〈痴呆〉のオリヴィア【完結】   作:peg

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もぐもぐタイム

 エロオブジェを運んで二週間が経った。

 

「もう少しですよ」

「やっと近づいてきたな……」

 

 シンシアの言葉に、ユマの口から漏れた文句にも同意せざるを得なかった。()人で代わる代わる運んでるとは言え、モノが大きすぎた。上に生えてる八本のイチモツもでかい。

 

「しっかし、変な縛り方だよなぁ……」

「……。オリヴィアに任せたのは失敗だった……か?」

「いやいや。ここまで解けてねぇんだから、(かえ)って良かったぜ」

 

 ヘレンとデネヴが縛り方について褒めていた。もっと褒めろ。

 

「大分こんがらがってるけどな、これ……」

「あぁ……」

 

 エロオブジェを見上げた姉御とディートリヒが、私の芸術的な縛り方を口を開けて見上げていた。

 ヤマタノオロチは、首を擡げることなく胡座座に縛り付けられていた。股ぐらを通って紐パンみたいになってるのは、我ながらポイントが高い。

 

「……で、縛った本人が宙釣りになってるのは……なんでなんだ?」

 

 訳知り顔でウンウン頷いていると、冷ややかな目のイライザと目があった。えへへ……。失敗しちゃった。サボりじゃないよ? 最後の一セットで足滑らせただけだよ?

 

 私はエロオブジェに生えた足の一本で、蓑虫状に宙吊りとなっていた。私の紐を解くと全部外れてしまうだろう。私を釣ってしまって、おっぴろげアタックになっている足には申し訳なく思う。正直すまんかった。

 でも、二週間宙吊りは拷問じゃない? オラじゃなきゃ死んでっぞ。

 

 

 

「ん? ……もう、晩も近いのに向こうが明るい? ……シンシア!」

「はい」

 

 さっきも索敵していたが、少し進んだところで姉御がシンシアに指示を出した。

 

「そ、そんな……。ラボナに大量の覚醒者と妖魔がなだれ込んでいます!」

「!!」

「なんだって!?」

 

 全員が振り、ユマが素っ頓狂な声を上げた。やべぇじゃん。はよいかな!!

 ……。…………解いてくれ!! 私はビヨンビヨンとアピールした。

 

「どっちにしろ、このデカブツは街中に運び込めたもんじゃねぇ! 一旦、ここに置いて向かうぞ!!」

「ふぎゃ」

 

 大剣を抜いた姉御によって、私は墜落して顔面を強打した。軽やかに降りてダッシュするイメージと違った。いてぇ。

 

「急ぐわよ!」

「さんきゅー〈まっツ〉」

「変な渾名を増やすな……!」

 

 細かい大剣捌きに定評のあるイライザが、縛れる芋虫状態から救ってくれた。お礼を言ったら怒られた。なぜだ……。

 

 

 

 

 駆け出してしばらく経って、ラボナが視認できるようになった。

 妖気を軽く辿ると、ガラテアとミアータ、〈茶髪〉と元ナンバー6のミアが、なんとか覚醒者達を食い止めている様だ。ミリア隊長とナタリーどこ行った。

 押し寄せる量が多すぎて、ラボナに入りきれない覚醒者達が百鬼夜行みたいになってる……。こわ。

 

 西側から押し寄せた妖魔達は、東側に陣取るガラテア達を押し切れていないようだ。

 クレアやシンシアの様にスマートに戦うため、私は深く妖気探知した。すると、覚醒者や妖魔達の妖気を拾って光る紐が増えていき……全体的にもじゃもじゃになった。光り過ぎて何も見えない。なんだよこの技、つかえねぇー!

 

 足遅ーズのユマとイライザがいる後方から、ラボナに向かって大剣が流れ星のように飛んでいった。目で追うと、空を飛ぶ系の覚醒者のド玉に刺さって落ちて行った。ビューティフォー。ユマすごっ。

 

「みんな先にいけ! 私達は、あとから追いつく!」

 

 イライザの声に、私達は頷き合って速度を上げた。

 

 

 

 

 私達がたどり着いた時、聖都ラボナはボロボロだった。以前、〈鮮血〉のアガサが暴れたせいで既に街中央部の建物の大部分は崩壊していたが、更に西側の建物が崩れていた。

 

 幸いだったのは、先に崩壊した中央部で妖魔や覚醒者達を押し止めることが出来ていた事だった。

 ラボナの兵達が結束して、妖魔達の圧から逃げ遅れた人々を救い出していた。中々やるじゃん。

 

「お前達……。いつも良いところで来てくれる」

「ヘヘッ」

 

 満を持して現れた私達を、ガラテアが歓迎した。なんだよ褒めんなよ。

 

「惜しむらくは、後半日ほど早く来て欲しかった所だが……」

「……」

 

 ズタボロのガラテアは、そんな嫌味を吐きやがった。来てほしかったの? 欲しくなかったの? はっきりして!

 

「けっ。そんだけ憎まれ口を叩けるのなら、あたし達が来なくても無事だったんだろうさ!」

 

 姉御はそう言いながら、覚醒者を3体ぐらい滅多切りにして登場した。つっよ。

 

「たぁ!」

 

 セフィーロ仕込みの突きで、私も口からモジャモジャと触手を生やした覚醒者を粉微塵に屠った。モジャモジャは許さん。往生せいやー!

 

 ここに集まった覚醒者は、北の戦いに比べるとぬるかった。戦士上がりの覚醒者にしても、下位ナンバーしか集まってない雰囲気だった。

 

「雑魚だ。一気に片付けるぞ、ウンディーネ!」

「ったりまえだろ!」

 

 ウンディーネの姉御とデネヴが率先して覚醒者を狩っていっていた。仲良しか。

 

「あたしにも残してくれよな!」

 

 ジャイロ掛かった伸びる腕の射出で、覚醒者の頭を吹っとばしまくっているヘレンが叫んだ。無双ゲーか何かかな?

 

「あ、やべ」

「ガァあああ!」

 

 腕を伸ばしきったヘレンを狙った覚醒者がいたが、大剣を滅多矢鱈に振り回したミアータが飛び出し、味方を守るように無双していた。というか、振り返るとミアータが通った所だけ空白地帯が出来ていた。

 ちびのミアータは大剣を使わずに、傍を通りがかった妖魔の首を片手で千切っていた。ひえっ……。こいつ強すぎて笑えてくる。

 

 

 背の高い建物まで登ると、背後の様子が目に入った。

 私達の前線ラインを抜けた妖魔達が、東側に集まった避難民たちに襲いかかっていた。

 

「……。っぬん!」

「ギャァ」

 

 全身鎧のバケツ兜が触手をいなしつつ、体当たりで妖魔を路地の染みに変えていた。妖魔の怪力に勝ってるのはヤバい。やっぱ、力こそパワーって感じ。

 

 妖魔が出せる力は乗っ取った人間の筋力に依存するが、薄幸騎士の馬鹿力はそれを上回っていた。覚悟だけで勝ってると言うには強すぎた。チートかよ。

 

「あ、あなたほんとに人間ですか!?」

 

 妖魔をなんとか一体両断した〈茶髪〉のクラリスも、本気で驚いていた。誰だってビビる。私だってそう。顔見知りでなければ、気迫でチビッているところだ。

 

「住人の脱出を優先させろ!! 妖魔には複数人で当たれ!」

 

 ラボナ兵達も、何人掛かりかで妖魔を串刺しに変えていた。連携が洗練されており、妖魔に対してかなり有効なようだった。

 

 長らく続いていた戦いは、足遅組のイライザ達が辿り着く頃には終わっていた。やれやれだぜ。

 

 

 

「何故、こんなに沢山の覚醒者達が……?」

「それも、ほとんどが男の覚醒者だぞ」

 

 死体を検分していたデネヴとヘレンが、首を傾げていた。

 

「……」

「何か知っているんだろう。ガラテア!」

 

 戦いが終わった後、ディートリヒが突然無言で佇んでいるガラテアに切れた。カルシウムとれ。

 

「あの。ミリア隊長は何処ですか?」

「……」

 

 シンシアの問いにガラテアは、顔をそらした。

 

 ため息を一つこぼしたガラテアは、皆に向き直って口を開こうとした。

 

「た、隊長は組織に、い、行っちゃいました!」

「いや、何でおめぇも隊長呼びなんだよ……」

「ママ……泣かないで」

 

 ミアータにあやされたクラリスが、顔をぐちゃぐちゃにしながら言った。半眼のヘレンが呆れ声で突っ込んでいた。ミリアはカリスマ性で〈茶髪〉を取り込んでいた様だ。

 

「ちっ……!」

 

 姉御が顔を歪めて舌打ちをした。

 

「待て。ミリアが組織に向かった事とラボナが襲われた事……、どう関係があるんだ?」 

「……」

「……なぜ止めなかった、ガラテア!」

 

 デネヴが確認するように状況を言い直した。何かに気づいた姉御は、いつの間にかガラテアの胸ぐらを掴んでいた。

 

「私も命が惜しいのでな。身を張ってでは無いにしろ、止めたさ。それに、お前等の仲間も身を挺して止めたんだ……」

「!? 待って下さい! ナタリーさんは何処ですか?」

「ん? そう言えばさっきから姿を見てないな……」

 

 シンシアがナタリーを探し始め、ユマも顔を見渡し始めた。ナタリーは、妖気が消えてるからマジでわからん。

 

「……付いて来い。見れば分かる」

「……」

 

 姉御の手を振り払ったガラテアが言った。なんだか変な空気だったが、皆で付いていくことになった。

 

 

 

 

 

 

 ラボナの東側にある小さな宿屋のベッドで、ナタリーが寝ていた。掛けた毛布が上下している様から、生きていることが分かった。

 

「ナタリー!?」

「ナタリーさん!?」

 

 部屋に入ったユマとシンシアが声を荒げ、頷き合ってナタリーの両側に陣取った。妖気同調で回復を促すのだろう。

 

「大剣が心臓をかすめていた。防御型とは言え、自力での内臓の完治には時間がかかる。私が駆けつけた時には、既に血の海に沈んでいたよ」

 

 ガラテアは当時の様子を淡々と語った。

 

「どういう事だ、ガラテア。ミリアは、なぜ我々を置いていった?」

「……」

 

 部屋に先導していたガラテアの背中へ、デネヴが声をかけた。姉御は壁際に背を預け、ガラテアを睨みつけた。

 

「……ミリアは恐らく、初めからお前たちを置いて東へ行くつもりだったのだろう。ミリアの中で、急に何かが変わったという話ではない」

「それで……どうなったんだって言うんだよ……?」

 

 何処か寂しげに語るガラテアへ、ヘレンが問いを投げた。

 

「……本当に分からないのか?」

 

 ヘレン達へ向き直ったガラテアが、潰れた目を細めて言った。

 

「?」

「くっ……」

 

 ヘレンはピンときてなかったが、デネヴや姉御は歯を食いしばって俯いた。

 

「その結果がこれだ」

 

 ガラテアは木枠出できた窓を開け、崩れた町並みを手の平で指し示した。

 

「……!」

「そ、そんな……」

「……恐らく、ミリアは組織の襲撃に失敗した。その結果、組織はあくまで傍観するはずだったラボナを本格的に潰しにきたんだ」

 

 場に一度、沈黙が降りた。仲間の顔を見回したガラテアは、ゆっくり口を開いた。

 

「……流石に戦士を使って襲撃することは無かったがな。お前たちが来なければ、聖都を滅するのに十分な戦力だった」

 

 漸く状況の分かった様子のヘレンが、目を見開きながら口も開いた。

 

「そ、それじゃあ……、ミリアは……」 

「甘ったれた幻想に縛られないようにはっきりと言うが、もう……生きてはいまい」

「……!」

 

 皆が俯き、完全にお通夜ムードになってしまった。

 

「……」

「……」

「お前たちの方こそ、もうひとりは何処だ。……まさか」

 

 片眉を上げたガラテアが、追い打ちを掛けるように、クレアについて言及した。

 

「馬鹿を言うな……冗談じゃねぇ……。クレアはまだ死んじゃいねぇ……」

 

 振り絞るようにヘレンが言った。

 重い沈黙と、皆が歯を食いしばる音が聞こえた。

 

「……」

「……」

「うーん?」

 

 だが、ちょっと待ってほしい。

 私は、微妙に思い出した原作を思い浮かべた。あれ……? クレアってこの後、あのエロオブジェからガラテアが出すんでしょ? 全然平気じゃん。

 

 そして、ミリアやクレアは原作主人公格だ。こんなヤバヤバ展開は、毎回あった気がする。詳しい展開なんてとうの昔に忘れたが、まず死ぬ訳がなかった。

 

「しんでない! いきてる! あたりまえ! そんなことより、とりかえす!『ディナータイムを!!!』」

 

 私は皆の前で腕を組み、仁王立ちして言ってやった。皆が俯いた顔を上げ、私の方をポカンとした顔で見た。

 私は二週間宙吊りだったせいで、あまりしっかりと食事を取れていなかった。二週間分取り返すぞ、飯を!! リバイバルもぐもぐディナータイムだ。

 

「オリヴィア……」

 

 目のうるるんした〈まつげ〉が、私の名前を言って腕で目を拭った。なんで泣いてんのこいつ?

 

「そう、だな……。そうだよな」

 

 ヘレンが急に元気を出して不敵に笑った。情緒不安定じゃない?

 

「まさか……こいつに励まされるなんてな」

 

 デネヴも薄く笑って、私の頭をワシャワシャと混ぜた。やめ、やめろー!

 

「けっ……。……仲間が信じてやらなくて、どうするって話だよな……。くく、ちび助に教えられるなんて、あたしも焼きが回ったな……」

 

 姉御も鼻を啜ってごちゃごちゃ言っていた。それよりも生き残ったんだから、とりあえず飯食おうぜ、姉御。

 

「……嘘を言ったつもりはないが。馬鹿な奴らが生き残れるよう、脅したつもりでもあったんだがな……。ふふっ……最強の馬鹿が全部無駄にしやがった」

「よぅし! ……とりあえず、ガラテアにクレアの様子を見てもらうか! ガラテア、付いて来い!」

 

 飯の話で活気を取り戻した皆で、クレアの方へ向かうことになった。この後、むちゃくちゃ登山した。

 

 あれ? 飯は???

 

 

 

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