〈痴呆〉のオリヴィア【完結】   作:peg

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雨が酷い……(身バレ)
皆さまもご用心ください。





影法師

 壁に掛けられた燭台の蝋燭の火が揺らめき、人影が揺れた。私は、この影こそが人の営みの最たるものだと思った。

 今度は机の上の燭台を動かすと、火の位置が変わった事によって影が重なってしまった。影が重なり合い、揺らめいた。これはもうセ○クスでは? 私は両手で顔を覆った。

 

「……この子は何をなさっているのですか?」

「……良いんだ。そいつは、そのまま放って置いてくれ……」

 

 クレアは口調が元に戻っていた。思い出して貰うため、初めて会ったときの再現をしたそうだ。ロマンチストかな?

 

 場所は、大聖堂がある塔の上の部屋だった。神妙な顔付きをした2人が、机を挟んで話し込んでいた。

 

「それでは……あなた達はここに匿って欲しいと?」

「少しの間で良いんだ。それに、無理にとは言わない」

「ふぅむ……」

 

 申し訳なさそうに言ったクレアに対して、ヴィンヴィンハゲ司祭は顎に手を当てて考え込んだ。

 

「……クレアさん。ひとつ条件があります」

「条件? なんだ?」

「確かではないのですが、この街に妖魔が潜伏しているようなのです。それを退治して下されば、ずっとここへ居られるように、皆に掛け合いましょう」

「……この街全体に覚醒者の気配が漂っていたが……。やはりか」

「覚醒者……?」

 

 もはや隠す意味もないと、クレアはヴィンヴィンに覚醒者について説明をした。私も、昔より妖気読みができるようになったが、街の中に入るまで覚醒者の気配を感じることができなかった。朧気ながら、ここで出現したやつは、タコさんウインナーみたいな痴女だったような気がする。

 

「……。もし、貴女方がそうなってしまったら、どうするのでしょうか……」

「人を辞める前に死ぬ。人側で居たいという、組織の戦士だったときからの矜持だ。もし仮にだが……、そんなことになれば、私の意思を汲んだ仲間が首をはねてくれるだろう」

 

 クレアはそう言うと、私を撫でて寂しく笑った。

 

「……。いやはや、あなたには昔から頭が下がる思いです。私自身の矮小さを感じてしまいます……」

「いや。そんなことは……。何にしても、そいつを見つけ出して、倒せば良いんだな?」

 

 クレアの言葉に頷いたヴィンヴィンは、最後に付け加えた。

 

「出来るだけ人死にが出ないよう、お願い致します」

「……それは……、分かった。善処しよう」

 

 こんな大きな街にいる覚醒者相手に、犠牲無しで討伐するのは……かなり苦労するだろう。何はともあれ、話に決着が付いた。

 

 ミリア達を手引きするのは、明日ということになった。洗礼者の一団に紛れさせるということだった。クレアが、ヴィンヴィンの手引きで早朝に呼びに行くらしい。

 

「それはそうと、妖魔で過敏になっている街にどうやって入ったのですか?」

「それは……」

 

 ヴィンヴィンに聞かれたので、上を指差した。人は、飛べる。

 

「翔んだ!『アイキャンフライ』」

「は?」

「……空からだ」

「え?」

 

 ヴィンヴィン驚いてばっかりだな……。

 

 その後、久々にお風呂にはいれた。タライ風呂だったが、スッキリした。クレアと一緒に入ろうとしたら、手つきがイヤらしいので嫌だと断られた。えぇ……。このゴッドハンドが敗れただと……。

 

 翌朝、クレアが旅立って行った。見送りは目立つので私は待機だ。ミリア達は、どこにいるのだろう。私にだけ発動するNeed to knowの原則で、教えてもらえていない。なんでよー、けちー。

 

 それはそうと、ヴィンヴィンにシスターを1人つけてもらった。やったぜ! と思っていたら老婆だった。違う、そうじゃない。シスターは優しかったけど、そうじゃない。その後、滅茶滅茶お菓子をもらった。神かよ。

 

 大聖堂は、外部からくる洗礼者向けの施設らしい。内部の人間向けには、小さな礼拝堂が用意されていた。暇だったので、シスターにせがんで用意してもらった小さいシスター服に身を包んで紛れた。

 衛兵の目は、真っ暗な倉で摘まみ食いをするときに編み出した、爪を弾いた反響音で物の位置を把握する技で凌いだ。ふふふ、まさかシスターに目を瞑った半人半妖が混ざっているとは思うまい……。

 

 礼拝堂の長い椅子の隅に腰かけた。隣は婆ちゃんシスターだ。香が焚かれており、懐かしい匂いがした。

 人が減ったので、長椅子に背を預け薄らと目を開いた。ラボナの神様は、姿がなくシンボルをお祈りするスタイルだった。香の煙がゆるゆると上がっていくのを眺めた。

 婆ちゃんシスターが、教えや来歴を語りだしたのを子守唄に、ウトウトと船を漕いだ。

 

 

 

 目が覚めると、襤褸の礼拝堂にいた。えっ?

 差し込んだ夕日が礼拝堂の中を照らし、真っ赤に染まっていた。

 慌てて身を起こすと、椅子が崩れた。埃が舞って咳き込んでしまった。うわっ! ばっちぃぞ。

 埃煙幕が晴れると、演台の向こうに誰かが見えた。……大人の女……?

 

 茶髪ロン毛の女だった。栗色に近い色だ。跳ねた前髪が特徴的だった。町娘のような格好をしていた。

 

「一人居なくなって7年。妖気が消えて、やっと声が届いたわ……」

 

 茶髪は私にそう声をかけると、金髪の半人半妖の戦士に変わった。いや誰よお前。変身するとかサイヤ人かよ。

 

「わたしは、セフィーロ。わたしはあなたよ。オリヴィア」

 

 いや、名前違うやん。とんだサイコパス野郎だった。どこでフラグを建てたんだ……。

 

「いやあの……。そういう意味じゃないんだけど……」

「無駄よ、わたし。会話するだけ無駄」

 

 そう言ったセフィーロの背後から、もう一人そっくりさんが現れた。えぇ……めっちゃ似てる……。

 セフィーロ達は、何処からかともなく取り出した大剣を構えた。どっから出したの……。あれ、最初に持ってたっけ?

 

「それじゃ、いくわよ。オリヴィア」

「精々死なないようにね」

 

 突然、無手で相対することになった。冗談じゃない!

 

「はっ!」

「うわっ」

 

 セフィーロは、長い髪を翻しながら迫った。引き気味に構えた大剣から突きが放たれた。驚いて声は出てしまったが、直線的な攻撃で避けやすかった。

 

「……全部知っているでしょう? 様子見する必要はないわよ、わたし?」

 

 もう一人のセフィーロが、仁王のような構えを取った。ビリキと妖気を解放する音が聞こえ、セフィーロの目が血走った。いや、妖力解放は卑怯じゃない? ミリア隊長にダメって言われてるじゃん! 冷や汗が流れた。

 

「はぁっ!」

「うぐぁっ……」

 

 それは突きの壁だった。身体の異様な柔軟性から繰り出された連続の突きが、私の半身を呆気なく奪っていった。くっ、速すぎて反応できねぇ……!

 

 倒れ込む視界の中、セフィーロのブーツが追い討ちをかけた。

 

「寝るな!」

「がっ」

 

 腹を蹴飛ばされて、床を転がった。

 

「今のは、わたし達を食べた分。溜飲が下がった訳じゃないけど、これで許してあげる」

「……ごめんね。オリヴィア」

 

 転がった先で身体を確かめると、五体が無事だった。セフィーロの1人が、両手で合掌して謝ってきた。痛みは本物だった……。どうなってんだ。

 起き上がろうとすると、手に大剣が握られていた。

 

「さ。仕切り直しよ」

「後は託すわね。オリヴィア」

 

 私は、2人に向かって大剣を構えた。1人は厳しい顔付きで、もう1人は柔和な表情をしていた。2人は、限界付近まで妖力解放した。2人の口が妖魔のように裂け、ビリビリと震える空気が肌を焼いた。

 2人は、鏡合わせのように先程と同じように構えた。さっきのを食らうとヤバイ。でも妖力解放は……。

 

「何しているの?」

「早くしないと、死ぬわよ?」

 

 2人からくる圧力に、もう形振(なりふ)り構ってられなかった。急かされるように、私は妖力解放した。数年振りに行う妖力解放は、少し解放しただけで私に全能感を覚えさせた。

 

「ガッ」

「そう。それでいいわ……。時間がないわ」

「いくわよ!」

 

 沈み込むように落ちるのが、スローで見えた。仰け反るように大剣を振り上げた2人が、脚で挟み込むように大地を掴んで下半身を固定し、上体を前後に高速で揺らして突きを放った。1撃、2撃、3撃と加速していき、突き壁に至った。極度に柔軟な身体と、妖力によって強化されたバネが可能にする技なのだろう。

 さっきまでと違って、軌道が目で追えた。

 ステップを踏むように、突きの弾幕の中へ飛び込んだ。極限の集中の中、酷く長い時間そこに居た気がした。

 

「良かった……」

「後は頼むわよ……」

 

 死の結界を通り抜けた。私に袈裟斬りで斬られた2人が、そう言い残して霞のように消えた。キラキラとした白い欠片が、私に降ってきた。

 

 

―――ノイズ。

 

 あの日、私達の孤児院にやって来たのは2人。ひとりは、ラボナの司祭様。もう1人は、赤い髪をしたシスターだった。

 垂れ目の女で、男好きする体つきをしていた。柔和に笑っているようで、無機物を見るような目が苦手だった。

 

―――ノイズ。

 

 裸の女が目の前に立っていた。ガキ大将のヨシュアが女の髪に繋がった触手に潰され、女に血が降り注いだ。彼は断末魔すら上げられなかった。

 

「あぁ、これよこれ……。我慢した甲斐があったわ……。こんなに若い人間の、新鮮な血を浴びることができるなんて、あぁ。最っ高……」

「あ、あ、ぁ……」

 

 女は恍惚とした表情でそう言った。

 30人居た孤児は、もう半分しか残っていなかった。周りの孤児達が腰を抜かして座り込む中、大嫌いなヨシュアの様に死ぬのは受け入れられなかった。

 気が触れて叫びながら逃げ出す何人かの孤児達に紛れて、厨房へと駆け込んだ。

 

「あははははは――」

「ぎぁあああ」

 

 建家の奥から、狂った女の笑い声と子供の叫び声が聞こえた。私は普段、シスター(お姉ちゃん)の手伝いをして居たから、どこに何があるのか手に取るように分かった。私は、思い出深い建家を壊してしまうことに忌避感を覚えたが、油壺を倒して割った。

 

―――ノイズ。

 

「やってくれたわね! クソガキ!」

 

 建物から燃え移って、山火事となった森の中を抜けた。後ろを振り返ると、燃えるような髪の女が酷い形相で追ってきた。その気になれば、一瞬で追い付いて殺せるだろうに、まるで獲った鼠に猶予を与える猫のようだった。

 

 建家の外から、私達に逃げるように言って殺されてしまったシスター(お姉ちゃん)の仇が討ちたかった。その時の私には、力が足りなかった。

 前に向きなおった時、足がもつれて倒れてしまった。私もここで終わるのかと悔し涙が流れた。

 

「〈鮮血〉のアガサ……。離反したと聞いたが。……まさか、大剣すら捨てているとはな」

「あら? うまく逃げられたと思ってたのに……」

 

 そこへやって来た戦士と激戦を繰り広げたアガサは、重症を負って逃走した。

 戦士も重症を負っており、追う力は残されていなかった。

 その後にやって来た黒服に連れられて、私は戦士となった。私の平穏を壊した覚醒者を討つために。

 

―――ノイズ。

 

 

 

 酷く長い間、眠って居た気がした。目がボヤけて見える。いつの間にか裏路地に居た。あれ? 礼拝堂は? セフィーロは?

 身体が物理的に浮いていた。私の首元をひっ捕まえたシスターの顔が見えた。

 両目が火傷のような傷で潰れており、長い金髪が見えた。シスター服はスリットが入るように破れていた。ガラテアだった。

 

「あ、ガラテヤじゃん『やっほ』」

「おい。やってくれたな……。もう少し引き付けてからと思ったが……。だが、お前も生きてここにいるとは……僥倖だ」

「だっ、誰よあなた!」

 

 目線の高さまで、身体を持ち上げられた。目ン玉潰れてるから、特に意味無いんだろうけど……。

 色付きの戦士が、こちらに大剣を向けていた。その手は震えて見えた。すっげぇ弱そう……。

 

「お前、大剣はどこだ」

「上」

 

 私は聖堂の上を指差した。

 

「よし! 取ってこい!」

「ガァァア!」

「ミアータ!」

 

 私を投げ飛ばしたガラテアは、壁を破壊して現れた小柄な戦士に襲われていた。再び空の人となった私には、どうしようもなかった。あのチビくっそつえーな……。ガラテア大丈夫か……?

 その時、街のど真ん中が崩壊した。




もう少しコメディ調に寄せようと思いましたが、テンポが崩れるので止めました。

キャラクター出し過ぎて、全体としてまとめ切れているか不安ですね……。
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