〈痴呆〉のオリヴィア【完結】   作:peg

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絶対えちちちな訓練を積んでいる。


秘密の訓練

 組織の長リムトがミリアに首を跳ねられる、その一幕。その場には、全身が黒く染まったオリヴィアが居た。

 

 オリヴィアの主観では、組織内で迷子になっていたが、実際には内に潜むサルビアに一時的に乗っ取られていた。

 組織内にある隠し階段を降りながら、サルビアが前を歩くミリアへ話しかけた。

 

「隊長さん、(わたくし)は感謝しているんですよ?」

「……」

「何時覚醒するかも判らない、オリヴィアを処刑しなかった。唯一、その一点について」

 

 ミリアは立ち止まった。

 北の戦いの後、確かにミリアは、感情的に覚醒したオリヴィアに一時的な恐怖を抱いていた。しかし、それは半人半妖なら誰でも自分自身に対しても思うことだと、既に納得済みの物だった。

 況してや、半覚醒している自身は、尚の事そう思えた。

 

「オリヴィアは仲間だ。お前と違ってな」

「くすくすくす。そういうことにしておきます」

 

 そう言って、再び歩き出したミリアにサルビアは笑いかけた。

 

 長い階段を底まで降りると、呼吸しているような重低音が一定のリズムで響く部屋に辿り着いた。

 仄暗い部屋には、サイバーティックな管に繋がれた、巨大な異形が鎮座していた。

 

「やはり、ここに居たか……リムト」

「この場所を既に知っていたようだな」

「ああ」

「自分達が何と戦っていたか……、それすらも知っているということか」

 

 リムトはその部屋に立っていた。

 ミリアは、妖魔が妖魔たる理由を知っていた。そして、その理由は墓場まで持っていくつもりだった。知ってしまった戦士が、心を壊して覚醒しても何らおかしくないからだ。敵対組織からのスパイであるルヴルはそれを狙っていたが、聡いミリアはその狙いすら推察していた。

 

「そして、そこに居るのは……何時ぞやの実験体か。確か名前をオリヴィアとか言ったか」

 

 振り返ったリムトが、サルビアを見て眉を顰めた。

 

「覚えていて下さって光栄ですわ。忘れて頂いても構いませんけれど。えぇ、今直ぐに」

「お前……!? 話すことが出来たのか……!?」

「……」

 

 皮肉気味に言い返したサルビアだったが、驚愕した顔のリムトの一言で、場に白けた沈黙が降りた。

 確かに今のオリヴィアが殆ど話せなくなったのは、サルビアに一因があったが、ここまで影響が出るとは思っても見なかった。

 

「サルビア、約束を果たす時だ」

 

 ミリアが頭を振って大剣を引き抜いた。

 

「隊長さん。(わたくし)この男に聞きたいことがありましたの。その後ならこんな奴、好きになさってくださいな」

 

 向き直ったサルビアは、リムトへ問いかけた。

 

「組織の長リムト。(わたくし)は、私達がこうなった理由を問いたいの。どうして、他の半人半妖とここまで違ってしまったのかしら?」

「……。私が知っている限りでは、幾つか理由が考えられる――」

 

 リムトは説明を始めた。嗄れた声でボソボソと語ったが、静かな部屋には不思議と良く響いた。

 

 新しい実験を開始しようとした際のほんのボタンの掛け違い。その連続の結果が、今のオリヴィアを形作ったということだった。つまり、何も分からなかった。

 

「何の説明にもなってませんわ……!」

「我々とて原因の追求をしようとした。しかし、お前達が口を割らないから、調べようもなかったということだ」

 

 サルビアは梅干しを70個くらい一気に食べた渋面を作った。普段オリヴィアが身体を使っているせいで、良く分からない表情筋が鍛えられていた。

 

「ふん……。ダーエという男を探せ、お前達の実験体の素案を作った男だ」

「元よりそのつもりですわ! この役立たず!!」

 

 話にならないと、サルビアは肩を怒らせて階段を登っていった。

 

「役立たず……か。役立たずと思い、処断した戦士に言われるとはな」

 

「……さて、覚悟はいいかリムト」

「もはや雰囲気もあったものではないだろう……。さっさと殺れ」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 ラキ男の案内で、私達は組織にあった秘密の船着き場まで案内された。

 何でもその船を使えば、ラボナまで7日掛からずに着くとか。まじか。今から2週間走らなくていい保険があるんですか!?

 

「え、あれ? ない!?」

 

 秘密の船着き場には、帆船が一隻しか残ってなかった。帆もボロボロだ……。ラキ男のリアクション的にちゃんとしたやつは、既に組織の幹部が乗って行ったっぽい。動くのこれ?

 私は前世の知識を総動員した。これはアレだ。きっとキャラベル船に違いない。それでも20メートルないくらいだけど。

 

「はぇ〜でっけぇ」

「何人乗れるんだ?」

 

 せいぜいチビ漁船くらいしか見たことがなかった、北メンバーズのヘレンやユマが感嘆の声を漏らした。

 

「俺が運ばれてきた船は……幹部たちが逃げ出すときに使ったのか?」

「そうかも知れないな。しかし、素人の私達が扱えるのか……?」

 

 呆然と言ったラキへ、後ろから歩いてきたミリアが応えた。

 燃やして去られなかっただけ、奴らにも有情があったのかも知れない。あれ、ちょっと待てよ。ここには海の素人しかいないのでは……? 普通に遭難……いや海難に遭うリスクがあるのでは?

 私は恐怖で股がヒュンとなった。

 

 

 メンバーは、いつもの10人に漁村出身の現役戦士が着いてきた。他にも、ディートリヒと〈お嬢様〉のアナスタシア、そして熱血眉毛のなんとかだ。ラキ男はクレアの蘇生薬扱いだ。

 着いてきた漁村現役戦士の名前はナンバー5のレイチェル。いかついナイス()()だ。帆を直したり航路の打ち合わせをしていた。普通に船の扱いがわかるみたいだ。

 

「訓練生の頃は、海の町に紛れるために漁船の扱いくらいは教わったものだったな」

 

 素人、とミリアが言っていたが、みんなヨットくらいなら扱えるらしかった。忙しなく帆を張り直している皆を見ていると、横に立ったデネヴが腕組みして説明を始めた。初耳なのだが……。

 

 いや、遠い記憶でうっすらと何かを思い出せそうだった。

 あれはそう……暗い部屋でオッサンと二人きり。長い間そうしていた気がする。何も起きないはずはなく……うっ、頭が……。

 

 確か私の教官は、コロコロと変わっていたんだった。あの時は、この世界の平仮名みたいなものを教え込まれていた。大体匙を投げられる感じで。凡そ半年くらい。あれ? 私の戦闘訓練以外の特殊訓練は、ほぼ放置のスパルタ絵本朗読で終わっていた……?

 教官がコロコロ替わるせいで、カリキュラムが毎回リセットされるのは、なんの罰ゲームだったのか……。大体飽きて目を開けたまま寝てたけど。

 

 私と違って、皆は戦士になる試験を受ける前の段階で、組織から様々な英才教育のようなものを受けていたらしい。私は殆ど戦闘訓練しかしていないんやが。

 何でも、貴族の娘ムーブから娼婦の色目すら出来るとか。それは、エッチな訓練もあったってこと!!?? エッチな卒業試験もあったんですか!?!?

 エッチな訓練の存在(驚愕の事実)に、私はショックを受けた。

 デネヴの試験内容が気になった。こいつは北欧系美人だ。きっとエッチだったに違いない。

 私は焦った身振り手振りでデネヴに聞いた。

 

「しけん! しけん! おしえて!」

「ん? 私か? あぁ、私は商隊の護衛だったよ。妖魔も出てきたがな……今になって思えば、組織の手引きだったんだろうな」

 

 なんか、すげーどうでもいい試験だった。全然エッチじゃなかった。 

 

 そう言えば、私の戦士になる試験は、良く分からない街に放置されるやつだった。

 言葉が通じずに、どうしたものかと街中を駆け回った記憶がある。当時は、半人半妖の力を持て余していた。昼間から不貞している人達の声を聞いたり、アサシンクリードごっこをして、高台から覗きをしたりしていた。

 最終的に、屋台でおっさんが人肉を焼いていて、そいつが妖魔だった。あまりに堂々とした立ち振舞に思わず肉を食べかけたが、ギリギリセーフだった。なんで妖魔ってイキって来るんですかね。

 

 彼は、半人半妖に人間を食べさせて悦に浸ろうとする邪悪っぽかった。何言ってるか、全然わからなかったけど。圧が凄かったので、多分そうだったと思う、たぶん。

 

 私は最初に手に掛けた、必死に説明するイキり妖魔くんを思い出して虚しくなった。

 

 

―――

――

 

 

 秘密の港を出て二日目。

 甲板は死屍累々となっていた。

 

「く、ぐるしい」

「オロロロロロロ」

 

 死んでいるのは、主にユマとラキだ。

 そのうち干乾びてカモメの餌になりそう。三半規管の鍛え方が足りないな。今度ラボナの空を私と飛ぼうぜ。

 原作主人公のクレアですら、吐瀉物クラスター爆撃機と化したフライトを思い出した。あれは命令とはいえ、正直すまんかった。

 

 ラキは私が釣った深海魚みたいな巨魚を食べて、死にかけている。くっそ旨い魚だったんだが、試しに生で食べてみたら人間には劇物だったみたいだ。直ぐに腹パンで吐き出させたのだが、この有様である。

 

 尚、生食を発案した厳ついレイチェルは、如何にもバツが悪そうにしていた。何でも昔、幼い頃に大人達が隠れて食べているのを見ていたらしい。

 調理方法は分からなかったが、取り敢えず食べてみようということになったのだった。……そらそうなるわ。海って怖い。

 

 天候にも恵まれ、上手く海流に乗ることもできた。航路は順調だ。

 

 

 

 秘密の港を立って四日後、夜。

 私達は無事に陸地に衝突した。停車と着陸と寄港が一番難しいって、一番言われてっから。

 まぁ、なにはともあれ到着である。

 

「ゲホッゲホッ。し、死ぬかと思った」

「ふむ。無事についたな」

「船は大破したがな……」

 

 まる四日の船旅によって、船酔いで死屍累々の現役。肩の荷が降りたのか吹っ切れたミリア、冷静にツッコむデネヴ。無事に着陸したメンバーは賑やかなメンツとなっている。

 何人かは夜の海に投げ出されたが、半人半妖パワーで陸地に無事にランディングした。

 

 そこから北に向かって徒歩(全力ダッシュ)で2日間北上した。

 

「うわああっ、あっ、うがっ、はやっ」

 

 私達は船の残骸で作ったソリに、ラキを乗せて走った。太い綱を腰に結びつけて走っているのは、厳ついレイチェルだ。

 食中毒事件の犯人だったので罰としてそうなったのだが、私も連座で繋がれているのは何の冗談だろうか。

 

『ちくしょめぇぇぇ!』

「また喚いていやがる……なんなんだこのちび先輩は……」

 

 ホントに歳上なのかとか、一緒にソリに乗ってろとか言われた私は、イラッとしてレイチェルを追い越し、ソリと一緒に引きずってやった。

 

「お前、慈悲はないのか……! うわあああ!」

 

 ラキ男の小言が聞こえたので、クレアの婿として鍛えるべく更に速度を上げた。




オリヴィアの試験のハードさ

・未熟で妖気がほぼ読めない状態での妖魔討伐実地試験。
 会話不能。そもそも戦士は何と戦ってるの?
 ムキムキのおっさんがこちらを見て、めっちゃビビってて笑う。草、なんで??
・屋台の人肉を食べた人が複数いる。
 いつもよりも鼻があんまり良く効かない。
 ゲロ以下の匂いがプンプンする街。
・鉄の掟により、人を食害すると突然処刑される。
 人肉の匂いがする容疑者複数。
 なんの街? サイコパスタウン?
 鉄の掟もよく分かってなかった。肉を食べたらアウト。
・そして最も重要なことは、何よりも何する試験か良く分かってなかった。
 行けって、何処に???
・店主がたまたま火傷し、指が伸びた瞬間に様々な事象がようやく繋がり、敵が妖魔であることを閃いた。
 ファッ!? クレイモアの世界やんけ!

・必死に説明する妖魔くん
 肉をあげたら暫く屋台の前に立っていたので、肉を食べたと思い背に向かって一通り説明したら、串焼きを手に持ったままキョトンとしていた。もう一度説明したがダメだった。3回目でキレて火傷した。

人を害せない戦士の鉄の掟を利用したダーエに嵌められましたが、ほぼ運で越えました。
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