〈痴呆〉のオリヴィア【完結】   作:peg

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天に代わりてお前を誅す。


天誅

 襲われた町の被害は軽微だったようだ。薄幸騎士によって、盗賊はほとんど何もせずに壊滅させられたようだ。薄幸騎士は、隻腕だが有能なのだろう。

 

 宿屋の主人に作って貰った牛っぽい何かの香草焼きをモリモリ食べながら、騎士や姉御の話を聞いていた。チラチラと薄幸騎士がこちらの様子を見ていた。しかしこの肉、異様にうまい。えっ? 盗賊が乗ってた馬なのこれ? えぇ……。私は諸行無常さを噛み締めて食事の手を進めた。

 

「半人半妖は、食事をあまり必要としないと聞くが……」

「?」

「いや……。盗賊どもの拠点が、この町から東にある廃教会にあるようだ。妖魔化薬がまだ残っているかもしれん」 

「廃教会?」

「あぁ、何年も前に火事で焼けたらしい」

『それだ!』

「うわ。汚っ」

 

 立ち上がって薄幸騎士を指差した。口に含んでいたものが吹き出し、対面に居たイライザにかかった。

 何となくで向かっていたが、図らずも合っていたようだった。燃えた教会で間違いないだろう。これが帰巣本能と言うやつだ。

 

「なんなんだ……?」

「あー、たぶん目的地が同じになりそうだ……」

 

 目を瞑ってウンウン頷いていると、薄幸騎士にウンディーネの姉御が答えた。

 

 

 薄幸騎士が目的地を知ってると言うことで、一緒に行くことになった。交渉はウンディーネの姉御がやってくれた。

 唯人(ただびと)の男に速度を合わせると日が暮れると、イライザがぶー垂れていた。ごめんな、道が分からねぇんだよ……。

 

 廃教会への道のりは、半日ほど掛かった。薄幸騎士は重装備にもかかわらず、結構な速度で歩いた。若い木々が雑多に生えており、腰高い藪が鬱蒼と生えていた。その為、薄幸騎士は途中で馬を降りざるを得なくなったのだ。しかし、盗賊の馬はどこから来たんだ……。藪じゃないルートもあるのかもしれない。私は胃袋に帰って行った馬を憐れんだ。

 

「たしかに、小さな妖気が固まっているわね」

「既に、盗賊どもは妖魔になっていると見て良さそうだな」

 

 道中で、イライザが頬に指を当てて言った。妖魔がイライザの感知範囲に入ったようだった。私も目を瞑って調べてみたが何も感じなかった。〈まつげ〉には負けてないと思ったんだけど……。

 

「なに止まっているん……。はぁ、お前妖気を消す薬飲んでるだろ」

「……」

『そうだった!』

 

 遅れた私に姉御が言った。薄幸騎士もこちらに振り返った。……そう言えばそうだった。戦士達に感知される可能性を少しでも減らそうとしてるんだった。〈まつげ〉よ。疑ってごめん。

 

「な、なによ」

 

 私はイライザに近づき、肩を叩いてしきりに頷いた。

 

 日が暮れる前に廃教会までたどり着いた。教会の前では、みすぼらしい格好の男達が、うーうー言いながら歩いていた。

 

「! 何だあいつらは……」

「あれが薬で妖魔化した人間さ」

「うぇー。あの起き上がってきたやつね……」

 

 順に姉御、騎士、〈まつげ〉の反応である。

 教会は、白濁した目をした盗賊達のゾンビーパークと化していた。目視できる範囲に6人ほどがいた。妖魔より弱いあいつらには、私たちは過剰戦力だろう。

 

 

―――

――

 

 

 

 最後の一体を薄幸騎士が倒した。重い鎧の突進から繰り出す斬撃は、ラボナに残った色付きのクラリスが食らえば、たちまち吹き飛ばされそうだった。

 

「ふん。普通の人間なのに……慣れてるな」

「......本物を何匹か切ったことがある」

「ほぉ……」

 

 大剣に付いた血を一振りで払った姉御が、感心して言った。たしかに、クレアが探しているラキよりは強そうだった。姉御は筋肉ムキムキでなくなっても背の高い部類なのだが、薄幸騎士は体格が姉御よりも大きい。

 

 盗賊の生き残りはいない様子だった。薄幸騎士が奥まったところにあるテントから木箱を運び出していた。例の薬だろう。

 

 教会の中は、元あった生活とはかけ離れた様子になっていた。あの火事で天井が落ちたのだろう。残されているのは、地下の本が入った部屋くらいだった。もっとも、盗賊に荒らされて何も残っていなかった。シスター達の手記もボロボロで読めなかった。悲しい。

 

 意気消沈して門があった枠から出ると、シスター(せんせい)から飛び出た血を幻視した。煤けた壁に当たって光る何かが落ちた気がした。

 何となく壁際の土を掘り返すと、錆びくれた首飾りが出てきた。首紐の一部が無くなっていたが、幸いなことにペンダントトップは無事だった。

 

「まずい! 何か来た!」

「!」

「……」

 

 ペンダントをポッケに突っ込んだ時、イライザが叫んだ。今の私は妖気を全く読めないので分からなかった。しかし意識を向けると、遠くから草を掻き分ける音が高速で近寄って来ていた。金属同士の擦れる鎧の音から言って、恐らく戦士だ。慌ててみんなに伝えた。

 

「せんし!」

「どうする?」

「はん。今更逃げられないだろ?」

「お前達は組織に追われているのだったか……。ならば――」

 

 薄幸騎士とシスターと言う(てい)で相手をすることになった。教会の瓦礫に姉御達は隠れた。髪色がみんなと違う私は、蒼いシスター服を着ていることも相俟って、一見して戦士に見えないだろうとのことだった。大剣は姉御達に預かってもらった。全て薄幸騎士の案だった。

 

 長髪の女が藪から飛び出してきた。顔を伺うと冷たい印象の女戦士だった。ナンバー幾つだこいつ。

 

「ここで妖魔の気配が複数途切れたので来てみれば……。何者だおまえ達?」

 

 薄幸騎士が切ったゾンビーの生首をポイ捨てして戦士が言った。涼しげな声をしていた。腹から声だせ! ごみを捨てるな!

 

「最近増え出した妖魔擬きか……。余計な手間ばかりかけさせてくれる」

 

 ぼそぼそと独り言を言った戦士が、勝手にイラついて舌打ちをした。さてはカルシウム足りてないな、こいつ。

 

「ラボナの終の騎士と身の回りの世話をするシスターだ。生憎と隻腕なのでな」

「……人の身で妖魔と戦う気狂い達か。兜をとって顔を見せろ」

 

 薄幸騎士は(しるし)を掲げて戦士に言った。私も同じように(しるし)を掲げた。しかし、バケツ兜がやっぱり怪しかったらしい。可哀想に……。

 

「ふん。本当に人間だな」

「当たり前だ」

 

 さすがにイラッとしたのか、薄幸騎士の口調が荒くなった。意外と気に入っている兜なのかもしれない。

 

「もう用は無いだろう」

「私も気狂い男に付き合う程、暇ではないんでな……」

『あばよ!』

 

 背を向けた戦士に、手を上げて捨て台詞をかけてやった。

 

「……待て」

 

 あれ、このタイミングで声を掛けられるなんて……。なんか嫌な予感がするんですけど。

 

「奇特な唸り声を口から出す人を……私は過去一人しか知らない」

 

 背中越しに女戦士が言い放った。私はお前を知らない。帰っていいよ。

 

「久しぶりだな〈痴呆〉の戦士。あの時、深淵からともに生き残ったミアだ」

「えぇ!」

 

 笑顔が浮かんだミアが振り返った。私は前のめりになった。生きとったんかワレェ!

 

「まさか、北の戦地を生き延びていたとは……な!」

「今のを躱したのか!?」

 

 突然の戦士ばれに、姉御とイライザがミアの意識を落とすために背後から飛びかかった。妖気が消えた二人による完全な不意打ちだった。しかし、ミアは二人をすり抜けるように躱してしまった。昔の動きが嘘みたいだなぁ……。

 

「折角の生き残った顔見知りとの再会だ。邪魔するな」

「こいつ……デキるぞ!」

 

 イライザ達に向き直ったミアが言った。 

 

「妖気を消す薬を飲んでいる訳ではなさそうだな。長年、妖気を押さえ続けたことで消えたのか。他に生き残りは何人いる?」

 

 ミアは鋭い表情で、あっという間に私たちの正体を言い当て続けた。ミリア隊長の顔が頭を過り、冷や汗が出てきた。あれ? やばくない?

 

「……しかし、紹介が遅れたな。ほとんどの戦士の世代が変わったが、前世代の生き残り……。()()()()6()のミアだ」

「ナンバー6……」

「一桁代か」

 

 謎の強キャラ感を出すミアに対して、姉御とイライザが冷や汗を垂らした。でも、ミアってナンバー34くらいじゃなかったっけ……。出世したのね。しかし、数字マウントは止めよう、ハイやめやめ。この話は終わり! 不毛だ。

 

 冷静にウルトラマンAAの真似をして遊んでいると、上から声が降ってきた。

 

「おいおい……。はぁ、勝手にナンバー6を名乗るなと言っているだろう。ディートリヒを唆し、共謀してガラテアを取り逃がしてナンバーを剥奪されたお前は、あくまで()()ナンバー6なんだがな……」

「!」

「オルセ……!」

「昔も今も……俺が口添えをしなければ直ぐに死んでいたんだよ、お前は」

 

 教会の瓦礫の上に立った黒服が言った。七年前の私の担当者、ため息大好き陰気な男のオルセだった。

 

「おるせ!」

「くく。それに、まさか〈痴呆〉のやつが生きているとはな。村々が消えているのは、お前が原因ではなかったか……。近くの町で人相を聞いて出向いたが……、当てが外れたな」

 

 オルセは、私達を恐れる様子もなく笑って言った。あたかも組織に対しての悪戯が成功した子供のような表情だった。おっさんなんだけど。いや、そもそも私のせいって何よ。

 

「覚醒したお前が、暴れまわっているものだと期待したが。まぁ、生きているのであればそれもよかろう」

「あん? どういう意味だ」

 

 尊大な物言いのオルセにウンディーネの姉御が食って掛かった。

 

「くくく。なぁに、こちらの事情だ。組織も一枚岩ではなくてね」

 

 肩を揺らしてオルセは笑った。姉御の問いには、答えるつもりがなさそうだった。

 

 私はそっと股ぐらを漁った。シスター服のスリット入りスカートの股下に隠していた非常食の肉棒(ほしにく)を取り出した。隣の薄幸騎士がぎょっとした気配を出した。しかしクソ黒服には、必ず仕返しをしなければならない。

 モゾモゾとしているとき、黒服からチラリと一瞥されたが、大人しく話を聞かないのは何時ものことなのでスルーされた。大剣で叩くと恐らく死んでしまうので、密かに準備していた塩辛カチカチの肉棒(ほしにく)で仕返しをしたいと思う。両手でしっかりと握った。覚悟!

 

『天誅!』

「かはっ!」

「オリヴィア!?」

「どっから出した!?」

 

 思いっきり飛び上がって、オルセに棒を振り下ろした。オルセは全く反応できずに脳天に食らい落下した。

 





それは干し肉というにはあまりにも大きすぎた。
大きく。
分厚く。
重く。
そして大雑把すぎた。
それはまさに肉塊だった。
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