〈痴呆〉のオリヴィア【完結】   作:peg

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オリヴィアはやくきてくれー!(クリリン並感)


死闘

 ミリアとヒステリアは、互いに技を出し渋る千日手のような状況から、大剣を十数合あわせて向かい合うように着地した。

 剣戟は、お互い技を出し渋るとは言え、残像を斬り合う様な高速の戦闘だった。

 

 ミリアは〈幻影〉による消耗を避け、ヒステリアは砂礫を避けていた。

 ヒステリアが砂礫を避けているのは、自傷を避けているのではなく、土に塗れることが彼女の美学に反していたからだった。

 

 

 ヒステリアは、速力、膂力、剣の技量、体力すべての面でミリアを超えていた。

 ミリアが求めて止まなかった物を、全て持ち合わせていると言ってよかった。

 

「……」

(才能の違いに嫉妬すらする)

 

 ミリアは、無言で大剣の柄を両手で強く握り直した。

 

「いい加減、止めないかしら? 長引いても貴女の仲間が死ぬだけよ?」

 

 ミリアはチラリと他の戦況を伺った。

 

 いつの間にか、倒れた上位ナンバーの三人が起き上がっていた。何とか致命傷を避けたのだろう。

 他のナンバー1と思われる短髪の女とミニツインテの女は、それぞれ上位ナンバー達と双子の戦士を相手取って戦っていた。

 

 ミリアは視線を戻した。

 今は仲間を信じるしかなかった。

 

「……」

(勝機が在るとすれば、たったの一度だけだ。〈裏刃〉を決めるしかない)

 

 オリヴィアとの修行で偶然編み出し、必要に駆られて不完全な状態で使い、ナタリーを沈めた技だった。

 

 〈幻影〉で転がるように相手の背後に回り込み、高まった妖気を完全に鎮め、不意の攻撃を行う技。

 

 上位者の戦いでは、半人半妖の超人的な感覚に加え、妖気の知覚に頼って戦っている者が多い。

 〈幻影〉のように瞬発的に妖気を高める技から、急激な静への変化によって認識をずらす。〈幻影〉が視覚的な残像を残す技とすれば、〈裏刃〉は妖気知覚への誤認を誘発する事を目的として完成した技だった。

 

(編み出してから、強敵に対しての構想はあった。しかし、ヒステリア程の凄まじい技量の前では、技を当てることすら難しい。しかも、一度見せれば二度目以降は容易く対応されてしまうだろう)

 

 ミリアには〈裏刃〉ですらヒステリアに回避されることが、容易に想像できた。

 

「ならば……! はァァアッ!」

「あらあら? 急に自棄っぱちになって……。どうしたの?」

 

 ミリアは顔の形が変わるほどの妖気開放を、再び行った。

 

「最期まで付き合ってもらうぞ!」

(妖気開放状態から〈幻影〉を使う!! あくまで同じ土俵で戦うと、認識を逸らすんだ! 悟られるな!!)

 

「ひょっとして勝機を見い出せなくなって、もう諦めたの? 玉砕覚悟でも、貴女じゃわたしに届かないわよ」

 

 ヒステリアは薄く嘲笑った。

 既にヒステリアは、ミリアを格下として見ていた。どんなに時間を稼がれても、特段ヒステリアに不利な要素はなかった。

 ヒステリアは、底が見え始めていたミリアへ、何の脅威も抱いてはいなかった。

 

 

 ヒステリアはミリアの知る中で、殆ど最強格に近しいナンバー1だ。ミリアに妥協は許されなかった。

 

 過去、ミリアは北のリガルド戦において、妖力開放状態で〈幻影〉を使うことが出来なかった。それは、ミリアの覚悟の足りなさが齎したものだった。

 〈幻影〉という技の性質上、瞬間的に妖気を限界ギリギリ迄上昇させる。

 顔が変わるほどの妖気開放状態から〈幻影〉を使うということは、一瞬覚醒していると言っても良かった。

 

 向かい合う2人が、どちらともなく駆け出した。

 

「はぁぁア!!」

「ふん……」

 

 〈幻影〉を超える加速。

 脳裏にチラつく覚醒への恐怖。

 

(恐れるな! 翔べ!!)

 

 ミリアは踏み切った。

 全ては隠した刃の布石の為に、自らの命を賭した。

 

 2人が高速で交差し、()()()()()

 遅れて、2人が通った軌跡に土埃が巻き上がり、ミリアは岩壁に激突した。

 

 優雅に降り立ったヒステリアは、ミリアがぶつかった方を見て嘲笑った。

 

「無様ね……」

 

 ミリアは速度を御しきれなかった。

 

「ガはッ……!」

 

 頭から血を一筋流したミリアは、大剣を杖に瓦礫から起き上がった。

 ヒステリアから見れば、ただミリアが自爆しただけに見えた。

 

「く……!」

(流石に動きを制御出来ないか。だが……!)

 

 しかし、ミリアがオリヴィアとの修行で得た刹那の判断力は、確実な効果を齎していた。

 

「なっ!?」

 

 ヒステリアの右肩から血が吹き上がった。

 ミリアの限界を超えた速度は、ヒステリアと並び、ただの勘によって一瞬の読み合いはミリアに分が上がった。

 軽鎧の間を大剣が掠めていた。

 

「貴様! そんな稚拙な技で……舐めるなよ!」

 

(掛かった……!)

 

 力技で自身の流麗な技に並んだミリアを、プライドの高いヒステリアは許せなかった。

 

 

 

―――――

―――

――

 

 

 その後、ミリアは限界を超えた〈幻影〉で、ヒステリアを迎え撃った。大剣同士が衝突する音が幾度も響いた。

 

 技は五分。

 ミリアとヒステリアは、どちらがいつ致命的な攻撃を受けても可笑しくない領域へと入っていた。

 

 しかし、ヒステリアと異なり、速度を御せないせいでミリアは余分なダメージを負っていた。

 ミリアが限界を超えた〈幻影〉でぶつかるのは、岩壁だけではなかった。戦場の地面には、ミリアがぶつかった事で出来た穴がいくつも空いていた。

 

「はぁはぁ……ク」

 

 ボタボタと血が落ちた。

 既に妖気開放も長時間に及んでおり、ミリアの頬からウロコ状の体皮が剥がれ落ちた。

 

(恐れるな……。何度も翔べたんだ! 次も……!)

 

「いい加減に倒れろ!」

「く……ガァァアッ!!」

 

 体力差が如実に出た。

 速度が急激に落ちたミリアに、ヒステリアの斬撃が再び届いた。

 

「がはっ!」

「……」

 

 険しい顔のヒステリアが振り返り、地面を転がっていくミリアを眺めた。

 飛び散る血が衝突の凄惨さを語った。

 

 ミリアは起き上がったが、フラついて片膝を付いた。

 

「咄嗟の防御で致命傷を避けたのね……。なんにしても終わりよ!」

「ク」

 

 立つ事もままならない状況のミリアへ、ヒステリアは突撃した。

 片膝と両手をついた姿勢で、ミリアは止むに止まれず〈幻影〉の限界を超えて迎え撃った。

 

 大剣同士の衝突した音は鳴らなかった。

 

「最後に力を振り絞ったのかしら……。次で本当に終わりね」

 

 火事場の力か、ミリアはあの状況下で体力が万全状態の〈幻影〉の速度を発揮し、ヒステリアの攻撃を避けたのだった。

 

 しかし、そうなっては立つこともままならないのだろう。現に、ミリアの妖気は消失し、ヒステリアは背後で妖気感じ取ることが出来なくなっていた。

 

 妖気を消費しすぎると、半人半妖は身体能力が大きく落ちる。どんなにしぶとかった相手でも、白けた幕切れになる事をヒステリアは知っていた。

 

(そう言えば、大した音が聞こえなかったわね)

 

 これまでミリアは、速度を制御できずに幾度となく地面や岩壁に激突していた。激突音が小さいということは、明らかに力尽きかけているのだろう。

 

「フ……」

 

 鼻で笑い、振り返ったヒステリアは瞠目した。

 

「大、剣……?」

 

 ミリアが居るはずの位置には、大剣が深々と刺さっていた。

 

 視覚が突き刺さった大剣を認識して理解する前に、ヒステリアの背後、両腕を振り上げたミリアが大剣を振り下ろした。

 ミリアの瞳は、茶色の色味に変わっていた。

 

 

 

―――――

―――

――

 

 

 ヒステリアの首を失った体が、前のめりに倒れた。

 

「ギリギリ……だな」

(最後の最後で速度を御せた)

 

 北の戦いの際、リガルド戦で見せたクレアの挙動。身体を無理矢理ひねり上げ、速度を回転力に変えて急制動する方法だ。

 オリヴィアの〈千剣〉の真似事だったらしいが、一度は上手く行っていた。

 

 安堵から急に息を切らせたミリアは、捩れた内臓の痛みでフラついて座り込んだ。

 

 あの瞬間、ミリアはヒステリアとの衝突を往なした後、大剣を地面に楔のように打ち込んで、勢いを殺さずに3次元的に跳んだ。

 

 これまで何度も地面に衝突していたのは、大剣を刺して踏み込んでも崩れない、硬い岩盤を見つけるためだ。

 

 更に、ヒステリアに衝突音を聞き慣れて貰うためでもあった。大剣を地面に勢いよく刺して、飛び上がる際に出る音を誤魔化すためだった。

 

「オリヴィアの阿呆さ加減に、何度も救われるとはな……。ふふ」

 

 声に出して自嘲したつもりだったが、ミリアは不思議と誇らしくなった。

 

 開放し続けた妖気を消す事が出来たのは、オリヴィアが手慰みで作った〈溶けない飴〉の塊を噛み砕いた為だ。中に入っているのは、妖気を消す薬だった。

 反動は大きいが、即効性があり有効な手段になり得た。

 

「ぺッ」

 

 ミリアは固すぎる飴の殻を吐き出した。

 

 〈溶けない飴〉は、全員でラボナに居着いたとき、ミアータとオリヴィアの飯事(ままごと)で偶然出来たものだった。

 

 実態は何でも口にするミアータに、オリヴィアが老婆心で食べられない物を教える(いたずらをする)ために調理したものだった。

 調理したと言っても、ひたすら()()()()()()()()を集めて練り、中に妖気を消す薬を入れて、高温の油で何度も揚げたり焼いたりした物である為、実食に耐えうるかは微妙なところであった。

 完成したそれは、ガラス玉のように無駄にテカテカと光っていた。

 

 尚、ミアータは普通に噛砕き、苦い薬が出てきたことでオリヴィアをボロ雑巾にして、焦ったクラリスに止められていた。

 

 

 ミリアが最後に持っていた大剣は、倒れていた現役戦士のものだ。地面を転がった衝突の際に、先んじて空に投げ放っていた。

 ミリアに技で勝つことだけに執着していたヒステリアには、気づかれなかった。

 

 全てのタイミングが噛合い、何とか拾えた勝利と言ってよかった。

 

 少し休んだミリアは、再び立ち上がった。現役の戦士達を救わなくてはならなかった。

 

「あいつらを助けなくては……」

 

 その時、地獄の底のような叫び声と供に膨大な妖気が湧き上がった。

 

「なんだ!?」

 

 

 

【ロ ク サ ァ ヌ!!!】

 

 

 

 

 

 

 ダーエがリムトの元を去った後、黒い帽子に黒いサングラスの男ルヴルは、言い争う幹部に気取られないようにリムトのいる間を出た。

 

「ここだったか……」

 

 暫く探しまわり、戦場を一望できる高台に登ったルヴルはダーエの背中へ声をかけた。

 ルヴルは帽子に手を当てて、日差しから隠れるようにダーエの方へ近づいて行った。

 

「幹部が必死でお前を探していたぞ。リムトには分かっていたようだが」

 

 ルヴルは、ぞんざいに長であるリムトの名前を呼び捨てにした。

 組織崩壊の危機にあって、長のリムトはどこか超然としていた。

 

「……。確か、ルヴルと言ったか」

 

 高台の断崖に座ったダーエは、チラリと瞼の無い目を向けた。しかし、興味を失ったように視線を戻し、薄ら笑いを浮かべた。

 

「戦士達に反乱された時点で、組織は終わりだよ。誰の企てかは、知ったところではないがな……」

「……」

 

 鋭いダーエの指摘にルヴルは一筋の汗を流した。

 

「それより見てみろ!」

 

 生き生きした様子で、ダーエは崖下を指した。

 

 ルヴルにとって、蘇ったナンバー1やミリアが死のうが生きようが、もはやどうでも良いことだった。どんな形であれ、組織の崩壊は確定事項だ。

 しかし、ルヴルが手塩に掛けたと言っていいミリアが、組織崩壊の引き金を引いたことは、何処か胸に迫るものがあった。

 

「……圧倒的だな。〈幻影〉のミリアが苦戦している」

(ミリアはナンバー1との戦いに敗れ去るだろう)

 

 

 

 しかし、ルヴルの予測をよそにミリアは生き残った。

 

「ばかな……」

「ほぅ、ナンバー1を下すか……。現役時にナンバー6だった戦士が、どれほど自身を追い込めば辿り着けたのだろうなぁ……。実に惜しい」

 

 ダーエは淡々と独り言を言いながら、戦況を覗き込んでいた。

 

「……それより、良いのか? せっかく蘇生したのに死んだぞ?」

「蘇生? ……ぁあ、蘇生か。死んだやつが生き返るなんて、幻想だよ」

 

 ダーエはルヴルの予期しないことを、あっさりと言ってのけた。

 

「…………なに?」

 

 一瞬、ルヴルはその言葉の意味を飲み込むことができなかった。

 

「そら。まずは1人、と」

 

 薄ら笑いをしたダーエが顎でシャクった先で、新たな〈深淵の者〉が悼ましい産声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 




あれ、ミリアが主人公だったっけ……?
(クレイモア読者の誰もが一度は思うやつ)
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