〈痴呆〉のオリヴィア【完結】   作:peg

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オリビィア達一行の裏でラスボスとデスエンカした原作主人公の話。
※原作沿いです。

最後で前話に繋がります。


第41話

 オリヴィア達がディートリヒと合流した頃、茶髪のボロを纏った少女が、崩壊した森林を歩いていた。

 少女はここに来るまでの間に、〈深淵の者〉西のリフル、パートナーのダフ、そして、組織のナンバー1、2のアリシアとベスの覚醒体を下していた。それも、自身は覚醒体になること無く。

 

「やっと、探していた匂いに辿り着けた……」

 

 少女は、クレア達がいる方角へ歩き去った。

 

 

―――

――

 

 

 

「はぁはぁ……。グッ」

 

 疲労から、クレアは嘔吐するように四つん這いに崩れ落ちた。巨大な黒い塔から発せられた猫型覚醒者の群れを、デネヴやヘレンと力を合わせて、一昼夜かけ殲滅したのだった。

 

「くっそー。ようやく動かなくなったか……」

「ふん。北の戦いに比べれば軽い相手だ」

「デネヴ。おまえなぁ……」

 

 大の字に寝転んだまま、半眼でデネヴを睨むヘレンの顔がクレアの視界に写った。中々、余裕を感じるやり取りだった。その光景に微笑ましさを感じたクレアだったが、休憩も束の間、黒い塔には再び骨の輪が装填されていた。

 

「ば、バカな……」

「ふざけんな! 今終わったばっかだぞ!!」

「……あいつは、その命が尽きるまで同じことを繰り返す気だ!」

 

 デネヴが呆然と呟き、ヘレンが激昂した。

 再び、滅びの矢が全方位へ解き放たれた。

 

(最初の時と同じだ……。一本一本に集中しろ……! 動きを予測するんだ)

 

 クレアは目を瞑り、妖気読みに深く集中した。

 

「くそ……。なんとか避けるしかねぇ!」

「ヘレンはそのままの姿勢で動くな! デネヴは半歩身を引け!」

「!」

 

 ヘレン達がクレアの言う通りにした直後、スレスレを骨槍が通過した。

 

「うっひゃぁ」

「……」

「全員のそのままの体勢を維持しろ!」

 

 当たれば即死する速度で槍が通過して行った。

 射出は長く、緊張から長い時間にクレアには感じられた。

 そんなクレアが妖気読みを続ける中、広域の妖気感知範囲に悍ましい気配が入ってきた。

 

「!?」

「どうしたクレア?」

 

 嘗て感じたことのある最悪の気配。クレアはその気配に覚えがあった。全ての元凶。最愛の者の仇。一本角の覚醒者プリシラの気配だった。

 

「そうか……。そこに居たのか。プリシラ……!」

「……クレア!?」

「……!?」

 

 突如、覚醒限界まで爆発的に妖気を高めたクレアにヘレンが反応した。

 

「済まないデネヴ、ヘレン。私は人を捨てる……!」

「何言ってんだてめぇ! 探してたガキはどうするんだ!?」

 

 寂しそうに笑ったクレアがヘレン達を振り返った。

 

「元々、ラキには別れを告げるつもりだったんだ……。私はコイツにあったら、人を捨てるつもりでいた」

「は?」

「一本角の覚醒者プリシラ。私の始まりであり、私の全てを犠牲にしてでも倒すべき仇の名だ」

 

 クレアがそう告げたとき、一人の覚醒者が姿を表した。

 その覚醒者は人間体だった。茶色のショートカットにボロを纏った少女だった。気だるげな瞳から、まるで上位者の様に人間を虫けらの如く見ていることが察せられた。

 

「やっと、探していた匂いにたどり着いた……。それで……、あなた誰?」

 

 クレアの仇は、クレア自身をまるで覚えていなかった。

 

「ガアァァァ!!」

 

 激高したクレアが、プリシラに躍りかかった。しかし、大剣での一撃は、素手のプリシラに片手で防がれてしまった。

 

「私の疑問が消える前に死ぬのを、止めてもらえる?」

 

 プリシラは、7年間の血反吐を吐くような修行を経たクレアの攻撃を気にも止めなかった。プリシラの覚醒体も引き出すことができず、クレアは一太刀で動きを止められてしまっていた。元々の自力が違いすぎた。

 

「やめろ! クレア!! そいつから離れろ!」

 

 真っ先に実力差を理解したデネヴが叫んだ。どうあがいても勝てない実力差を感じ取ったのだった。しかし骨槍が飛来する中、デネヴ達はクレアの元へ手助けに行くことができなかった。

 

「ガッ! ガアァァ! あァア!」

「クレア!?」

 

 プリシラの指から放たれた触手に貫かれながら、クレアは覚醒の限界を超えた。

 北の大戦の時、〈銀眼の獅子王〉リガルドに対して行った覚醒。人を捨てるギリギリの戦いの最中、クレアが編み出したのは、ジーンの命を使って人に戻ることの出来た四肢のみの完全覚醒だった。

 

 視認できぬ程の限界まで速度上昇。そして、息もつかぬ四肢での乱撃。クレアがその人生を賭けてプリシラを殺すために磨き上げた全てだった。

 

「クレアのやつ、ピエタの時の覚醒をするつもりだ!」

「なんだって!?」

 

 クレアの記憶の中、覚醒したプリシラに唯一痛手を与えたのは、普通の戦士並みの膂力しかない斬撃だった。彼女は速度だけが自慢だった。その攻撃が、覚醒したてのプリシラに通ったのだった。クレアは惨劇の記憶とともに、そのことを良く覚えていた。

 

 通常の半人半妖並みの膂力。そして、無数の斬撃。それが、クレアのたどり着いた答えだった。

 

 クレアの口元が鱗のように裂け、四肢からはみ出た異形の刃が、プリシラに襲いかかった。

 

「死ネぇぇ!」

「……何よそれ。……あなた、覚醒なんて出来てないじゃない」

 

 全身から血を吹き出し、クレアは崩れ落ちた。

 

「なっ……!?」

「クレア!?」

「あなた、何がしたかったの?」

 

 クレアを見下ろしたプリシラは、ポツリと呟いた。

 仇の前で膝をついたクレアは、ひたすら覚醒しようと妖気を高めた。

 

「ガアァァァ! アァア!」

「なんだか哀れね」

 

 再び刃に変質したクレアの腕がプリシラの肌に刺さる瞬間、弾かれるようにクレアの体が元に戻った。

 

「な、何故だ!? ガッ」

 

 プリシラに蹴り飛ばされたクレアは、うつ伏せの姿勢になり、一瞬で移動したプリシラによって頭を裸足で踏みつけられた。虫けらを見る目がクレアの神経を逆撫でた。

 

「な、何が起きてるんだ……? 今確かに覚醒したのに……?」

「…………。……そうか。楔だ」

「くさび? ……どういう事だよデネヴ?」

「ジーンという名の(トラウマ)だ。覚醒出来ないのは、クレア自身が無意識でそれを止めてるんだ。ジーンの命の上に立っているという過去の経験が、覚醒してその事を無駄にすると言う矛盾した行動を止めているんだ」

 

 完全に覚醒してしまえば人に戻れない。況してや、妖気を抑え込む意識も無く明確に人を捨てる意志を持って覚醒した場合は、簡単には戻れないはずだった。

 そのことに対して、デネヴは殆ど正解を言い当てた。

 

「けっ。どうしようもない馬鹿だぜ、あいつ」

「射出が止まった。あんなバカでも私達の仲間だ。助けるぞ」

 

 巨大な槍の飛来が止まったタイミングで、デネヴは駆け出した。ヘレンはその場に留まり、伸ばした腕で後方にある巨大な骨槍を掴んだ。

 

「いっくぜぇ!」

 

 孵化する前の巨大な槍が、プリシラに向かって投げ飛ばされた。

 骨槍の先端を片手で受け止めたプリシラは、指を触手化して砕いた。ヘレンの攻撃では、プリシラの一足を動かすどころか見向きもされなかった。

 

 デネヴは骨槍が刺さった平野に飛び込み、双剣で巨大な骨槍を幾つも裂いた。プリシラに向かって面で立つように骨槍が割れた。

 

 割れ目から孵化した突起状の覚醒者の幼体が、プリシラを目掛けて殺到した。人の丈程ある槍で針の筵となったプリシラは、漸くクレアから足を放した。

 

「届けぇ!」

「ぐガッ! 待ってくれ!」

 

 ヘレンが伸ばした腕がクレアの肩口を捉えた。ヘレンとデネヴは、底の見えない怪物からクレアの奪還を果たしたのだった。

 怪力のプリシラから甚振られていたクレアは、無理な覚醒をしていたせいもあり、全身から血を流し重症を負っていた。

 

「私はまだ……!」

「暴れんなって!」

「お前は、いつまで経っても足手まといだな。もっと仲間を信じろ」

「ぐっ。……」

 

 合流したデネヴの拳によって、ヘレンの上で暴れるクレアの意識が落とされた。

 

「へ、ヘヘへ。足手まといを抱えて、この中を生き残るってのかよ……。ひひ、冗談きついぜ」

「昨日1日遊んだお友達だろう。動きは大体分かってるはずだ。逃げるぞ」

 

 引き攣った笑顔で言うヘレンに、デネヴが真顔で言った。

 骨槍から生まれる様に、毛の無い不気味な猫の覚醒者が姿を表し始めていた。

 

「……逃がすと思うの?」

 

 針の筵になったプリシラが、デネヴの言葉に反応した。プリシラは、寄生する槍を片手で払うような動作で全て弾き飛ばした。

 プリシラが着ていた襤褸のマントは、用を成さ無くなって足元に落ちた。無傷のプリシラが、ガラス玉のような瞳をクレアを抱えるヘレンに向けた。

 

「……足止めにも、ならんとはな」

「もう一発だ!」

 

 ヘレンがもう一度、まだ孵化していない槍を投げつけようとした時、プリシラの背後から大きな影が迫った。

 

「なんだ!?」

「ガアアアア!!」

「!? あなた、生きてたの?」

 

 現れたのは、〈深淵の者〉西のリフルのパートナーであるダフの覚醒体だった。右手には西のリフルだった物が掴まれており、デネブ達にはダフが正気を失って見えた。

 狂ったダフが、プリシラへ巨大な両拳を叩きつけた。

 

「ガアア! アァアア!!」

 

 乱打するダフの拳の質量によって、人間体のプリシラは地面へと埋まって行った。未だ覚醒体となっていないプリシラは、その姿が見えなくなってしまった。

 

「っ……。少女の死体……?」

「ッ今だ! 逃げるぞヘレン!!」

 

 ヘレンの前に長い黒髪の少女の上半身が落ちてきたが、焦る声のデネヴによってその疑問は放って置かれた。

 

 逃げ出したデネヴ達にとって行幸だったのは、プリシラを狙う狂った覚醒者が元ナンバー3の覚醒者である事だった。

 そして最も運が無かったことは、その覚醒者による足止めが、ほんの数秒も稼げなかったことだった。

 

 

 

 

「畜生が! さっきのヤツ、ほんの少しの足止めにもならなかった! くっそ! ここまでだってのかよ……!」

「諦めるな!! あの黒い塔へ向かうぞ!」

「は?」

「真っ向勝負でだめなら……、生存の可用性は死中で掴むしかない!!」

「ったく……。へへっ、付き合う身にもなれよな……。まぁ、それしかねぇって言うんなら、やるしかねぇ!」

 

 デネヴとヘレンは、増殖する猫型の覚醒者をあしらいながら、黒い塔へと向かっていた。塔に向かうに従って雨脚は強くなったが、プリシラからデネヴ達を隠すには弱々しかった。

 

 

 

 デネヴ達の背後で巨大な妖気が沸き立った。プリシラが覚醒体となったのだった。青白い顔に4枚の皮膜の翼、額から一本の角が生えた姿だった。

 プリシラは猫型の覚醒者を蹴散らしながら、デネヴ達へと一直線に向かってきた。

 

「駄目だ! 早すぎる……!」

「ヘレン構えろ! くゥゥ!」

 

 デネヴは言いながら、利き腕の妖気を高めた。限界まで高められた妖気でデネヴの腕が膨れ、血管が浮き上がった。

 

「はあっ!」

「……」

 

 デネヴの右腕から投げ放たれた大剣は、枯れた木々を避けて異形の塔へと飛んで行った。

 

「追いかけっこは、もう終わりかしら?」

 

 仕掛けたタイミングで、上空から迫るプリシラに追い付かれてしまった。

 

「……」

「……何?」

 

 緊張のせいかヘレンには、辺りが一瞬静まり返った様に感じた。飛んでいたプリシラは、周りを探るように地面に降りた。

 

「来るぞ!」

 

 押し寄せたのは、磨いた骨のような光沢をした、巨大な白い肉の触手だった。塔を飾る骨の装飾、それが正体だった。

 既に構えていたデネヴ達は、塔の反撃をあっさり躱すと再び逃走した。

 白い触手は、突然の出来事に反応出来なかったプリシラの土手っ腹を貫いた。触手はプリシラに寄生するように、血管の根を張り始めた。

 

「ガッ。なに……? これ。……これで……足を止めたつもりかしら?」

 

 仰け反った姿勢から、白い触手に片手を添えたプリシラは、長距離から放たれた白い触手に自身の指を触手化して反撃した。プリシラの伸ばした指は、白い触手に纏わりつくように登って行った。

 

「なっ!?」

「あの距離から反撃だと!?」

 

 半人半妖の戦士の中では、覚醒者は妖気の過多により質量や硬度を増やしたり出来る事が知られている。通常垂れ流している妖気が大きければ、その覚醒体も大きくなることが通例だった。そのことは、〈深淵の者〉リフルやダフの覚醒体が巨大であることからも分かる。

 

 デネヴ達は、小柄な覚醒体であるプリシラの指が、長距離にある巨大な塔を破壊して行く様を口を開けて見ているしか無かった。

 

「く、崩れる……」

 

 ヘレンが瞠目しながら塔の行く末を呟いた。

 白い骨の外装で覆われていた黒い肉の山は、轟音と共に頭頂部から崩れて行った。

 

「へぇ……。それ、元々成りたかった理想の姿とでも言うのかしら? 醜い本質を隠す為の器だったわけね……」

 

 塔へと興味が移ったプリシラが、誰ともなく言った。

 

 崩れてしまった白い彫像のような骨格の隙間から、黒いタールの様なヘドロが流出した。

 それは勢いを増し、小山程あった塔が肉の津波となってプリシラやデネヴ達の方へ向かって来た。

 

「ヤベェぞ、逃げ場がねぇ!!」

「斬り拓くしかない! クレアの大剣を貸してくれ!」

 

 ヘレンから大剣を受け取ったデネヴは、双剣を構えて妖気を開放した。

 

「はぁっ!」

 

 デネヴは回転するように、2つの刃で迫りくる黒い肉を断ち切った。勢いを失った肉の波の一部が止んだ。

 

「よし! 行くぞ!」

「駄目だ! デネヴ避けろ!」

「! くっ! クレアの大剣を持っていかれた……」

 

 止まった肉を覆うように発生した黒い雪崩によって、飲み込まれる寸前で躱したデネヴの右腕が一瞬で焼き切れた。ヘレンの呼び声がなければ全身を持って行かれるところだった。

 

 デネヴがプリシラの方を伺うと、プリシラは抵抗する様子も無く、肉の雪崩に取り込まれていった。

 

「!?」

「デネヴ……腕が……」

 

 機運を得たデネヴ達だったが、高速再生に入ったデネヴの腕は完治には至らなかった。皮膚で覆うことができなかった腕が血飛沫を上げた。

 

「ぐ……右腕はもう駄目だ……。体中から、ありったけの妖気を持って行かれた……。こいつらに触れると力を持って行かれるぞ……!」

「ちくしょう! なんとかここから離れるぞデネヴ!!」

「ヘレン。……お前、クレアはどうした?」

 

 怒涛の展開の中、デネヴはヘレンの小脇に釘付けとなった。

 

「え? ここに抱いて、る……だ……ろ」

「……」

 

 そこには、クレアの半身しか残されていなかった。どす黒い血が溢れた半身は、胸から上が無かった。

 クレアを助けるために身を挺していた二人は、あまりの出来事に思考が止まった。

 

 

 




だいぶ端折ってますので描写不足もあるかも知れません。
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