お待たせしております。
ゴナル山は標高が低く、あまり険しくない山だった。森林は少なく、背の少し高い灌木が斑に生えていた。
初め気づいたときには動揺したが、今回の任務での目標も定まった。ダフやリフルを確認後の離脱だ。なおかつ、私の代わりに説明できる戦士を生き残らせることだ。任務を放棄して逃げ出すと、組織に命令された鬼ツヨ戦士から追尾され、釈明虚しく切り殺される確率の方が高い。さらに私の発言は普段の発言も相まって、信用度が非常に薄い。やっぱあれか、〈痴呆〉とか付けられるだけあって嫌われてるのかしら。
ジーン隊に付いて歩いて四半日ほどが立った。道中羽の生えた妖魔たちに襲われたが、特に苦戦することなく討伐を終えた。ちなみに、私は全く役に立たなかった。大剣を抜いてすらいない。34番の戦士ミアと32番の戦士カティアが撃ち漏らした妖魔に、シャイニングウィザードを決めて憂さ晴らししたくらいだ。
「ったく、これで任務終わったんじゃないですかー?」
21番の戦士ラケルが頭に手を組んで言った。こいつ油断しまくりだけど、大丈夫か? これから、リフル出てくるけど大丈夫か?
「ラケル。油断するな」
「へーい」
案の定、ジーン隊長に窘められた。広域の索敵はミアが請け負った。ロン毛具合がカティアと同じだが、雰囲気が固い。カティアが緩めのお姉さん風なのだが、寡黙で冷たい印象だ。先程、上空から近づく羽根つきを素早く感知したように、存外に優秀だった。
街の廃墟に差し掛かったとき、5体ずつで編成された妖魔達に波状攻撃で襲われた。手には妖力の固まりのような棒を持っており、大剣で切断できない異様な硬度をしていた。
「この統率がとれた動き……。なんなんだこいつらは」
「ま、妖魔なんていくら群れても同じだ」
にしても、ダフの身体の一部と思われる棒が硬すぎて笑えてくる。大剣で弾く度チンチン鳴って楽しい。しかもたくさん落ちているので、大剣でジャグリングできる。
マーチングバトンのようにしてクルクル回していると、突然青い顔をしたミアが言った。
「大きな妖気が近づいてくる!」
そこに現れたのは、全身が針のようになった覚醒者だった。ウニのど真ん中に人の顔があるように見える。ダフの棒と似たような針を飛ばしてきた。なんか磯の香りしない?
「統率していたのはこいつか! ラケル! ミア!」
「時間を稼ぐんだろ? わかってるよ隊長」
防御型の2人が前に飛び出し、針を弾いた。針は折れ砕けた。硬度はダフのそれに及ばないようだ。見当違いの方向に飛んでいった針は妖魔達の一団をバラバラにした。
「へっ、時間をかけて作らないと硬いのはできないみたいだなぁ! おらっ!」
完全に勘違いをしているラケル達を見ると、これもリフル達の作戦なのだろう。
ダフの出現に警戒しながら、カティアと共に遊撃に回る。しかし、こいつ針が柔らかい癖に弾幕が厚くなかなか近づけない。イラっと来て、手近にあったダフの棒を投げ放った。
「ははっ、いいぞ! 26番」
ダフ棒が脇から貫通し、覚醒者が体勢を崩した。
ジーン隊長が3ひねり半くらいの旋空剣で飛び出し、覚醒者が苦し紛れに打ち出した針を捻りを戻す時の力で弾き、切りかかった。それ突き技だけじゃなかったのか……。
「
ジーンが覚醒者の顔面へ剣をいれた瞬間、覚醒者が内側から弾け、太い針がジーンに刺さった。
くそが! やっぱり罠かよ! 恐らく感知できないほどの遠い位置取りからダフが撃ったのだろう。ジーンは空中から地面に叩きつけられた。腹にダフ棒が刺さっている。
「うぐっ!」
「えっ? どうなって」
「......」
『撤退! 撤退!』
違う、ええと何て言うんだっけ。やばい。早くここから移動しないとヤバイ。皆、呆然としていた。お前ら〈痴呆〉かよ。
ジーンの首根っこを掴んで、射線と思われる方向に対して障害物になる瓦礫に飛び込んだ。
「『撤っ』にげろ!」
「なっ!?」
「26番?」
「!」
やっと単語が出てきた。ちょっと焦りすぎだったな。
その時、矢の雨が降ってきた。すべてダフから射出された強力な矢だ。
「うわああ!」
「ぐっ!」
カティアは辛うじて回避が間に合った。ラケルが腹に一発もらって転がって倒れた。ミアはダフの妖気を感知してしまったのか動けないようだった。私の叫びで防御自体は間に合ったが、複数直撃してあまりの威力にそのまま飛ばされてしまった。
「ラケル! カティア! ミア! うぐっ!」
『いいから早く治せ!』
低級の覚醒者を犠牲にして隊長格を潰し、何が起きたかわからないところに撃ち込む二段構えか。みんな辛うじて生きているように思う。捕獲するために威力を落としているのか……。ジーン隊長さっさと傷治してくれ。刺さりっぱなしの棒を引き抜いた。仲間を想うがゆえに、思考がそちらに寄りやすいのだろう。
「26番なにを......」
おもむろに立ち上がった。少なくともジーンが復帰するまで時間を稼がなくてはならない。
「にげろ」
「おまえ……」
ジーンへ一応もう一度言っておく。じっくり考えて言葉を選ぶ余裕なんてなかった。バカみたいに同じ言葉を繰り返す。言いたいことを察してくれるかは、分からないけれど。
そして、やはり状況が許してくれないようだった。上空から巨大な影が降ってきた。地面が揺れた。全身に鎧を纏ったような覚醒者だった。首元や手首から、先程射出されたような硬い棒が見えた。馬鹿げた大きさの妖気をビリビリと肌で感じた。
「ぐへへ、あれ? ひぃ、ふぅ、みぃ。んあ、一人足りねぇ! 5人いたのに!」
「バカな……。男の覚醒者だと……」
ラケルが呟いた。確かに知らなければ突っ込みどころはそこだろう。しかし、数が数えられていないことに突っ込むべきではなかろうか。それとも瓦礫の影にいるジーンに気づいているのか。
「ぐへへ。まぁいいや。なんだぁ? 無傷のやつがいたのか」
「おまえは、ダフダフのダフ」
「ぐへ。お前ばかだろ」
リフルがいつ出てくるのかわからないが、ジーンが回復し離脱できるまで時間を稼がなければならない。
「偶にいるんだよなぁ。組織がじっけんして壊れたやつ」
「うるさいハゲ」
大剣を構えた。しかし、会話して時間を潰してくれるのはありがたい。適当におだてて時間を稼げないだろうか。
「……お前殺す」
「くっ、26番逃げて!」
カティアが叫んだ。息をするように罵倒してしまったため、ダフが切れてしまった。ハゲで切れるなんて、お前絶対ハゲだろ。
ダフが口を開けると人ほどもある巨大な柱のような円柱状の矢が装填され、発射された。回避しようと思ったが、射線の瓦礫にはジーンがいた。受け止めるしかない。
『うおおおお!』
「ぐへ。やっぱばかだ」
打ち込まれる太い柱の中心に向かって、切っ先を立てた。激突に合わせ、身体のバネを使い力を反らす。移ってきた力、殺しきれない慣性を大剣を引くことで回転へと換えていく。
「なっ!?」
――チン。涼やかな音が響き、
すさまじい回転の力がたまった。原作の様に狭い場所じゃなくて良かった。大剣を振り回しても何にも邪魔されない。踊る。大剣を纏った死の舞いだ。
『返すぞ。くそデブハゲマッチョ』
溜まった攻撃力をそのままダフに返す。
「んあ!? これまじぃ」
『はあああああ!』
直感が働いたのか、ダフは右手の拳で対抗してきた。凄まじい外皮に覆われた手だ。原作では
外皮のあまりの固さに切っ先が逸れそうになる。何度も同じところを切りつけた。回転力の慣性が尽きるまで。
ダフの小指から3本が落ち、回転が止まった。
「!」
「やった!」
『くっそ!』
ラケルが歓喜の声を上げた。全然だめだ! 手首を落としても足りないくらいなのに!!
回転が止まった瞬間ダフの左アッパーが飛んできた。攻撃を出した直後の硬直で避けきれず、生まれてはじめてまともに攻撃を食らってしまった。錐揉みして宙へ舞った。
「ぐあっああ!」
墜落の衝撃に必死に大剣の柄を握る。痛い。痛い痛いいたい。全身から火が出るようだった。しかし、身体は痺れて動かない。チーム全体の体勢を建て直すには、ダフが痛みでしばらく自失するだろう今しかないのに……。
「うぐっ。ぐすっ。おでのゆびが、指がぁ」
「くすくす。へぇ。そんな豆粒みたいな妖気で、ダフに攻撃が通るなんて。あなた何者?」
背中の中ほどまで真っ直ぐな茶髪を靡かせた幼げな少女が、場違いな声を響かせた。ワンピース一枚の出で立ちで戦場を散歩するように現れた。
最悪だ。やっぱりリフルが出てきた。もう少し静観してくれると思ったのに。この一瞬で、ご丁寧にも触手化した右手に気絶したラケルが捕まっている。
少女は左の人差し指を顎に当てて言った。
「それに、なんだかダフの事を知ってるっぽいし。こちらの戦術もある程度先読みしていた素振りもあったわね。くす。だれも活かせなかったみたいだけれど」
『うるせー、引きこもりくそちびニート』
「くす。何て言っているのかしら?」
リフルは不気味な気配を漂わせながら笑い、呟いた。当たり前だが、日本語で罵倒するが全然効いてない。
あー、詰んだ。さっきの攻撃で気絶できれば良かったんだけど、身体が思ったより頑強だったらしい。このまま弄ばれて死ぬのだろうか。
カティアは……ダメだ。妖力に中てられたのか、膝を突いて絶望している。ジーンはまだか。この場で気を引いたり、離脱できるのはジーンくらいだ。ミアは消えた。恐らくしばらく帰ってこれないくらい遠くに飛ばされたか……。原作を考えれば、右半身がちぎれていないだけましな傷を負っているだろう。ラケルは気を失って宙吊りになっていたが、リフルに捨てられた。
「くす。目が死んでないわね。まだなにか策があるのかしら?」
「ぐすっ。があああ!」
「……ちょっとー、今いいとこなのよ! いつまで泣いてんのよ!」
「だって、りふるおでの指が……」
「いいから早く捕まえなさいよー! 置いてくからね!!」
「そ、ぞんなぁ」
『くそが』
夫婦節が炸裂している。死ね人食いリア充。身体が痺れて動かない。目立つが妖力解放してなんとか治すしかない。
『はぁああああああ!』
「何この妖気!? もういいわ! 私が捕まえるから」
目が金色になっているだろう。前、妖力解放して鏡を見たとき、目が充血しまくって白目が黒くなっていた。リフルのセリフは、逃げそうな虫を捕まえる小学生感があり、妖力開放中の私の神経を逆なでた。
その時、焦った声を上げたが前のめりのまま、まだ行動に移さずにいるリフルの後ろに人影が現れた。
「よくやった! 26番。後は任せろ」
既に21回腕を捻ったのだろう。限界まで腕を捻ったジーンが旋空剣を放つ準備を終えていた。先程の矢による腹の傷は癒えていた。リフルが気づいていなかったとも思えない、……泳がせていたか。
「あら? 仲間を見捨てて逃げずにちゃんとまだ居たのね」
「ほざけ!」
ジーンがリフルへ、47戦士中最高威力の突きを放った。
◆
クレアはラキを探すのを一時中断した。
「たのむ……。組織に連絡を……」
街中へたどり着いたのが限界だったのだろう。血を吐いて倒れ伏した戦士に触れる人間はいなかった。クレアは潜伏中の身であったが、そんな仲間を見ていられなかった。クレアは人込みを押しのけて、倒れ伏した戦士へ手を差し伸べ、その身を起こした。
「何にやられたんだ!?」
「! そうか。おまえ……仲間か……」
戦士は朦朧としながらもクレアを認識し、たどたどしく話した。
「頼む。なかまを助けてくれ……。やつら、なにかを企んでいる。わたしが……戻った時には、皆捕まってしまった。……こいつしか、助けられなかった」
瀕死の戦士が言うには、何か強大な存在がクレイモアを生きながらに連れ去ったらしい。唯一、敵に痛手らしい痛手を与えた幼い戦士だけは、なぜか瀕死で残されており何とか離脱させることができたが、逃げる途中で気を失ったらしいということだった。それだけ言うと戦士は力尽き、気を失ってしまった。
幼い戦士の影響か、比較的クレイモアに対して隔意の消えていた宿のおやじに長髪の戦士を任せ、ゴナル山へ向かうことにした。クレアの戦士の矜持が、仲間を見捨てることを許さなかったのだ。
クレアが向かおうと足を踏み出したとき、白目がどす黒く異様に充血した幼い戦士がクレアの足を掴んだ。瞳は金色に輝いていたが何故か妖気は全く感じられなかった。
「あ゛だしを、連れでいけ!」
(!? こいつ、まだ意識があるのか!?)
まだ朦朧としているのか、焦点が合わない瞳でクレアを見た。妖力開放の影響が残っているのか、鋭い歯が見えた。掴む手は、ブーツの金具に爪が当たりギシギシと音が鳴った。絶対に足を離さないという覚悟が見えた。突飛な行動をしていると思えた戦士だったが、仲間を想う気持ちはクレアと同じなのだろう。クレアはその想いを汲むことにした。
「着くまでに動けるようにしろ。でなければ捨てていく」
「わがっだ」
幼い戦士は答えた。
まぁ、一番時間とられるのが意味わからない言い回しの解読なんですけどね!
昔の私は時間泥棒だったようです。