〈痴呆〉のオリヴィア【完結】   作:peg

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忙しすぎたので増量版です。

やはり書く内容というのは、体調にされるところが多分にあるのかもしれませんね(言い訳)


イマジナリーフレンズ

「はぁはぁ……。なんとかなったな」

「つかれたもぉぉぉん!」

 

 戦いの最序盤で大剣を投げ捨ててしまって始終ピンチだったユマと、激戦の末キャラ崩壊したイライザが大の字に寝転がった。〈まつげ〉大丈夫かよ。牛みたいに鳴いたぞ。

 

 結局、一昼夜近く戦い続けることになった。

 あの戦いの後、私達の近くにいた〈猫〉だけでなく、戦いの音を聞き付けた周囲の〈猫〉達がゾロゾロと集まって来た。2~30体くらいは倒したんじゃなかろうか。

 そのうちに、時間経過で勝手に止まる〈猫〉が増えていって今に至る。電池の切れかけたファービーみたいに止まるのは、ちょっと面白かった。モルスァ。

 

「はぁはぁ。3人が来なければ、かなり窮地だったのかもしれませんね……」

「消耗したお前らだけだと、逃げ回るしかなかったかもな」

 

 姉御の言う通り、ヘトヘトのシンシアと足が治ったばかりのユマでは逃げないと厳しかったかもしれない。それにしても、なんでユマは直ぐ大剣を投げてしまうん? 戦士が大剣を手放せば死ぬぞ。

 

「そうですね……く」

 

 姉御に返事をしたシンシアは、女の子座りに崩れ落ちた。消耗がピークに達したのかもしれない。

 中盤から終盤にかけては、大剣を投げちゃったユマのフォローに回っていた。ユマのお陰で〈まつげ〉は助かったんだけど、シンシアへ追い討ちをかけるように負担が行ってしまった。なんてこった。

 座り込んだシンシアを見た姉御は、片手で頭をガシガシとかいた。

 

 大天使シンシアの妖気ヒールは、相手の妖気に同調して身体の再生を促すものだ。

 その際に、相手の消費する妖気以上に力を消費してしまう。悲しいことに妖気の消費効率はクソ悪かった。

 しかし、防御型の戦士であるシンシアの緻密な肉体再生のアシストが得られるので、ミリア隊長も時間が無いときは積極的に使って行く方針だった。

 

 拝啓、ミリアたいちょーさま。あなたの方針でシンシアがピンチです。今すぐ助けてください。

 私は柏手を打ち、両手を合わせてラボナの方を拝んだ。

 

「メンマましまし」

「オリヴィア。ラボナはあっちだぞ」

「え? なんだそのお祈りは……?」

 

 私の向く方向と真逆の方角を示したイライザと、寝転んだまま困惑するユマがうるさい。信仰の自由を守れ! 大事なのは気持ちなんだよ。

 

「少し休め、それから……クレア達を回収してラボナにいるミリア隊長に報告だ」

「はい……」

「ちっ。アイツら無事だろーな?」

「三人とも無事みたいですよ。……!?」

「どうした?」

 

 座り込んだまま、姉御と話していたシンシアが何かを感知した。クレア達3人の妖気を拾ったときに、なんかヤバイことがわかったのかな。

 

「大きな妖気に当てられて……今まで気付けなかったのですが、微弱な戦士の気配がします。消えそうなくらい小さいですが」

「どっちだ」

 

 シンシアが指差した方向に行くことになった。なんだ戦士か。しかし、なんかスゲー嫌な予感がするんだけど。なんだったっけ? まぁいいや。

 

「本当か? ……シンシアでそれなら、私には読めないんだろうな」

「ふん。ついでだ。生きているなら拾っていく」

「さっきのに巻き込まれて生き残ってるなら、そこそこ強そうだけどね」

 

 姉御の案で助けに行くことになった。

 

 

 

 ユマにおんぶされたシンシアの案内で、クレア達の方向とは少し外れた方へ向かっていた。

 

 森林にいた筈だったのだが、でか骨槍で周囲の地形が変わってしまっており、隆起した禿げ山を歩かされていた。あんなに森でフサフサだったのに……またハゲの話をさせるなんて。……〈猫〉め、許さん!

 

「オリヴィア。遅れるなよ」

 

 疲労から現実逃避してアホな事を考えていると、〈まつげ〉がチラチラとこちらを振り返ってきた。お前ら足が長いからピョンピョン行けるんだろうけど、私は背が小さいから殆んど崖に上っている様なもんだぞ。くそが!

 姉御達は、捜索しやすい様に高い視界を得ようとしてるのだろう。足場が悪い所をずんずん登って行った。そりゃ、背の高い木全部折れてるけどさぁ……。

 

 腹這いで背の高い隆起した岩盤に上った。巨大な骨槍が地面に刺さって露出したのだろう。しかし、ジャンプするのもいい加減疲れた。私は、岩盤の角に芋虫のように伸びた。ぐでる。今日から私は、ぐでヴィアだ。

 

「ちかれた」

「……シンシア。どの辺だ」

「もう近くのはずです……。ごめんなさい。超弩級の妖気に当てられて、細かな場所までは……」

 

 姉御は私を一瞥するとシンシアに言った。姉御に尋ねられたシンシアが、ユマの背中から降りながら困り顔で答えた。それはいいんだけど、誰か引き上げてくれない? もう疲れたんだが?

 瀕死の戦士を目視で探しているのか、イライザも明後日の方向を見ていた。

 

「あっ!」

「どうしたイライザ」

 

 イライザが驚いた声を出して、全員が振り返った。まさか、見つけたのか!?

 

 イライザの顔を見ると、口にピンと伸ばした手を当てて完全に『失敗しちゃった』みたいな顔をしていた。えぇ? 何でこっち見てるの?

 

 ぬかるんだ岩盤が大きな音を立てた。ちょっ、おまっ、まてまてまて!!

 私が乗っている岩盤だけが滑り落ち始めた。

 

「ぬぉぉあぁ〈まつげ〉ぇぇぇ!」

「オリヴィアすまーーん!」

『済まんじゃねぇ!』

 

 滑り出した岩盤の上になんとか這い上がった。飛び降りようにも、既にかなり速度が出ていた。しかし気分は白桃桃だ。

 

「ぴょっ!」

 

 振動に合わせて岩盤の上を跳び跳ねた。

 後ろを見ると、イライザ以外が目を点にして見ていた。

 数瞬もしないうちに他の隆起した岩に当たり、私は空に投げ出された。

 

「うあぁぁ! 痛! って、ててて」

 

 ヘッドスライディングで着地した。シスター服もビチョビチョになってしまった。最悪だ。

 ぶつかった岩が砕けて、土ぼこりが辺りを覆った。

 

「オリヴィア! 無事か!?」

「……まったく何やってんだ」

 

 皆が高台から降りてきた。

 心配した声をかけてきたのはイライザだった。そして、姉御に呆れられてしまった。いや、イライザのせいだろう。私は悪くねぇ!

 優しい声をかけるイライザにマッチポンプ感を覚えた。

 

「う……ぁ……」

「そ、そんな……」

 

 背後から呻き声とシンシアの震える声が聞こえた。

 

「どうしたシンシア? あぁ、戦士を見つけたのか」

 

 シンシアにユマが声をかけた。死にかけ戦士がいたのか。これぞ怪我の功み……。

 

「だ、ダメです。ユマさん……あれに近づいたら……ダメです」

「え?」

「へ?」

 

 怯えきったシンシアがユマを止めた。何、どう言うこと?

 雨で土ぼこりが晴れていき、黒い装いの戦士が現れた。覚醒する双子の片割れだ。この感じは……ベスかな?

 

 隆起した岩に背を預けており、俯いた顔は表情が読めなかった。

 

「なっ……!?」

 

 それを見たユマが声を詰まらせた。

 土ぼこりが完全に晴れ、ベスの姿が露になった。

 ベスは巨大な骨槍に腹を貫かれていた。座って岩に背を預けていると思ったが、実際には磔のような格好だった。

 

 ベスへと繋がった骨槍の表面に、血管のような筋がいくつも浮き上がった。

 

「ぎ……ギ……」

 

 消えそうな妖気が急に膨らんで弾けた。

 座り込んだ双子の片割れから衝撃波が走り、私達の髪を揺らした。んん!? 覚醒ラインの解放を超えた? あ、でも、覚醒しても戻れるのか。

 

「そ、そんな……」

「覚醒した……!」

 

 シンシアとユマの緊迫した声が聞こえたが、変態するベスの様子に気を取られた。しかし、変態ベス……。覚醒者は、皆変態だった……? 私は白い〈ペプシマン〉を思い浮かべた。

 

 腹に刺さった骨槍の先端から〈猫〉の顔が現れて、形を変えていった。顔中に血管を張り巡らせた黒い戦士が顔を上げて目を見開いた。

 

「ガッ……ギギ……」

 

 首元から無数に血管が浮いた顔が首に埋まっていき、首無しの胴体が四足歩行する〈猫〉の背中に生えた状態になった。〈猫〉が一瞬苦しんだ表情をしたとき、アリシアの覚醒体で見た彫像のような顔と〈猫〉の顔が()()()()。ま、混ざっちゃった……。戻れるの……?

 

「ギギニャ……ギニャ」

 

 鬣のような黒い刃が生え、全身にも刃が生えてきた。融合して彫像のような〈猫〉の顔になっていた。背中から人の胴体が生えた姿は、まるでケンタウロスを描こうとして失敗して出来上がったスフィンクスみたいだった。いや待って、ボスとボスが邪配合されて腹から顔が……これ最早デスピサロじゃん!

 ラスボスみたいな奴に野良エンカウントしてしまった。

 

「逃げろ!!」

 

 姉御が叫んだとき、突如として斬撃の嵐が吹き荒れた。

 

『ばかやろう!』

「わっ……!」

「ユマさん!」

「!!」

 

 間近で妖気に当てられてしまったのだろう、キョトンとした様子のイライザの背を引っ張った。ボーッとすんじゃねぇ!!

 敵の姿がブレ、吠える〈猫〉の汚い声だけが耳に残った。

 

 

 

―――ノイズ。

 

 

 

「待てぇ! 御用だ!」

 

 その後、紆余曲折があり、拳銃を持った黒尽くめの男たちから逃げていた私は、いつの間にか雲海の上に立っていた。

 

 山の上に建った白亜の城が遠くに見えた。

 雲海の中には、不自然に椅子と帽子が置いてあり、私の格好は青い旅人の服に黄色いマントに変わっていた。勇者かな?

 

 私の体が勝手に動き、帽子を被って椅子に腰掛けた。大きな帽子で視界が埋まった。

 

『デスピサロは嫌だ。デスピサロは嫌だ』

 

 私の口が念仏を唱えるように同じことを勝手に繰り返した。

 すると、帽子に金髪の中二病みたいな奴の顔が浮き上がり、イケボで叫んだ。

 

「セフィローース!!」

『えぇっ、何の話!?』

 

 その時、空中に浮いて胡座をかいた姿勢のハゲのおっさんが、たくさん現れて踊り始めた。金玉が2つ浮いてる!

 やべぇ、侵食されてる!

 

「レーダーに感! ハゲです!!」

 

 白いトゲトゲしたマスクを被った金髪のお姉さんが、叫びながら私の方へ振り返った。

 戦艦の司令席に座った私は、船員に最後の指示を出した。

 

『総員退避しろ……。私はこの船と共に沈もう……』

「そんな……。艦長! お供します」

 

 そして、宇宙を写した画面が金色に光った。

 

『そうか……。特技はイオナズンだったな……。採用!!!』

 

 

 

―――ノイズ。

 

 

 

『はっ……!?』

 

 なんだったんだ……あのカオスな空間は……。危うく脳が破壊される所だった。

 

 気付けば曇り空を眺めていた。雪がしんしんと降っており、冷たい空気が指先を蝕んだ。しかし、またここかぁ……。

 

 薄々思っていたが、私の中にはセフィーロやロザリーみたいなイマジナリーフレンドが数人住んでいるようだった。今回もそれだろう。イマジナリーフレンドの心象世界みたいなものだろうか……。

 

 立ち上がって辺りを見回すと、雪の積もったロッジの軒先に寝転んでいた様だ。

 私の寝ていたところだけ雪が積もっておらず、犯人はヤスみたいな跡になっていて、なんとも言えない気持ちになった。なぜこの形に……。

 

 自分の格好を見ると、泥で汚れたはずの蒼いシスター服は真っさらになっていた。心象世界だからだろうか。とりあえず、勇者みたいな格好じゃ無くて安心した。

 

『やれやれ』

「幻想扱いなんて、本当に失礼なやつね」

「間借りして居るのは、本当だけども」

『なにやつ!?』

 

 ほら、今回もやっぱり沸いてきた。

 背の低いボブカットの女だった。目元近くまで黒い前髪があり、少し野暮ったい印象を受けた。しかし、目鼻立ちは整っていて、森ガールイライザがコーデすれば化けそうな感じがする。

 温かそうな茶色いモコモコのコートを着ており、少し羨ましかった。

 

「私達はレア。オリヴィア、もう分かっていると思うけど」

「私達の力……貴方に預けるわ」

『……まーた、レベルアップイベントか。おk! 完全に把握した。よし、バッチこい!』

 

 カオスな夢とレベルアップイベントでテンションの上がった私は、レアに向かって腰を突き出し、尻を叩いて親指を立てた。

 

「「本当に分かっているのかしら……」」

 

 鏡合わせの二人は、同時にため息を付いた。好き勝手言ってくれちゃってぇ。

 

 技とかを継承するのはいいのだが、ちょっと頼まれごとが怖い。セフィーロからはアガサの討伐を、ロザリーからは……たぶん薄幸騎士に草笛を渡すのを頼まれたんだった。ヒント少なすぎない?

 でも、セフィーロやロザリーと会ったことで、私の実力が上がっているのも事実だった。やっぱり、レベルアップイベントじゃないか。

 

「ここじゃ、寒いわね」

「それじゃ、移動するわよ」

 

 

――キャァン。

 

 

 甲高い弦音(つるね)が聞こえた。

 前後不覚な感覚が収まると、大きな暖炉にある部屋に立っていた。

 

 金髪銀眼となった二人が戦士の格好をしていた。

 一人は暖炉の前にしゃがみ込んで、木酌で壺のような鍋を混ぜていた。もう一人は、安楽椅子に座って編み物をしていた。乳ザリー以上のマイペースさを感じた。いや、寛ぎ過ぎかよ。それと戦士の格好の意味ある?

 

「さてと。それじゃあ、オリヴィアには薪割りでもしてもらおうかしら……」

『えぇ!? いま家に入ったのに!?』

 

 そういう訳で、私は家から摘み出された。

 

『えっ、ホントに摘み出すの!? 何がしたいんだお前ら!?』

 

 ドアからポイッと捨てられてしまった。抵抗しようにも、場面がコマ落としのように変わってしまう為、私には成す(すべ)がなかった。

 

『うぉぉおい! 開けてくれ!!』

「とりあえず、3束くらい作ってきてー。しないと本当にごはん抜きよー」

「抜きよー」

 

 外気温のあまりの低さにドアに縋り付いてノックを連打した私へ、無慈悲にもノルマが課せられた。ってか、寒さを感じるの久しぶりなんだが……。

 

『なんてこった』

 

 と言うか、なんだこのハラスメントは……! 夕食を与えない罰を与えるオカンみたいなハラスメントやめろ。薪割くらい中でやらせろ。

 

 しばらくドアを叩き続けたが、レア達からの反応はなかった。

 

 このままでは埒が明かないので、仕方無く家の裏にある木材を割ることにした。

 この心象世界では、右手に大剣の感覚を思い出すと、いつの間にか手に握られているのだった。初めはビビったが、慣れてしまえば大したことがなかった。

 

『せーのっ!』

 

 大剣を思い切り振って、剣圧で雪を払い除けた。

 大きめの切り株には、錆びまみれの手斧が刺さっていた。雪に手を突っ込んでたら危なかったな……。

 

 戦士としての膂力があれば、重労働の薪割りもあっという間に終わりそうだった。しかし、肝心の木材が氷漬けだった。

 

『なんでツンドラ地帯みたいになってんの!?』

 

 苦労して氷漬けの木材を叩き割り、薪の小山を作った。これ薪として使えるの?

 

 

――キャァン。

 

 

 また弦音が聞こえ、いつの間にか暖炉のある部屋の中に帰ってきていた。

 

「あぁ、オリヴィア。手がこんなに冷えて。さぁ、温かいスープができてるわ」

『誰だこのおばさん!?』

 

 薪束を作ったと思ったら、いつの間に年増のおばさんに手を握られていた。

 

「オリヴィアの好きな鹿スープよ」

『まじかよやったぜ!』

 

 油マシマシの鹿スープが、木のボウルに入って出てきた。塩味が効いて美味しかった。

 レアの面影のあるおばちゃんが、机の向こうでニコニコと笑っていた。

 

 

―――ノイズ。

 

 

 目を瞑り、無言で微笑んだレアが暗闇の中に立っていた。金髪で戦士の格好をしたレア達は、薄く笑っていた。

 

「本当は。普通の人生で、普通の家庭を持って、あの家で暮らすのが夢だったの」

「全てはあの夜。翼の生えた一本角の化け物に破壊された」

「こうなってしまった一部分は、私のせいでもあるのだけれど……」

「それでも、オリヴィア。貴女にお願いしたいわ」

 

 二人のレアは交互にそう言った。

 私は、二人の手を無言で取った。

 

「ありがとう」

 

 

―――ノイズ。

 

 

「父は……?」

「まだ、戻って来てないわ。吹雪いて来てしまったわね……」

 

 小窓を覗き込んだ姿勢で、エプロンで片手を拭きながら、母は心配そうに言った。私が遅めの昼食を取ってから、一時が経った頃だった。

 

 父は無事だろうか。

 私は暖炉の前で、父の無事を狩猟の神さまに祈った。

 

 

―――ノイズ。

 

 

 吹雪の止んだその夜の事だった。

 吹雪の後の村では、篝火が幾つも焚かれて帰って来れなかった人達の目印を作る事が通例だった。

 私もモコモコのコートを着て、篝火の前で父を待った。

 

 ふと、通りから何かが聞こえた気がした。

 雪が積もると、世界が恐ろしく静謐となるのだった。しかし、この村の住民はそんな中にあって、何かを感じ取る力が高かった。

 何かを感じたのだろう、母も家から出てきた。

 

「レア……? 一体何があったの?」

「分かんない」

 

 母と二人、遠くの暗がりを見ていると、何かが歩いてきた。初めは父と思ったが、よく見ると親戚の叔父さんだった。

 叔父さんは、お腹に大きな穴が空いていた。

 

「ひっ……」

「アーガス! そんな……」

「レア、達か……逃げるンダ。化け物が、く、」

 

 それだけ言って、叔父さんは篝火の前で事切れた。

 

「ぜんぜんおなかが満たされないわ。なんでかしら……」

「!」

「レア!! 逃げなさい!!」

 

 それは突然の出来事だった。

 人型の化け物が現れた。背に生えた毛のない翼と額に一本だけ生えた角が特徴的だった。

 叔父さんはコイツに殺されたのだ。

 

 私の前へ手を広げて立った母を背に、私は逃げ出した。父がいると思われる山の方へ、雪に足を取られながら必死に走った。

 振り返ると、母が死んでいた。

 

 

―――ノイズ。

 

 

 一本角の化け物に襲われたあと、私は父に助けられた。

 しかし私を組織に預けると、父もすぐに事切れた。

 

 私が組織の戦士となったのは、私の平穏を破壊した一本角の化け物を殺すためだった。

 しかしながら、私の戦士としての適性は恐ろしく低かった。妖気も小さく、足も遅い。おまけに、妖魔を一太刀で切り裂ける程の膂力も無い。

 

 ところが、そんな私にも他の戦士に勝っている事が一つだけあった。それは、緻密に妖気を操る能力だった。

 

 そして、父の【足りないのならば、他から持ってきなさい】という教えを妖気で実践したのだ。

 私は仲間の妖気に同調して、少しだけ妖気を借りる事ができた。同調する人数が多ければ多いほど、私の力は上がるのだった。

 妖気の〈簒奪〉。それが私の力だった。

 

 妖気さえ強くなれば、身体的な力はみるみる上がった。一本角の化け物を殺すために、私も化け物になっていったのだった。

 

 その力を認められ、次代のナンバー10の特殊体候補として訓練を積むことになった。

 そんな折、共に訓練を積む仲間たちができた。

 

 皆癖のある性格をしていたが、サトリのように同調して意思を察する事ができる私は、そんな中でも上手くやっていた。

 

 しかし、一人の戦士へ同調した事で、全てが狂ってしまった。

 

 その戦士は、抜け殻のような目をしていた。他の戦士を真似ているのか、人で無いナニカがそこに居るように感じた。

 

 私は何時ものように、彼女が発する消えそうな程小さな妖気へ妖気同調をした。ほとんど癖のようなものだった。

 

 その後は、黒塗りの雪崩が現れて覚えていない。

 

 

―――ノイズ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きろ! 起きろオリヴィア! なんで、あたしを庇ったんだ!」

 

 目を覚ますとイライザが耳元で騒いでいた。うるせぇ、何の話だ。

 

 イライザを押しのけ身を起こして立ち上がると、シスター服がバッサリと切れており、腰から下がストンと下に落ちた。やべぇ、服が血だらけだ! 誰か股にモザイク入れてくれ!!

 

「落ち着けイライザ! ……ちび助は無事だ。それよりもシンシアだ」

 

 状況が意味分からなさすぎて色々と渋滞したが、あの場から皆で何とか離脱できたみたいだった。

 

 ユマが抱えたシンシアを地面にゆっくりと寝かせた。

 シンシアは右半身と内臓の一部をごっそりと失っていた。

 

「えっ……?『天使長?』」

「……ぁ」

「シンシア、気がついたか!? 早く身体の再生に入るんだ!」

「……ぁ、私、身体の大半を失っているんですね……。ユマさんが……無事で良かったです」

 

 息も絶え絶えな様子でシンシアが言った。こんな時でも、シンシアは他人を気にしていた。ユマが叫んだ。

 

「早く再生しろ!! 何で庇ったりなんかしたんだ!!」

「ぁ、私……もう、自分を治す妖気が尽きた、みたいです。……最後に役に立てて……良かったです。私……、あの戦いのとき、殆どナンバーの変わらないベロニカ隊長を守れなくて、何の為に生き残ったんだろうって……ずっと空虚でした」

「シンシア喋るな! 何とか再生に入るんだ!!」

 

 か細く話すシンシアをユマが遮った。

 

「だから、これで良かったんです。……本当は私、みんなと一緒に死にたかった……」

「そんな事言うな!」

 

 泣きながら言うシンシアを見て激昂したユマが、シンシアの頭脇に拳を打ち付けた。

 

「ちっ。ユマ……」

 

 舌打ちしたウンディーネの姉御が、そんなユマの腕を掴んで首を振った。

 

「ウンディーネ離してくれ。ずっと皆の足を引っ張って来たのは、私の方なんだ! こんな所で死なせるかよ!!」

「ユマ……さん?」

「ユマ、お前……」

 

 ユマがシンシアの胸の上で片方の手首を掴んで掌を広げた。

 

「前の妖気同調で同調のコツは掴んだんだ! なんとかして見せる!」

 

 そうか、天使長シンシアは既に2人を回復させて、さらに長時間戦闘してたのか。そりゃ妖気が尽きるわ。

 

 いそいそと腰(みの)の様に血だらけの服の切れ端を巻いた。

 

 レアから教えて貰ったやつで、私も協力できないだろうか。腕を伸ばした私は、ユマに手を向けた。

 

「オリヴィア?」

「ちび助?」

 

 〈妖気をちょっと借りる〉事ができるなら、与える事だってできるかも知れない。

 




どこで区切りたかったのか、区切りがわからなくなってもうた……。

そして携帯が壊れ、ウッドショックを受けた家が立ち、力尽きた(大和ハウス)
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