賞味期限切れの缶詰のようなものですが、お口に合えば幸いです。
水をぶっかけられて目を覚ました。気づけば朝になっていた。普通にブッ飛ばされて気を失っていたようだ。これはあれか、ルパンダイブ決めて朝チュン(意味深)と言えるのでは。
「オリヴィアさん、起きてください」
おっ、シンシア天使長やんけ。あれ、シンシアちゃんに水かけられた……?
ひょっとして嫌われてる? ショックを受け固まっているとウンディーネの姉御から声をかけられた。
「ちび助! 行くぞ」
『ウッス! 姉御!』
「チッ! 相変わらず何言ってんのかわかんねーな」
反射的に日本語で答えながら、急いで立ち上がった。この人ガチで置いていきそうである。遠くから様子を見ていたエバ隊長が寄ってきた。
「付近に食い殺された人間の残骸があった。その近くを調べよう」
「けっ! こんなところでよく眠れるもんだぜ」
呆れ顔でウンディーネ達がこちらを見ていた。ヤバイところで気を失っていたようである。そういえば、クレイモアは大剣を背にしないと安心して眠れないとか皆が言っているが、私は別にどこでも熟睡できる。フカフカなベッドは特に最高だ。
近いといったが、クレイモアの足で1時間程の距離だった。現場に近づくにつれて臭気がきつくなった。腐敗した臭いだ。視界が開けると森林の窪地になっていた。
「ここだ」
「これ、内臓だけ食べられてるんですか?」
『うわ。グロ』
普通にモザイクかけないと“見せられないよ!”みたいな状態になっている。腐敗の進み方からいって放置されて三日くらいか。乗り合いの馬車でも襲ったのだろう。馬も死んでる。中には幼子も混じっていた。しかし、ほとんどの装飾具が追い剥ぎされたみたいになくなっていた。盗賊かよ。覚醒者に見せかけた盗賊説あります!
落ちていたきれいな指輪を拾って日に掲げた。真鍮製なのだろう、よく磨かれている。
「あら、ありがとう。あなた達もこれを取りに来たのかしら?」
『うわっびっくりした!』
「! 逃げてください!」
掲げた指輪を上からひょいと盗られた。
わぉ! おっきなお口。現れたのは身長約5mほどの覚醒者だった。髪が長く、でっぷりとした腹回りをしていて、二足歩行する太ったヤモリに似ていた。いや蛙顔かこれ。あとでっか、でかくない? おっぱいもでかいぞ! あんぐり口を開いているとエバ隊長に蹴り飛ばされた。
「馬鹿が! ボーッとするな!」
『ぬわーっ!』
「あら、かわいそうに。あなた達仲間じゃないの?」
1hit、2hit、3hitと3バウンドくらい飛んで、覚醒者の尻尾に足を捕らわれ宙吊りにされ、1upみたいになった。結局捕まって蹴られ損やんけ!!
エバ隊長の方をみると蹴った姿勢のまま覚醒者に殴り飛ばされ、視界から消えた。辛うじて大剣の防御が間に合ったように見えた。
『なにやってんだよ! たいちょー!』
いや、ふざけている場合じゃなかった。このままだと普通に殺される。脱出しようと大剣を振り回したが、膂力と重さが足りないせいか尻尾を切断するには至らなかった。あれ、普通に足引っ張ってない? い、いや気のせいだね。 おらっ! 切れろ! 切れてください。
「隊長! ちび助! このやろっ!」
「援護します!」
ウンディーネの姉御達が双剣を手に走り寄ってきた。
「なんなのかしら、邪魔よ。あなたたち」
覚醒者の長い髪がうねり、無数の槍のように二人を襲った。ウンディーネの姉御は、双剣ですべて打ち落とし、シンシア天使長は若干の妖力解放を行って打ち払った。
エバ隊長どこまで吹き飛んだんだろう……。早く戻ってきて助けて(他力本願)
「オラァァァア!」
「っ!」
ウンディーネの姉御が、素早く移動すると双剣で覚醒者の右足を滅多切りにした。
シンシア天使長は妖力解放しつつ、私が捕まっている尻尾を切断してくれた。やさしくない? こうしちゃ居られない。
自分も体勢を整え大剣を構えた。そういや覚醒者って、部位破壊したら報酬増えんのかな?
アホなことを考えつつ、邪魔したら悪いから陽動する事にした。姉御と天使長はおそらく覚醒者の動きが愚鈍なことから、四肢を落として確実に首を落とす流れに持っていくだろう。
大剣を頭上でひと回転半、振り回して力を溜めた。体幹を利用した上向きの慣性に引っ張られ、回転力を殺さずに踏み込んで空中へ舞った。
『こっち見ろ!』
「ガッ!」
飛び上がって顎を大剣の腹で強打した。普通に斬撃を加えるよりも、かなり大きな音が頭に響いたはずだ。
顎硬った。硬すぎない? 手がびりびりする。それにしても、やっぱガ行好きね君たち。
覚醒者はのけ反ったままぶつぶつと呟いた。
「ゆるせない。ゆるせない。私のものをまた奪うつもりね。ゆるせない」
こわっ、メンヘラかよ。
太い髪に支えられた頭部がミシミシと嫌な音を立てて不気味に持ち上がると、覚醒者は急に頑強な頭部をぶんまわした。髪が鞭のようにしなり襲いかかってきた。
「うわぁぁあ!」
「ぐっ! くそ!」
轟音が鳴り響き、辺りの森林が更地になった。土煙が充満している。
私は覚醒者の攻撃を空中で受け流して
視界の端に、飛んで行った姉御たちを探したが無事なようだった。
「うぐっ! くっそ!」
「はぁ、はぁ」
姉御は剣を支えに片ひざをついており、シンシアちゃんは防御に力を使ったのか、両膝をついて息を切らしていた。二人とも頭から出血している。
ってか、いまので力がかなり早く溜まったんだが……。やっぱ覚醒者ともなると、一発の攻撃を受け流したときに溜まる力が段違いだ。
ぐぐっと、さらにのけぞった覚醒者の口から二人に向かって槍が射出された。
あ、ヤバイ。まだ空中で踊ってるせいで、全然間に合わない。この状況、私が顔殴ったせいでは……。
そこへ、エバ隊長がようやく帰ってきた。
「助けが必要だったか?」
「けっ! いらねーよ!」
エバ隊長が槍をはじき切り、姉御が強がって立ち上がった。
しかし、あの瞬間割りと顔が絶望していたように思う。エバ隊長もヒーローダイヴで帰って来て、触手の槍をすべて破壊する辺りポイントが高い。
「26番は?」
「わかりません。さっきの一撃で飛ばされたようです」
「そうか」
いや、まだ空中にいます。気づいて。大分、上の方。
「組織の元No.9〈光沢〉のガーネット。覚醒前から光り物へ異様に執着があったと聞く」
「とらないで、とらないで。あたしのだから」
「もはや言葉すら通じんか」
覚醒者が泣きながら、なにかを言っている。人だったときの記憶を反芻しているのだろうか……。
あー、やっと地上に戻ってこれた……。シリアスしてるとこ悪いんだけど、コレそろそろ止めても良いかな。ぶつけるタイミング見計らって踊ってるんだけど。もう大剣がかなりヴォンヴォン言ってきてるけど……。
あれちょっと待てよコレ。敵の攻撃乗せたせいか、慣性強すぎて自分でも止められない。
「せめて、楽に葬ってやる。抵抗してくれるなよ!」
エバ隊長が、ガーネットの首を狙ってくっそ速い切り返しを行った。
「グギャ!」
生存本能からか、ガーネットはエバを叩き殺すかのように両手で挟もうとした。そこに体勢を整えた姉御たちが現れ、腕を切断した。
「私たちを忘れてもらっても困ります」
「やれ! 隊長」
通り抜け様に姉御たちが声をかけた。なにこれかっこいい。
〈瞬剣〉!
エバ隊長が叫び、ガーネットの首を切断して、完全勝利体勢をとった。
「やったか!」
振り向き様に姉御が言った。
あっ、それやってないやつ。
ガーネットの頸が地面に落ちる寸前で止まった。
「なにっ!?」
ガーネットの頭と太い髪の毛が胴体で繋がっていた。たくさんある髪に紛れて見えないようになっていたようだった。
首をもたげたガーネットが、全力で技を出した後の硬直で動けない隊長に食らい付こうとした。
させねぇ! 生き残り隊員逝きます。
剣の勢いが止められなかったことで、最高速度に達して大剣台風となったまま、ガーネットの土手っ腹へ突撃した。
『うおおおおお!』
「なっ!?」
「ちび助!」
我ながら、いいタイミングでフォローに入れたのではなかろうか。覚醒者は私の剣圧に押され隊長への攻撃を見誤った。さらに、覚醒者の身体が剣が当たった先から崩壊していく。
止められることなくついには貫通した。しかし、剣の威力はまだ衰えておらず、大剣が地面に突き刺さり引っ掛かって手からすっぽ抜けた。あっ、これ修練中もやらかした一番ヤバいやつ。慌てて、持ち手と逆の手で握ろうとした。
『あばー!』
「26番!」
しかし、地面に刺さったままの大剣に届かず、攻撃に乗っていた慣性を渡す先がなくなって飛ばされてしまった。
◆
「なんだったんだ今の技は……」
「速すぎて、私には何がなんだか……」
「恐らく今の技が、黒服が言っていた奴が一桁台に匹敵すると言った理由だろう」
覚醒者の遺骸の前で愕然とするウンディーネ達に対して、エバが冷静に分析したことを話した。
「どういう技なんだ?」
「……。この大陸の南側あたりの民芸品に、回転を加えると独りでに回る玩具がある。奴のそれは、自前の身体能力を使ってそれを再現しているのだろう」
「妖力開放せずにできるものなのですか?」
「いや、妖力開放をすると却ってできない類の技なのだろう。あまりにも技が精緻すぎる」
「そうかぁ? 最後あたりは、雑に振り回しているようにしか見えなかったが……」
エバの推測に対して、ウンディーネが懐疑的に答えた。
「実際にやってみるといい。剣を振る、体を動かす。行動を起こし、起こし終えた後には必然的に力の流れが生まれる。奴のそれは、流れを止めることなく、技として蓄え続けているのだろう」
「なっ!?」
「驚異的な動体視力、力の流れを感じ取る才覚がそれを可能としているのだろう。しかし、天は二物を与えずとは奴のことだな。せっかくの天賦の才が、組織の実験で潰れている。人並みの知能を持つ剣士であれば、誰も並び立てなかっただろうに……」
「なんにしても、私オリヴィアさんを連れてきます! また、気を失っているかもしれませんから」
シンシアがオリヴィアを連れ帰ったのは、しばらく経ってのことだった。土に頭から刺さり、足だけ出した状態で気絶していたようだった。