〈痴呆〉のオリヴィア【完結】   作:peg

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原作主人公のクレア編となります。
話はオリ主がいない間に進む(今更感)

前半は殆んど原作沿いとなります。


黒い女

 クレアは、リフルがいると思われる古城の入り口に立っていた。

 クレアがついたちょうどその時、覚醒者のダフが覚醒体を解除し、城の中に入っていくところだった。

 

 クレアは目を閉じた。落ち着いて辺りの妖気を探ることにした。ガラテアやシンシア程でないにしろ、クレアは妖気読みに長けていた。

 

(地下に巧妙に隠された妖気の気配がある……。西のリフルか。相変わらず、妖気隠蔽が上手いやつだ)

 

 本来は膨大な妖気があるにも関わらず、〈深淵の者〉西のリフルは妖気を隠蔽する技術に長けていた。

 

(リフルの近くになにか……知っている妖気がある気がする。戦士はこいつか……まだ無事のようだな)

 

 地下にいるリフルの近くには、囚われた戦士と脱け殻(ラファエラ)、そして北の戦士達がいた。しかし、クレアには囚われた戦士以外、存在が曖昧に感じられ上手く読めなかった。

 

(なんとか釣り出すか……)

 

 いつの間にかクレアの思考は、囚われた戦士を助け出すことに向いていた。

 元々、情報収集のみで無視するつもりであったが、呼ばれるような感覚の後、クレアの意図しないところで意思が変えられていた。

 

 クレアは古城へと足を踏み入れた。

 

 打ち捨てられて長いのか、以前見た砦よりも崩壊が進んでいるようだった。

 人間体のダフが、のんびりと奥へと進んでいた。

 妖気を発していないクレアに、まるで気づいていない様子だった。

 

(今なら、首を落とせるか……?)

 

 クレアは仕掛けた。

 クレアが、リフルを釣り出すためには、ひと暴れしなければならなかった。その際にダフを倒せるなら、その後が有利になると考えた。

 

 しかし、クレアが大剣を振り上げたとき、影に気づいたダフが咄嗟に背中から槍を生やした。

 

「がへ! だれだ!」

「くそっ」

 

 大剣が弾かれた。ダフは、人間体のままでも超硬度の槍を体から自在に生やすことができた。

 

「おまえさっきのやつか! どうやって入った?」

「お前に案内されてだよ」

「ばかにするな」

(失敗した。しかし、こいつが覚醒体になって暴れれば……リフルが出てくるはずだ)

 

 ダフは両腕から槍を高速で射出してきた。クレアはあっさりと回避した。

 

 しばらく戦ったが、ダフは中々覚醒体にならなかった。古城を壊さないためか、直ぐには覚醒体にならないようだった。

 昔戦ったときよりも場が広く、遮蔽物が多いこの場所ではクレアが有利だった。射出と回避が、何度となく繰り返された。

 

「くそ! あたんねぇ! こうなったら……」

「……」

 

 クレアの読み通り、短気なダフが覚醒体へと変わった。

 打ち出される槍の威力が上がり、床や壁を破壊し始めた。

 

「よけるな!」

「……!」

 

 ダフがバラ蒔いた小さな槍を回避したときを狙われた。クレアの正面に、人の身の丈近くある巨大な柱が迫ってきた。

 

「ひゃひゃ。当たった」

「く!」

 

 クレアは迫りくる柱へ大剣を合わせた。

 以前は妖力解放してなんとか防いでいたが、長年の修行の成果か、妖力未解放状態でも受けて流す程度はできるようになっていた。

 クレアは城の支柱へダフの柱を弾いた。

 城の一部が崩れ、ダフに降りそそいだ。 

 

「あで。あででで!」

「!」

(来たか)

 

 地下から上ってくるリフルの妖気を感知したクレアは、身を翻して城の外へと走った。

 

「ちょっとー、一人でなにやってるのよ。頭おかしくなったの?」

「いや、りふる。黒いかっこうのおんなが……。あれ? い、いない……」

「……黒い格好の女」

 

 急に真顔になったリフルが服を脱ぎ始めた。

 

「お、おい。りふる、そんな真っ昼間から……」

「何言ってんのよ。はい、持ってて」

「え?」

「気に入っている服だから破きたくないの。残り少ないしね」

 

 そう言うとリフルは覚醒体へと変じて外へ飛び出した。

 

 城からリフルの薄い触手が一気に溢れ、崩壊しかけた城と同じサイズの覚醒体が並んだ。

 

「さてと、借りがあるのよ。黒い服の女達にね」

(……釣り出せたは良いが、どうするか)

 

 リフルから死角となる木陰の裏で、クレアは息を飲んだ。リフルが本気になれば、一瞬で八つ裂きにされてしまうだろう。

 

「!」

(囚われていた戦士の気配が消えた……? 妖気を消す薬で逃げる機会を伺っていたのか)

「! どいつもこいつも私を馬鹿にして……。八つ裂きにしてやる」

 

 リフルの巨体が飛び去った。逃げた戦士にダフが追い付けず、リフルが追いかける形となったのだった。

 

「なんとかなったか……ぐっ……」

 

 その時、クレアを呼ぶ波が一際強くなった。クレアは頭を押さえ、導かれるままに歩いた。

 

「何故私はここにいるんだ……」

 

 クレアの主観では、古城の入り口に立っていたはずだった。気がつけば、古城の地下、二人の人間が融合したようなに肉塊が吊るされた前にいた。

 上には、醜悪な木々のような覚醒体が磔にされていた。そこから、黒い液体が肉塊に垂れていた。

 

「なんだこれは」

 

 その肉塊を認識した瞬間、クレアは森の中に立っていた。

 

 

―――

――

 

 

「止まれ。ジーン」

「なんだ?」

 

 クレアは付き従っていたジーンを片手で制した。ジーンは髪型をオールバックにしており、鷹のような目付きをしていた。

 クレア達はリフルから逃れて、ラキを捜索するために次の町へ向かっていた。

 既にオリヴィアやカティアと別れた後だった。

 

「この先に相当な力を持ったものが潜んでいる」

「何?」

 

 その直後に、顔に大きな傷があり左目の潰れた短い髪の戦士が現れた。以前、クレアが邂逅したことのある元ナンバー5の戦士ラファエラだった。

 ルヴルから、ラファエラは実際にはナンバー1に匹敵する実力者だと、クレアは聞かされていた。

 

「二人いるな……。どっちがクレアだ?」

「! ジーン下がれ! こいつは……ラファエラだ!」

 

 クレアが背後にいるはずのジーンを横目で見やった。しかし、そこには誰もいなかった。

 

「ジーン……?」

「何をしている。ここには、最初からおまえ独りだ」

「何を言っているんだ! お前だってさっき、“どっちが”と。……!」

(違う。ジーンは北の戦いで……)

 

 クレアがジーンのことを思い返すと、唐突にラファエラが斬りかかってきた。

 

「くっ」

「……」

 

 クレアはのけ反って、紙一重で避けることに成功した。

 さらに迫りくるラファエラに、クレアも大剣を引き抜いて対応した。

 

 ラファエラの大剣は重く、何度目かの剣撃が鳴ったときクレアは押し込まれ始めた。

 

「ま、まて。何がどうなっているんだ。おまえは確か」

「……私がなんだ?」

 

 クレアの大剣が弾かれ、ラファエラの横凪ぎが二の腕を捉えた。

 

「ぐぅ……! く、くそ。何故こんな」

「気を付けろ。斬られた時のダメージは相応だ」

「……?」

「ダメージが重なり続ければ、身体が消滅する。消滅とは死と同義。死にたくなければ、私を倒すことだ」

 

 複数回、大剣が高速で打ち合わされた。

 ラファエラの攻撃は激しくなり、クレアの傷が徐々に増えていった。

 

「くそ!」

「七年間蓄えた、おまえの力はこんなものか?」

 

 大剣を背中に戻したクレアは、形振り構わずに〈風斬り〉をラファエラに放った。

 ここに来て、クレアは状況がわからずに迷いながら戦っていたが、勘で察し始めていた。

 

〈風斬り〉!

「……」

 

 〈風斬り〉のフローラと遜色のない居合いによる斬撃がラファエラを襲った。

 

 一合、二合と、ラファエラはいっそ丁寧と言った方が良いくらいの繊細さで、クレアが放った斬撃の全てを反らした。〈風斬り〉という目に見えないほどの速さの剣に関わらず、ラファエラは汗一つかかずに成し遂げた。

 

「貴様、化け物か……?」

「ふん。足りないな」

 

 攻撃を全て防がれ、下段から振り上げられた大剣が頬を通り、頭を切断する感覚をクレアは感じた。

 

 

―――

――

 

 

 ラファエラに斬られて死んだはずのクレアは、倒れたまま自我を取り戻した。

 真っ暗な空間だった。

 戦士の格好をしたラファエラが、闇の中に浮いていた。

 

「……そうか。ここは、ラファエラの精神世界か。く、何故私をここに引き込んだんだ……?」

「……勝手に入ってきたのは、おまえだ。目的を成し遂げ、永遠の眠りにつこうとした私の精神を揺り動かしたんだ」

「何?」

 

ラファエラは、クレアの方へゆっくりと歩み寄りながら言った。

 

「本来、私には意識がなかった。あったのは名も無き一つの意思のみ。それすらも消えるはずだった」

「この姿や声も、おまえが作り出したもの。先程の場所や人もおまえに覚えがあるのではないか?」

「……」

「そして、今。おまえの記憶の力を借りて私の思念が再構築されている。おまえが知るべき事を伝えるためにな」

「知るべきことだと……?」

 

 そう言い溜めたラファエラは口を開いた。

 

「おまえは一つ大きな間違いをしている」

 

 ラファエラがそう言った途端に、黒い空間に罅が入り砕けるように割れ始めた。

 

「どういうことだ! 私が何を間違っているというんだ!」

「もう、あまり時間がないんだ。ここから先は、おまえがその大剣と身体で理解すべきことだ」

 

 ラファエラが大剣を半身で構えた。

 

「私がお前を斬ったら、お前はどうなるんだ……?」

「元々、消えるはずだった思念さ。本体が起きると同時にバラバラに消え去るはずだ」

 

 感情をのせずにラファエラが言いきった。この期に及んで、クレアはラファエラの心配をしていたが、既に本人が死んだものとして自己を捉えている以上、言えることは何もなかった。

 

「……。〈風斬り〉がダメだと言うなら、私はそれを超える技を一つしか知らない」

「!」

 

 クレアは妖気を解き放った。

 

「七年間、妖気と共に封じてきた最後の技だ」

「そうか。最後の力を私にぶつけて見せろ」

 

 クレアは上がっていく高揚感を押さえ込んで目を瞑った。妖気が収まり凪いだ。

 ゆらりとラファエラへ倒れ込んだクレアは、イレーネから受け継いだ右腕に妖気のすべてを込めた。

 

〈高速剣〉!!

 

 右腕のみの完全妖力解放。

 七年間〈風斬り〉のために右腕の地力を鍛え続けてきたクレアの〈高速剣〉は、以前のものとは比べ物にならない威力となっていた。 

 

「右腕のみの、完全妖力解放か……」

「これが、かつてのナンバー2〈高速剣〉のイレーネの技だ」

 

 ラファエラは反応できずに切り刻まれた。

 しかし、切れ込みが入った精神体は、まだ消滅していなかった。

 

「これで、私の思念は消え去る。ラファエラと言う個の完全なる死だ」

「ラファエラ!」

『身体に刻め、これが私の中にある全てのものだ』

 

 ラファエラの身体から、あらゆる感情が溢れ出してクレアの身体を貫いた。

 

『すべての感情と共に、おまえが知るべきものがそこにある……』

 

 

 

―――

――

 

 

 ラファエラとの邂逅の後、濁流のような空間にクレアはいた。ラファエラから吹き出した感情と記憶の濁流に飲まれ、自我の境界が曖昧になっていた。

 朦朧とする意識の中、クレアにはラファエラの声が聞こえてきた。

 

「流されるな」

「?」

「取り込まれるな。確固たる自己を思い出せ」

「確固たる……誰?」

「お前は誰だ」

「私は……クレア。かつての組織のナンバー47、クレアだ」

「そうだ、それでいい……」

 

「! 邪魔を――」

 

 

―――ノイズ。

 

 

(何処だここは……?)

 

 朗らかな日が射していた。

 風光明媚な景色が、クレアの目の前に広がった。植生から言って大陸の南側だと思われた。

 穏やかな雰囲気の村だった。

 山から水を引いているのだろう、そこかしこで水音が響いていた。

 

(そうだ……私はラファエラと邂逅して。……後の記憶がない)

 

 クレアは頭を押さえた。クレアには、この場所が未だに引き込まれた精神世界の中と言うことが分かった。

 

(早く目覚めなければ……リフルが戻ってくる)

「はぁはぁ。まって! まってぇ~」

「!」

「オリヴィア、はやくー!」

 

 そんなクレアの脇を、二人の子供が走っていった。

 

「! オリヴィア……?」

 

 クレアは呼ばれた名前に反応して振り返った。子供の後ろ姿は、まごう事なきオリヴィアだった。ただし、髪の色が濃い栗毛色だった。

 

「おい! 待ってくれ!」

 

 慌てて二人を追いかけたが、半身半妖の足をもってしても一向に追い付けなかった。

 

(……どうなっているんだ? 何故ラファエラの精神世界にオリヴィアがいるんだ!?)

 

 二人が速いと言うよりは、クレアが極端に遅くなっているようだった。

 先頭を走る子供は、オリヴィアよりも背丈が高く長い髪を二つ結びにしていた。良く似た髪質から姉妹であることが察せられた。

 少女が振り返り、髪が揺れた。

 

 

―――ノイズ。

 

 

 クレアの視界が変わった。捩れるように視界が揺れ、唐突に場面が変わった。

 

(ぐっ! ……移動したのか。何処だ)

 

 古い物置のような部屋だった。恐らく納屋の中だろう。小窓から光が差し込んでいた。

 

「えぇっ! そうなの!?」

「……じゃあ、あかちゃんを鳥さんがはこんでくるのは嘘なの!?」

「……えぇ、なんで!?」

「……嘘ぉ!?」

 

 納屋の隅にある作業台で、オリヴィアが一人で叫んでいた。オリヴィアは言葉を発する度にしきりに驚いており、背中姿を見るに正常か否かが疑われた。

 

(何をやっているんだ……? 手鏡? いや、まともな言葉を話しているだと?)

 

 オリヴィアの手の中には手鏡があった。

 この大陸で鏡は高級品だ。ガラスが手に入りにくいこともあるし、単純に磨いた(かな)ものですら値が張っていた。

 通例として、婚姻をした男が女へ手鏡を送る風習がある地域もあることを、クレアは思い出した。

 クレアの知るオリヴィアは、昔よりは口が達者になったが滑舌がまだ怪しく、たどたどしく話をする。この子供は幼いが淀みなく言葉を話しており、同一人物であるかどうかが一瞬疑われた。

 

(……ミリアが、言葉を失ったのは組織の実験と実姉のせいだと言っていたな。元々はこうだったのか……)

「……え! じゃあ、このほしってまるいの!?」

「え!? うみってしょっぱいの!?」

「えぇ! ほしってそんなにとおくにあるの?」

 

 オリヴィアは、手鏡に夢中になって周りが全く見えていないようだった。

 

(一人で一体何を……?)

「オリヴィア!!」

「あ、やば!」

 

 その時、納屋の扉が思い切り開かれて明かりが差した。

 怒鳴ったのは、顔が真っ黒に塗りつぶされた大人の女だった。その脇には、オリヴィアの姉と思われる少女が佇んでいた。

 

(なんだこいつは!)

「勝手に持っていっちゃダメって言ってるでしょ!!」

「ごめんなさーい! い、いたい!」

 

 思わず身構えたクレアだったが、黒塗りの女はクレアの体をすり抜けて、捕まえたオリヴィアの尻を叩き始めた。

 

(実体がない? ……母親なのか? これは……記憶の再生か?)

「そうよ」

「!」

 

 考えるクレアの心の声に、空間に響く声が反応した。

 

 

 

 

―――ノイズ。

 

 

 

 訓練生の頃、組織で訓練に明け暮れた部屋だった。天井は少々低く、成人した戦士達が大剣を振るうには少し狭かった。

 

 癖のある髪を二つ結びにした黒い女が膝まづき、戦士達に取り囲まれていた。

 少女の頭上には黒い輪が生え、目からは黒い涙を流していた。

 取り囲んだ戦士達は全員大剣を構え、切っ先を少女へと向けていた。いつ少女が動き出すかわからない緊張感が、その場を満たしていた。

 

「これは……」

 

 クレアは戦士達に見覚えがあった。北で散ったはずの仲間達だった。その中にはフローラがいた。ジーンはいなかった。

 

「その人はサルビアよ」

「お前は!?」

 

 クレアの後ろから一人の戦士が歩いてきた。クレアは驚いて振り返った。

 長く綺麗な金髪をしており、口許が柔和に結ばれていた。

 

「お久しぶりね。クレア」

 

 その戦士は、右手で長髪を耳にかきあげながら言った。




誰だこんなに散らかしたの!?(自業自得)
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