街のど真ん中が崩壊した。煉瓦造りの街並みの中に粉塵が充満した。煙の影に大きな影が映った。タコさんウインナーだ!!
ガラテアに投げられた勢いで、大聖堂の上階の窓に突っ込んだ。高いガラスが嵌まった窓が砕けた。いつもみたいに、枠に嵌まって誰得壁尻にならないだけ運が良かった。でも請求書は、ガラテアにお願いします。
「うがっ。あでっ、『痛!』」
床の上を跳ねながら転がった。最終的に後頭部を机で強打し、もんどりうってもう一度転がった。いてぇー! オラじゃなきゃ死んでっぞ!
幸いな事に、部屋には誰もいなかった。大剣置いてた部屋どこだ……まだ上か。ガラテアのやつ、適当に投げやがって……。
「なんだなんだ」
「うわっ! クレイモアだ!」
「じゃま」
扉から飛び出して、窓際に集まっているおっさん達を蹴飛ばした。マジで邪魔だ。野次馬共が!
何人かが、木製の壁を突き破って壁の尻となった。
「オリヴィアさん! こっちです!」
「ヴィンヴィン!」
「いや、……誰のことでしょう……? えっ、司祭様達が……。えぇ……」
廊下脇から何故か来ていたヴィンヴィンおじさんとシスターが、誘導してくれた。老体に鞭打って、階段を先導して全力疾走してくれた。ご老体でもビンビンだった。ヴィンヴィンはビンビンだった。
上階に上がると、大剣を置いている部屋の扉を見つけた。
「もう大丈夫!」
「あ……えっ?」
時間が無いので、ヴィンヴィン達を追い越して扉を蹴破った。
「キャー!」
「あれ?」
「逆です! 逆の扉です!」
半裸の巨乳シスターさんが着替えてた。この世界に来て初めてのラッキースケベだった。感動した。
改めて、反対の扉を破壊した。
「もう壊さなくていいのでは……」
「……」
唖然とした顔で言うヴィンヴィン達を無視して、大剣を掴んだ。うるせぇー! 勢いだよ、ちくしょう!
備え付け小窓から再び飛び出した。既に戦闘が始まっているようだった。
戦闘には、ラボナの兵士達も参加していた。さながら、モンスターハンターを見ているようだった。いや、あんなのに人間は勝てんて……。
タコさんウインナーと思われた覚醒者だったが、ハエトリ蜘蛛の脚と食虫植物の果肉を合わせたような見た目をしていた。2、3階建ての建物より高さがあり、大きさも相当でかい。建物何棟分かがあった。平らな果肉部分には、疑似餌の様に、一人の女が全裸で立っていた。無駄にむちむちボディをしており、ラボナの兵士を捕まえては血を浴びていた。ヤバい……。今まで出会った覚醒者の中で、ぶっちぎりでぶっ飛んでいる。
女とチラリと目があった気がした。
「あら。もう一人居たのね……。でも、弱そうね」
「〈鮮血〉のあ、がさ……?」
何故か名前が分かった。全身が鼓動して妖気が漲った。これが……恋っ!?
――ばかっ。
「っ!」
セフィーロの声が聞こえた気がした。見ていた夢をふと思い出して、近くの建物に頭を押さえながら着地した。
……あの燃え盛る森の中に居たあいつだった。血塗れのクソヤロー。私はセフィーロの代わりに、あいつを殺さなくてはならない。半ば、強迫観念めいた想いが沸き起こった。
「ガァァア!」
「くっ……。〈痴呆〉の!」
隣の建物を破壊して、ガラテアとミアータとか言うチビッ子が飛び出してきた。ガラテアは左腕を失っていた。〈痴呆〉何て久々に聞きましたよ。ガラテア1つだけ訂正しておく。私はもう〈痴呆〉ではない、阿呆だ!!
「誰が〈痴呆〉だ!」
その時、自然とセフィーロの使った技が思い起こされた。身体の無駄な力を抜き、妖力によってインナーマッスルを超強化する。上体を自由に、動きはキレイに。放つ!
――〈絶空壁〉
「!」
「なっ!」
ボッっと、空気の弾ける音が響いて、ガラテアと斬り結んでいたミアータがこちらに気づいて離れていった。ガラテアもすんでのところで避けた。
「おいおい。助けるにしても、私に当てないようにしてくれよ」
「あててない」
「前髪が、大分切れたぞ……」
躱しきれなかったのか、ガラテアの前髪が一直線になっていた。ほんとだ……。ぷぷぷ。前髪パッつんになってる。
妖力解放したガラテアは、髪の毛をあっさり治した。雨が激しく振りだした。
「ぐぎゃぁあ!」
「はぁ……。最っ高……」
ふと戦況を見やると、狂った女がラボナの兵士達を蹂躙していた。胸が鼓動した。……許せない!
「うおおお!」
「〈痴呆〉の!? くっ……厄介な……!」
「ハアァァア!」
復帰したミアータに襲われるガラテアを放置して、アガサへ向かって飛び出した。
アガサの身体の上では、軽装な兵士の複数人が串刺しにされて捕らわれていた。
「あら、貴女だけきたの?」
アガサに呆れた表情で見られるなか、捕らわれた触手を斬り落として軽装な兵士達6人を蹴飛ばした。喰われるよりは良い。全員串刺しにされていたが、運がよければ生き残れるだろ!
「なんだあいつは!?」
「おい、落ちてくるぞ! 助けろ!!」
狙ったわけでは無かったが、蹴った兵士のほとんどが路上にある市の屋台に落ちたようだった。
「はぁっ!」
「なんなのよ。貴女……」
気怠げな表情のアガサが、平らな部分から槍状の触手を大量に放ってきた。当然、私の足元からも放ってきた。逆さに降る槍の雨をステップで回避していく。其処からは、セフィーロの技の再現を行った。この技は、こいつを殺すためだけに編み出された技だ! 先程よりも、身体の駆動が噛み合った感覚があった。
〈絶空壁〉!
覚醒体の本体と思われる女を、触れた傍から破壊していった。セフィーロの技の方が普段使っている踊りよりも即応性が高く、完全に威力が乗った踊りより少し弱いくらいだった。範囲は狭いけど。
アガサの身体を足先から目元まで、砕ききって止まった。
「……」
「〈痴呆〉の! 止めるな! 本体はそれじゃない!」
「え?」
不自然に空中で残った髪の毛の断面から、槍状の触手が溢れ出た。ガラテアの声に反応して、無理矢理上体を引いた。
「くっ」
バク転するように戻り、アガサの身体から一旦身を引いた。
「くそっ」
「あら? 全部避けられちゃった。貴女もしかして、結構強いのかしら?」
言うや否や、アガサの残った部分から足が生えてきた。再生の絵面が酷い。頭に足だけが生えて、に○こくんみたいになっている。キモい。
昔会った覚醒者にも、こんなやつがいた気がした。
「っ!」
「ミアータ!」
ミアータと追いかけっこをしていたガラテアが、私の隣に止まった。私は、ガラテアを追いかけてきたミアータを大剣で軽く小突き、階下へ落とした。血が飛び散った。あれ? 刃は当ててないんだけど……。
「ふぅ。……奴の本体は下の覚醒体と繋がっている髪の部分だ。しかし先程から、流動的に動いて的を絞らせないようになっている様だ」
ガラテアは呼吸を整えてから、そう言った。つまり、どこを狙えばいいのそれ? めんどくせぇ、全部バラすか……。刃を入れた感じ、覚醒体の装甲もそんなに硬くなさそうだった。
「わかった」
「おい! 色付き! そいつの身体を診てくれ! どうなっている?」
「え!? ミアータ止まって!」
「……いたい……ママ。……ママ……いたいよ……」
地面に着地したミアータの身体は、穴だらけになっていた。いつの間にか、アガサに抉られていたのだろう。キッとした表情になった色付きが、私を睨んで叫んだ。
「ちょっと、あんた!」
「アガサ……お前まさか……」
ガラテアは、正確に把握していた。いや、色付きや。冤罪でござるよ……。ちょっと、つんってしただけじゃん……。こんなのモンスターペアレントじゃん……。
「初めは、軽く傷つけるところから始めたわ。徐々に深い傷を与えていって……。気付かれないように、そこまでするのは結構大変だったのよ? 芸術的だと思わない……?」
「えっ?」
アガサがどや顔でそう言った。色付きはようやく、アガサの仕業とわかったようだった。
「……芸術的な技量か。お前よりも上のやつなら1人知っているがな」
「あら? 会ってみたいわ」
「すぐに会えるさ。直ぐにな」
そう不敵に笑って言ったガラテアは、私を見た。え? なによ? ってか、見えてんの?
「お前。さっきは違う技を使っていたが、まだ〈千剣〉は使えるのか?」
「……」
〈千剣〉ってあれか、みんなが勝手に呼んでるやつか……。あの踊りほんとうの名前は、〈
ぐっと、恨みから闘志を燃やして大剣を握るとガラテアが頷いた。
「よし! やるぞ!」
「へ?」
ガラテアが斬りかかってきた。慌てて避けた。よし、じゃないが。
「避けるな。攻撃を受けて力を溜めるのを、前に見たぞ」
「!」
そう言ったガラテアは、激しく攻撃してきた。こいつ……。昔、どっかでの戦いを監視してやがったな。
「……仲間割れ? 散々ひっかき回しといて、ジョーダンじゃないわ。もうこの街ごと消し飛ばそうかしら……」
「色付き! こいつを攻撃しろ!」
「は? え? きゃっ!」
イライラしたアガサに、色付きが攻撃されていた。ガラテアよ。私に攻撃しなくても、時間をもらえれば溜められるぞ。あと、一発一発が弱い。やるなら、本気でやれ。
色付きがアガサに攻撃されたのを見たミアータが激昂した。
「! ママを、いじめるなぁ!」
「あら、やっとこっちを見たのね。でも、もう遅いんじゃない?」
ミアータはアガサの身体に飛び乗ると、本体に繋がる髪の毛を斬ろうと襲いかかった。しかし、蓄積したダメージの影響が大きかったのだろう、アガサのゴン太な触手に打たれて弾き飛ばされた。
ミアータは自身を追って来た触手を掴むと、全力で引いた。
「ガァァ!!」
「ちょっと……。本気?」
小柄なミアータは、アガサの建物数棟分にも及ぶ巨体を揺り動かすほどの怪力を見せた。アガサが、少し焦った声を出した。
「なんなのよ、この子……。なんなの一体……」
「ミアータ!?」
焦ったアガサは槍状の触手を放ち、ミアータの身体に幾つも突き立った。うぇ……痛そう。
それでもミアータは堪えずに、さらに引いた。
「がああああああ!」
その時、ミアータのボロボロになった腕が自身の力で引き千切れた。回復を後回しにした結果だった。直情的に、敵に向かって行ってしまうのだろう。
「あっ。腕がとれちゃった……ママ、千切れちゃった」
「ミアータ! 逃げて!」
アガサの触手の飽和攻撃によって、ミアータの姿が消えた。
「ふぅ……。少し肝を冷やしたわ。あなたの言うように、3人がかりだと厄介だったけど」
「がっ!」
私に攻撃しまくっていたガラテアは、横合いから来た触手に貫かれて遠くに飛んでいった。ガラテアが探るように中途半端に攻撃していたせいで、踊りの力も最大まで充填できなかった。ここまでやったら、自力で溜めるしかない。ちゃんとやれよ、ガラテア!
「なんだか、この程度の連中相手に正体を表して……。馬鹿らしくなってきちゃった。遊ぶだけ遊んで、本当に消し飛ばそうかしら……この街」
その時、アガサの足の一角が崩壊した。
「なっ!?」
「……縁のある街でな。そう易々と無くなると困るんだよ」
あっ、隊長達が来ちゃった。
こんな覚醒者みたいなやつと生身で戦わされる本土は、マジでやべぇ所だなと書いてて思いました。