくな』
「なにいってんだこいつ? おい寄ってくるな! 触るな!」
「くくく、好かれたようだな」
はっ! ミーハーが出てしまったな。本当はガリガリのお嬢さん失礼。縮んだあんたも好きだよ。
それにしても他の戦士も見たことある髪型だ。包帯おさげはシンシアちゃんじゃなかろうか。すんげー妖力の強いが前髪が短くロン毛の特徴的な髪形をしているやつ、どっかで見た気がするんだが……。
「あの、その子のナンバーはいくつですか? 戦えそうにないんですけど……。わっ、こっち来た」
『絶対おまえシンシアちゃんやろ! かーっ! 人を見た目で判断するなんて。ファンです。握手してください!』
「最近No.26に上がったオリヴィアだ。呆けているのと何をいってるか分からないのが玉に瑕だが、実力は本物だ。妖力未解放で比べれば一桁代の強さに匹敵する」
「ほぉ。にわかには信じられんな。今回の隊長になるエバだ」
「へぇ、シンシアより上じゃねーの。あたしはNo.15のウンディーネだ! 言うこと聞かねーなら、おいていくぞ! お嬢ちゃん」
『オッス! 姉御よろしく!』
こうして、覚醒者狩りに参加することになった。ちなみにシンシアがNo.27、隊長のエバがNo.7だった。エバってイースレイ軍に3コマくらいでやられるやつでは……。でも、No.7って原作で出てきたフローラ様より上のナンバーになる。原作でミリアがほぼ団子だって言ってたがあの辺りの実力者なのだろう。
覚醒者が出没しているのは、聖都周りにある1つの衛星都市近くの山だった。参拝者を狙っていて、大量に行方不明者が出ているようだ。
「けっ! しらみ潰しに山登りっていうのもかったりーな……」
「言うな、ウンディーネ。今回は感知タイプの仲間がいないんだ」
「ごめんなさい。私も少しなら分かるんですが……」
『レーダーに感! 天使です! 隊長! おなかすいた』
順にウンディーネ、エバ、シンシアの言である。シンシアの天使具合が分かるだろうか。殺伐とした業界でひとりだけ浮いて見える。ってかマジで腹が減ってきた。クレイモアが一週間くらい食べなくていいからって、ストイック過ぎない? そのせいで兵站担ってるやつ基本的に皆無なんだろうけど。胃袋を拡張しすぎたせいでつらい。あー、まじで腹減った。
「ちび助はぶつぶつうるせーしなぁ。なぁ、隊長! ちび助がどんだけできるか知っといた方がいいんじゃないか?」
なんだぁ、おめぇ? しかしまぁ、当然と言えば当然か。私も実力が分からないものに命を預けたくはない。というか、ウンディーネの姉御はもしかしなくても心配してくれているのだろうか。さてはおめぇツンデレだな?
「……。これは訓練生を上がり立ての戦士から聞いた噂話だが、かつて訓練生のなかに初めから妖力解放限界ギリギリで使えるはずの技を使える戦士達が居たそうだ」
「けっ! なにかと思えば天才達の話かよ!」
「そうだ。しかし、現役の戦士達のなかでそんな凄腕の噂を聞いたことはない」
えっ、なんの話? 途中から早口になって分からんのだが。たまにいるんだよねぇ。説明口調になって急に早口になるやつ。でもそういうやつ割と好きよ。君の短い前髪も好きよ。
「所詮噂だろう? 最近は聞かないんだろう? ……というか隊長、なんの話だよ!」
「まぁ聞け。その噂の訓練生だが、"皆揃いも揃って言葉が利けず、思考能力は幼児並み"だったそうだ」
「それって……」
「なに、ふと思い出しただけだ。さて」
エバ隊長がこちらに向き直った。大剣を抜いて構えた。水曜日みたいなマークが不遇水属性のようで笑いを誘った。
「おい! こいつ笑ってやがるぞ」
「やる気は十分ということだな」
「えっ?」
ウンディーネが抜刀した。筋骨隆々の彼女は戦士随一の力自慢をしており、二本の大剣を扱う二刀流だ。2vs1ってこと? まぁ、死なないなら何でもいいか。かかって来いよ!
ウンディーネの剣捌きを見たかったところだが、エバが止めた。
「すまんがこいつは私が世話しよう。見ていてくれ」
「そりゃないぜ、隊長さん」
少ししょんぼりしたウンディーネは引き下がった。常に妖力開放してるんだっけ? しんどくない? 7つの龍玉をめぐる戦いのZ戦士並みに叫んで、ようやく目ン玉の色変わるくらいしかできない私が言うのはちょっとあれだけど。
相対するエバの能力は未知数だった。No.7の実力者……。3コマくらいで退場するヤツ。でももし彼女が生き残ったら、北の戦地で亡くなる戦士の数も減るのだろうか。
「ん、了解」
「来ないならこちらからいくぞ!」
先に仕掛けたのはエバだった。上段からの袈裟切り。半身で躱す。半回転からの横薙ぎ、仰け反って躱す。
大剣台風を使うためには回避してカウンターを行うことを前提とし、動作による力の流れを技として蓄える必要がある。黒服曰く、戦場でふざけて踊っているように見えるとか。ひどくない?
あまりやったことのない対人戦だが、良い経験が積めそうな雰囲気がした。
結局、一合も合わせないまま再び相対した。
「おー、スゲーな。隊長の攻撃を全部見切ってやがる」
「全て紙一重で躱しています」
「ここまでとはな。何度か回避からの反撃できる機会があったが、なぜ反撃しなかった?」
ばれてーら。いやしようと思ったけど、なんとなく防がれるイメージがあったから威力溜めてたんだけど。結局隙があまりなかったし、ある程度、技に溜まった時には威力が高まりすぎて攻撃するのに躊躇してしまった。
ってか、エバ強くない? 切り返しの攻撃めっちゃ速いんだが。しかもこれ、下手に防ぐと剣弾かれるぞ。しかし、原作で3コマ死してたキャラと思えない強キャラ感がある。さすが不遇No.7。
「信頼できないのは分かる。しかし皆が生き残るためだ、私の胸に預けてくれないか?」
『喜んで!』
そりゃ、おっぱい来い言われたら飛び込むに決まってんでしょうが! オラァァァン!
そのあとの記憶はない。気絶していたようだ。
◆
「回避はそれなりのようだが、攻撃に移ると一転して動きが鈍るな」
前髪の短いエバは言った。
「どうする隊長さんよ。陽動くらいには使えそうだが」
「異様に高い動体視力が備わっているのだろう。おそらく、こいつからは世界のすべてが止まって見えているはずだ」
「はっ?」
「3回だ。攻撃の型の中に<瞬剣>を混ぜた。しかし、やつはどれも避けてしまった」
エバの瞬剣は一瞬だけ妖力を高めて、挟み込むようにほぼ同時の2回攻撃を行う剣だ。
「わたしにはほとんど見えませんでした……」
「フン! 私もだよ!」
シンシアと腕組みしたウンディーネが言った。
「瞬剣をそんなに簡単に見切ってもらっても困る。これでも幻影のミリアすら捉えたことがあるのだからな。……といっても、ウンディーネが言うように陽動にしか使えまい。私と〈痴呆〉で前衛、ウンディーネとシンシアが遊撃と言ったスタイルしかないだろう」
読めるってことは特に変わってないわ(唐突なタイムリープ)