「オリヴィアー! どこへ行くんだ!?」
背後から私を追うイライザの声が聞こえた。
私達は北へ逆走していた。重大な選択から逃げ出した私を先頭に、皆が追いかけて来ていた。
皆から選択を迫られた私は、大剣をたずね人ステッキスタイルで使用して行く方向を決めた。その時の私は半ばヤケになっていた。頭が焼け焼けの焼け野原だった。
有り体に行ってしまえば、キャパオーバーして逃げた。ストレスがキャリーオーバーしていた。
キャリーオーバーしてバーサーカーモードに突入した私は、レッツパーリィして次に見つけた敵を必ず殺すだろう。
繰り返す、敵は殺す。
「不味いです! このままだと、北から下ってくる戦士と接敵します!」
あかん(白目)
「……ちっ。期待した私が馬鹿だった!」
「何でまた急に逆走し始めたんだ……?」
叫ぶ姉御とユマの声が背後から聞こえた。姉御ごめん。でも、重要な選択肢丸投げはひどくない?
「!? 北にいる戦士達4人が戦闘に入りました! 妙な気配の妖気が集まって」
「覚醒したぞ!?」
シンシアの実況にナタリーが被せて叫ぶのが聞こえた。ん? どういう状況だ?
突然、私の視界にキラキラと光る妖気の紐柱が沢山上がった。わぁ、妖気のナイヤガラだぁ。
「まさか、これを感じ取ったのか……?」
「そうか! 妖気感知能力が上がっていたから、あり得るぞ!」
すぐ後ろに追いついたデネヴとヘレンの会話が聞こえた。無いです。ごめん、ヤケです。
◇◇◇
戦士が四人、荒涼とした山道を下っていた。
先頭を歩いている隊長格の戦士は、スラリと背が高く上品な顔立ちをしていた。
豪華なロングの髪型は、縦ロールに綺麗に巻かれており何処か丁寧な口調と相まって、オリヴィアが見れば『お嬢様!?』と叫んだ事だろう。
「まったく……。いきなり北に行けと言ったり、戻って来いと言ったり……。忙しい話ね」
「そう言うな、アナスタシア。あんな何もない処にいるよりは、マシだろう?」
ゲンナリした顔で愚痴をこぼした隊長へ、勝ち気なミドルショートの戦士が背後から声を掛けた。釣り上がった太いまゆ毛が特徴の戦士だった。
彼女達は、以前の任務で気絶させられたクラリス達の後任として、北の白銀の地へ派遣されていた。
何者かの組織襲撃の報が遅れ、組織へ向かうのが遅れてしまっていた。
「そうかしら? 何もない白銀の世界も、私は気に入りかけていたのだけれど……」
太まゆ毛の戦士へ振り返った豪華な髪型の女――アナスタシア――が肩をすくめて笑って言った。
「おぉい! た、たすけてくれ!!」
「!」
その時、必死な様子で一人の男が駆けてきた。どこぞの村民が逃げ出してきたような姿をしていた。
男は息も絶え絶えで、何かに怯えるような絶望した顔をしていた。
「た、た、たすけ……たすけて」
アナスタシア達に縋り付く様に四つん這いになった男は、しきりに助けを求めていた。
「落ち着きなさい。……一体何が」
見かねたアナスタシアは、男から事情を聞くことにした。しかし、男の話は要領を得なかった。
「……い、いやだ。いやだァァ! ……なりたく無い……な、なりたくない! 俺はあんまばけもノニなんテ」
「あなた……!?」
(これは、妖気!?)
その時、男の体が膨れ上がり弾け飛ぶように巨大化した。
瞠目したアナスタシアは、巨大化に巻き込まれる事なく、下位ナンバー2人の襟首を掴んだまま危なげ無く下がった。
太まゆ毛の戦士もアナスタシアに続いた。
「グガガァァ!」
「覚醒した……?」
覚醒者は、頭部に複数の口を持つ鎧型だった。背中から射出された触手が、アナスタシア達を襲った。
「くっ……ニケ!」
「あぁ!」
アナスタシアが投げ捨てた下位ナンバーを、太まゆの戦士が引き継いで回避した。
太まゆの戦士ニケはナンバー15の戦士で、アナスタシアと共に戦った経験が多くあり、呼び声だけで疎通することが出来た。
覚醒者の攻撃を避けながら前に躍り出たアナスタシアは、大剣を構えたまま緩く妖気開放した。
「……お友達を傷つけようとした事、許さないわよ」
睨んだアナスタシアはそう言い放ち、一見隙だらけの様子で覚醒者の前の空中に身を踊らせた。
「ガァァァ!」
覚醒者は意識が混濁しつつも、獲物と定めたアナスタシアの隙きを見逃さなかった。
「アナスタシア!?」
アナスタシアに助けられた下位ナンバー、緩いボブカットをした戦士フィーナは、上位ナンバーの醜態に目を見張り声を上げた。
しかし、アナスタシアは覚醒者の触手が当たる直前、宙空を楽器を弾くように指先で弾いた。
空中で不自然に急加速したアナスタシアは、突如、直角に曲がって覚醒者の攻撃を回避した。
返す刃で巨大な覚醒者の右腕を落としたアナスタシアは、フワリと足場の無い空中に着地した。
「なっ!?」
「う、浮いている……?」
「なんだ、お前達。知らねぇのかい? あれがアイツの戦い方だ」
――組織のナンバー7。〈羽根持ち〉のアナスタシアだ。
戸惑う下位ナンバー達にニケは不敵に笑い、訳知り顔で語った。
アナスタシアは、浮いたまま重さを感じさせない動きで覚醒者を翻弄し始めた。
「す、凄い……」
「!?」
「避けろ! フィーナ!」
口を開けてアナスタシアを眺めていたフィーナを、背後から触手が襲った。触手は肩口を貫通し、フィーナを地面に磔にした。
「ぐ、あぁあ!」
「フィーナ!?」
「はぁっ!」
うつ伏せに地面に押し付けられたフィーナを救う為、ニケは即座に太い触手を断ち切った。
先程覚醒した男とは別の覚醒者だった。突然、妖気が湧き不意打ちされたのだった。
「そ、そんな……。ニ、ニケ」
もう一人の下位ナンバー、短髪のキーラが震える声でニケを呼んだ。
「! 馬鹿な……これが全員覚醒者だと!?」
振り返ったニケの視界に写ったのは、逆光で顔の見えない男達だった。
「うわ……ぁ」
「たすけ……たすケテ」
「あぁ……ぁ」
「い、イヤだ……」
「あ……ァ」
幾人もの、草臥れた格好をした男達に取り囲まれていた。
「あ、ぁぁああァアアアア!」
焦点の合わない朦朧とした男達は、一人を皮切りに一斉に覚醒し始めた。この世の終わりの様な叫び声は、化け物達の宴の始まりを告げていた。
「くそ、何がどうなってやがる! くっ!」
そう言ったニケを複数の覚醒者の腕が襲った。
ニケはとっさに回避行動を取ったが、上から襲いかかってきた黒い覚醒者の叩きつけによって、砂礫を浴びて元いた位置から距離を開けられてしまった。
「ニケ!」
「し、しまった!? キーラ! フィーネ!!」
ニケと負傷したフィーネを抱えたキーラは、分断されてしまった。
下位ナンバー達は、覚醒者に囲まれ逃れようがなかった。負傷したフィーネは気を失い、恐怖から震えるキーラの眼には涙が見えた。
そこへ飛び込んできたのは、最初襲ってきた覚醒者と戦っていたアナスタシアだった。
アナスタシアと相対した覚醒者は四肢をもがれ、すでに首を刎ねられるのを待つだけになっていた。
分断され、複数の覚醒者の外で孤立してしまったニケへ、アナスタシアは叫んだ。
「ニケ! 翔びなさい!!」
ギンと、アナスタシアの声に反応したニケが、即座に妖力開放した。額を中心に血管が浮き出て、ニケは力を増した。
「包囲から出て、組織の方角へ撤退する! 下位ナンバーを頼むわ!」
「分かってるよ」
ニケに言い残したアナスタシアは、再び空へ舞い上がった。
アナスタシアは筋肉質なトカゲの顔をした覚醒者を高速で通り越し、空宙で静止、急旋回して首元に切り込んだ。
アナスタシアの動きに翻弄され、覚醒者達の気が弱った下位ナンバーから逸れた。アナスタシアは、この機会を見逃すこと無く叫んだ。
「今よ!」
「じゃあ、お前らはそのまま動くなよ……。がァァっ、そら!」
下位ナンバー達を両手に持ち妖力を高めたニケは、有ろうことか覚醒者の群れに味方を放り込んだ。
「えっ……」
「……」
負傷した味方を抱えたキーラは呆け、状況を理解できなかった。進んだ先には、大口を広げた覚醒者が見えた。
「……。くく、我ながらいい位置だ……」
キーラには、嗤うニケの声が何処か遠く聞こえ、最悪を想像してギュッと目を瞑った。
不思議なことに、覚醒者の口に咥えられる瞬間、不自然な力が体に加わって、キーラ達は空宙でバウンドしながら覚醒者達の包囲を抜けた。
「えっ?」
地面に墜落し呆けた下位ナンバーのキーラを置き去りにして、戦況が動いた。
「ニケ!」
「次は、私だろっ! 分かってるさ!」
ニケはアナスタシアのように空宙を跳ね、妖気開放して力を溜めた。
ブチリと筋繊維が弾けるような音が響き、空宙で力を溜めたニケが落ちた。
「ぁっ……」
大口を開けた覚醒者達の中へニケは落ちていった。先程の下位ナンバーように、体が跳ねることもなく。
「くそ……ここまでか……」
太い眉尻を寄せてニケは諦めるように言った。
しかし、ニケの体は覚醒者達の口の前で止まった。ニケの目の前には、空宙を握りしめたアナスタシアが浮かんでいた。
「……ニケ。あなた、なにもない北の生活で、少し太った?」
「ぬかせ」
ギリギリのピンチを救ったのは、〈羽根持ち〉の渾名に恥じないアナスタシアだった。
二人の体がブレて、即座に空へと離脱した。
「あ……。何がどうなってるんだ! 何でそんな動きができるんだ、お前ら!」
目の前に着地したアナスタシア達に、精神的に消耗しきったキーラが叫んだ。
「あん? 何だお前、まだ気がついてなかったのか……。眼に妖気を凝らして良く見てみろ」
「は? ……これは、糸? いや、髪の毛……か?」
妖気を凝らしたキーラの目には、岩肌や背の高い灌木に絡まる幾へもの細い線が見えた。
「戦いが始まった時、すでにアナスタシアが張り巡らせていたんだ」
覚醒者達に絡まった糸は、そのどれもが容易く引き千切られた。覚醒者達は、絡まった糸に毛ほどの痒さも感じていないのだろう。
「流石に切られるか……」
「ここまで持ったのが、不思議なくらいよ」
アナスタシアの髪は、覚醒者の動きに干渉できるほどの強度はなかったが、人一人を支えるくらいは問題無かった。
「3人とも、離脱なさい。ここは私が食い止めるわ。この事を組織に伝えるのよ」
アナスタシアは、ニケ達を背に指示を出した。
「ときに、仲間の命を守るのも一桁ナンバーである私の努めよ……。はやく!」
アナスタシアが滅多に出さない大声に、キーラは肩を竦めながら離脱して行った。
「仲間? お前と私はそんなんじゃないだろ……」
「え?」
しかし、太むまゆのニケだけは動かなかった。
「先にお友達扱いしたのは、お前の方だ。友達なら、たった一人置いていく訳にはいかんだろ」
「……。まゆ毛の印象通り、貴女って熱血よね」
開けた距離は徐々に詰められてきていた。覚醒者の群れに立った二人で挑む事になったが、二人共悲壮感はなかった。下位ナンバーを無事に逃がすことができたからだ。
「ねぇ、知ってる? 私の〈羽根持ち〉の技って、正体が知れると案外役に立たないのよ」
「知ってるよ。だから、一緒に死んでやるって言ってるんだ」
「貴女って……顔に似合わず結構いい女よね」
「ちっ……。けなされてるのか、褒められてるのかよくわかんねーよ、口下手!」
そう言いあって、二人は再び大剣を構えた。
「全部で6体だ。半分ずつで良いな?」
「くす。私が1体瀕死にしたから、後5体よ。貴女が2、私が3」
「上等だ!」
掛け合いながら二人は、空中に走り出した。残された糸も少なく、新たに張り直す時間も無かった。
目線で頷き合った二人は、空宙で別れた。
ニケが覚醒者たちの顔の前を飛び回り、注意を引いた。
「こっちだ! グズ共!」
「グガガァァ!」
覚醒者達は人語を介さず、唸り声を上げて小さな的に襲いかかった。
(この覚醒者達……?)
まるで、なりたての戦士が誤って覚醒してしまったような、不気味な印象をアナスタシアは受けた。
覚醒者達を飛び越え、着地したアナスタシアは隙だらけの一体へ斬り込んだ。
足を刻まれた覚醒者はバランスを崩して、転倒した。
「畜生っ!」
アナスタシアが一体を気にかけているうちに、敵を捌いていたニケが落とされた。自らの体に絡みつくアナスタシアの髪の毛に気づき、覚醒者達が身じろぎをした為だった。
「ニケ!? あっ……」
直ぐに空中に駆け出そうとしたアナスタシアだったが、始めに四肢をもがれた覚醒者の口から出た触手が肩口を貫いた。
落ち行くニケに覚醒者達が殺到した。
まるでりゅうきしのくつみたいだぁ……