〈痴呆〉のオリヴィア【完結】   作:peg

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オリンピック紆余曲折あったけど、見ていると手に汗握りますね。

私も選手たちを見習って、細々と筆を動かすことにします。


第二章
痴呆の返上


 雪が降りしきる中、ミリア達は数年振りに見る組織の戦士達を眺めていた。

 場所はピエタからさらに北にあるダビの町、その近郊であった。

 ミリア達は全員が組織の支給していた軽鎧を脱ぎ捨て、闇に紛れる色をした革鎧を纏っていた。

 両手を頭で組んだヘレンと、大剣を2本背中に背負ったデネヴが言った。

 

「こんな辺境に、今更来るなんてなぁ……」

「感知できる妖気の大きさから言って、恐らく一桁ナンバーが1人、2人は二十番台って所か……」

「……」

 

 ミリア達はこの数年間、妖力の解放を禁じており、既に漏れ出る妖気は一切無かった。しかし、ミリア達が一方的に妖気を感知することはでき、組織側の戦士には、容易に居場所を探知できないことは明白だった。

 

「おっ。色つきが混じってんじゃん。珍しいねぇ」

「余程優秀な戦士か、あるいは……」

「……」

 

 戦士達の中には、防寒着を着た髪に色素が残っている戦士が付き従っていた。着ている服のせいで容姿が見辛いが、()()のミドルショートな髪型をしていた。戦士特有の体の機能が働かず、寒冷地に適応できていないのかもしれなかった。見るからに失敗作の戦士であった。

 

「余り強そうには、見えないよなぁ……」

「場合によっては助けに入る。準備しておけ」

「え? 姉ぇさんマジで言ってるのか」

「……」

「……」

 

 ミリアとデネヴに無言で視線を送られたヘレンは、おどけて肩を竦めた。

 そんなやり取りを行っているうちに、戦士達は覚醒者と交戦に入った。

 一桁ナンバーの女は、長い髪を一房に結っており凛とした佇まいをしていた。対する覚醒者は、六つ足の昆虫のような覚醒者だった。

 覚醒者の動きは速く、一桁ナンバーと思われる戦士は覚醒者を見失ったかに思えた。

 

「残念だったな。こう見えて俺のスピードは並みの覚醒者以上……」

 

 そんな覚醒者のセリフが聞こえたヘレンが、呆れ声を零した。

 

「あーぁ。……イースレイ軍からもあぶれたやつらがなんか言ってら……」

「私達も痕跡を残す事を嫌って、覚醒者を積極的に狩ってはいなかったからな……」

 

 一桁ナンバーの戦士が技を出し、部下の二人が覚醒者の腕を狩った。

 しかし、止めを刺そうとした一桁ナンバーの胸元が飛んできた杭に貫かれて、それは叶わなかった。

 そうこうしている間に、他2体の覚醒者が現れ、右往左往する戦士達に痛打を浴びせた。4人いた戦士達全員が、瀕死の傷を負い気絶したようだった。

 

「……いくぞ」

 

 ミリアの掛け声で、ヘレン達は雪が積もる山道に降り立った。

 

「散開!」

「なんだ!?」

 

 北の戦乱を生き延びた戦士達は、この数年間、北国で組織から隠れ続けて修行を積んでいた。

 この修行の中で、生き残ったメンバー全員が速力、膂力、そして技を鍛え磨いていた。全ては倒れた仲間の遺志を継ぎ、覚醒者の討滅と仲間を死地へ送った組織へ何かしらの意趣返しを行うためだった。

 

「一体なに……ガッ」

「同じ戦士だった(よし)みだ。苦しまずに逝け」

 

 覚醒者達はミリア達を認識することなく、細切れになりながらこの世を去った。

 

「……倒れた戦士を手当てしろ」

「うひゃ~。ざっくりイってるけど、大丈夫かこれ」

「……死んだらその時さ」

 

 ヘレンが痛そうに顔を歪めて言ったが、デネヴがバッサリと話を切った。冷たいようだが、ミリア達は隠遁の身であり、できることには限りがあった。

 

「手が必要ですか?」

「手を貸します」

「シンシア、ナタリー。……頼む」

 

 戦乱を生き残った他の二人が合流した。シンシアは束ねた髪を2つのおさげ風に結っており、ナタリーは長い髪を腰元で1つに束ねていた。

 シンシア達は、北の戦乱を教訓に感知能力強化による広域索敵や妖力操作の技術を身に付けていた。

 シンシアは目を瞑って瀕死の戦士に手をかざすと、瀕死の戦士自身の妖力を利用して傷を治し始めた。シンシアよりも精度は劣るが、ナタリーにも同様のことが出来た。

 

「……いつ見ても、どうなってんのかさっぱりだわ。ソレ」

「お前は脳筋だからな」

「デネヴには言われたかねーよ」

「……」

「……」

 

 二人は無言でじゃれ始めた。そんなヘレンとデネヴを横目に、治療を続けていたシンシアがなにかを感知して言った。

 

「! 色つき戦士の意識が戻りそうです」

「撤収だ!」

 

 ミリア達は治療も程ほどに、その場から撤収した。なんとか、命をつなぐ程度には回復したようだった。

 その後、目を覚ました色つきの戦士は覚醒者の残骸、治療された仲間を見て驚いた様子を見せた。

 元々、ミリア達がこの場に居合わせたのは、戦乱で散った仲間達の墓標へ用があって来たためだった。尤も、ほとんどの亡骸は墓標である大剣の下には存在していなかった。生きる樹木と化したカティアに吸収されて、どこぞへと消えてしまっていた。

 

「あっ、あいつ! 大剣を見て感づきやがった」

「場所が近かったから仕方がないさ。それに、そろそろ潮時だと思っていた」

 

 色つきの戦士は、近くにあった戦士たちの墓標を見つけると律儀に数えた。

 

「しかも、数えてやがる……」

「放っておけ。広大な北国で、妖気の消えた私達を見つけ出すのは容易ではないさ」

「……」

 

 デネヴの言葉にヘレンが渋々と引き下がった。指を鳴らしていた当たり、色つきの戦士を力ずくで眠らせようとしていたようだった。

 

「……全員を集めろ。残りはどこだ」

 

 ミリアの問いにデネヴが即応した。

 

「クレアは、いつもの無いもの探しだろうさ……」

「クレアさんには、ユマさんを付けています」

 

 シンシアがミリアへ言った。クレアは、この数年間の修行の傍ら、生き別れになった少年の面影を探していた。

 

「で、()()は?」

「……脱走したオリヴィアは、イライザとウンディーネが追って行った」

「また、脱走したのか……」

 

 ミリアに阿呆と呼ばれたのは、〈痴呆〉ことオリヴィアであった。ナタリーが顛末を言うと、ミリアはため息を吐いた。

 何度言って聞かせても言うことを聞かず、あまつさえ言い訳までするようになったので、ミリアによって営倉にぶちこまれる事が常となっていた。

 罪状は主に食料泥棒だが、食べる量が尋常ではなく、少食の半人半妖の戦士達であっても看過できない暴食であった。また、この食料に乏しい北国で10人分の食料を得るのは、中々の労力が必要だった。

 

「……ここ最近良く出る言い訳は、なんなのだ……」

「姉ぇさん……あいつちんまいし、多目に見てやってよ……」

「いや。あいつは、少なくともクレアよりは年上だぞ」

「えっ……」

「……」

 

 衝撃の事実が明かされ、空気が凍った。

 

 

 

 

『ちくしょーーーめぇーーー!』

「こら! あーばーれーるーなー!」

 

 雪原の脱走劇のさなか、ついに強欲の〈まつげ〉に捕まった。これまで、私の銀髪が雪原の保護色になり全裸になると見つかることが無かったのだが、最近ではイライザにだけは見つかるようになってしまった。おのれ、〈まつげ〉め! 最近足がはえーぞ。

 

「……またかよ。この雪原で全裸になるとかどういう神経してるんだ」

 

 ウンディーネの姉御が、まるで変態を見るような目で見てきた。いや、見つからないためにしてるんだからね? 解放感とか無いからね?

 あの戦いの後、妖力解放を禁じられたウンディーネの姉御の左腕は生えることが無かった。攻撃型で長期間回復に掛かる腕の再生は、許されなかった。姉御も納得の上だったようだ。

 妖力解放をしない姉御は、昔と印象が異なっていた。服装こそ黒い革鎧を着ているが、筋骨隆々だった身体は細身になっていた。気の強さや目つきこそ、前と同じ貪欲な獣を思わせる印象を受けるが、全体としての印象はぶっちゃけ別人だった。

 

「ほら、動くな!」

「ん……」

 

 イライザに服を強制的に着させられた。私の革鎧は、皆が作った時に残った、あまりの端材で出来ていた。継ぎ接ぎになっているせいで、ちょいちょい隙間が空いていた。私の身体がいくら小さいとは言え、ちょっとエコ過ぎんよー。

 

「おまえ! ミリア隊長にちゃんと謝れよ」

「いやだ!『そもそも食ったのは私じゃないんだ!』」

 

 この地獄の鬼ごっこが始まったきっかけは、食料泥棒の冤罪である。おなかが空いて仕方がなかったので、しょうがなく沢山食べたのは、この生活が始まってほんとに最初の1回……くらいだった。それ以降、食料が無くなるたびに私のせいにされていた。偶にしか覚えがない。

 全て私のせいにされるのは納得がいかず、逃げだしたら眉間にシワを作ったミリアによって、営倉にぶち込まれるようになった。理不尽すぎて笑えて来るわ!

 

「姉御! 言って!『私が食べてないって証明して!』」

「……食い扶持は自分で狩ってくるし、……食うのは良いんだけどよ。見苦しいから、言い訳はやめておけよ」

『oh...』

 

  誰も庇ってはくれなさそうだった。

 実際問題、私が寝ている間に食料が無くなっていることが多い。巨大なヘラジカを干し肉にして、その干し肉をスープにして一晩寝かしている間だったり、遺棄された村の食糧庫にあったリンゴっぽいドライフルーツを発見したときだったりと多岐に渡っていた。怒るってことは、ミリアもきっと食べたかったんだろう。ごめんね。いや、私は悪くないけどさ。

 最初に私のせいにされた原因は何だったのだろうか、と思い返していると、ある天使の言葉が思い出された。

 

 時は、ある日の昼下がり、おなか一杯になったところで昼食を作るのに使った暖炉脇で眠っている時であった。

 

「食料泥棒の犯人はこの中です! 確保!」

 

 どう考えてもシンシアの声だった。なんか恨みでもあんのかな……。

 その後、泣いても笑っても私が犯人となった。多分、こそこそ食べているのは、実はシンシアだろう。体重が増えたら笑ってやる。

 

 イライザを振り払って、また逃げた。しかし、これはあれだ。このままいくと、もう一度捕まって3日位強制的に断食させられるやつだ。今度は脱走した罪だろう。罪状が増えすぎて収拾がつかなくなっていた。

 

「あ、また逃げた!!」

『あばよ! とっつぁーん!』

「いいかげんに、しろ!」

 

 雪が積もる山道の崖側を猛ダッシュで駆けた。しかし、突然後頭部に衝撃を感じ足元が浮いた。4歩くらい空中を駆けて、私は落ちた。イライザに雪玉を投げられたせいだった。雪玉というか……これ固められすぎて、ほぼ氷っぽいんだが。殺す気?

 

『ふぎゃ』

 

 崖から落ちたが、雪がクッションになって助かった。飛び散った雪が、衝撃を物語っていた。

 上を見上げると、結構な高さから落ちたようだった。頭を振って雪を飛ばし、さらに逃走を図ることにした。

 

 逃げようとして足を止めた。

 しばらく経っていたのだろうか、イライザが追い付いてきた。

 

「おい。落ちたようだけど、無事?」 

「え? ……あ、うん」

「何よ。歯切れが悪いわ……ね……。ぁ」

 

 落ちたところは、渓谷のようになっており、ちょっとした盆地のようになっていた。深く、上からではこの地形に気づけなかったかもしれない。奥がうかがい知れない、巨大な洞穴が開いていた。

 入口には、沢山の黒く炭化したような目玉付きの輪っかが落ちていた。

 

「これって……」

「カティアだ……」

 

 あの戦いの後、私は希望を捨てず北の隅々を探していたのだが、終ぞカティアは見つからなかった。決して忘れたわけではなかったが、見つからずに時間も経ち、ある程度の折り合いは付けたつもりだった。

 妖気は既に無く、恐らく北国周辺には居ないかもしれない。この山道の尾根は、ピエタの方に伸びていた。昔ここに水が流れていたのなら、南側に洞窟もつながっているかもしれない。

 

「地下を通って南側に移動した……のかしら……」

 

 既に妖気を感じない当たりそうなのかもしれなかった。落ちている輪っかも大分時間が経っているように思えた。

 私はミリアに言って、独りででも南に行く覚悟を決めた。

 

 

 

 




ゴールテープが見えねぇ!
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