半人半妖が羨ましくなりますね。
巨大な洞窟の前にいた。
様々な探検隊を飲み込んできた魔の洞窟だ。
地元の人間の話では、生きて帰ってきたものはいないと言われる曰く付きの洞窟だった。
「ここに、きっとあるはずだ……」
私はこれまで、父の残した手記を頼りに様々な遺跡を解読してきたが、ここが漸く、この旅の終着地点となりそうだった。
探しているのは金の像。古代エスターク人が残したとされる神秘の像だった。
私は酒池肉林を夢見て一歩踏み出した。
松明を持った私は昆虫ロードを歩いていた。
「なんで、タランチュラとサソリが居るんだ……」
極めつけは、奥から外に向かって飛んでくるメガネウラだった。
「そこはコウモリにしておけよ!?」
迫りくる天井に落ちる床。
私は困難を乗り越えて、ついに最奥へと辿り着いた。
「くくく……やったぞ!」
最奥の台座には、金の像が置かれていた。
「これが……金の像……」
よく見たら、キン肉マン消しゴムっぽい材質でできたキングギドラだった。
「えぇ……」
台座が音を立てて沈んでしまった。
地響きが鳴り、奥からモザイクが掛かった巨大な玉が転がり落ちてきた。
「うわ! なんか汚っ」
私は必死に逃げたが、出口前で追いつかれ弾き飛ばされてしまった。
外に弾き飛ばされた私の前に影が掛かった。
「毎回、変な夢見て私達のリソース使うな!! 起きろ!!」
「あベベベベベ。いたたたたたた。ゆるじてぇぇぇ」
突然、前髪の跳ねたセフィーロが現れて、私の顔面を超高速で往復ビンタし始めた。
―――
――
―
「ぬ?」
雲一つ無い、冷たい日差しに炙られて私は目を覚ました。ほっぺたがヒリヒリする……。あれ? どうなったんだっけ?
「……あれ?」
直前の記憶を思い出すのに、少し時間が掛かってしまった。黒い玉が落ちてきて……地面が吹っ飛んで……それで……?
私は身を起こした。
盆地は色を失い、まっ白な大地となっていた。高低差も失われて、すり鉢状の白い荒野と言ったほうがいいかもしれない。木の一本も生えていなかった。
私が寝転んでいる付近でその境界があり、後ろを振り向くと辛うじて緑のある木々がポツポツと見えた。
足元の白い粒をつまみ上げ、指先で潰すと粉微塵になった。まるで、たまごボーロだった。スカスカの骨みたい……。
一面のたまごボーロ……。まるで異世界の光景だ。いや、ここ異世界だったわ。
寂しくなった私は、皆を呼んだ。
「みんなァ! ……。〈まつげ〉ぇぇ! あねごぉ! しんしあァ! びきゃくー!」
しんと静まり返った世界で、私の声だけが響いた。駄目ね、これ。
そういえば、動けるようになっている事を考えると、それなりに時間が経っているようだった。レベルアップして覚えた妖気探知ができるかも知れない。私は目を凝らした。
地面からぼんやりと光った紐が、いくつか立ち昇って見えた。皆埋まってるだけだった。良かった。
「おりゃあ!」
「……っあ!? がはっゴホッ! これは……? どうなってるんだ……?」
試しに紐に紐を絡めて引っ張ってみると、元気な〈リトル〉が地面から飛び出してきて、地面に四つん這いになって咳き込んだ。フィィィシュ!
相手の意識が落ちているなら、紐で干渉することで体の一部を動かす事ができるようだ。とりあえず、片っ端からバタ足させていくか。
「はぁっ!」
ボスッという音を立てて、イライザの生首が出来上がった。脚力が足りなかったのだろう。しかし、ちょっと楽しくなってきた。
「……げほっ。けほっ……ちょっと!? どういう状況よこれ!?」
助けてやったのに文句の多いやつだ。さっきの〈リトル〉は脚力が強いのだろう。活きが良かった。それに比べて……。
「あによ? 早く引っ張ってよ!」
活きの悪い〈まつげ〉は放置して、私は次の紐に取り掛かった。
「ちょっとー!?」
「お前らは仲が良いのか、悪いのか……?」
次に引っ張った紐は、もっと活きが悪く、頭すら出なかった。長い髪がファサッと広がり、金色のラグ絨毯になった。
「……」
脚力が弱い、イコール足が遅い……。……ユマか、これ。
その後も釣り続けて、全員生きている事を確認した。引っ張ったら、飛び出してくるのめっちゃ面白い。ずぼずぼ出てくる様は、まるでマテ貝の潮干狩りだった。くっ……魚介系が食べたい。
〈まつげ〉は、芋虫運動でなんとか這い出た様だった。ほう、経験が生きたな……。
「ぐっ……! ここは……?」
「身体が動く……」
「何がどうなったんです?」
ずぼずぼ助けた姉御たちも、もう動けるようになっていた。
星の墜落以降、皆も気絶してたらしかった。
「デネヴ達は!?」
〈リトル〉が騒ぎ始めた。そういやそうだった。
星が落ちたところへ、首を向けて目を凝らしてみた。すると紐っぽい妖気ではなく、妖気がムラムラしていた。なんだこれ、ムラムラ……完全にムラムラしてる。
「なんです……? この複雑で気持ちの悪い妖気は……?」
目を瞑ったシンシアが、妖気を探っていた。えっ、ムラムラだよね? 気持ち悪くないよ、これムラムラする感じだよ。
「居ました! 北西方向です! ……急がないといけません」
私達は、デネヴ達を見つけ飛び出したシンシアに付いて行った。妖気開放した私達は、足遅ユマとイライザに気を使いながら白い大地を走った。
「デネヴ! 目を覚ませ! デネヴ!!」
「……」
辿り着いた場所では、傷だらけのヘレンがデネヴへ必死に呼びかけていた。デネヴの腕はドス黒く変色し、皮膚に覆われてなかった。妖気が足らず、再生に失敗したのかもしれない。全身のいたる所に指先大の穴が空いており、覚醒者の触手に貫かれていたことが分かった。有り体に言って重症だった。
「ユマさん!」
「あぁ! ヘレンどいてくれ!」
「シンシア、ユマ!?」
デネヴの両側に座ったシンシアとユマが再生に入った。ふふふ、レベルアップした私も参加しよう。私の再生パゥワーを見せてやろう!
ヘレンの驚く顔が頭に浮かんだ。
「『よっしゃ!』まかせ……っぎ」
「おめぇは座ってろ!」
二人の方へ飛び出そうとした私は、姉御に頭を抑えられて無理やり座らされた。く、首が……。パワハラ反対!
「あんた……。何しでかすか分からなくなってきたわね……」
「なんだと〈まつげ〉!」
「もう、〈まつげ〉でいいから大人しくしててよね……」
「けっ。何しでかすか分からないのは今更だろ?」
ゲンナリしたイライザに嗜められてしまった。姉御の評価もどうなんですかねそれ……。強いて言えば、意外性があると言ってほしい。
そんなやり取りをしている間に、シンシア達二人の妖気同調によって、デネヴのクールな顔に生気が戻った。良かった。
「あぁ! デネヴ良かった」
「乱れた妖気の流れを元に戻しました。血は戻りませんが、時期に目を覚ますはずです」
「ふぅ……」
涙で顔がベチャベチャのヘレンが安堵し、ユマが額の汗を拭った。ヘレンって、そういうとこあるよね。好きよ。
「ユマさんも、だいぶ上達しましたね!」
「あ、ああ。前より上手くできたよ」
シンシアとユマがキャッキャしていた。ホッコリした私は、投げキッスを飛ばしたが全員に避けられた。なんで!?
「あ! ちびっ子! なんでここに居るんだ!」
「私よりも小さい者がいる中で、その呼び方もどうと思うが……」
デネヴの容態が安定し、〈リトル〉ディートリヒに気づいたヘレンが指を指して問いかけた。ふっ、〈リトル〉よ。人とは、身体の大きさや見た目の特徴が全てではないのだよ……。滲み出る大きな器、そういった物がいずれ渾名となっていくのだよ。
「あ。ラボナで貰った保存食がぐちゃぐちゃで、もう食えないな、こりゃ」
ユマが、ばあちゃんシスターのビスケットが入った小さな革袋を取り出した。
「よこせぇぇー!」
「わっ! やめろ、オリヴィア! やめ、うわ……」
それを見た私はユマに飛びつき、押し倒した。うへへ、美脚も舐めてやろう。んー、塩っぱいな……。んん? 鼻くそやんけ!!
「あいつは犬かなにかなのか……?」
「否定はしねぇな」
しまった!? 体が勝手に……。
「おい……クレアはどうしたんだ!?」
ふと、クレアが居ない事に気づいた姉御が、ヘレンを糾弾するように言った。どこいったんだ、あいつ。
「……」
「ヘレン!」
「あまり、そいつをいじめないでやってくれ……」
「デネヴ」
問い詰められ俯いたヘレンを、沈黙から救ったのはデネヴだった。デネヴは、ようやくといった様子で、なんとか半身を起こしていた。妖気がまだ体に満ちていないのだろう、手足が震えていた。
「「私は全身全霊を賭して、この巨大な塊の暴走を止めなければならない。残された私の責任だ」それが、クレアが残した最後の言葉だ」
「どういうこと……?」
デネヴが吐き捨てるように言った言葉を聞いたイライザが眉をひそめた。
「さぁな……。上半身だけ、あの残骸に囚われたクレアが最後に言ったんだ。取り込まれる直前でな。まるで、あの汚泥の瓦礫を自身の一部とでも言うような言い回しだった……」
「あいつが……取り込まれた後、瓦礫がプリシラとかいうやつに集まって……。そんで……
デネヴとヘレンは淡々と語った。
そこからは、二人にも分からなくなったようだ。あの衝撃だ。中心近くにいた二人が、あの星によって発生した破壊で無傷だったのは奇跡に等しい。
「……取り込まれた!? それじゃあクレアはどうなったんだ!?」
「分からない。何も分からないんだ……。あの瞬間に色々なことが起きすぎて……。分かっている事は、クレアは私達を助ける為と己の復讐を果たすために、自らアレの一部になったということだけだ」
「そんな……」
ユマが問い質したが、デネヴにもクレアがどうなったのかは答えられなかった。
「どうしたシンシア?」
「いえ。私には未だ……。クレアさんの気配を感じるような気がします」
そんな時、姉御に問いかけられ、俯いた皆に向ってそう言ったのは、天使長シンシアだった。
シンシアの言葉で希望を見出した皆で、爆心地に移動した。白くなった大地のちょうど中心の地点だった。
「な、なんだこりゃ……」
中心には黒いオブジェが鎮座していた。
「……やはり、ここから微かに気配を感じます。……断言はできませんが」
黒いオブジェに触ったシンシアがそう言った。よく、こんな不気味なもの触れるな……。ムラムラするぞ。
黒いオブジェは、貨物トラックくらいの大きさがあった。普通にでかい。
一部生物的な見栄えを残した瓦礫は、幾つもの人が融合したような形をしていた。そして、その頂上付近には4つの特異な特徴があった。まるで花が咲くように、4人の女の下半身が逆さまに生えていた。
「ばかな! 『ヤマタノオロチだと!?』」
「なんて??」
イライザが私にいつものツッコミを入れた。
ちなみに大蛇はどこにもいなかった。
ここに残していくわけにも行かないので、ミリア隊長やガラテアの意見を仰ぐべく、ラボナ近郊まで運ぶ事になった。
亀甲縛りにした異形を引きずって、私達がラボナに着いたのは、その2週間後だった。
おろおろ……オロオロ……オロチ!(激ウマギャグ)