「はぁ、はぁ、はぁ」
短髪の戦士キーラは、同じ下位ナンバーのフィーナを抱えて走っていた。荒涼とした山道に足を取られながらも必死に走った。
(下位ナンバーの私が戻っても、足手纏にしかならない! ……組織に戻って応援を呼ぶしかない!)
キーラは何度も自分に言い聞かせた。
大量に湧き出した覚醒者の群れなど、これまで見たことが無く、異様な事態になっている事はキーラにも容易に察せられた。
「!? そ、そんな……。まだ、覚醒者が……」
その時、妖気を感じたキーラの前に現れたのは、蒼いシスター服を着た子供に引き連れられた黒い服の女達だった。
下位ナンバーのキーラには、察せられる妖気の大きさから、黒い服の女達が自身よりも圧倒的に強いことが分かった。
シスター服の少女が、驚異的なスピードでキーラへ迫ってきた。
「がはははは!『どけどけどけどけー!』くらえ、ひっさつ!『デビルバットゴースト!!』がはははは!」
「え、は?」
蒼いシスター服を着た子供――オリヴィア――は、圧倒的な速さで回転しながら、幽鬼の様にキーラをすり抜けると後方へと駆けていった。
オリヴィアが去り際に言った良く分からない叫び声を聞いたことで、身構えたキーラは一瞬で素に戻った。
「こら! いい加減に速度を落とせ! オリヴィア!!」
「もう、敵の感知圏内だ! このまま行こう!」
「まーた変な技を……」
壊れた様に大笑いしながら走り去ったオリヴィアに、叫び青筋を立てて妖気開放しながら走るイライザ、進言するナタリー、呆れるヘレンと続いた。
「シンシアとユマは負傷者を治療しろ! 残りは我々が助ける! それで良いな、ウンディーネ?」
「あぁ!」
凄まじい勢いで通り過ぎた女達にキーラは、呆けた顔をして棒立ちになった。
さらに、そんなキーラの側を戦士の格好をした小柄な影が走り去って行った。
オリヴィアの奇行によって、スタートダッシュに乗り遅れたディートリヒだった。
「え……戦士!?」
状況に全く追い付けないキーラから、ユマが負傷したフィーナを取り上げてシンシアの方へ放ると、キーラが暴れ始めた。
「わ、何をする気だ!? フィーナを離せ!」
「落ち着け! 治すだけだ!」
シンシアは上手く抱き寄せて傷口を調べた。
「……大丈夫みたいです。急所は外れています。まだ、治せますよ」
ユマに羽交い締めされたキーラへ、シンシアが安心させるように笑いかけながら言った。
「フィーナは治るのか!? 頼む、助けてくれ!」
急に現れた救い手に、キーラは必死に頼み込んだ。最後に見かけた戦士の姿を思い出し、少し警戒が下がった為だった。
◇◇◇
「がははは、っ、ゲホッゲホッ」
テンションを上げるため、無理に笑ったせいでむせた。
一瞬、現役戦士が見えたが、私の技の前にあっけなく散っていった。これがスポーツだったらなぁ……。
私は速度を落としたくなかったので、適当に躱して逃げたのだった。
私達の頭上をユマの大剣が飛んでいった。こいついっつも大剣飛ばしてんな。
飛ぶように走り、カオスな戦場に追い付いた私は、巨大な黒光りする覚醒者の股ぐらを通り越し、突然降ってきたゴン
「ぬおぉぉぉお」
「ぐわっ! ……何だコイツは!?」
もんどり打った私の頭上で、歯が噛み合う音が聞こえた。あれ? 今、私の頭から鳴った?
たんこぶを確かめようと、グシャグシャと髪をかき乱した私は大剣を構えた。
皆も直に追いついてくるだろう。一番は私だった。しかし、景品は姉御パンチより痛い石頭だった。ふざけんな。
覚醒者が4体、戸惑うように私を見下ろしていた。足の間から見える1体は、地面で藻掻いていた。さらに、手足のもがれた覚醒者の頭に、ユマの大剣がぶっ刺さっていた。ユマミサイルが止まった敵には百発百中なの笑えてくる。
変身に失敗した特撮ヒーローみたいな覚醒者が、背後から私に向かって拳を振り下ろしてきたのが分かった。
「あぶねぇ!」
「……」
ゴン
私は大剣を身体を内側に巻き込むと、地面を踏み込む反動で後ろ回り気味に大剣を振り回し、拳を斜めに弾いた。
「な!?」
弾いたと思ったが、拳をあっさりと切断してしまった。あれ? こいつ何か脆くない?
感知能力が上がった私は、まるで後ろに目があるようだった。いや待てよ、意識すると視覚外に反転した魚眼レンズみたいな景色が見える……。
控えめに言って、最高に気持ち悪かった。
「おえっ」
着地した私は酔って吐きそうになった。踊った時よりも気持ち悪い……。ちょいちょい光る上に目は回るし、味方に使うと覚醒する可能性があるとか……最早デバフだこれ。
「オリヴィア、無事か!?」
「イライザは右だ!」
到着したイライザとナタリーが、昆虫型の覚醒者の両腕を切り飛ばした。お陰で節くれだった六本腕が血と共に降ってきた。うわっ、ばっちぃ。
「ふぎゃ」
「おっと、すまない」
六本腕を避けた先で、空から降ってきたディートリヒに顔面から踏み潰された。飛び上がった覚醒者を空中で両断して来たみたいだった。とりあえず、どいて!
私はジタバタと藻掻いた。喋れねぇ!! 息、息させて!
「ディートリヒ!?」
「話はこいつ等を片付けてからだ」
ゴン太とディートリヒは知り合いみたいだった。あ、あれ? 無視されてる……?
角の生えた真っ黒な皮膚の覚醒者が、私達犯人を目掛けてダブルスレッジハンマーしてくるのが、妖気の感覚で分かった。やべぇ!
私はディートリヒに寸前で蹴られ、ゴロゴロ地面を転がって事なきを得た。
「起きろちび助! 一気に片付けるぞ!」
「いくぞ!」
転がった先で、ウンディーネの姉御とデネヴも到着した。この覚醒者達は、異様に弱いから直ぐに片が付きそうだった。
しかし、踏み潰され死体蹴りされた私は、恐らく顔がアスタリスクみたいになっているのだが、誰か気にかけてくれないだろうか。
―――
――
―
「男の覚醒者がこんなに……」
「直前の妖気の動きから見て、あの集落は組織のものと見て間違いなさそうだな……」
覚醒者達6体は、あっさりと片付いた。ヘレンとナタリーが死体を検分していた。
私達が助けたのは、北の地に配属されていたナンバー8以下4人だった。〈似非お嬢様〉に〈ゴン太〉、下位ナンバーズだ。
「救出して頂き、隊を率いる者として感謝します」
丁寧口調のアナスタシアと言う隊長が、胸に手を当ててお礼を言ってきた。髪がクルクルしてるのは高得点だが、ですわじゃ無いので〈似非お嬢様〉の称号を授けよう。感謝しろわ!
「何。あたしらは、そこの馬鹿を連れ戻しに来ただけさ」
「覚醒者達が邪魔だったからな。別にお前たちを助けた訳じゃない」
「そそ。ついでだよ、ついで」
「……」
姉御やデネヴ、頭の後ろで手を組んだイライザがそう言うと、〈似非お嬢様〉と〈ゴン太〉はキョトンとした顔をした後、ディートリヒを見て笑い始めた。え、なんで笑ってんの?
「皆さん! 負傷した戦士の処置が終わりました!」
「アナスタシア! ニケ!」
手を降ってシンシアがこちらに向かってきた。ユマが負傷していた戦士を背負っていた。あの両手で必死に手を降っているのは、もう一人の戦士だろう。短めのマッシュルームヘッドだった。
死にかけてた下位ナンバーも無事みたいで一安心だ。
最近、現代の戦士とは敵愾的な邂逅が多かったせいか、お礼を言われるのは少しくすぐったかった。
「しかしこいつらは何だったんだ……。まるで、成り立ての半人半妖が覚醒したようだった」
「ふん」
〈ゴン太〉が吐き出した疑問に、デネヴが鼻を鳴らした。
「なんだよ!」
「……知りたければ着いてくれば良い」
デネヴがぶっきらぼうに言って、〈ゴン太〉に背を向けた。
「ま、デネヴの予測が当たったって所かな?」
ニヤリと笑ったヘレンが、デネヴに向かって言った。でも、何でこんなに大量にこいつら逃げ出してきたんだ? ま、いっか。
地面に目を向けると、先程の戦闘のせいか、岩陰から大量に逃げ出してきた蜘蛛みたいなサソリが、私達の足元を走っていた。キモすぎる。前食べたけど、くっそまずいのよねこいつら。煮ても焼いても食えない。
前食べて美味しくなかったので、捕まえずに踏み潰すことにした。ヒャッハー浄化だ。
「――さそうね……。オリヴィアもそれでいい?」
「え、うん?」
え、なにが?
蜘蛛みたいなサソリを足で踏み潰して回っていると、イライザに話しかけられた。やべぇ、話半分にしか聞いていなかった。
「待って。貴女達、七年前の生き残りね?」
「だったら、どうするつもりだ」
アナスタシアが話しかけてきた。デネヴが厳しい顔で振り返り、喧嘩を売るように答えた。もう、すぐ喧嘩腰なんだから……。争いはやめましょうよ! ラブアンドピース!
「滅びたピエタをこの眼で見て……。正直言って、組織が貴女達にした仕打ちを思うと、反乱するのも分からなくはないわ」
「アナスタシア……?」
「……」
〈似非お嬢様〉のアナスタシアが手のひらをぐるぐるさせてきた。お前敵なの味方なの?
「ディートリヒ。貴女が仲間として行動を伴にしているのは、組織が……戦士以外に半人半妖を作っていることを知ったから?」
「いや、仲間ではない。それに、確固たる証拠などない。私が付いて行っているのは、少しの恩と、「自分の目で見、大剣の感触で」真実を見極めるためだ。道を違えていた場合、こいつらと最初に斬り合うのは、私だろう」
「……」
「難しく考えすぎなんだよ、お前らは。仲間じゃねーなら、お友だちってことにすればいいじゃねぇか。アナスタシアも手助け、したいんだろ?」
「くすくす。そうね。それは良いわ」
現戦士がグダグタしているうちに、一緒に行くことになった。
こうして、私達は13人の大所帯となり、組織の拠点っぽい所を破壊しに向かったのだった。
拠点は山の谷間に隠れるようにあった。粘土質の砂を固めて作った建物が群れるように建っていた。
「ここか。シンシア、どうだ?」
死んだようにシンとしていた。遺棄された建物らしきものがいくつもあった。
限界村、そんな印象を感じる場所だった。
「……。村自体に集まっているのは分かるのですが、個々がどんな動きをしてるか読めません」
「ちっ……。だめか」
私はそんなシンシアたちを横目にガニ股になり、目に輪っかにした指を当ててオリヴィアーズアイを発動させた。くそ、どうやっても口が尖ってしまう……。
「貴女は何をしているの……?」
「オリヴィアさんは見なかったことにして、放って置いて下さい……」
アナスタシアが話しかけてきて、シンシアが手で遮った。集中させてくれるのはいいんだけど、扱いひどくない?
パッと見は何もない。建物の影を集中して見ることにした。
ヒッソリとしているが、暫く待っていると建物の影を組織の黒い格好をした男が移動しているのが見えた。
「いた! そしきのおとこ!」
「でかした!」
イライザが謎のテンションで相づちを打ってきた。それ誰の真似よ。
しかし、男は様子がおかしかった。
外に置いてあった桶に足を取られた男は、物音を立てたことに焦り始めた。
「……。!? しまった!」
焦ったまま立て掛けてあった資材まで倒してしまい、騒音が鳴った。あー、失敗に気を付けると失敗する法則だ。強く生きて。
私は組織のドジっ子を応援した。
組織のドジっ子は後ろを振り返り、慌てて後退りし始めた。
「うわぁ! く、くるな……くるな!」
組織のドジっ子を追いかけるように、白い人影がぬるりと現れた。
それは足を肩幅に開き、右手は腰に、左手を真っ直ぐに腰横へ伸ばしてお洒落なマネキンポーズをしていた。
「フ、フ、フ、フゥフォウ! フフ、フ、フォウ!」
驚くべきことに、そのままの姿勢で腰を前後に突き出しながら、真横にスライドするように移動し始めた。な、なんて形容しがたいリズム感なんだ。まるでモンハンの曲だった。
よく見ると、最近見た顔だった。
「あ、あいつは……!?」
ニタリと、こちらを向いた悪意が笑った。
燃料が足りねぇのかな……?(パシュ)