〈痴呆〉のオリヴィア【完結】   作:peg

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荒ぶる蝶の舞のポーズ

「はっ!?」

 

 気が付くと、私は岩の瓦礫の上で大の字になっていた。あの後、少しだけ気を失ったようだった。

 酷使してボヤケた目を擦った。あ、ちょうちょは!?

 

 空を覆うように、血管のような巨大な肉の翼が広がっていた。中心には、半壊したキメラ覚醒者の瓦礫のようなものがぶら下がっている。

 肉の腫瘍の拡張に着いてこられなかった様だった。よく見ると、人間の下半身の様なものが微妙に生えてた。ぷらーんってなってる……、きっも。

 

 戦場に一陣の風が吹き、ふわーっと、綿毛のような挙動でカサンドラの方へと飛んでいった。どこいくねーん!

 

「オリヴィア! 無事か?」

 

 大剣を杖に起き上がって上を眺めていると、ユマが血相を変えてやってきた。

 

「へいき」

 

 思いっきり妖気開放したからか、すっからかんな感じがする。腹痛明けのふわふわ感と言えばいいだろうか。いや、これは徹夜明けの空腹感……。

 私は良いんだけど、ミリア隊長達は大丈夫だろうか? 〈深淵の者〉のバトルに完全に巻き込まれてそうだが……。

 

「そうか……、良かった。お前、妖気がかなり希薄になっていたからな……。焦ったぞ」

 

 妖気感知的な視点で見た私は、あの技を出した直後にHP1で点滅してたに違いない。

 

「しかし、あいつは何なんだ……? 降って湧いたように現れたが……」

 

 私はダラダラと冷や汗をかいた。首をくっ付けたら生き返った……なんて言えねぇ。どうしよう。

 

「うーん……こ」

「ユマ! 手伝ってくれ!」

「なっ!?」

 

 私が言い訳をしようとした時、姉御がこちらに叫びながら走り寄ってきた。遮られて、またう○こって言っちゃった……。

 

 姉御がイライザを、ナタリーがデネヴを背負っていた。二人とも重症を負っているようだ。カサンドラ達の最後の大暴れに巻き込またのかもしれない。

 

「ミリアは?」

「まだ、あそこに残っている……! 早く戻らねぇと」

 

 ミリアは、アナスタシアやディートリヒと共に、まだ向こうに居るようだった。

 

「……ユマ、私はいいから、イライザを助けてやれ……。あいつは攻撃型だ」

 

 ボコボコと音を立てて、デネヴが腹の傷を治しながら言った。デネヴ……あんた身体が穴あきチーズみたいになってんぞ。デネヴじゃなければ即死だった。

 

「現役を庇ったんだ。アナスタシアが落ちれば、あたし等は羽を失う」

「……うぅ」

「〈まつげ〉!」

 

 イライザの腹にも穴が空いてた。しかし、ユマがいるからセーフだった。イライザの腹に手を当てたユマは、いつものビキビキヒールを放った。良かった。

 

「あの覚醒者……再生力が尋常じゃない。クレアのような高速の斬撃か、オリヴィアの〈千剣〉の様に再生する隙を与えないようにしなければ……」

 

 デネヴを下ろしたナタリーが、あの場に生き残ったカサンドラをそう分析した。ってことは、ミリアでも厳しそう。

 

「で……なんでちび助は漏らしたみたいになってんだ?」

「オリヴィアは……」

 

 この場にいる戦士の視線を感じた。しかし、私は大剣を地面に突き立てて寄り掛かり、足が産まれたての子鹿のようにプルプルしていた。これは恐怖ではなく、極度に妖気を消耗した結果だった。もちろん漏らしてない。多分きっとメイビー、トラストミーパストラミ。

 

()()沸いた覚醒者と戦っていたんだ。負傷した現役達を守るためにな」

「ちび助……。んで、あの飛んでいるのが成れの果てってわけか」

「ああ」

 

 横目でこちらを見ながら、ユマが説明してくれた。突然というワードに、思わずビクついてしまった。ユマの話だけ聞くと、私がヒーローみたいじゃん。やめろ。そんな目で見るなやめろ。

 私がやったのは、開けたドアを締めた、もしくは天に吐いた唾を飲んだ……いや、覆水が盆に帰った……?

 駄目だ、こんがらがってきた。死体が生き返って死ぬるのは、なんて言えばいいんだ。ターンアンデッド?

 

「あの覚醒者の妖気……〈深淵の者〉並だ。極大の妖気に当てられて、感知が遅れたのか……」

 

 悩む私の前で、ナタリーがこぼすように言った。

 

「そんなやつを倒しちまうとは、な……」

「いや? 死んでるのかあれ……?」

 

  ユマがイライザを直している間に、ふわーっと、飛んでいく肉綿毛を皆で眺めた。

 だが、ちょっと待って欲しい。実は厳密には倒してないんだ。……たぶんあれは、私の妖気のをぶち込んだ結果、中に居た本体みたいなやつがボゴッって出てきただけなんだ。

 つまり、ダメ元で敵にエネルギーを送ったらバランスが崩壊しただけなんだ、たぶん。

 

 

 

 肉綿毛は、カサンドラの上空に辿り着くと静止した。瓦礫部分から、額に一本角が生えた女がニョキニョキと現れた。プリシラだった。

 

「ぷりしら!?」

「またやつか!?」

 

 薄暮の空に輪郭が浮く肉綿毛を、私は睨んだ。

 記憶の彼方に行ってしまった原作を思い出そうとした。こんなシーンあった……? ぬうぅぅ、駄目だ全然思い出せねぇ……。

 頭痛がするほど悩んだが、欠片も思い出せなかった。

 プリシラがカサンドラへ手を伸ばすと、肉綿毛から沢山の血管が伸びていき、カサンドラと繋がった。ロクサーヌを食べ終わったカサンドラは、どこか遠くを見つめて抵抗しなかった。

 そのまま、すぅーっとカサンドラが空へと登っていき、肉綿毛とプッピガンした。

 

「え?」

「融合した!? 喰われたのか?」

 

 二人は融合すると、めっちゃキモい究極完全態ラーバモスみたいになり、そのままふわーっと西へ旅立って行き、闇夜に消えた。

 

 戦闘はアッサリと終わってしまった。

 

「助かったのか……?」

「くそ、あたし等は歯牙にもかけてねぇって事かよ!」

 

 姉御に背負ってもらい、ミリアたちの近くに行くと、ヘレンとディートリヒが騒いでいた。

 

「……終わったのか」

 

 姉御がポツリと言った。ようやく倒すべき敵がいなくなった。逃げられたんだけど。

 

「いや、まだだ。組織を潰す」

「……」

 

 ミリアは立ち上がり、鋭い視線を組織の本部へと向けた。

 

 

 

 

 

 戦闘は終わったが、組織の残党狩りをすることになった。因みに殺しはしない。見つけたやつを縛って、手あたり次第に手漕ぎボートのような船に乗せてやった。くににかえるんだな、おまえにもかぞくがいるんだろう。

 

 気絶して倒れているのは、下っ端ばかりだった。見捨てられたのか重症なやつばかりだ。治療して船に載せた。幹部はゴタゴタ紛れて消えてしまっていた。なんてこった。

 

 

 応急処置に手間取った。だいぶ時間が経っちゃった。

 暗い組織内を彷徨っていると、皆とはぐれて完全に迷子になってしまった。妖気探知で探ると上下階で入れ違いになっていた。皆のところに辿り着けないんだが……何処よここ。

 

 しばらく歩き回っていると、戦士の独房みたいな部屋を見つけた。組織に呼び出しされると、皆此処に一度ぶち込まれる。最低限の物しか置かれていない部屋だ。

 

「なっつ」

 

 私が此処にぶち込まれたのは、ナンバー26になる前だ。

 あれは……、逐次投入された妖魔を200体くらい消し飛ばした後。事情聴取とか言って、組織に呼ばれたんだ。当時は何言われてんのか、あんまり良く分かってなかった。

 

 確か……長とかと圧迫面会した後、コッチに連れてかれて――。

 

 

―――

――

 

 

 時は、オリヴィアが反芻した記憶へと遡る。

 

 当時、実験体の最後の経過観察として、オリヴィアは本部へ召喚される事となった。

 しかし、自我を摩耗し無言を貫く戦士は過去にもいたが、元気一杯に言葉が通じない戦士は稀であった。

 

 さらに実績として、ナンバー1桁〜10番台ならともかく、40番台が一度の現場で200体近くの妖魔を斬り殺すというのは異例であった。同じ40番台のクレアが、半覚醒し妖気読みに慣れた頃にようやく相手取れるレベルの敵量である。

 

 実はこの件には、オリヴィアに対して無駄に殺意の高かったダーエも関係していた。一応ながら、戦士としての体裁を成している希少な実験体に対して、当時のダーエは使い潰す権限を持っていなかった。

 その為、周辺にいた妖魔を追い立ててオリヴィアの方へ誘導したのだが、結果としては裏目になっていた。

 

 

 しかしながら、本部へ呼び出されたオリヴィアだったが、質問を投げかけても全く会話にならず、担当のオルセに聞くも要領を得ず。結局、頭を抱えた首脳陣によって手を払われて、オリヴィアはブタ箱の様な部屋にぶち込まれたのだった。

 

 その時、ダーエにさらなる指示が下った。

 せめて会話ができるようにせよ、と。

 

 無理だった。

 

 そも、ダーエと相対するオリヴィアは、くねくねと変な動きを繰り返しては笑う、完全な気狂いだった。

 

 体裁上、仕方無しに研究室へオリヴィアを入れたダーエだったが、更に驚愕の事態に直面することになる。

 なんと部屋に入れたオリヴィアが、ダーエが目を離した一瞬の隙に部屋に保管してあった薬瓶を割り、飾っていた死体に盛大にぶっかけたのだった。

 

 ダーエは慌ててオリヴィアを摘み出したが、肩を叩かれ後ろを振り返ると、戦士の死体がダーエの肩を叩いており、ダーエはニヤけた顔のまま気絶した。

 その後、部屋へ定例で報告に来た部下が、死体に伸し掛かられニヤケ顔で眠っているダーエを見て慄いたのは言うまでもなかった。

 

 後日、ダーエは組織からネクロフィリアの誹りを受け、死体蘇生の切っ掛けを掴みつつもオリヴィアへの微妙な憎しみを募らせた。

 

 

―――

――

 

 

「……うーん?」

 

 何となく気を惹かれて、〈変態デメキンおじさん〉の研究室へ入ったが、特に何もなかった。相変わらず、猟奇的な部屋だった。なんで壁に人間の剥製がいっぱいに貼り付けてあるんだ……。悪趣味か。

 

 昔ここでちょうちょ(蛾)を追っていると、薬を割ってしまい、あまりの臭さにシュゥゥゥゥト! 巨乳に直撃して超エキサイティング!! してから二度と縁が無かった場所だ。〈変態デメキンおじさん〉の無言の圧力は、無駄にゾワッとしたとだけ言っておこう。

 

 外がにわかに騒がしくなった。外に皆が集まったようだ。

 

 

 

 外に出ると、篝火が焚かれていて、負傷者の治療も終わったみたいだった。

 

 ミリアが長の首を掲げてライオンキングしたことにより、私達、組織の戦士としての戦争は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 落ち着いた頃、私達はミリアを上座に据えて扇形の車座になった。

 

「組織は終わった。しかし問題は、あの覚醒者達だ」

「こっちを歯牙にもかけていやがらなかった!」

 

 デネヴが神妙に語り始めたが、ミリアが制した。

 

「ふむ。それなんだがな……。まずは、お前達が西の地で逢ったという、プリシラと言う名の覚醒者について聞かせてほしい」

 

 ヘレンやデネヴが熱く語った。

 クレアが囚われた時に居たこともあり、かなり憎しみが溜まっているのかもしれない。

 

「そうか、クレアがそんなことに……」

「ああ、ガラテアでも駄目だったんだ」

 

 気絶したイライザは、私の太ももで膝枕されていた。だが待ってほしい。試しに膝枕してみたけど、私の太ももの肉が薄いせいかめっちゃ痛い。イライザの頭が重いのか……? いや、これ寝心地も悪かろう。何だこの二人とも損しかしていない膝枕は……うごごご。

 

「……。オリヴィアは、何でそんなに青い顔をしているんだ」

「あぁ、オリヴィアはな――」

 

 妖気の紐でブスリしたことを、ミリアに告発されてしまった。

 

「……」

 

 男性器辺りのくだりで、視線の温度が若干下がった。きっと今も、あいつはビンビンだよ。

 

 

「しかし……何故、あの覚醒者達から生えてきたんだ」

 

 私は朧気な原作知識を遡った。確か、研究者がプリシラの腕を使って蘇生したんじゃなかったっけ……。プリシラは蘇生薬だった……?

 

「最後、急に移動を始めた事も気になる……。恐らく、本体側に何らかの状況進展があったのかもしれんな」

「な!? それじゃあクレアが」

 

「クレアなら大丈夫だ」

 

 お通夜ムードの中、私達の背後から声をかけるヤツがいた。

 金髪のムキムキな青年だった。何故か取り巻きで訓練生達(青い果実)が群がっていた。

 

「男……?」

「あん? 誰だお前」

 

 ナタリーや姉御がアウェー感を醸し出し始めた。やめてあげてよぉ! でも、イケメンだったから殺す。繰り返す、モテるイケメンは殺す。

 モテ男は、私の足が痺れていて命拾いした。

 

「大丈夫だなんて……何処にそんな根拠があるんだ!」

 

 叫んだのは熱血気味になっているヘレンだ。付き合いが長く、クレアが囚われた場に居たこともあり、一番クレアを心配して居るようだった。熱い女ヘレン。

 

「根拠……か、理由はない」

「は?」

「信じてるんだ」

 

 モテ男は言い切った。

 

「お前……まさか……!?」

 

 デネヴが驚愕の顔で男を見つめた。

 

「……久しぶりだな。あの時、クレアにくっついていたガキのラキだ。デカくなったから、気づかないのも無理はない」

「なっ!?」

「え!?」

 

 なんとラキが生きていた。ヘレンに加えてユマも驚いていた。ユマはあれか、北の地でラキ探しに散々付き合ってたんだったな。

 知ってたけど、ラキがイケメンで私は誇らしいよ、知ってたけど。

 私は近所の世話焼きおばちゃんが向ける目を、ラキへと向けた。よし、結婚式はラボナ式だな。私が祝詞を言ってやろう。

 

「どうやって生き延びたんだ」

「それは――」

 

 ラキはその不幸(?)な半生を説明し始めた。ラキは二十歳くらいかな? やたらムキムキだけど。

 

 要約すると、北に売られたあと街が妖魔の大群(覚醒者)の襲撃にあって崩壊し、牢屋に入れられていたラキは助かった。その後、生き延びたっぽい人と南に下ってきて、そのまま南に最近まで居たようだった。

 

「まさか、クレアが予想していた通りとはな……信じられん」

「私はお前が組織を潰すと言っていた時、同じように思ったよ」

「デネヴ……」

 

 ミリアが目を大きく開けて驚いていたが、デネヴの冷静なツッコミが入った。私もそう思います。

 あれ待てよ? ラキと一緒に居たのってイースレイじゃね?

 

「そして、」

「っいーすれい!」

「!? なんで、その名を知っているんだ!?」

 

 思わず私が話に割って入ると、ラキ男が驚いた声を上げた。

 

「ちび助! 人が喋ってるんだから割り込むな!」

「ぴごっ」

 

 姉御に殴られてしまった。違うんや、姉御! こいつが犯人です!

 

「イースレイ……? 〈深淵の者〉イースレイか?」

「〈深淵の者〉……? いや、あの人は何か隠しているようだったが……。俺は教えてもらえなかったよ」

 

 ラキは、〈深淵の者〉や覚醒者について知らなかった。しかし、そのイースレイも南で死んだんだったような。

 

 ラキ男の話が終わり、しばらく考え込んだミリア隊長がポツリと言った。

 

「ふむ……。お前ならクレアを呼び起こせるかもしれんな」

「!? ガラテアでも駄目だったんだ、人間の男に何ができるってんだよ!」

 

 それに反応したのはヘレンだ。ぽっと出の昔の男に役を取られて、自身の無力感を嘆いているようにも見えた。

 

「私は組織を潰せた事。それ自体を奇跡だと思っている。……その、なんだ。奇跡を信じても良いんじゃないかと、今はそう思ってる」

「姉ぇさん……」

 

 有言実行したミリアは、何処かやり遂げた感を出しながら優しく笑った。それを聞いたヘレンは、毒気を抜かれたように大人しくなった。

 

「へっ、しょうがねぇな。最後まで付き合ってやるよ、隊長」

「ミリアにしては甘い考えだと思ったが……。組織潰すという甘い妄想をして言えば、今更だったな」

 

 姉御やデネヴも便乗した。

 

「なぁ……、ちょっと待てよ」

 

 ヘレンが空気を読まずに食い下がった。空気読めよなー。

 

「ヘレン」

「いや、そうじゃなくて……。もし、クレアがアレから出てきたとして……。()()がされてなかったら……」

 

 名前を呼んだデネヴに対して、ヘレンはしどろもどろで答えた。

 

「やっぱ見られたくないんじゃないかって……」

「……」

 

 確かにクレアが開放されれば、すってんてんで出てくるだろう。すると、私達の人間との相違点が御開帳されてしまうわけだ。完全に理解したわ。

 

 男女間では、割れ目がさらに一個増えたくらいの違いでしかない。そう思うのは私だけだろうか。

 

 おもむろにデネヴがラキ男の前に立った。

 

「あ、おい。デネヴ」

「見ろ!」

 

 デネヴが突然上半身の服を脱いだ。

 

「!?」

「これが、私達戦士達の身体だ。クレアが出てきたら、力一杯抱き絞めてやってほしい」

 

 痴女の出現に場の空気が凍った。

 更に、先の戦闘でボロボロになっていたデネブのズボンがパージした。

 

「!?」

「!?」

「ばかな!? 『ラッキースケベだと!?』」

 

 私はイライザの頭を地面に落として駆け出した。イライザの頭が邪魔で出遅れた。くっ!! 尻しか見えねぇ!! 間に合え!!

 

「いつまで全裸晒してんだ!!」

 

 伸びてきた腕が、デネヴをマントで覆った。悲報、間に合わん模様。

 

 デネヴの生乳を見てラッキースケベを決めたラキは、覚悟を決めた男の顔になり、ラボナに行くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 話が一段落し、ミリアが席を立った。船を探しに行くんだろう。

 しかし、ミリアの背中にナタリーがゆっくりと抱き着いた。あら^〜。キましたわ〜。

 

「ミリア隊長、もう1人で行かないで下さい」

「ナタリー……っうわ」

 

 感動のシチュエーションで、完全に油断したミリアがひっくり返った。

 ナタリーはミリア隊長へ、バックハグ状態からのジャーマンスープレックスを決めたのだった。私もイライザにやられたけど、流行ってんの?

 

 藻掻くミリアにデネヴが声をかけた。

 

「大人しくそうされているんだな、ミリア。そいつが一番心配していたんだ。ま、全員から一発ずつ殴られてもらうがな」

「デネヴ……」

 

 その時、顔の見えない不思議っ子ナタリーが叫んだ。

 

「今だ! オリヴィア!」

「よっしゃ『任せろ!!』」

「!?」

 

 ミリア隊長を捕まえたままのナタリーの叫び声で、私は自分のすべきことを直ぐに悟った。

 私はヨタついた足で、ミリア隊長の股ぐらへ走った。そして鶴の舞……いや、荒ぶる鷹のポーズで飛び上がり、回転しながら必殺の忍術を構えた。秘伝忍術!――

 

「『千年殺』っあべし!」

 

 飛び込むように菊座を狙った一撃は、ミリア隊長の蹴撃によって回避された。あーれー。

 

「何やってんだ……お前ら……。こういうのは普通に殴りゃいいんだよ!」

「抵抗すんなよ! ミリア姉ぇさん!」

 

 空中で通り過ぎる時、姉御を筆頭に皆がミリアに群がっていった。

 ようやく、ミリアが生きていたことを喜べた気がした。

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