〈痴呆〉のオリヴィア【完結】   作:peg

40 / 72
気がつけば40話、終わりが遠くて草生えます。

3分の2くらいが終わったので、60〜70話くらいで終わりそうな見通しです(終わるとは言っていない)

年末なので書留在庫更新というものをするなむ。
持ってくれよ、オラの体!


墜星

 結局、私達寝転んだチームの3人は、リトルパンツシューターの戦いを涅槃スタイルで眺める事に終始していた。お茶の間煎餅スタイルとも言う。

 

 対戦カードは、〈猫〉と全裸の変態女達、そしてリトルパンツシューターだ。リトルパンツシューター……略して〈リトル〉は孤軍奮闘、しかしオッズは低めの背も低めだ。そして、俊足であった。コーナーで差をつけろ!

 

「あいつ強ぇな……」

「あぁ。ナンバー1桁代後半にしても、実力は上位なんじゃないかしら」

 

 〈リトル〉は〈猫〉達の間を駆け抜けると、再生途中で潰されかかった〈深淵喰い〉を手助けして行った。

 手助けと言っても、通りすがりに〈猫〉の足を中途半端に切りつけて、バランスを崩していくような感じだ。

 

「何なんだあいつは……」

「ヘレンさんやデネヴさんへの恩って言ってましたね」

 

 フリーになったシンシアとユマが、私達の方まで戻ってきていた。〈深淵喰い〉に捕捉されないように、そろりそろりと帰ってきた様だ。これもひとえに、寝転んだイライザの謎ジェスチャーのお陰だった。いやそこは喋っていいよ。腹から声出せ。

 

「今のうちに移動しましょう」

「お、おい。あいつを置いて行っていいのか?」

「ウンディーネさん達を安全な所まで置いてから、戻るんです」

「そ、そうだな……。そうだよな」

 

 シンシア達に引きずられて岩陰に隠された。迫り出した岩が、屋根のようになっていた。冷汗っかきユマよ、逃げるのを一瞬期待しただろ。カァー、いかん。いかんよぉ、足もけしからん。

 

「私達の身体……。一体どうなってるの?」

 

 不安げなイライザがシンシアに問いかけた。シンシアは妖気同調するだけあって、半人半妖の身体に造詣が深かった。

 

「本来あまりない事ですが……、皆さん妖気が枯渇し掛かっています。私達半人半妖は、超人的な身体能力の大部分を妖気に頼っています。これが失われると極端に身体能力が落ちると考えられます」

「治るのかしら……」

「時間が経てば四肢に妖気が満ちて、直に動けるようになると思いますよ」

「そうか……。よかったわ」

 

 笑顔で言い切ったシンシアに、イライザが安堵の笑みを浮かべた。シンシアが着ている服は黒い服だったが、やっぱ天使なんですねぇ!

 

「幸い皆さんの妖気は、枯渇しかかって一時的に殆ど消えているようです。ここに隠れていて下さい」

「待て、シンシア! お前の妖気同調でなんとかできねぇのか!?」

 

 そう言って死地へ向かおうとするシンシアの背に、寝転がったままの姉御が焦った様に声をかけた。

 

「妖気を譲渡できないことも無いですが……。本来、妖気同調で相手に妖気を与えると言う事は、非常に高い位置から小さな器を狙って水を掛けるような物なんです」

「……。……ほとんど、零れちまうってことか?」

「えぇ、普通はそうです。それに、相応に時間がかかる筈なんです」

 

 姉御とシンシアがこちらを見て、半眼になった。バツが悪くなった私は、ピースサインで鼻をほじるのをやめた。

 

「ちっ。大人しく回復に専念してるしかねぇってのか……」

「安心して下さい。無茶はしませんから」

「あんた、さっき命の使い所とか言ってなかった?」

「あははは……。あれは勢いといいますか……」

 

 ジト目イライザの突っ込みに、照れたシンシアがおさげ頭を掻いた。先程までの、影のある表情じゃなくなったのは幸いだ。ユマくん頼むよぉ、天使長を守ってねっ!

 私はユマに勝利の鼻くそ(エール)を贈ることにした。喰らえ、美脚ドレナージ!

 

「いて! オリヴィア、何でさっきから叩くんだ!?」

「げへへへ」

「うわ……」

 

 そういう訳で、二人は旅立って行った。ユマのドン引きした顔は割と面白かった。……いや待って。なんでドン引きされたんだ? 鼻クソは死角に付けたからバレてないはずだ。

 途端にすることがなく暇になった。この状態で逃げる練習でもしておくか。

 

 

 

 ズタボロの3人が帰ってきたのは、姉御達が辛うじて匍匐前進できるようになった頃だった。進捗ダメです。

 〈深淵喰い〉から逃れるために、高速移動する芋虫の練習をしていたら、〈リトル〉に白い目で見られた。何故だ……。

 

「何だその気味の悪い動きは……」

「……ちっ」

「人が必死で……この状態でも何とかしようとしてるのに! なんてことを言うのよ!?」

 

 〈リトル〉は顔を引き攣らせて言った。なんてヒデェ事を言うんだこいつ。あーぁ、姉御が拗ねてやめちゃったじゃんか!

 

「まぁまぁ、無事なんとかなりました。いいじゃないですか」

「なんとかなって良かった。……本当に良かった」

 

 とりなすシンシアと、地面に手をついて項垂れるユマは対照的だった。

 シンシアとユマが参戦したことで〈猫〉の群れを素早く殲滅出来たが、制約(リミッター)の外れた〈深淵喰い〉がユマの足を狙って執拗に追い掛け回したそうだ。どうしてそんな事に……。

 

 数が減った〈深淵喰い〉は、ディートリヒとシンシアによって倒された様だった。制約(リミッター)が外れて、動く者(美脚)へ無差別に襲いかかる兵器と化した変態女達。あんなの野放しにしちゃいけないよね。

 

「兎に角、クレア達の方に移動するぞ!」

「中心に居たのなら、あの覚醒者の数も尋常ではなかった筈です」

「私も行こう。ヘレンやデネヴに、恩を返す前に死なれては困るからな」

 

 という訳で、移動することになった。

 

 

 

―――

――

 

 

 

 〈リトル〉に背負われ、眺めの良い断崖に辿り着いた。初め、〈リトル〉はイライザを背負ったが、イライザの足が地面に付いていたので爆笑してたら、青筋を立てた〈リトル〉に逆さ吊りにされて運ばれた。ひどい。

 

「な、なんだありゃ……」

「……うわー」

「膨大な妖気を感じます」

『なんだこの、決戦のバトルフィールド感……』

 

 盆地の真ん中に、瓦礫のような巨大な黒い肉の小山が立っていた。辺りには森林があったのだろう、緑を失った木々が立ち枯れていた。中心に向かって行くに連れ、木々の代わりに地面に刺さっているのは、例の巨大な骨槍だった。

 死の大地。そんな印象を抱かせる光景だった。

 

 しかし、黒い山は崩れかけ、土石流のように瓦礫の津波が多方面に流れていっていた。

 

「あそこに、デネヴさん達の妖気が微かながらあります!」

 

 シンシアが中心に向かって指を伸ばした。

 なんとか動く様になった指で輪っかを作って覗くと、そこには汚泥のような黒い肉の瓦礫とヘレン、デネヴが見えた。山から続く黒い肉の瓦礫は、流動するようにその範囲を広げていっていた。ヘレンが持ってるのはクレアか……? 重症じゃん。

 

「良く見えないな……誰だ? 覚醒者?」

 

 ユマの視線の方向へ目を凝らすと、羽を広げた覚醒者が見えた。毛の無い皮膜の4枚羽、青白い顔をした一本角の怪物、プリシラだった。

 他の覚醒者と違って、プリシラの覚醒体は小型で、多く人としての形を残して居た。プリシラは、デネヴ達と相対する様に歩みを進めていた。

 

 あの泉でナタリー達が見つけた、自分で書いたひらがなを見たことで、忘れかけていた記憶を取り戻すことができた。……遠い記憶になるが、あいつはラスボスだ。殺しても殺しても蘇る不死の怪物。

 

「……ぷりしらだ」

「え?」

「誰だって?」

 

 レアは、あいつを殺せと言っていた。私が向かって行ったとして、本当に倒せるのだろうか……。そもそも、クレアの仇なのでは……?

 私は迷宮入りした。

 

「うーーーん……」

「何でもいいが、ヘレンとデネヴを死なせるわけには行かない。動けないやつは置いて直ぐに行くぞ」

 

 悩んでいると、〈リトル〉のディートリヒが私を地面に置いた。いや、あいつは皆で協力しないと無理だ。まず勝てない。勝てないってぇぇ!

 

「むりだ、まて! つれてけ!」

「お前を連れて行っても仕方が無いだろう……。大人しく待ってろ。こら、はなせ! は、な、せ」

 

 行く気満々の〈リトル〉の足を掴んで引き止めたが、引き摺られるだけで全然駄目だった。なんてこった。

 

「ちっ……。ここに来てこの体たらくか」

「仕方が無いです。3人は任せてください」

「あんたも、ちゃんと帰って来なさいよ」

「わ、私は逃げ回るしか出来ないだろうけどな。はは……」

 

 シンシアやユマ組も、同じ様なやり取りをしていた。あそこに行くのは不味いんだ。止めてくれ皆。

 

 その時、突如として黒い肉の瓦礫がデネヴ達の方へ殺到した。〈猫〉達の親である瓦礫だ。生命の捕食者。あれに触れただけで干からびてしまう。

 

 黒い肉の海を飛び散らせたプリシラに、デネヴが捕まったように見えた。さらに殺到する黒い瓦礫によって、全員の姿が見えなくなった。

 

「あのままでは不味いぞ!」

「すぐに行きましょう!」

 

 ユマやシンシアが、崖から飛び降りようとしていた。待って待って。何だこの状況。たんま! ちょっと待て! たいむ! ポーズ!

 

「とまれぇーーー!!!」

「は?」

「なっ……」

 

 私が大声を上げた時、世界が止まった。え?

 

 ずっと絶え間無く降っていた黒い雨粒が、空中で磔にあった様に動きを止めていた。雨音が急に途絶えて世界から音が消えた。

 

「ど、どうなってんだこりゃ……」

「雨粒が浮いてる……?」

 

 姉御とシンシアの動揺した声が聞こえた。

 私達の身体で弾き帰った飛沫すら、その動きを止めていた。

 

「あれっ……。なんだこれ!? 動けないぞ!」

「オリヴィア!? お前またなんかやったのか!?」

「『また何かやっちゃい』やってない!!」

「なんで言い淀んだんだ?」

 

 ユマに背負われて居たはずのイライザが、急に私のせいにしてきた。〈リトル〉まで怪しんで来た。ちょっと待てお前ら。なんで空中に座ってんだ!? えっ、雨粒に座ってんの? どうしてそうなった。

 

 止まった雨粒は、弾力はあるのだが押し返してくる力が半端なく、私達は身動きを封じられてしまった。まったく、何でもかんでも私のせいにするんじゃないよ。

 

「次は何だ!?」

 

 ユマが叫んだ。

 雨雲が瓦礫のある上空で、雷混じりの轟音を伴い、高速で一点に向かって渦を巻き始めた。

 その内に、黒い雨雲が1つに集まって青空に黒い星がぽつんと浮かんだ。

 

「黒い……星?」

 

 瞠目したシンシアが呟いた。ホントだ! なんか球体が飛んでる!?

 

 一瞬の白けた間を置いて、星がデネヴ達がいる地へと吸い込まれる様に落ちて行った。

 

「うわああ!?」

「きゃああぁ!」

 

 閃光を伴った衝撃が辺りを包んだ。轟音が鳴り響き、辺りから全ての光が消えた。

 衝撃によって捲り上がる大地の感触が、私の頬を打った。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 時は遡る。

 

 盆地を見下ろせる断崖で、複数人の男たちが屯していた。組織の研究員ダーエの外回りに付き合わされている、組織の下っ端達であった。その様相は、例のごとく黒い服を着ていることが特徴だった。

 

 ダーエは組織の後ろ暗い研究に携わる男だった。顔面の半分が薬品で焼け爛れ、眼球が飛び出し、頬の一部が無く歯茎が覗いた不気味な容姿をしていた。

 

 毎度の事ながら、外回りでは野放しにされた覚醒者、それに準じる妖魔などの死骸を集める事を目的としていた。生きた検体を集めるのは、危険が伴うためだった。

 

 ダーエが眺めているのは、崩れ行く巨大な彫像の塔だった。

 

「クククク。野外に解き放たれた研究素体は、時に素晴らしい結果を齎してくれるものだなぁ……。しかし。あれは実に惜しい。何としても手に入れたいものだ」

 

 ダーエは感慨深く零した。

 目を細めたダーエの頭によぎったのは、姉妹での覚醒実験の結末だった。

 

(他の素体も、生きて開放していれば何かしら成果があったかもしれんなぁ。実に惜しいことをした)

「…………感傷か。ふん」

 

 ダーエにしては珍しく失敗作達を思い出した。興味が失せれば容易く記憶から消えるダーエの気質からして、あまり無い事だった。

 

 幾人かの実験体が頭をよぎり、最後に浮かんだのは緩い銀髪の少女だった。顔を合わせる度に行う奇抜なポーズと変顔に辟易とさせられた物だった。

 その時の少女――オリヴィア――は、こう考えていた。

 

(『出たな!? VR海坊主物語!! 目玉リーチ!!』)

 

 大陸中央部での覚醒体の出現情報が上がっていたが、ダーエにはそれが〈痴呆〉の戦士には思えなかった。

 あの双子の覚醒体を鑑みるに、あれが覚醒した場合、組織も制御できない未知の怪物が生まれるような気がしていた。

 ダーエの研究者としての勘が、出来上がってしまった戦士への血の濃さを訴えていた。

 

(北の地で詳細が分からなくなったのは幸いか……。願わくば、無傷な死体で帰ってくることを願うがな……)

「……」

「……ダーエ様。回収部隊を既に回しております」

 

 歪んだ表情で思考に耽るダーエへ、背後に控えた男が報告した。

 先日より、あの塔から発せられたものを回収していたが、そのどれもが活動を停止しており、抜け殻しか回収ができていなかった。

 

「抜け殻ではダメだ。私は、あれの生きた素体がほしいのだよ」

「し、しかし、それでは危険が伴います」

「だからなんだと言うんだね?」

「い、いえ……」

「努々忘れるな……。組織の目的と我々のやるべき事……何が優先されるべきかその足りない頭でよく考えろ」

「……っ」

 

 下っ端の男は、食い下がろうとしたがダーエが持つ黒い噂を思い出して黙った。過去、回収班として外回りに出た者達が、ダーエ以外全滅したということもあった。

 どちらも地獄であったが、男達にとって、覚醒者に喰われるか否かの方が生存に分があった。

 

「……ダーエ様」

「ん? お前は……。あの村での回収は終わったのか?」

 

 そんなダーエの前に現れたのは、抜け殻が暴れまわり崩壊した村に残した回収部隊の一人だった。

 

「それが……。急ぎ見て頂きたいものが」

「……」

 

 そう言われたダーエは、もう一度崖の下へ視線をやった。この結末がどうなるのか、それについても興味があった。

 

「おい、お前。つまらない物だったら、容赦はしないぞ」

「っ……。あの覚醒者の槍に貫かれながらも、生きている男を見つけたのです」

「なんだと!? く、ククク」

 

 ダーエの脱落しそうな眼に射抜かれた男は、冷や汗をかきながらもなんとか言い切った。報告に来た男を押しのけて、ダーエは嬉々として杖を突きながら村へと急いだ。

 

 

 

 

 ダーエが村にたどり着いたとき、瓦礫が積まれた村の中央で組織の男たちに取り囲まれていたのは、短い金髪の青年だった。しゃがみ込んでいるが、よく鍛えられている体格が目立った。覚醒者の槍に穿たれた右肩を必死に抑えていた。

 

「……くっ……」

「これは、これは……。ククク」

 

 痛みに耐えるのに必死なのだろう。息も絶え絶えの様子だった。睨みつけるように鋭い眼を向けた青年にダーエが言った。

 

「……意志の力等という、ままならないものであってほしくないものだがなぁ……。連れて行け」

 

 ダーエとて、半人半妖の戦士たちの言う意思の力を軽視しているわけではなかった。

 しかしながら、力を持つ戦士達の大半が、自我を破壊しかねない程の恨みや憎しみ等、負の感情を常に抱いている事を踏まえると、それをして意思の力と言うには憚られた。

 

「何にしても、良い素体が手に入ったな……。ククク。組織に戻る。準備しろ」

「はっ!」

 

 その日、組織に回収されたのは、ラキという名の青年だった。

 

 

 しかし戻る間際になり、空が突然晴れ、巨大なキノコ雲が上がった方角を見たダーエは、下っ端の男を杖で打ち据えるのだった。

 

 

 

 

 




行けるところまで連日で逝きますが、すぐに死ぬ説が濃厚です(手の平返し)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。