〈痴呆〉のオリヴィア【完結】   作:peg

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暑い暑すぎる。
この時期は、銀世界に行きたくなります。


垂涎

 私は激怒した。必ず、かの暴虐な総隊長を言論の自由で打ちのめさんと決意した。

 

「……おい」

『ひゃい』

 

 しかし、そんな決意はひと睨みで崩壊した。ミリアに睨まれると、なんかおしっこ漏れそうになるのよね。へんなの。

 場所は営倉のある岩穴だった。前の家からすると岩肌がなんとも冷たい。岩に座ったミリアの前で、いつの間にか正座させられていた。いや、自ずとこうなったと言うか、なんと言うのか……。

 とある村にあった、長らく拠点にしていた廃墟の家は、痕跡を消して既に引き払っていたのだった。なんでも、組織の戦士達が来たらしい。

 

「はぁ。イライザ。こいつは何を言っているんだ……」

 

 だめだ……。全然伝わってなかった。かれこれ1時間くらい説明しているんだが……。

 

「あー……。これ見てよ」

「これは……?」

「なんだそれ?」

 

 イライザの掌の上に置かれた物体を、傍にいたヘレン達も覗き込んだ。イライザが腰元から取り出したのは、カティアの輪っかの欠片だった。目玉が潰れており、一見してただの黒い輪っかしか見えない。さっさと出せよ。

 イラっとして地団駄を踏んで騒いでたら、デネヴに殴られた。ひどい。何回も打たれているので、たん瘤がそろそろトリプルサイズになっている筈だ。アイス食べたい。

 さっきから拳骨で頭を殴られ過ぎたせいで、段々欠片がドーナツに見えてきた。ドーナツも久々に食べたい。

 

「……食うなよ?」

 

 イライザ達がじと目で見てきた。どんだけ私を疑ってるんだよ、あんたら。ちょっと思っただけじゃん。私はこっそりと、前に向き直ったイライザのマントで、よだれを拭った。

 

「ダビの町から、さらに北へ2つの町を越えた渓谷で見つけたわ」

「シンシアの胸を指差して、谷間をひたすら連呼していたのは、……そういうことか」

 

 眉間にしわを寄せたミリアが、こちらへチラリと流し目した。隊長それ、邪推っていうんだぜ。……渓谷ってほぼ谷間であってるじゃん。それに、北側にシンシアが偶々座ってただけじゃん。

 

「……そこに大空洞があって、奥に向かって、ずっとこれが落ちてたわ。山の形をみるに、南側に続いているはずよ」

「くくっ。股座(またぐら)を指して穴穴言ってたのは、そう言う事だよ……」

「……。そこから移動したわけか。……シンシア」

 

 眉間に指を置いて俯いたミリアが話しかけると、シンシアが頷いて目を瞑り、暫くして答えた。姉御が脇でケタケタ笑ってた。いや、姉御さぁ。笑ってないで助けてよ……。

 

「感じ取れる範囲に、覚醒者らしき気配はありません。地下も……」

「恐らく、あそこにいたのは……かなり前。戦乱のすぐ後よ。辛うじて原型があったのは、これと後いくつかだったわ」

「確かにかなり風化しているな……」

「なるほど。戦乱の後、妖気を消す薬を飲み直して移動した私達には、分からなかったわけだ」

 

 イライザの言葉に、ミリアやデネヴが理解を示した。チャンスの波動感じた私は、すかさず言った。機を見るに敏なり。ここだぁ!

 

「……南、行く!」

「駄目だ」

 

 あっさり却下された。全然チャンスじゃなかった。もうコソっと行くしかねーな……。思わず遠い目になった。

 私の様子を見たミリアが、片眉を上げて言った。

 

「……こいつが南に逃げ出さないように見張っていろ。良いな? イライザ」

「えー! 私が!?」

「いや、お前は普段から面倒見てるだろ……。今更なんで嫌がってんだよ……」

 

 頭を抱えたイライザの嘆きに、ヘレンが半目で突っ込んだ。

 そうやってミリア達と話をしていると、クレアが帰ってきた。

 

「……皆集まって、なんの話だ?」

 

 ユマも後ろから顔を覗かせた。

 二人は、雪の付いたフードを払って外套を脱いだ。

 

「ふぅ。外は猛吹雪だったぞ……」

「無理について来いとは、言ってないと言ったぞ」

 

 クレアとユマが静かに言い合っていた。君達良く一緒に行動しているけど、仲良いの? 悪いの?

 ミリアやデネブが、クレアの最初の問いへの返事をした。

 

「阿呆がちょっとな……」

「それで、成果はあったのか?」

「あぁ……」

 

 岩の椅子に腰かけた二人は、静かに語りだした。あれ? 待って、私が南に行く話は? え、もう終わり……?

 

 クレア達が言うには、ある町の廃墟に奴隷商の牢屋が残っており、そこにラキという少年が捕まっていたらしい。脱出したような痕跡があったことから、なんとか生きて脱出したのではないかと推測できると言うことだった。

 

「生きていれば、必ず南へ向かう筈だ。後は、仲間か、馬があれば……」

「説得力に欠けるな。愚かで脆弱な推測だ……」

 

 膝に両肘をついて組んだ手に顎を乗せたミリアが、クレアの推測を真向から否定した。

 どうやらクレアも、少年(ラキ)を探しに南に行きたいらしい。しかし、ミリア達は違うようだ。ヘレンやデネヴも、南に降りるのは時期尚早と考えているようだった。

 

「剣をとれ、クレア」

「……」

 

 そういったミリアは、シャギーの髪を一纏めに括ると大剣を持って出ていった。何故か、ミリアとクレアが戦う流れになった。あれか、先に進みたければ私を倒してから、のやつか。あれ……。私には、してくれないの?

 

 外の吹雪は既に止んでいた。

 ミリアと対峙したクレアが口を開いた。

 

「南に行きたいのなら、私を倒してからにしろとでも言うつもりか」

「ふっ……。どう取ってもらっても構わんよ。ただし、……全力で来い!」

 

 ミリアは、開幕から〈幻影〉を使った。以前の〈幻影〉は、妖力解放の度合いによる緩急を利用して速度を急速に上げたり下げたりしていたが、今の鍛え抜かれたミリアは、妖力を使わずとも素の身体能力だけで〈幻影〉を再現していた。きっと、太ももがムキムキになっている筈だ。

 

「〈幻影〉だ! 姉ぇさん本気だぞ!」

「くっ……」

 

 クレアは数合大剣を合わせると、ミリアに背後から蹴飛ばされた。元々の地力が違いすぎる……。

 クレアもこの数年の修行によって、身体能力の向上はしていた。しかし、右手の性能や〈高速剣〉に頼る戦闘スタイルであったところが大きく、妖力解放を封印した身としては一番弱体化しているようだった。

 

「……くそっ。……」

 

 そう吐き捨てたクレアは、大剣をしまって背中に手をかけた。それを見たミリアが、〈幻影〉で飛び込んだ。

 

「おっ!」

「出るぞ……」

 

 複数に分裂したように見えたミリアの攻撃が、クレアの前で弾かれた。金属同士がぶつかり合う音が何度も響いた。

 クレアが新たに習得した技は、フローラの〈風斬り〉だった。私がやると綺麗に納刀出来ないのと、腕力が微妙に足りないのよね……。はやぶさ斬りも需要あるかしら……。

 デネヴが訳知り顔で解説し始めた。

 

「妖力解放を禁じた我々にとって、〈高速剣〉はご法度。〈高速剣〉を封印したあいつが一番苦労した筈だ」

「すげーぞ! どっちも譲らねぇ……!」

 

 〈風斬り〉の定点砲台であれば、ミリアとも張り合えるようだった。というか、デネヴの解説は誰向けなんですかね……。

 

「純粋な剣技で言えば、クレアもそこの阿呆に次ぐだろうな」

 

 デネヴがこちらを見ながら、誉めてるのか貶しているのか分からないことを言ってきた。とりあえず、皆で阿呆と呼んでくるのは、そろそろ止めよう。やめやめ!

 

「はぁはぁ……」

「良いだろう。それだけ戦えれば、組織の一桁ナンバーにも引けをとるまい」

 

 あれだけガンガン攻めていたのに、ミリアは息切れすらしていなかった。ミリアが大剣を下ろし、拮抗していた戦いが終わった。

 

「ただ、一つ聞かせろ。南へ降りる理由は、その少年のことだけか?」

「ラキのことは、理由の一つにすぎない。……私の中にいる仲間達の遺志が、このまま北の地に留まることを許していないんだ」

「……」

 

 そう言ってクレアは、胸を押さえた。わかるよぉ、クレア君。でも、先に言ったの私なんだけど。

 

「ふむ。……皆聞いてくれ。長く付き従ってくれたが、私は今日を以ってリーダーを降りることにする」

 

 ミリアはそう言って皆を振り返った。え、辞めんの?

 

「私も、クレアと共に南へ向かおう。せっかく、あの戦乱で助かった命だ。皆が無為に命を散らせることは無い。それぞれ、組織の戦士に追われても生き残る実力は付いたはずだ……」

「姉ぇさん。水臭いこと言わないでくれ」

「……けっ。皆気持ちは同じだ。ミリア、あんたにリーダーを勝手に辞められると困るぜ」

 

 今更ミリアがリーダーを辞めて、南に行くと言い出した。

 しかし皆が、各々に付いていく事をミリアに伝えていった。先に私が言った時に、こんな展開にならなかった辺りが、なんか納得がいかないんだけど……。でもまぁ、みんなが一丸となっている感じは、嫌いではない。

 手を上げて理由を付け足すことにした。

 

「仲間! 助ける!」

「オリヴィア……」

 

 カティアを助けてもらわねば困る。他にも生きてる仲間がいるかもしれない。あの融合体は、よくわからないけど、ベースになっているカティアは生きていると思うんだ。

 

「……元々、お前が言い出したとき、この地を去るのは潮時だと思っていたんだ。尤も、お前1人では許可できなかったがな……」

 

 そう言ったミリアは、仲間の一人一人の顔へ目をやっていった。皆ミリアを向いて、誇らしげな顔をしていた。そうだったの? ちょっと感動した。

 

「しかし、……そうか。そうだな……。皆、思いは同じか……」

 

 目を瞑ったミリアが感慨深げに、そう言った。

 再び目を開けたミリアは、意思の強い目で皆へ言った。

 

「南に向かおう。仲間の魂と共に……」

 

 

 

 

 

 

 

 皆で準備を整えたあと、南に向かって出立した。

 南に向かうに連れて、世界に色が着いていった。雪景色も好きだけど。何年も見ていると、さすがに飽きたね。〈まつげ〉とか、良くぶちギレて氷投げてくるし……。

 

「うっひぁー! 景色に色がついてるぜ!」

「草、生えてる!」

「あまりはしゃぐな。お前ら」

「……草ってお前、もうちょっと見るとこあるだろ……」

 

 ヘレンに同調したら、姉御が草に突っ込んできた。いや、一面のクソ緑じゃん。草じゃん。

 

「だってデネヴ。色がついてるんだぜ、色が」

 

 何だかんだヘレンも飽きていたらしい。長年付き合って来て思うのだが、ヘレンはムードメーカーと言うのか、トラブルメーカーと言うのか微妙なラインの言動を良くする。あいつこそ阿呆ではなかろうか……? いや、人に阿呆なんていうのは良くないな……。

 

「シンシア、ナタリー」

「はい」

「了解」

 

 二人は背中合わせに立つと、西と東を向いた。このチームの中でも二人は、妖気感知の力を鍛え続けていた。戦士がいない北国でも、隠れ住んでいる妖魔や覚醒者相手に磨いていたらしい。

 この中では、クレアも妖気感知能力は高そうだが、二人の広域感知には及ばないらしい。

 

「こっちは6時方向に戦士が2名、覚醒者が1体。……2時方向に戦士が3名」

「こちらは、10時方向に戦士が3名。……6時方向は、戦士4の覚醒者1ですね。ナタリーさんが読んだ2名は、一桁ナンバーと思われます。距離は……結構離れてます。感知できる範囲ギリギリです」

「ミリア、どうするんだ?」

 

 2人の感知範囲には、結構人がいた。どれか捕まえて、現状を聞きたいところだろう。接触した段階で生きていたことがバレてしまうので、慎重に行きたいところだ。そう考えると、ミリア的には恩を売って情報をとりたいと考えていそうだ。

 

「……」

「……6時方向の戦士達が覚醒者を倒しました」

「すごいな。あの2人、強いぞ」

「けっ……。まどろっこしいな……」

 

 シンシアや妖気感知の焦点が合ったユマが実況を続けており、ミリアは顎に手を当てて熟考していた。そして、姉御は飽きていた。そういえば、聖都ラボナにはいつ行くんだっけ? 今まで、一度も入れなかったからなぁ……。シスター見るのが楽しみなんだが。良い臭いがしそう……。

 

「! 覚醒者を倒した戦士達に、強大な妖気が近づいて来ます。そんな……、こんなに大きな妖気……」

「この妖気は……、過去に一度会ったことがある。……西の、リフルだ」

「これは……!? デネヴ、クレア、オ……。ヘレン!」

「うわっ、と、とっ。あ、あたし!?」

「救出に向かう。付いてこい!」

 

 遠い理想郷へ思いを馳せていると、ミリアに呼ばれた気がしたが、気のせいだった様だった。よだれを拭いて、シスター妄想に帰ろう。

 ミリア達がどこかに去り、なぜか残った全員がこちらを見てきた。な、なによ?

 

「くくっ。まーた、明後日の方向に考えが飛んでるんだろうさ」

「あんたさぁ……」

「これがなければ……」

「良いんですけどね……」

「……」

 

 

 

 

 ミリアを先頭に、ヘレン達は森を駆けていた。

 

「南に来て早々、〈深淵の者〉に会うなんて……。なぁ。なんで、オリヴィアじゃなかったんだ?」

 

 走りながら、ヘレンがデネヴに言った。

 オリヴィアは()()抜けているが、ミリアが叩けば大体元に戻るため出た疑問だった。それを抜きにしても、ミリアはオリヴィアを重用している節があった。

 それは、先日のオリヴィアの良く分からない話を、辛抱強く小1時間程聞いている辺りからも察せられた。ヘレンやイライザだったら、3秒でビンタしていた。

 また、修行中のミリアの手合わせを務めたのも、オリヴィアだった。こちらの発端は、ミリアの変幻自在に動く剣を安定して捌けるということで、自然とそうなっていった。

 

「急いでいたのもあるが、〈深淵の者〉に会わせたくなかったのかもな……」

「2人とも、聞こえているぞ」

 

 飛ぶように走りながら、ミリアが後ろをチラリと振り返った。

 

「あいつの中に、複数の人格が眠っているのを知っているだろう。……あいつの中に眠るヤツを、……今は起こしたくないんだ」

「戦士の亡霊か……」

「キシシ。今の戦士達からしたら、あたしらが亡霊だけどな……」

 

 クレアがどこか陰のあるように呟いた言葉を、ヘレンが拾って笑った。

 長らく生活を共にする中で、全員がオリヴィアに潜む何かしらの存在に気づいていた。さらにミリアに至っては、オリヴィアと修行を続ける中で、オリヴィアの中の存在と相対していた。ミリアは、その存在と何らかの協定を結んだようだが、仲間達には共有されていなかった。

 ただ、オリヴィアが営倉に送られるときは、決まってミリアとの()()の後だった。実際のところ、オリヴィアの暴食は()()の後の仕方の無い措置だったが、ミリアは仲間や本人へ伝えていなかった。

 

「会敵するぞ。集中しろ!」

 

 




でも、クーラー毛布丸は至高
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